僕は、音楽プロデューサー。   作:リリア

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第1話 泣くことならたやすいけれど

いい歌声だ。

外回りの帰りに、気分転換と思い公園に足を伸ばして正解だった、そう思う。

 

公園の小さなステージで歌う女の子と、それに聞き入る観客が1名。俺を入れれば2名。

この寒空の下、彼女の歌を聞こうと足を止めるものは少ない。

 

それでも、その歌は俺の心を離して止まなかった。

 

荒削りではあるが、圧倒的な技術力。

他を寄せ付けない歌に込められたパワー。

 

鳥肌がたったのは、冬の寒さのせいだけではないだろう。

 

「ご清聴、ありがとうございました」

 

少女は歌い終わるとそう告げる。

きれいな青い髪が特徴的な女の子。

 

近くで歌を聞いていた女の子が拍手を始めたので、俺もつられて拍手をする。

 

少女は一礼すると、機材……小さなアンプとマイクの片付けを始める。

 

「……あのさ」

 

気づけば俺はその少女に声をかけていた。

 

「はい、何でしょう?」

「すごくいい歌だったよ。技術的にもそうだし、人を引きこむ力があった」

「……ありがとうございます」

 

少女はそう言って、硬い笑みを浮かべた。

 

「俺さ、こういう人間なんだけど。君、歌手になってみる気はないかな?」

 

そう言って俺は、懐から名刺を取り出す。

 

サン・ミュージック

第7制作部 部長 音楽プロデューサー

春日 剛(かすが ごう)

 

 

音楽プロデューサー。

それが僕の肩書だ。

 

 

 

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「音楽レーベルの……プロデューサーですか?」

 

青髪の少女は驚いた顔をしてこちらを見てくる。

 

「そうだ。君の歌ならプロの世界でも十分通用するし、将来的には……そうだな、うまく行けば世界も狙える、今の歌を聞いてそう思った」

 

そう、僕は彼女をスカウトした。

 

幸いなことに、僕は若くしてある程度の権限を持たせてもらっている。

路上ライブやライブハウスで見つけたダイヤの原石(ミュージシャン)をスカウトして、メジャーデビューをさせた例も少なくない。

もちろん、全員が全員成功するわけではないが、僕のスカウトしたアーティストのその後の成功率は、かなりいい方だったりする。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

何やら慌てた様子でもう一人の少女が話に割って入ってくる。

と思ったら勢い余って転ぶ。

 

「……ったったった……」

「天海さん、大丈夫?」

 

青髪の少女が、もう一人の少女に手を差し伸べ、少女はその手を取って起き上がった。

 

「うぅ……ごめんね、千早ちゃん……って、そうじゃなかった。あの、千早ちゃんは765プロのアイドルなんです!引き抜きはだめですよ!」

「……アイドル?」

「はい、といっても、私も千早ちゃんも、3ヶ月前ぐらいにデビューした新人なんですけど……」

 

なるほど。

完全な素人ではなかったわけか。

であれば、発声の基礎がしっかり出来ていることとかも含めて納得だ。

容姿も端麗だし。

 

「なるほどね。で、その……あれ、ごめん、名前なんだっけ?」

「如月です。如月千早」

「如月さんね。アイドルってことは、今日はここでゲリラライブ?」

「ええ、まあ……と言っても、見に来てくれたのは天海さんと春日さんだけですけど」

 

確かに。

まあ、新人アイドルのゲリラライブなんてもんはそんなものだろう。

 

「なるほどね。でもよく事務所が許したね。デビュー数ヶ月後なんて、売出し時期じゃない。本来あっちこっち営業周りで大変なんじゃないの?」

 

芸能界はシビアだ。

デビューしたアイドルは基本的に1年で成果が出なければ例外なく消えていく。

 

だからこそ、事務所もスタートダッシュの時期は全力でアイドルに営業周りをさせる。

 

「……私達の事務所、プロデューサーさんがいなくて。だから、営業も自分で回るしかないんです」

 

なるほど。そういうことか。

確かに、「セルフ・プロデュース」と称して、アイドルに資金だけ提供させて後は自分でやらせるなんてのはよくある話だ。

それにしたって、スタートアップのフォローぐらいはしっかりやるもんだけど。

 

「なるほどね。で、そっちの君もアイドル?」

「はい、春香って言います。天海春香です」

「……ふーん、なるほどね。それで、如月さん。改めて聞くけど、ウチに来る気はないかい?」

「「!?」」

 

二人にすごい驚いた顔をされた。

あれ、ひょっとして黙って引き下がると思ってたのかな。

僕は自分の直感には自信があるし、一度声をかけたらそうそう引き下がるつもりはない。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!だから千早ちゃんは765プロのアイドルで……」

「うん、分かってる。その上で僕は如月さんを誘ってるんだ。申し訳ないけど、765プロって事務所の名前は聞いたことないし、君たちを推しだす力がない事務所なんだろう。如月さんの歌を眠らせて置くのはもったいない。彼女はもっと広いステージで歌を歌うべきだ」

 

天海さんの反論を僕はそう切り捨てる。

傍から見ると完全に極悪非道な大人だがしょうがない。こっちだって仕事だもの。

 

「あの……そこまで私の歌を評価してもらってありがたいのですが、私の歌のどこを評価してくれたんですか……?」

 

彼女の問いに俺は間髪入れずに答える

 

「誰かを想う気持ちだ」

「……え?」

「如月さんの歌は確かに技術力もある。聞く人をとりこにする力強さもある。でも僕は、君の歌の底にある、『誰かを想う気持ち』に惹かれたんだ」

 

誰かを想って歌うこと。

それは簡単なようで難しい。

 

俺の持論だが、歌ってのは基本的に自己表現であり、誰かに想いを伝えることとは真逆だ。

基本的には「誰かに自分を知ってほしい」っていう強い想いで構築されている。

 

もちろん、歌のそういう側面が悪だとは言わない。

その思いが普遍的であり、かつ強い思いであれば歌は輝く。

 

だが、同時に、「伝えたい」って想う相手がいる歌には希少価値がある。そして共感を呼びやすい。

 

彼女の歌にはそういう力があった。

彼女が誰を想って歌うのかはわからない。友人か、仲間か、家族か、恋人か。

でも、彼女の歌には、絶対に何かを誰かに届けたい、という思いが根底にある。そうでなければ、ああいう歌は歌えない。

 

「初めて言われました、そんなこと」

 

……まあだろうな。

アイドル的な売り方をするなら「クールビューティー」とか「歌姫」とかそういう売り方が正しいし。

彼女の歌に、「力強さ」があるのも事実だし、そういう見せ方の方がキャッチーではある。

 

「少し、考えさせてください。歌手としてデビューするのは、私にとっても夢です。でも、だからこそ、あなたが頼りになる人かどうかも含めて、もう一度しっかり考えてから返答させてください」

「ち、千早ちゃん……」

 

おおう、手厳しい。

 

「わかった。それでいい。いずれにしても、返事が決まったら、名刺の電話番号に電話をしてほしい。いい返事を待ってるよ」

「わかりました。それでは、失礼します」

 

如月さんはそう言って、テキパキ片付けをすると、こっちにお辞儀をして去っていった。

天海さんが慌ててその後を追おうとして転ぶ。

そそっかしいんだな。

 

俺は二人の背中を見送りながらつぶやいた。

 

「……っていうか、寒っ!」

 

早く本社に帰ろう。ホットコーヒーでも入れて温まろう。そうしよう。




デレアニが卯月と凛で始まったように、アイマスの始まりはやっぱりこの二人だと思うんですよね。

呼称について補足。千早→春香が「春香」ではなく、「天海さん」なのはわざとです。
人間、関係性が変われば当然呼び方も変わるよね、っていう。
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