「なん……やと……」
「こ、こんなの……あんまりだよ……!」
泉渚と八神はやて、二人の視界には絶望が広がっていた。
目の前に広がる光景にはやては思わず車椅子を手すりを叩いてしまう、渚に至ってはその場に崩れ落ちてしまっている。それだけのことが二人の目の前には広がっている。
一体二人が何をしたというのだろう? 渚はきちんと早寝遅起きしているし、地球に危機を呼び起こすジュエルシードの回収までしている(回収の際、ふざけすぎ
いることは否定できないが……)。はやてに至っては早寝早起きはもちろんのこと炊事洗濯までやっちゃうようないい子だ。しかも初対面で魔法とか言っちゃうような宿無し女の子を泊めてくれるようなお人好しの中のお人好しだ。
つまりはこのような仕打ちを受けるようなことをした覚えがないのである。
渚は見間違いであることを期待して、もう一度前を向く。
「……」
しかし、現実は過酷である。
ついこんな体にしてくれさった神に祈りたくなる。ここに来るまでにいったいどれくらいの試練を乗り越えたと思っているのか。頼りない紙切れの地図を頼りに山を越え川を渡り道に迷い、苦労の末ようやくこの場についたというのに。
目の前にそびえ立っている建物、その名も『翠屋』。主人が大怪我で入院するという事件を乗り越え、今や海鳴市では知らない人はいないと言われるほどの喫茶店である。目玉商品であるシュークリームに至っては態々他県から訪れ購入していく人もいるほどの美味さを誇っている。
そして二人は今日、その噂のシュークリームを味わいに来たのだ。ついでに主人公の顔も見に。あくまでついでに、だが。
しかし―――
―――『Closed』
人生とは辛いものである。
つまりは頼りない地図を頼りに(縮尺を間違えて印刷しました)、山を越え(ただの坂道です)、川を渡り(橋の上を渡りました)たどり着いた翠屋は今日は閉店で
あるということである。
「しゃーない。帰ろか?」
「……………………仕方、ないか」
「……随分長い間やったな」
それだけ楽しみにしていたということである。
何を隠そう、前世の泉 渚は結構な甘党である。ケーキだって食べるし、お店に行ったら食後のデザートだって毎回注文するし、いい年してプリンだってプッチンしたから食べる。流石に緑茶に砂糖とミルクを入れるほどではないが……。あれは一種の食物に対する冒涜だと思う。
しかし、いくらここで粘っていても翠屋がopenすることはないだろう。そう判断して渚は仕方なく断腸の思いで何度も振り返りながら、はやての車椅子を押しながら帰路についた。
―――その瞬間だった。突然、目の前に地面から何かが出現したのは。
「キャアッ!?」
「―――ッ!」
渚は、その衝撃で車椅子ごと倒れてしまったはやてを抱きかかえて瞬時にその場を離脱する。高い所の方が安全だと判断して魔力で全身を強化しビルの壁を駆け上がっていく。はやてがなにか叫んでいるが気にしている暇はない。伝わってくる魔力の波長からして、この事態を引き起こしたのはジュエルシードである可能性が高い。
主人公たちに任せとこう、などと考えていたが、どうも今回は効果範囲が広いようだ。これ以上の被害が出ないうちに封印する必要がある。幸い結界がすぐに張られたので、これ以上街に被害が出ることは無いが結界に入り込んでしまった人間がいないとも限らないのだ。
「これは……」
ビルの屋上から周囲を見渡して思わず絶句する。はやても口を丸くポカリと開けている。
街中のあちらこちらに巨大な木が生えているのだ。比較的小さな木ですら、そこいらの一軒家以上の大きさである。そして少し遠くにかなりの大きさの木が生えている。世界樹どころか宇宙樹と名前がつけられてもおかしくない大きさである。マジで大気圏に突入していそうだ。おそらくあの巨大な木が本体だろう。一番大きなものが本体、これは鉄則である。
「よし。はやて、俺はこれからあの木の中にあるであろうジュエルシードを封印してくる。はやては家でじっとしていてくれ」
木の根や枝が地面や周囲の建物を壊し粉砕している。結界の展開が少しでも遅かったら未曾有の大災害になっていただろう。出来れば今すぐにでも封印に向かいたい
が、このような場所にはやてを放置するわけにはいかない。
手早く八神家まで次元の扉(命名・渚&はやて)を開き、はやてをベッドに載せる。はやてがジタバタと暴れるが、帰ってきたらきちんと説明すると言い、なんとか宥めることに成功する。
「ちゃんと帰ってきて、ちゃんと説明するんよ?」
「……ああ」
こちらをじーと半眼で見つめてくるはやての視線から逃げるように渚は次元の扉をくぐり抜けた。
■
高町なのはは後悔していた。今回のジュエルシード事件、原因はなのはにあるといっても良い、本人はそう思い込んでいる。
何故か?
それは、なのはが今回の事件の原因となっているであろうジュエルシードを回収するチャンスがあったものの、気のせいだと思い込み放置してしまったからだ。そして、その結果が今眼前に広がる海鳴市の光景だ。当然、なのはが悪い訳もなく、十人中十人が悪いのはジュエルシードをバラ撒いたどっかのバカだと言うだろう。しかし、真面目であり頑固でもあるなのはは、『あの時回収しておけば……』と自分の責任だと受け止めているのだ自身を責めているのだ。
そして他にも理由が存在する。
なのはは浮かれていたのだ。魔法という未知でありファンタジーのような力を手にして、仲間と一緒に地球を脅威から救うという自分の立場に酔っていたのだ。ジュエルシードが如何に危険か最初からユーノに真剣に聞いてはいたものの、真剣に考えてはいなかったのだ。だから、気のせいかもなどという日和った考えが浮かび、確認もせずに放置してしまったのだ。ジュエルシードがこのような事態を引き起こすと知っていれば、強引にでもジュエルシードの確認を行っていただろう。
ユーノによる結界も少し時間が掛かってしまった。つまり、結界内ではない現実の海鳴市にも被害が出てしまったということだ。もしかしたら怪我人も出たかもしれない。後悔がなのはを責め立てていく。ユーノが慰めているが、それはなのはの心には届かない。
しかし、なのはという少女は、ここで折れるような弱い少女ではなかった。後悔することなんて後でもできる。後で悔やむから後悔というのだ。ならば今できることを考えよう。それはなんだ? 決まっている。ジュエルシードの封印だ。
「ユーノ君、何処にジュエルシードがあるか分かる?」
「……ごめん、なのは。ここまで広範囲に力が広がってると僕の力じゃどうにも出来ない……」
今まではジュエルシードの元となっている物が簡単に発見できるものだったが、今回のジュエルシードの被害は海鳴市全域に及んでいるおり、大元の発見は困難を極める。
「……大本を見つければいいんだよね?」
「え?」
「出来る、レイジングハート?」
覚悟を決めたかのようななのはの声にユーノが疑問の声を上げるが、なのはは集中してレイジングハートに問いかける。
『Yes,Master』
「うん、ありがとう―――リリカル・マジカル」
返ってきた頼もしい相棒の声に、なのはは笑みを返す。そして次の瞬間にはなのはの足元には桜色の魔法陣が浮かんでいた。
『Area Search』
レイジングハートが声を発すると、魔法陣からは数えることが出来ないほどの桜色の塊が飛び出していく。
ユーノはそれを見て驚愕を隠すことができなかった。いや、隠すことはできたのかもしれない、驚きのあまり声に出ることがなかったのだから。
(こんな数のサーチャーを一人で制御するなんて…………しかも、僕はなのはに探査魔法を教えていない。つまりは自分ひとりで考えたってことだ)
ここは管理外世界なのだから、魔法のことは当然全く基礎さえも知らないだろう。それでも、なのははレイジングハートの助力があったとしても、知らない魔法を組み立て行使した。恐らく勘で、感覚で、思うがままに組み立て、そして成功したのだろう。
(天才だ)
そうとしか言い様がない。本場の魔導師が見たら自信を無くし、辞職届を出すかもしれない。それほどのことだ。
一方なのははサーチャーから送られてくる情報を全て頭の中で処理していた。マルチタスクの練習をしておいて良かったと心底思う。そうでなかったら、これほどの情報量は処理しきれなかっただろう。
そして、それを発見したのは、木の根や葉っぱの裏、枝の付け根など片っ端からサーチャーを飛ばし、もう少しで結界全域を網羅するのではないだろうかとなのはが思った時だった。それは、なのはの求めるものではなかったが、ある意味では求めるものでもあった。
―――ロード・クラウンだ
高速で空を飛びながら巨大な木に向かっているようだ。時折襲いかかってくる枝を腕を振ることによって切り落としている。原理は全く分からないが、心強いのは確かだ(味方とは言えないが)。あれほどの速度で向かっているということは、ジュエルシードを見つけたということだろうか? なのははサーチャーを集中的に巨大な木に向ける。
そして二人の男女を発見する。二人は寄り添うように気絶しており、光の膜のようなものに覆われている。
(……やっぱり)
その二人の男女の内、男の子の方はなのはがジュエルシードを持っているかもと疑問を抱いた子供だった。しかし、落ち込んでいる暇はなのはには無かった。
―――二人が木の幹に吸い込まれているのだ
弱点を隠そうとしているのか、二人を守ろうとしているのか、時間とともに少しずつ少しずつ飲み込まれていく。その上、枝が二人を守護するかのように周囲を囲っている。すでに半分が飲み込まれており、このままの速度ではロード・クラウンも間に合わないだろう。
「ユーノ君、どうしよう!?」
「封印するには近寄るしかないんだ! 今出来ることは一刻も早く近づくことぐらいしか……」
「それじゃ間に合わないよ!」
なのはと問題の木の距離はロード・クラウン以上に離れている。それに加え、なのははまだ空を飛びながらの高速移動が出来ないのだ。
ならば、どうするか?
愚問だ。
向こうへ行くことが出来ないなら、ここから何とかするだけである。
「出来るよね、レイジングハート」
レイジングハートの優しく問いかける。この頼もしい相棒は先程もなのはの思いに応えてくれたのだ。今回だって応えてくれるはずだ。
『Shooting Mode Set up』
ほらね。
レイジングハートが赤く点滅し変形を始める。杖のような形をしていたものが槍のような形へ。より遠距離への攻撃ができる形へ。
レイジングハートがリンカーコアを通して魔力を集め始める。
―――砲撃魔法
これも魔法を知って数日の少女が出来ることではない。もはやこの少女は魔法を使うために生まれてきたといっても過言ではないだろう。
「いっけぇぇぇぇええええ!!」
レイジングハートの先端から桜色の砲撃が放たれる。
それは空気を裂き、まるで流星のように一直線に飛んでいく。
未だに木に囚われている二人は飲み込まれていない。この分なら気が二人を飲み込む前に、ジュエルシードを封印することが出来るだろう。
かと思いきや、この思考がフラグになってしまったのだろうか。
桜色の破壊光線を行く手を遮るように現れたものがいたのだ。
それは木の枝だった。しかし、枝といっても馬鹿にはできない。ただでさえ元となっている木が軌道エレベーターになれんじゃね? ってぐらいの大きさなのだ。枝の
大きさも一つ一つがビルと同じぐらいの大きさを持っている。
しかし、それをも消し飛ばしていくのがなのはの砲撃だ。確かにクリーンを謳っている魔法だけあって物理的にクリーンにしているようだ。
だが、それで負ける宇宙樹ではない。枝は一本ではないのだ。一本で折れても三本揃えばなんとやらという諺があるように、足りなければ足せばいいのだ。三本で足りないなら十本を、十本で足りないなら百本を、あの全てをカッ消す砲撃を止められるまで増やせばいいのだ。そのためのエネルギーならば手元に無限とも言える程のものがあるのだ。
どんどんかき消されていく木を守る枝。しかし、枝が消滅させるたびに砲撃の威力が確かに減少してしまっているのが分かる。それを木も理解しているのか、男女の二人を守るように配置していた木の枝をも前面に押し出し枝同士を合体させ盾のように変形させていく。それで砲撃を止めるつもりなのだろう。
なのはの砲撃と、宇宙樹の盾
この勝負に勝った方が最終的に勝利を掴むことができるだろう。この砲撃を止めることができなかったら木はそのままジュエルシードを封印されるだろうし、砲撃を止められたら、なのはは木の盾を打ち破る手段がないということになるのだ。
そして、ついに桜色の砲撃と宇宙樹がぶつかり合った。
しかし、勝負は既についていたといってもいいかも知れない。数多の巨大枝により流星のようだった砲撃は見る影もなくなっているのだ。対する木の盾はお前は核兵器にでも備えているのか、とツッコミたくなるような重装備である。
勝負はすぐに付いた。当然、盾の勝利だ。
砲撃は盾を貫通することはなく、呆気なく消えてしまった。盾も見る限り、大した傷も見当たらない。せいぜい、砲撃に当たった部分が少し削れているぐらいだ。
―――つまり、なのはの負けだ
宇宙樹もそれを理解したようで、まるで歓喜を表すかのように枝を蠢かせている。正直かなりキモい。あと木に馬鹿にされているようでちょっと苛立つ。
だから、はっちゃけていた宇宙樹は気づかなかった。
勝負に負けたなのはが別段焦っても絶望したりもしていないことに。
そして次の瞬間、宇宙樹は消滅した。
それを見てなのはは口を開く。
「勝負は負けちゃったけど、最終的には私たちの勝ちだね」
■
(本当にあのなのはさんは一期のなのはさんなのだろうか? 二期か三期あたりのなのはさんが憑依でもしてるんじゃないだろうか)
放たれた砲撃を見てそう思う。というかそうだと嬉しい。アレとそのうち戦うかもしれないと思うと、正直ジュエルシードを見捨てて逃げたくなる。今すぐにでも前
回の非礼を詫びて一緒にジュエルシード集めをしたい。
しかし、今回のジュエルシードは大変根性があるようだ。あのなのはさんの砲撃を防ごうとしている。その姿はまるで魔王の一撃から民を救おうとする勇者のようだ。しかも恐ろしいことに砲撃を防ぎきりそうな雰囲気である。まさに勇者・宇宙樹である。
しかし、このままではいけない。木がジュエルシードを持つ二人を吸収しようとしているのだ。今すぐ機能停止を命じたいが、あの透明な膜のせいかラインが途切れており命令を受け付けない。直接、触れる必要があるようだ。
(でもな~、それにはあの壁が邪魔なんだよなー)
つーか、なんであのジュエルちゃんは俺のこと拒否ってるの? とか飼い犬に手を噛まれた飼い主みたいな気分になる。後でペンダントに加工してはやてにプレゼントしてやる。二度と解けないようにガチガチに封印してから。
「……ん?」
再び木を見ると、木の壁が無くなってた。多分、なのはさんの砲撃に対抗するために防御に差し向けたのだろう。
これはチャンスだ。
(小娘、そのまま気を引いていろ。我がその隙に封印する)
(え!? ちょっ、ちょっと待って!? それってどういう―――)
要件だけを伝え、念話を強制的に切断する。先程まで怯えていたくせに、直接なのはと接触しない念話となると好き勝手しだす渚だった。
どうやらなのはは渚を信じてくれたようだった。一回会った人を信じるとは、なんというお人よしと思うが、逆にそれが裏切りにくさを渚から引き出している。恐るべきは主人公である。
渚は宇宙樹がなのはの砲撃に気を取られているうちに、ジュエルシードへと近づいていく。砲撃の阻止に集中しているからか、ジュエルシードの飲み込みが停止している。いざとなったら次元斬で開きにしてやろうと思っていたが、それはこのリア充どもが危険というデメリットがあったので、嬉しい誤算である。
なのはの砲撃を受け止め(恐ろしいことに止め切った)、アホ踊りをしている木のジュエルシードに触れ、魔力を直接流し力技でラインを通す。
そして命令
「止まれ」
余裕がない上に、コイツは上司に逆らうバカだ。即刻、機能を停止して封印を施し、その上で次元封印を施す。
この次元封印は渚が考えた封印で、異なる次元で左右上下前後全てを囲ってしまうという荒業封印である。本当なら管制人格として機能停止を命じるだけで良いのだが、このジュエルシードはやけに反抗的だったので、これで封印しておこうと思ったのだ。封印魔法を覚えたらさらに上掛けしてガッチガチに封印してはやてのアクセサリーにする予定だが……。
「うし、帰るかな……」
次元の扉を八神家まで開く。
ふと、なのはさんが気になったが、『お話しようよ』とか言って肉体言語でお話されたら困るのでまっすぐ帰ることにする。
まずははやてに説明かな、と思いながら渚は次元の扉をくぐった。
あ、いつの間にかなのはのことを『さん』付けで読んでた。
(あの砲撃を見れば、しょうがないかな?)
割とガチでそう思った。
■
~~~本日のなのはさん~~~
巨大な木が消えたあとを見るが、そこにロード・クラウンの姿はなかった。恐らく前回と同じく、あの不思議な空間の狭間を使って帰ってしまったのだろう。
今回は一緒に封印作業を出来たので、お話ぐらいはできるかなと思っていた分、ショックもでかい。次回こそは、と強く心に刻む。
それと、街に出てしまった被害を見ると心が痛む。幸いジュエルシードを発動してしまった二人は無事だし、怪我人も少ないようだった。でも今回は死人すら出てもおかしくない状況だった。
(これからは出来る限りじゃなくて、絶対に、全力全開でちゃんとやろう)
なのははそう心に強く誓うのだった。
~~~本日のはやてさん~~~
ジュエルシードを無事封印し、八神家に帰った渚を迎えたのは当然だが八神さん家のはやてちゃんだった。
どうやら怒っているようなので話を聞くと、あんな危険な場所に行くなんて何考えてんねん! とのことだった。
そう言われても渚も困ってしまう。あのまま放っておいたら、おそらく町が危険なことになっていただろう。そう言うとはやても分かっているのか、俯いてしまう。
ちょっと空気が暗くなってしまったが、ちゃんと帰ってくるからとはやてと指切りを交わす。
死亡フラグな気もしたが、はやてが笑顔になったから、まぁいいかなと思った。
ヤバイ、勢いで投稿してしまった……
もうストックがない。オワタ