姫島朱乃の純愛物語   作:SKYbeen

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第三話:疑念の主

 

 

 

最近、朱乃の様子がおかしい。特徴的な紅髪をくねらせながら、リアスは己の下僕の行動に疑問を抱いていた。

 

 彼女の下僕の中でも、朱乃は一際特別な存在である。"女王"としての役割や高い実力といった面もあるが、リアスにとってなくてはならない大切な親友だった。悪魔として転生させた時から苦楽を共にし今まで支え合ってきた、もはや家族と言っても差し支えない程の存在だ。

 

 そんな我が親友だが、ここ数日間どうにも様子が変なのだ。

 

 まず第一に、旧校舎に来る時間帯が変わった。いつもなら一番に部室へ赴き、皆の紅茶を用意しているのが当たり前だった。それがどうしたことか、今となっては活動が始まる直前に来るようになってしまったではないか。

いくら理由を尋ねても笑顔を浮かべるばかりで上手くかわされてしまい、おかげで最初にリアスが飲む紅茶は小猫やアーシアが淹れることになってしまったのだ。彼女らの紅茶も悪くはないのだが、やはり朱乃が淹れるものに比べるといささか物足りなかった。

 

 第二に、しきりに絵を見つめてはニヤついている場面をリアスは目撃していた。その絵を見るのは決まって一人の時で、それはそれは"いい"笑みだったのをしっかりと覚えている。一度誰がその絵を描いたのかを問い質してはみたものの、これまたさらりとかわされてしまい、結局は分からずじまいだった。

 

 そして最後に目を疑ったのが―――男と共にいずこへと向かう朱乃の姿だ。

 

 これには心底、それこそ悪魔としての生涯で一番大きいショックを受けた。あの朱乃に男とはなんたる事態か。リアスにとっては天変地異にも匹敵する衝撃である。その美貌ゆえに毎日と言っていい程男子から告白を受ける朱乃だが、もちろんオーケーなどしたことはない。そんな彼女がどこの馬の骨とも知れぬ男子と二人で………。想像しただけで嫌な気分になってしまう。

 だが悪魔である前に、朱乃も女。色恋沙汰がないとは言い切れない。実際、自分も一誠にその気があるのだから、彼女がそうなる可能性も大いにあり得る。親友とはいえ、ずけずけと他人の領域に手を出していいものなのか………。

 

 ────否!

 

 確かに朱乃のプライベートに口出しは出来ない。だが、自分は親友であると同時に主なのだ。もしその男子がとんでもないワルで、朱乃が毒牙にかかってしまったら? 彼女に限ってそれはあり得ないだろうが、全ての可能性は視野に入れるべきだ。悪い影響を受けるようならば、即刻関係を断ち切るように忠告せねばなるまい。幸い、今日こそはと朱乃の動向を掴むためにこっそり使い魔に尾けさせていたので場所は判明している。

 

 凶悪な男の魔の手から親友を救うべく、リアスは屋上へ向かった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ごきげんよう加賀美くん」

「……んん」

 

 

 今日はあいにくの曇り空で、かつての夕日や月は隠れてしまっている。そんな中でも二人はいつものように入口の壁にもたれかかり、絵を描いていた。

 

 朱乃と涼がこうして会うようになって早五日。まだ知りあって間もないが、今日に至るまで涼はたくさんの絵を朱乃に見せていた。

 その場で描き上げたもの、家でじっくり凝ったもの、今まで机の奥底で眠っていたもの………特に最後に関しては黒歴史ものに等しいが、涼の成長を感じられたような気がして朱乃は嬉しかった。

 

 

「あら、なんだかそっけないじゃない?」

「その原因がなにをおっしゃるんですか……。毎回毎回やられるこっちの身にもなってよ」

「うふふ、またやってあげようかしら?」

「勘弁して下さい」

 

 

 昨日の、というか今までの出来事を思い出し、涼は赤面してしまう。というのも、朱乃との距離が近いのだ。それも非常に。

 涼自身、女子とはさして交流がなかった。同性の男子ならいざ知らず、こと女性に対しては耐性が些か低い。そんな男がこんな美人にぴったり近寄られて動揺せずにいられるだろうか。否、断じて否である。おかげで涼の心労は募る一方、いつまで理性を保ってられるか分かったものではない。

 

 顔を赤くする涼を見て、さも愉快そうに朱乃は笑う。この悪魔、完全なまでに確信犯であった。

 

 

「えーと、今日のリクエストは?」

「そうねぇ……たまにはあなた自身が決めてみたらどう?」

「俺が?」

 

 

 気を取り直し、涼は題材を求めたが、思わぬ一言に少し驚く。朱乃のリクエスト通りに絵を描いているうちにすっかりこれが定着してしまっていたので、涼が自分で描きたいものを決めるのは今回が初めてだ。

はて、なにを描こうか。元々、涼は頭の中のビジョンを表現するのは得意だったので、描こうと思えば実際なんでも描ける。特に風景画には自信があるが、いざ言われてみるとなにを描けばよいのやら。

 うんうんとない頭を捻るが、その時涼の脳内に閃きが駆け抜ける。よく考えてみれば、最高の題材が目の前にいるではないか。

 

 

「姫島さんを描いてみたいんだけど」

「……私?」

「いやならやめるけど、ダメかな」

「そんなことないわ。でも私なんかでいいの?」

「もちろん。むしろこっちが光栄だよ」

「うふふっ、ありがとう。………ならもっと近くに寄らなきゃダメよね?」

「ちょっ、近い近い」

 

 不敵な魔性の笑顔。涼はこれが苦手だった。朱乃が浮かべるこの笑みを目の当たりにするたび心臓の鼓動が速くなり、頭に血が昇りそうになる。それに加えこのダイナマイトボディ、こんな合わせ技を繰り出されてまともに集中など出来ようものか。

 それでも姫島 朱乃という人間───涼からすれば───はこの上なく魅力的だ。絵描きの端くれならば、その悪魔的な美貌を絵にしてみたいと思うのは当然と言える。

 

 涼と朱乃の距離は一メートルもない。まつ毛の一本さえしっかり判別出来るような近さだ。高鳴る鼓動を抑えつつ、涼はスケッチブックに筆を走らせ────

 

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 

 ────る直前、二人にとって思いもよらない人物が乱入してきた。

 真紅の長髪、朱乃に勝るとも劣らない美貌に抜群のプロポーション。朱乃以上に名を轟かせている学園一の人気者の登場に涼は目を見開いた。

 

 

「一体どういうことか……説明してもらうわよ?」

 

 

 燃え盛る炎のようなオーラを纏いながら、リアス・グレモリーは二人に詰め寄った。

 

 

 

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