初めてこの世界の電脳探偵君がバンクに預けたのは成長期のデジモンだった。
アグモン……初代デジタルモンスターで登場し、テレビアニメの1作目では主人公の相棒を務めた最も有名と言っても過言ではないデジモンである。
この世界の元となっているであろうサイバースルゥースにも序盤から出てきており、後に登場人物の一人の相棒となるのだが、この子は普通に別の個体らしい。
声や喋り方なんかは種族共通なのか馴染み深いものがあるのだが、どうも初対面だからか警戒している様だ……いや原因は俺ではなく、後ろに居る存在かもしれないが。
「だ、だからご飯なら其処に置いておいてくれればいいって言ってるだろぉ……」
「先程から些か失礼ではないか童よ、拙者を見るや否や木陰に隠れしくさってからに。
此方からは手を出さんと言っておろうが!」
「ひぃ?!」
「まぁまぁ、少し落ち着きなよレイヴモン。
成長期のあの子が見知らぬ究極体に会ったんだから普通の反応だって」
「しかし拙者は!……いやお主の言うことも最もだな。
少し頭を冷やす事にする」
思わず溜息が漏れるのを俺には止められなかった。
このレイヴモンというデジモンは先日起こした一体なのだが、沸点が低く中々に面倒臭い奴で、それでいて自ら護衛を買って出る位には忠誠心に厚いというなんとも扱いにくいデジモンだった。
見た目は片翼が黒い羽根、もう片方が金属質の翼を持ち、刀を武器とする忍者っぽい姿なので一見不審者っぽく見えなくもないのでアグモンの反応も分からなくはない。
ちなみに今回護衛に立候補したのは彼だけではなく、他にも何体か居たのだが今回は起きてからまだ日が経っていないという理由で彼が勝ち取ったのだ。
一部不満を漏らしていた者もいたが、そういった者達にはマスティモンが誠心誠意お話しておくとのこと……某管理局の悪魔で有名な
頭を冷やすためか言葉通り少し離れた位置で自身の武器である刀に手を掛けつつ立て膝の体勢を保つ彼を尻目に、改めて自己紹介から始めることにしよう。
この部屋に俺達が入った瞬間からアグモンは緊張気味だったので、一先ず全ては食事後に改めて話すのが良いだろうな……恐らく最初の自己紹介も大して頭に残っていないだろうし。
俺は此方を警戒しながらも手早く食事を終えたアグモンに改めて声を掛ける。
「食事も無事終えたみたいだし改めて自己紹介を……さっきも言った通り俺は電脳探偵君が居ない間の世話役で長井仁成って言うんだ。
多分少し長い付き合いになるからあまり警戒しないでくれると嬉しい」
「では拙者も……拙者此度長井殿の護衛を仕るレイヴモンと申す者、以後宜しく」
「……アグモンです」
「OK、じゃあ改めて自己紹介も終わったところで本題に入るんだけど、君はこれから此処で生活する訳なんだが質問はあるかい?」
「えっと、ヒトナリとレイヴモンはずっと此処に居るの?」
「流石にそれはないから安心してくれていいよ。
俺は基本日に三回食事を持ってきて、そのついでに設備の点検をするのが仕事。
お手伝いさんみたいなもんだと思ってくれればいい」
まぁあまり深く関わりすぎて電脳探偵君よりも俺の方が友好度高くなってしまうのは良くないから、極力ビジネスライクに接していく方が無難だろう。
冷たく接するつもりはないけれど、俺のデジモン達と同じく接するつもりもない……それがこの仕事をやる上で決めた自分ルール。
これに関しては御神楽さんの承諾も得ているので何の問題も無いはずだ。
アグモンからの質問はそれから暫く続き、十を越える辺りからは大分遠慮というものが無くなっていく。
質問の内容も多岐に渡り、食事の献立から問題が起こった時の対処法など些細なことから割りと重要な事まで分からない事を片っ端から質問されて少しばかり疲れを感じ始めた頃……彼女はやって来た。
眼前の空間が歪み、そこから優雅に姿を現すマスティモン。
何故か臨戦態勢に入るレイヴモンと見知らぬデジモンを見て近くの樹の後ろに隠れるアグモン。
折角警戒心が解けて色々忌憚ない意見が聞ける様になってきたところだったのにと感じる一方、少し疲れてきてたからナイスタイミングという思いもあって何とも微妙な気分で闖入者を迎えることになった。
「何をしに来た黒白
増援は要請しておらぬが……何用か?」
「片翼鴉一人に任せておけなくて……というのは冗談として、単純にそろそろ此方の部屋の仕事もしてほしいと騒ぐ者が増えてきてな。
そちらが一段落したのなら来て欲しいと言付けを伝えるためにメッセンジャーとして来たまで」
携帯端末を見ると終了を予定していた時刻を若干過ぎており、彼女の言い分に納得することが出来た。
レイヴモンもそれを認めたのか、舌打ちしつつ構えていた刀を鞘へと収めて苛立たしげに頭を掻く。
アグモンは……相変わらずマスティモンの警戒に手一杯で目新しい反応は無いが、彼女が動く度に身体を震わせてるところを見ると、警戒の度合いはレイヴモンの時よりも大きそうだ。
「そっか、態々迎えに来てくれてありがとう。
それじゃあ今日の所は戻ろうか……アグモンも一人は心細いかもしれないけど探偵君が新しい仲間を連れてくるまでの辛抱だから頑張ってね」
「ボク、頑張る」
「良い子だ……ピノッキモン辺りに見習わせたい位に」
「あの子は確かに悪戯好きだからなぁ、もう少し落ち着いてくれた方が俺も助かるけど」
「悪が戯れるという意味で言えば仁成殿の言も的外れでは御座らんが、彼奴は仁成殿の見ていない所では成熟期辺りならば死にかねない罠を仕掛ける根性の捻くれた糞餓鬼だからな。
幾ら言っても聞きはしまいさ」
「何度異次元送りにしても懲りん位だからな、奴の性根も筋金入りということだ。
さぁ話は此処までだ、そろそろ向こうも暴れ出す奴が出てくるだろう……早く戻るぞ」
マスティモンが腕を一振りすると彼女の通ってきた歪みが大きくなり、俺達三人をゆっくりと飲み込んでいく。
一人その場に残されるアグモンはその光景を見て心配そうな顔をしていたが、俺達としては別段痛みなどがある訳でもなく単純に移動するだけなので、大丈夫だという意味を込めて揃って小さく手を振ると安心したのか笑顔で大きく手を振り返してくれた。
足先から頭まですっぽり全身が歪みに覆われて移動が完了すると其処は阿鼻叫喚の地獄絵図……眼前に繰り広げられる知った顔によるバトルロイヤルに開いた口が塞がらない。
飛び交う必殺技の流れ弾を前にレイヴモンとマスティモンが俺の身を守ってくれているのだが一体何故こんな事になっているんだ?
一先ず話を聞くべくこの混沌とした場に改めて一歩踏み込んだ。