電子生命体に馴染むまで   作:アヤカシ

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もっと書く予定だったけど何か気付いたら終わりっぽい展開になったので次で最終回!


第15話 故郷

 ミレイのデジラボに一つだけあるアンティーク感漂う電話……それは一種の独立した世界に存在するこのラボと現実世界を直接繋ぐ道である。

 用意を整えた俺達がその道を通るとそこは秋葉原独特の雰囲気を詰め込んだ様な少し混沌とした建物の内部、ブロードウェイと呼ばれる雑居ビルへと通じていた。

 此方に来る際ミレイ女史から電脳探偵の所属する事務所へ挨拶の一つでも入れたらどうかという提案を受けていたので、ゲームをプレイしていた時の記憶を頼りに移動を始めたが如何せん目立つ。

 美女(作り物っぽくない羽根が生えてる)と現実世界では見たことのない動物一匹、そして人間と狐をミックスした様な生物が一緒に歩いているのだからしょうがないとは思う……ましてや既に一部のデジモンが現実世界で問題を起こしているのだから警戒しない方がおかしい。

 事務所へと着く前に数人とすれ違ったが、踵を返した人がいる位にはデジモンへの警戒心は高くなっている様だ。

 通報されて面倒臭いことになる前にサクッと用事を済ませて彼女達の行きたい場所へと向かうため、事務所前に到達するや否やノックを三回……返事がない、どうやら留守らしい。

 

「いないんならもう此処に用はないわよね? 早く行きましょ、私呉服店って一度見てみたかったの!」

 

「アタシは……少しお腹が減ったかな」

 

「ボ、ボクは何処でも……(出来れば人が少ないところがいいなぁ)」

 

「じゃあとりあえず昼食にしようか、その後呉服屋を見て……後は適当に見て廻ろう。

 一応御神楽さんから今までの給料を貰ってきたから欲しいものとかがあったら遠慮しないでね」

 

 昼食を取るにあたってこの建物の中にも飲食店は存在するが、ロップモンとレナモンが入店お断りされる可能性があるので手早く買えるファーストフード系で食事を済ませる事に決め、一先ずブロードウェイを後にする。

 外に出るとそこには懐かしい空気……排気ガス等で汚れた綺麗とは言えない空気が漂う都会の町並みが広がっていた。

 ただし今はそれも様変わりして、一部の景色がテクスチャー化してたり、我が物顔でデジモンが歩いてたりする現実感のない景色へと様変わりしている。

 幸い近くで暴れるデジモンもいないため騒ぎにこそなってはいないが、出来ればこうなる前に来たかったものである。

 

 それにしても流石は都会、少し目を懲らせばファーストフードやコンビニは大体見える範囲に最低でも一件は建っている。

 ファーストフードショップは基本的に店の前にメニューを置いてあることが多く、店内に入らなくても商品を選ぶことが出来るので助かった。

 出来るまでの短い間ではあるが彼女達には外で待っていてもらったが、明らかに目立っている……ガンガン写メとか取られているし、その事にレナモンと付き添いのリリスモンにストレスが溜まりつつあるのが目に見えて分かるレベルである。

 商品が出来上がると急いで会計を済ませ、彼女達の手を引きながら急ぎそこを離脱、出来るだけ人通りの少ない道を選びながら食事を取るための場所を探す。

 途中デジモンを連れたガラの悪い少年達に絡まれそうになったが、彼らが連れていたのは成長期だったので究極体であるリリスモンに喧嘩を売れる程強くなく、尚かつまだ其程信頼関係を育めていなかったのかデジモン達が少年達を置いて一目散に逃げ出してしまったので戦闘になることはなかった(ちなみに少年達は急いでデジモン達の後を追いかけてその場を後にした)。

 ちょっとしたアクシデントはあったものの無事近くの公園で食事を終えると、リリスモンのリクエストである呉服屋へと歩を進める。

 

 幸い先程の店で店員さんに尋ねたところ、それなりに有名な呉服店が近くにあるという話を聞けていたので、其程時間も掛けずに辿りつくことが出来た。

 当たり前のことだが、和服は安い物もあれば驚く程高い物もある。

 此方に来た時に遠慮するなとは言ったものの、流石に何十万もする着物を買おうとすると所持金から足が出てしまう。

 店に入る前に予めその事を伝えると、リリスモンは「そこまで世間知らずじゃないわよ」と苦笑しながら言った。

 彼女曰く元から買うために来た訳ではなく、美術品的な意味合いで見に来たかったらしい。

 そもそも進化した時から着ている服が一番自分に合っており、新しい服を欲しいとは思わないのだとか……お金の掛からない子達だこと。

 結果として完全に冷やかし客と化して、店員に白い目で見られながらも時間を掛けて店内を一回り。

 ちなみにその間ロップモンとレナモンは此処に来る途中で買ったクレープを外で食べて待っている……流石に獣系を服屋に同伴させる勇気は俺には無かった。

 

 呉服屋を出た後もレナモンとロップモンが道中気になったというペットショップに入って一部ペットにもの凄い威嚇されたり、店内でレナモンが無言でブラシを差し出してくるのでそれを買ったり、少し疲労の色が見え始めたロップモンの為に自然公園で休憩を取ったりしていたら気付けば空がオレンジ色に染まる時間帯になっていた。

 

「もう日が暮れ始めてるな……日が完全に暮れるまでにはラボに帰りたいから、そろそろブロードウェイに戻ろうか」

 

「私としては一泊位しても良いと思うのだけど……どうせ今も見ているであろうマスティモン辺りが連れ戻しに来かねないから賛成しておくわ」

 

「アタシもそれなりに楽しかったし、ロップモンは疲れて寝てるし戻って良いと思う」

 

 特に反対意見も無かったので頷いてから寝ているロップモンを背負って歩き出す。

 夜が近づいているからか若干治安の悪さが見え隠れしかけていたが、連れているデジモン達のお蔭か特に何事も無くブロードウェイに着いた。

 来た時には挨拶出来なかった探偵事務所に寄ろうかとも思ったが、よく考えれば既に伝えるべき事はミレイ女史を通して伝えているし、此方としては挨拶位しか用がないので別にいいかと今回は真っ直ぐラボへと戻った。

 ラボにはいつもの様にタブレットを弄っているミレイが居て、帰ってきた事を実感する。

 ふと彼女が顔を上げ俺を見て言った。

 

「外の世界はどうだったかしら?」

 

 その言葉に幾つもの感想が頭に浮かんでは消えていく。

 楽しかった、懐かしかった、疲れたetcetc……しかし思い浮かんできた感想の中に帰れる帰れないは別として、元の世界に帰りたくなったというのが無かった事に俺は少なからぬ衝撃を受けた。

 1年にも満たない時間で自分はすっかりこの世界に馴染んでしまった……20年近く生きてきた世界よりもだ。

 向こうに俺の死体があるのか、それとも身体ごとこっちに来たのかは知らないけれど、両親は少なからず悲しんでいると思う。

 だがそれでも俺は今もし元の世界に帰れるとしても恐らく帰らないだろう。

 何故なら俺はデジモン達が好きだから……違う世界から態々俺を探しに来てくれたという事実、今まで触れ合ってきてより深まった愛情。

 長年世話になった両親には悪いが、この子達にとっては俺が親の様なものなのだ。

 それをどうして捨てられようか……そこまで考えて初めて俺は自分が涙を流していることに気が付いた。

 そんな俺を見てリリスモンが、レナモンが、今目を覚ましたばかりのロップモンが狼狽している。

 しかしミレイ女史は此方を見たままずっと答えを待っている。

 彼女に答えなければならない。

 そして俺のデジモン達にも伝えよう。

 

「俺はこの世界に来れて良かった」

 

 彼女は優しげに笑って「そう」と一言だけ小さな声で言った。

 




本当なら実はリリスモンとバルバモンが徐々に主人公の帰巣本能的なものを削っていたっていう話や、原作におけるラスボス戦の裏で街を守る話とか入れようかと思ったけど、なんか気付いたら終わらせに掛かってた……無意識に終わらせたがっていたんだろうか?
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