何とか笑いも収まり落ち着きを取り戻した俺は彼らに謝り、話の続きを聞くことにした。
世界の守護者とも言えるロイヤルナイツすら跳ね除けて壁を越えた先、俺の気配を感じた世界へとたどり着いた一行は気配を頼りに此処に……ラボの端末に来たらしい。
前いた世界と同じ作りだったらしく入るのは簡単で、ここに来るまでの世界で幾つか端末の容量拡張用アイテムを幾つか拾っていた為にそれを使って新たに部屋を作り、気配が近づくのを待った。
このラボはセキュリティが凄まじく、おいそれと干渉することは出来ない。
しかし端末の主電源さえ入ればこの端末もラボの一部として認識されるために多少はラボの中へ干渉できるようになる……そして後は俺の経験した通りらしい。
「そういう事だったのか……色々大変だったんだな」
「大変だった……本当に大変だったわ。
でも今こうして貴方に会えたのだから努力も報われるというものよ……これで私達が此処にいる経緯は分かってもらえたわよね?
でね……次は貴方の事を教えてほしいの、長井仁成という人の事を」
「俺の事?俺の事って言われても俺は普通の人間だよ?」
「それは何となく私達も分かっているの……私達が聞きたいのは、貴方にとって私達はどういう存在だったのかっていう事。
あ、この聞き方だと仕事と妻のどっちが大事か問い詰める修羅場の様ね!」
「話が脱線しかけているよリリス、聞きたいのは僕達に接していた際において彼がどうやって僕達に干渉していたのかってことだろう?」
「そうそう、それよ!貴方はどうやって私達……というかあの子に指示を出していたの?」
これは馬鹿正直に答えていい質問なんだろうか?
君たちは一つのゲームの中に存在していて、そのプレイヤーが俺、主人公が彼女の言う‘あの子’だったなんて言っても良いのだろうか……別にいっか!
俺自身腹芸出来るタイプじゃないし、下手に嘘ついて心象悪化させるのは得策じゃない。
という訳で普通にありのままの事実を話すことにした。
別段説明が上手い訳でもなかったので、大まかなことを話してからその後は逐次質問に答えていく形で互いの情報を統合していく。
彼らは俺の説明を聞いても特に驚くことはなく、気になることについて質問を投げ掛けてくる。
質問の内容は多岐に渡り、御神楽ミレイと同じ様な考えに辿りついたバルバモンやルーチェモンからはこの世界に来た切っ掛けに関して尋ね、その間言葉を話せないベルフェモンとリヴァイアモンは俺を傷つけない様にゆっくり動いて俺の両隣に陣取った。
ベルゼブモンは言葉少なに俺の居た世界のバイクや銃の事について尋ね、デーモンとリリスモンは俺の個人的な情報について知りたがった……前者は知識や身体的な事で、後者は食べ物の好み等の精神的な事だ。
暫くすると怒濤の質問タイムも落ち着きを見せ、それぞれが得た情報を頭の中で整理しているのかは分からないが口数が減っていった。
その頃になると両隣の話せない組にも遠慮というものが無くなってきて、現在の俺の状態はリヴァイアモンの背中に乗って、ベルフェモンを背もたれにするという危険極まりない椅子に座っているのが現状だ。
リヴァイアモンの背中は硬く、ベルフェモンの体毛は硬い……岩の上に座って巨大なたわしに寄りかかっているのを想像して欲しい。
苦痛という程じゃないが決して安らげる状態じゃないのは確かである。
でもこれは明らかに善意というか好意でしてくれていることだから凄く言いにくい……それに少なくとも立っているよりは楽なのだから文句を言うのは我が儘というものだろう。
そんな俺の気持ちを察したのか、それとも単に考えが纏まったからかなのかは分からないが、少し離れた位置にいたルーチェモンが立派な翼で俺の元まで飛んでくると、俺を抱き抱えてリヴァイアモンの背中から降ろした。
二体はお気に入りの玩具を取られた子供かの様に不満げな顔をルーチェモンへ向け、リヴァイアモンは牙を小さく小刻みに鳴らし、ベルフェモンは寝息を少し大きくする。
しかしそんな二体を完全にスルーし、ルーチェモンは俺に話しかけてきた。
「君の話を纏めるとゲームやってたら突然この世界に来たって事だよね?
そして身体もデータ化してる……君の世界ではインターネットに視覚的感覚的にダイブする技術が無いにも関わらずだ。
という事は君はデータ体になるのに機器を一切使わなかったことになる……ならどうやって電脳空間へやって来たのか。
此処からは僕の立てた仮説に過ぎないけれど……君の身体はもう死んでるかもしれないよ?」
「身体が死んでる……いやいやいや、じゃあ今の俺は何なんだ?」
「君は君だよ、それには変わりないさ。
でも君は今精神がデータ化して実体化しているんだと思う。
君の言っていたゲームのデータと外で鳴っていた雷、他にも何か原因となるものがあったのかもしれないけど、それ等が相互作用を起こしてこの世界に飛ばされて来たんじゃないかな?
正直穴だらけの仮説だとは自分でも思うけど、何となくだけど大きく外れてはいないと思うんだよね」
「……家に雷が落ちて感電死した俺は、精神体だけで世界を越えて電脳空間へ辿りついたって?
御神楽さんも帰れないとは言ってたけど、流石にそれは想定外……」
全く実感が湧かない……痛みも感じなかったし、そもそも仮説が正しかったとして家の中で雷が原因で感電死ってどんだけ運無いんだよ俺。
自分の運のなさに軽く凹んでいると、俺の肩にそっと手を置くデジモンがいた。
重量感のある大きな手からは顔に似合わない気遣いが込められているのを感じる。
「あまり深く考えるな、ルーチェモンの言ったことは仮説に過ぎんのだ。
今はとりあえずこれから先のことを考えた方が建設的だろう」
「そう……だね、ありがとうデーモン」
「礼はいらん、そんなことよりも貴様はこれからどうするのだ?」
「当面は御神楽さんの手伝いをする事になるんだろ思うけど、その後は完全に未定かな?
折角データ体になったんならネットの中を適当に旅でもしようかな」
「旅か……それは興味深いな、その時は俺も着いていこう」
「ちょっと! アンタそれ抜け駆けじゃないの?!」
「別にそういうつもりではないんだが……その時になったら貴様も着いてくれば良いだけの話だ」
「……それもそうね、許してあげるわデーモン」
「何様なのだ貴様は……はぁ、まぁ良い。
そういうことだから貴様等も殺気立つな、別に独占しようと考えてはいない」
彼の言葉で初めて気付いたが、この場にいるリリスモンとデーモン以外の全デジモンが二体に向けて各々の武器を何時でも使える様に構えていた。
魔王デジモンだけでなく、先程まで震えていたプリンスマメモンとディアボロモンでさえ構えていたのだから驚きである。
一応デーモンの言葉で収めたものの、どうやら俺が思っていた以上に彼らは俺を好いてくれている様だ……怖い位に。
出会いであり再会でもある日……俺は彼らと共に生きていけるか少しだけ不安になった。
しかしこれは始まりに過ぎず、俺に会うために彼らと共に動いていたデジモン達はまだ20体以上いるという事を俺はすっかり忘れていたのだ。