デジモン達との再会を果たし、端末内で若干監禁状態にあった俺だったが極力毎日会いに来ることを条件に端末から出ることを許された……まぁ意図的に閉じ込めていた訳じゃ無かったらしいので許されたっていうのも変な話なんだが。
何はともあれ無事ラボに戻ってきた俺は、まず今後雇い主になる女性に端末内での一件を報告したのだが、返答は「そう」の一言。
ビックリする程淡泊というか無関心というか……不可抗力とはいえ突然いなくなった事に怒っていない事は正直助かるんだけど、何か引っかかるものを感じるがとりあえずは聞くべき事を聞く事を優先する。
「俺って何をすればいいんだ? 研究に協力って話だけどそもそも何の研究してるんだ?」
「貴方が先程言っていたでしょう? 究極のデジモン……新たな価値の探求よ」
「それが分からないんですけどね」
「それは残念ね……まぁ今は分からなくても問題無いわ。
とりあえず暫くは身の回りの雑用をお願いすることになるでしょう。
一応貴方がいない間に貴方の部屋を作っておいたから、後で確認しておいて」
「そういえば俺って食事や睡眠って必要な身体なのか?」
「必要よ、データ体とはいえ維持にはエネルギーが必要なのだから。
食事でエネルギーを補充し、睡眠でエネルギー消費を抑えて、排泄で不要なデータを破棄する……納得出来たかしら?」
「普通の身体で居た時と何も変わらない訳ね……OK納得した」
考えてみれば俺と同じデータ体であるデジモンも食事や睡眠をするのだから、俺も一緒だと考えるのが普通だよな。
やっぱり本来プログラムされたことしかできない電子創作物が生物と同じ様に生きているという事に実感が湧かないからだろう……あ、今は俺も同じ身体だからなんか自虐っぽい。
そんな俺の気持ちを察してか彼女はバインダーから顔を上げずに話題を変える。
「それで、今日これからの事だけど……今日は色々あって疲れたでしょうから、このまま休んで良いわ。
明日からはデジモン達の世話をお願い」
「それって御神楽さんの?」
「それと貴方を追ってきた子達ね、基本的にこの仕事がメインだと考えてくれて差し支えないわ。
知っていると思うけれど、場所は先程まで貴方が入っていた端末だから詳しい説明は要らないでしょう。
主にトレーニングの手伝いと食事の配給だから難しいことは何もないわ」
「トレーニングって言っても俺の育てたデジモンは全員限界まで能力を上げているからトレーニングしても意味が……」
「それならトレーニングは運動不足解消程度で良いわ。
食事はコンソールに打ち込めば出てくるから適当に。
ふぅ、それじゃそろそろ私は研究に集中するために篭もるから……明日から宜しく」
そう言ってから俺が止める間もなく彼女はラボから消えた。
一応サイバースルゥースというゲームをクリアした俺ではあるが、彼女について知っている事は少ない。
聞いたら答えてくれるのかもしれないが、色々と重い事情を抱えていそうな彼女においそれと踏み込む訳にもいかないだろう。
考える事が多すぎて先が思いやられるが、とりあえず今は彼女の言う通り明日に備えて休むことにする。
真新しい部屋に新品のベッドと机があるだけの質素な部屋だが、天蓋付きのベッドとか用意されても反応に困るので丁度良い位だ。
ベッドに横たわると聞き忘れていた事を一つ思い出した。
今が
もしかすると主人公を介してプレイヤーにコンタクトを取ることも出来るかも知れないのだ……そこら辺御神楽さんに話してみるのも良いかもしれない。
翌日目を覚ますと、手早く身嗜みを整えてラボへ出る。
御神楽さんは昨日と同じ様にラボの真ん中にある椅子に座りながらバインダーの中を読みふけっていた。
挨拶をするとチラリと此方を見て「おはよう」と短く返してくれたが、すぐに視線をバインダーへと移してしまう。
一体何が書かれているんだか……また一つ彼女の謎が増える。
読書中?申し訳ないが少し昨日聞き忘れていたことを尋ねてみることにした。
「御神楽さん、少し聞きたい事があるんですけど……」
「仕事のことなら昨日言った通り、今はデジモンの世話をしてくれるだけで良いわ」
「その事じゃなくて……電脳探偵って会った事ありますか?」
俺の質問を聞いて、少し興味がある内容だったのか彼女はバインダーを膝の上に置いて此方を向いた。
相変わらず表情は殆ど変わらないが、その行動が彼女の感情を表している。
俺がサイバースルゥースの内容の中で話したのは育てたデジモンと御神楽ミレイについて知っている事だけ、それ以上は彼女も聞きたがらなかったから話していなかったのだ。
「電脳探偵……聞いた事のない職種ね」
「知らないって事はまだ始まってすらいないのか……それともこの世界が俺の知る世界じゃないとか?
なんにせよそれならそれで良い、もしも電脳探偵がラボに来たら俺を呼んでくれませんか?
少し話したいことがあるんです」
「別に断る理由は無いけれど、理由位は聞かせて欲しいものね」
俺は未来のことには殆ど触れずに、電脳探偵である主人公を介して俺の居た世界と連絡が取れるんじゃないかという仮定を彼女に話す。
デジモン達との会話については昨日の時点で報告してあったので、御神楽さんはすぐに俺の言いたい事を理解してくれた。
しかしそれが俺の考えに賛成するのとは別問題。
「それは難しいでしょう、おそらく成功の目は無いに等しい」
「え、何で?」
「簡単な話よ、信じてくれないから……それだけ。
もしも貴方がゲーム内からメッセージを受けたとして、それをゲーム内にいる人からのメッセージだと心から思う?
普通は思わない……後に整合性があるなら良くできたシナリオだと思うだろうし、突拍子もない無い様ならシナリオライターの腕を疑うのが普通。
そして仮に信じてくれたとしてその人が長井君の家の近くに住んでいる可能性はどの位?
それに最悪の可能性は気味悪がってこの世界に関わらなくなるかもしれないという事……その場合はこの世界が静止するのか、それとも時間は進むけれど再度関わってくる時に時間が巻き戻るのか、はたまた一つの可能性世界として独立するのか分からない。
どれも私達には実感できないかもしれないけれど、自然ではないことは確か……時の流れに干渉することでどんな不具合が起こるか分からない以上安易に選べる選択肢だとは到底思えないわ」
「そう……だね、分かった。
気持ちを切り替えることにするよ、とりあえず今は此処での生活に慣れることを優先する」
「それがきっとベターな選択……ベストを目指すのは良いことだけど、デメリットのことも考えなければ取り返しのつかない失敗をする事になるかもしれない。
それを頭の片隅にでも置いておくことをお勧めするわ」
「提言ありがとう、俺焦ってたみたいだな……まずは俺が今出来ることをするよ」
俺は幾分か晴れ晴れとした気分で端末に触れ、デジモン達の元へと飛んだ。
その瞬間彼女が何か呟いていた様だけど、声が小さくて俺にはそれを聞き取ることが出来なかったので、特に気にせずデジモン達との触れ合いについて思考を移した。
「貴方にとってこの世界が住みやすい世界であるように私も祈っているわ」