電子生命体に馴染むまで   作:アヤカシ

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第5話 最強?

 修羅場ナウ。

 事の始まりは初めての仕事(食事の用意とトレーニング器具の確認)を終え、一休みをしている時……彼女は突然やって来た。

 先日会った11体のデジモン達は作業中でも護衛と称して俺の後をついて回り、リリスモンを筆頭に引っ切り無しに話しかけてきていたのだが、突然彼等が距離を取り各々が戦闘態勢へと移行したのだ。

 あまりに唐突の出来事に混乱していると、何かが後ろからそっと首に腕を回して抱きついてきた。

 本来であれば背に感じる女性的な体の感触に喜ぶべきなのだろうが、魔王デジモン達が警戒している事から喜ぶことも安易に逃げることも適わず、後ろに居る存在を刺激しない様に唯々硬直することが俺に出来る唯一の事である。

 

「約束が違うではないか……会えたのならまず私に連絡をし、眠らせていた連中を起こす。

 そういう話ではなかったか?」

 

「マスティモン……他の領域には管理者の権限無しには移動できないはずじゃなかったかい?」

 

「まぁ基本はそうだ……だがなルーチェモン、世界の壁すら越えられる私にその程度の障害が意味を成すと思っているのか?」

 

 ルーチェモンの額から一筋の汗が頬を伝って床へと落ちる。

 マスティモン……エンジェウーモンとレディーデビモンがジョグレス進化した姿。

 右半身に天使、左半身に悪魔の身体の面影を残しており、その女性的な身体とは裏腹に相手のHPの25%を問答無用で削る必殺技を持つ強く美しいデジモンだ。

 魔王デジモン達にも決して引けを取らないステータスに必殺技は確かに凄い……しかしこの場にいるデジモン達を同時に相手取って勝てるとも思えない。

何故魔王デジモン達はこれ程までに警戒しているのだろうか?

 そんな俺が疑問を持っている事に気付いたのか、マスティモンは小さく笑って耳元に口を寄せて答えを教えてくれた。

 

「何故私が此奴等に一人で渡り合えているかが疑問なのだろう?

なに簡単な事、ルールに縛られない場であれば私にとって相手の数など関係無いからだ。

 排除するだけなら適当な次元に捨ててしまえばいい。

 攫いたければ誰にも知られない次元に仕舞い込んでしまえばいい……君もそうしてしまいたいのだけど、如何せんそれをすると君は私に心を閉ざしてしまうだろうから出来ないのだけど、彼らはそこら辺を察することが出来ないから心配しているのだよ」

 

「そ、そうなのか……それは何とも」

 

「マスティモン、今すぐヒトナリを離しなさい! いきなりアンタに抱きつかれて嫌がっているのが分からないの?!」

 

「五月蝿いなリリス……彼は嫌がっているのではなく困惑しているだけ。

 むしろ先程までのお前の方が嫌がられてもおかしくない行動を数々行っていたと思うのだが?

 仕事中にも関わらず所構わず話し掛けて集中力を乱す……邪魔以外の何者でもない」

 

「そ、それは……ちょっと抑えきれなくて」

 

「相手の事を考えずに纏わり付くだけなら子供と変わらない。

 仮にも究極体なのだからそこら辺は弁えた方が良いのではないか?」

 

「ぐっ……じゃ、じゃあアンタはどうなのよ!

 突然現れて抱きつくなんて、集中力どころか行動すら邪魔しているじゃない!!」

 

「今は仕事も一段落して休憩している最中だろう?

 私がそれを知らないとでも?」

 

 俺の頭越しで俺への接し方について延々と口論している二体。

 片や直情的に、片や冷静に相手の行動についての問題点を挙げていくが、感情論では正論を突き崩すことは難しく、次第にリリスモンの口数が減っていく。

 遂には下向いて身体を震わせるだけになってしまった彼女を見て、思わずリリスモンを気遣う言葉を掛けようと思って口を開くが、声を出す前にマスティモンにそっと手で口を塞がれた。

 

「今リリスに優しい言葉を掛ければ、君はこれから先ずっと彼女に四六時中張り付かれることになる。

 それは君にとっても結構な負担だろう?

 もう少しだ、もう少しで彼女は癇癪を起こす……彼女も馬鹿ではない。

 後は切っ掛けさえあれば彼女はもう少し精神的に成長するはずだ。

 だからもう少しだけ私に任せて欲しい」

 

 耳元でそう囁かれ、俺は思わず目を見開いた。

 マスティモンは俺の事だけでなく、リリスモンの事まで考えて先程の会話をしていたというのだ。

 確かにリリスモンは親の気を引きたくて色んな事をする子供に似通った部分があった……それは必ずしも短所という訳ではないが、長所とは言い難い部分である。

 行き過ぎれば短所といっても差し支えのないその特徴を彼女は緩和させようと今回の様な口論を行ったのだとしたら、彼女は厳しくも優しい母親の様な心根の持ち主なのかもしれない。

 そして彼女の予想通りリリスモンは程なくして感情を爆発させた。

 

「うるさい……うるさい!うるさい!うるさい!!

 アンタだけ狡いのよ!私はこの右手(毒手)の所為であんまり近づけないっていうのに……何でアンタは出てきて早々抱きついてるのよ!?

 そんなのおかしいじゃない!狡いじゃない!」

 

「私からしたらお前達の方が狡いと感じているがな……気まぐれで最後の戦いに赴くことになっただけのお前達が彼と会うために最も尽力した私よりも先に再会した。

 その上彼と再会したことを知らせずに自分たちだけで独占しようとした……眠りについている他のデジモン達もさぞお前達には憤るだろう」

 

「別に私達もずっと隠しておくつもりなんて無かったわよ!

 一日位良いじゃない……明日には教えるつもりだったんだから!」

 

「どうだか……今日一日が一週間に、一週間が一ヶ月にならないと誰が信じられる?

 答えてみよ、自身の欲望を抑えることが難しい魔王デジモン達よ」

 

 その問い掛けに後ろに控えていた魔王デジモン達の殆どが目を逸らした。

 リヴァイアモンだけは何とかこっそり此方へ近づこうと、足を一歩踏み出そうとしてはマスティモンに視線で制され悲しそうに元の位置に戻るという動きを繰り返していたがそれは置いておく。

 リリスモンはもはやマスティモンを親の敵の様に睨み付けており、今にも飛びかかってきそうである……まぁ彼女は飛びかかってくるよりは魔法で攻撃してくるタイプなのだが。

 そしてその印象通りに彼女の回りに幾つかの魔方陣が形成され、輝きを増していく。

 それを見て今まで口を挟まなかった他の魔王デジモン達も流石に止めに入ろうとするが、少しばかり距離が離れていたために間に合いそうにない。

 一方で矛先を向けられているマスティモンの顔からは感情が抜け落ち……何故かリリスモンの憤怒の形相よりもその顔が俺にはずっと恐ろしく感じた。

 

「貴様……今貴様がしている事がどういう事か理解しているのか?

 今私に攻撃すれば彼に当たる可能性があるのが分からないのか?」

 

「私がヒトナリに当てるわけないでしょ!」

 

「射線に入れたまま攻撃しようとしている時点でアウトだ馬鹿者。

 暫く頭を冷やせ」

 

 マスティモンが円を描く様に腕を回すと、リリスモンの真下に突然穴が出現。

 咄嗟に回避しようと跳ぶが、彼女の頭上に何時の間にか用意されていた魔力球が逃がさんとばかりにリリスモンの身体へと降り注ぎ、強制的に穴の中へと落とされる。

 彼女が落ちると同時に穴は収縮を始め、十秒も経たない内に跡形もなく消え、消え際にリリスモンが残したマスティモンへ向けた怨嗟の声だけが残された。

 

「……リリスモンは何処に落ちたんだ?」

 

「知的生命体のいない世界……別に命の危険はないが、少なくとも丸三日は其処で反省して貰う。

 奴の私に対する嫌悪は増すかもしれんが、しかし事を思い返せば少しは落ち着くはずだ」

 

「態々憎まれ役を……優しいんだなマスティモンは」

 

 その言葉に彼女は返事を返さず、俺の首に巻き付けていた腕を外すと少しだけ恥ずかしそうに苦笑した。

 

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