「え、武藤遊戯さんのデッキ?」
購買でなにやら人がたくさん並んでいた。一体なにがあったのだろうと思っていると、前に並んでいた明日香ちゃん達に教えてもらった。
なんでも、明日からデュエルキング武藤遊戯さんのコピーデッキがデュエルアカデミアで展示されるらしい。それを朝1番で見れる整理券を手に入れるためにみんな並んでいるそうだ。
「私もっ!私も見たいっ!!」
武藤遊戯さんのデッキといえば、私と同じエースモンスター、ブラック・マジシャンが入っている。デュエルキングである武藤遊戯さんは、それをどう活かすようにデッキを組んでいるのかすごく気になる。
そうでなくても、デュエルキングのデッキなんて見てみたいに決まってる。
「そう言うと思ってわよ。ちゃんとあんたの場所もとってあるわ」
「わ~。ありがとうっ!」
ジュンコちゃんが後ろに空けておいたスペースに並ぶ。そのまま数分後、私たちも整理券を貰った。
そのまま帰ろうとしたら、なにやら配っている場所で騒ぎが起きている。私たちはなんだろうと思ってその場所を覗いてみた。
「これはボクがもらうんだ!」
「1人で2枚なんてずるいだろ! これは俺のだ!」
よく見たことのある1人と、知らない誰かが1枚の整理券を巡って争っていた。野次馬が集まっている場所を抜け、トメさんに事情を聞くことに。
「ああ、翔君がね、2枚貰って行こうとしたら、そこで整理券が終わっちゃったんだよ。それで1人で2枚もらっていくなんてずるいって後ろの子が文句を言ってねえ」
それでこうなっちゃったんだ……。翔くんのことだから2枚目は十代くんの分なんだろうな。
とりあえず言い争いをしている2人を止めるのは多分無理だ。だってあの武藤遊戯さんのデッキを見れるか見れないかだもん! そんなの譲れるはず無いよね。
「じゃ~あ、2人ともデュエルで決めたらどうでしょう?」
争ってる2人の真ん中に入って、そう提案する。なにせここはデュエルアカデミアなのだから。
「よしっ! デュエルなら受けて立つッス!」
「良いだろう! 望むところナノーネ!」
「な、なのーね?」
翔くんと争っていたイエローの男子の言葉に少し疑問を感じたものの、2人は特に気にせずデュエルを開始した。
「まったく。騒ぎを大きくしてどうすんのよ?」
ジュンコちゃんが呆れたように言う。
「う~ん、でも2人とも争ったままなのもよくないよ? デュエルをすれば楽しいもん」
「そういう問題なんですのね……」
「舞花らしくて良いじゃない」
3人ともうんうん、と納得する。私らしいって……?
などと言っている間に2人のデュエルは進んでいた。イエロー男子のターンで、リバースカードは2枚でモンスターは無し。翔くんの場にはジェットロイドのみ。
「おいおい、一体何の騒ぎだ?」
人ごみを掻き分けて、赤の制服を着た見慣れた顔が現れる。十代くんだ。
「えっとね。明日、武藤遊戯さんのデッキが公開されるんだ。それで、朝1番で見れる整理券を巡ってデュエルしてるんだよ~」
十代くんの顔を見ないまま現状を説明する。
「おおっ! 遊戯さんのデッキが見れるのかー。って、あれ? その朝1番の整理券を巡って争ってるってことは……」
「そう。これが最後の1枚だよ」
トメさんがひらひらと手にもっている整理券を見せた。
「えーっ! それじゃ俺見れないじゃんか!」
「だいじょうぶだよ」
私は目線で翔くんの方を見るように促す。それに気づいて翔くんはデュエルディスクのついた手を掲げた。
「あ、アニキー! アニキの分はこのデュエルに買ってゲットするよ」
「え? じゃあ賭けてるのって俺の分なのか?」
「うん。翔くんが2枚持って行こうとしたから争いになっちゃったんだ」
いつも通りに振る舞いながら、いつもと同じトーンの声を出しながら、この現状を説明し切る。翔くんがちゃんと十代くんのことを思っているんだってことをちゃんと伝えた。
「もういいですーカ? デュエルを再開するノーネ。手札から、魔法カード大嵐を発動! そして俺の伏せたカードは黄金の邪神像。よって邪神トークンを2体召喚し、この2体を生贄に、
「うお……なんかデジャブ」
まさにそのまま。入学試験の十代くんとクロノス先生のデュエルの時の、先生の
あの時と同様に、機械で出来た巨人がその圧倒的な攻撃力を背景に、高みから翔くんを威圧する。
「バトル!
「ジェットロイドの効果発動! このカードが攻撃される時、手札から罠カードを発動することができる! 手札から
「な、なにいいいい!!」
魔法の筒による攻撃力分のバーンダメージ。3000の力は彼のライフポイントを一気に削り取った。
勝敗が決した。翔くんが勝ち、イエロー男子は膝をついた。
「やったー、僕の勝ちだね。それじゃこれは僕がもらっていくよ」
トメさんの手にあった最後の整理券を受け取り、十代くんに手渡す。十代くんは、今の翔くんのデュエルを褒めているようだ。
二人が笑顔で今のデュエルの内容や、遊戯さんのデッキについて話している。
私は明日香ちゃんの腕を引っ張って、そろそろ行こうと意思を示した。
「? 十代達と話していかないでいいの?」
明日香ちゃんが不思議そうな目で私を見る。私は弱く首を横に振った。
「うん……。そろそろ晩ご飯の時間だよ。早く行こう」
何も言わずに、3人とも一緒に寮に戻ってくれた。
夜になった。
晩ご飯は既に食べ終えて、寝る前の時間。私の頭は明日の朝に展示される武藤遊戯さんのデッキでいっぱいだった。
どんなデッキなんだろ~?
私と同じブラック・マジシャンを操る伝説のデュエリスト。きっと私なんかじゃ思いもよらないようなブラック・マジシャンの使い方があるんだろう。そう思うとワクワクして、早く見たい、早く見たいと気持ちが逸る。そわそわして今夜は眠れないかもしれないな~。
目が冴えているので、自分のデッキを机の上に広げた。ジュニアのカードが私の方を見ている。
「だいじょうぶ、だよ」
たとえ遊戯さんのデッキには及んでいなくても、あなたたちは私が組み上げた大切なデッキだから。
「だから、だいじょうぶ」
私の込めた40の想いは、決して遊戯さんにだって劣っていないから。ジュニアがクスリと笑っている気がした。
――コンコン
ふいに、扉が叩かれる音がした。誰かなと思って扉を開けると、明日香ちゃん、ジュンコちゃん、ももえちゃんの3人が並んでいる。さっきお風呂に入ったのに3人とも制服を着ていた。
「どうしたの~?」
「武藤遊戯さんのデッキを見に行くわよ!」
勢い良くジュンコちゃんが答えた。? あれ、武藤遊戯さんのデッキを見に行くって?
「明日の朝公開されるということは、今夜の内に展示されるということですわ。というわけで、今から見に行くんですの」
「へ~……って、え? それっていいの?」
一応校則違反になっちゃうんじゃないかな?
「あなたもでしょうけど……私たちもうずうずして明日が待ちきれないのよ。だから、早く見に行きたいのよ」
あの真面目な明日香ちゃんにしては珍しい発言だ。そして他の2人も同じ気持ちだということが伺える。
言うとおり私だって待ち遠しかった。だからこの提案は私も賛成だ。
「うんっ! 早く見に行こうよ!」
私たちは校舎の方に向かっていった。
夜の暗い道には電灯もほとんど灯っていない。学校だけあって、消灯時間が過ぎればもう明かりは点けない。というよりも外出してはいけないから点ける理由が無いだけなのだけど。
薄暗い校舎は正直薄気味悪かったけど、早くデッキを見たい気持ちが勝って足早に廊下を通り過ぎた。ようやく展示会場の前まで着いた。
「う~、ワクワクするねっ」
「今回ばっかりは舞花に同意だわ」
ジュンコちゃんが頷く。他の2人も同様にこくりと首を縦に振った。それと同時に、廊下の奥から足音が聞こえてくる。タタタッ、タタタッと駆け足がこちらに近づいてくる。それも、その音は廊下の両側から、逃げ道を塞いでいるかのように。
「わわわわわわわ……。あ、明日香ちゃん……」
冷たい空気が体をさらっと撫で、ふるふると体が震える。私は明日香ちゃんの服の裾をぎゅっとつかんだ。
ジュンコちゃんとももえちゃんも両手をつないで何かがくるのに備えてしまう。明日香ちゃんだけが唯一、まっすぐに何かが来る方を見つめていた。
「……!! 十代!?」
「あれ、明日香に舞花? それにそっちから来てるのは三沢か?」
「ほぇ?」
つかんでいた手を離して左右を見回す。暗い廊下を走ってきたのは、片方から十代くん、翔くん、隼人くん。そしてもう片方からは三沢くんだった。
「ど、どうしたの~? みんなまでこんなところに……」
と、言ってはみたものの、どうしてかなんて分かりきっていた。この時間にこんなところに来る理由なんて1つしか無いのだから。
「明日まで待ちきれなかったのさ」
なぜか三沢くんが率先して答えた。
「なんだよ? みんな考えることは同じか」
「そうみたいだね~」
「というか本気で怖かったですわ……」
クスっとみんなで笑いあって少しだけ和んだ。
「マンマミーヤ!!」
「え?」
扉の中から、大きな叫び声が外に向かって響いた。私が反応するときにはもう、みんなが扉を開けて中の様子を伺っていた。
「クロノス教諭!?」
少し遅れて、私も中の様子を見る。中ではクロノス先生が尻餅を付いていた。
「ガラスケースが割れてるわ!」
「キングのデッキが無いんだな!」
「まさかクロノス先生が!?」
そう、クロノス先生の目の前にあるガラスケースが割れ、そこに置いてあっただろう遊戯さんのデッキが無くなっていた。
「早くみんなに知らせようぜ!」
「うんっ!」
「よし!」
「わかったわ!」
「ちょっと待ツーノ!」
急いで出ていこうとした私たちをクロノス先生が必死で止める。
「事が公になったら、私が責任取らされるノーネ」
「だったら早く!」
「そうですよ~、もし校長先生に知られたら……」
「もしかしなくても免職ですわ」
「違うノーネ! 私じゃ無いノーネ!!」
必死になっているクロノス先生に、みんなが疑問符を浮かべている。だって、みんなわかってるもんね。
「んなこと最初からわかってるよ」
「クロノス教諭が犯人なら、ガラスケースを壊す必要がないわ」
明日香ちゃんと十代くんの擁護を受けて、クロノス先生は自分の懐を漁る。
「そうなノーネ。ガラスケースの鍵、あるノーネ……」
「まだ時間はたってない! みんなで犯人を見つけ出すんだ!」
「「「「「「「うん!」」」」」」」
みんなが一斉に散り散りになってその場を離れた。
暗い海の近く。閑散としたその場所には唯一、波の音が響きわたっていた。
私と明日香ちゃん、ジュンコちゃんにももえちゃんはその辺りを中心に捜索していた。
「うわああああ!!」
走り回っている最中、波のザバーという音に紛れながら誰かの悲鳴が聞こえた。
この声は……翔くん?
「みんなっ!」
「ええ、行くわよ!」
コクン、とみんな頷くと、声の聞こえた方に走っていった。
数十メートル、海のそばの岩場を走ったところで、膝をついた翔くんを発見する。腕にはデュエルディスクが装着されていた。
ひょっとして、デュエルしてたの?
暗くてよく見えなかったっけど、翔くんの対面に誰かの影が。雲がはれ、夜空に浮かんだ月がその場を淡く照らす。差し込まれた光が映し出したその影は、昼間に翔くんと明日の整理券を争ったイエローの男子だった。
「神楽坂君!?」
明日香ちゃんがその名を呼ぶ。イエローの男の子の名前は神楽坂くんと言うらしい。その神楽坂くんがデュエルディスクを腕に付けて興奮していた。
「はははっ! これがデュエルキングのデッキ。これが最強のデッキの力! 俺はもう、誰にも負けない!!」
「あなたが……遊戯さんのデッキを盗んだんですか?」
一歩前に躍り出る。神楽坂くんは私に目線を合わせた。
「ああ、そのとおりだ! そして俺は今! 最強のデュエリストになったんだ!!」
ズキン、と心に痛みが走る。最強のデュエリストなんて……『最強のデッキ』なんて、そんなの幻想に過ぎないのに。
「神楽坂くん。どうして盗んだりなんてするの? 神楽坂くんのデッキは……今まで使ってきたデッキはどうするの!?」
「無駄よ、舞花。神楽坂君は記憶力が良すぎて、作るデッキが強い誰かのデッキに似てしまうの。言ってみれば、彼の作るデッキは全部コピーデッキ。だから、いつもあなたが言うような思い入れのあるカードなんて彼には存在しないわ」
「そんな……」
デッキへの想い。それはデュエリストがデッキを組む上で、きっと1番重要なことなのに。
「もっとも、そういうデッキを使っているのが原因で、どこかで弱点をつかれていつも負けているのだけど」
トクン、と心が跳ねる。私が今何をするか、誰かが語りかけているような気がした。
「翔くん、ディスク貸してくれないかな~?」
いそいそと翔くんはデュエルディスクを外して私に渡す。私はそのディスク腕に装着した。
「デュエルしよう」
デッキケースから取り出したデッキを、シャッフルして自分のディスクへと差し込む。ディスクはデュエルをすることを認識して、展開した。
「橘舞花……。俺と同じくブラック・マジシャンを操るデュエリストか。いいぜ! だが、俺のブラック・マジシャンについてこれるかな?」
神楽坂くんもディスクを展開する。デュエル開始だ!
「「デュエル!!」」
先行は私。勢い良くカードを引き抜いた。
「私はマジシャンズ・ヴァルキリアを召喚するよ。カードを1枚伏せて、ターン終了」
マジシャンズ・ヴァルキリア
ATK1600
定石と呼べる1ターン目の展開。でも悪く言えば凡庸。神楽坂くんは遊戯さんのデッキなんだ。これくらい、簡単に破ってくるかもしれない。
「俺のターン、ドロー! 手札から魔法カード融合を発動! 手札の幻獣王ガゼルとバフォメットを融合し、有翼幻獣キマイラを特殊召喚!」
まるで十代くんのような引き。1ターン目から融合素材を揃え、なおかつ融合を引き込んだ。場に現れた幻獣は、2つの首をこちらに向けて威嚇する。
有翼幻獣キマイラ
ATK2100
「この瞬間、罠カード発動!」
「ちっ、召喚妨害の罠か!?」
私が開いた伏せカードは、もちろんそんなカードじゃない。
「誘発召喚! 相手がモンスターを特殊召喚したとき、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚するよ!」
このデュエル、私と相手のエースは同じ。なら、先に出したほうが有利になる。
そのために、お願いだよ!
「ジュニア・ブラック・マジシャンを特殊召喚!」
私の頼れる小さな魔術師、ジュニアがフィールドに現れた。
ジュニア・ブラック・マジシャン
ATK1000
「驚かせやがって。まあいい、バトルだ! 有翼幻獣キマイラで、マジシャンズ・ヴァルキリアを攻撃!!」
「あれ? どうしてジュニアを攻撃しないんだろ?」
神楽坂くんの宣言に翔くんが首を傾げた。でも、それって当たり前のことなんだけど……
「マジシャンズ・ヴァルキリアの効果だ。マジシャンズ・ヴァルキリアが表側表示で存在する限り、相手は他の魔法使い族に攻撃することができない」
「へー……って、三沢君いたの?」
「いたんだ!」
正直私も気づいていませんでした。後ろのギャラリーを振り返ると、いつのまにか三沢くん、隼人くん、そして十代くんが合流していた。
っと、そんなことをしている間にも攻撃は続いており、マジシャンズ・ヴァルキリアは破壊されていた。
舞花
LP4000→3500
でもジュニアは残った。これで次のターンには……
「メインフェイズ2だ。手札から魔法カード、死者転生を発動! 手札1枚を墓地に送り、墓地のモンスターを1体手札に加える。俺は幻獣王ガゼルを手札に戻し、守備表示で召喚する。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
幻獣王ガゼル
DEF1200
フィールドには2体の幻獣。かたや攻撃力2100、かたや守備モンスター。
このプレイング、おかしい。
「なんだ? ミスか?」
死者転生があったのならガゼルを召喚して2体で攻撃すれば良い。そうすれば私の場にはモンスターが居なくなり、相手は厄介なジュニアを倒せたはず。
これがミスならいいけど、場には1枚の伏せカード。何を企んでいるんだろう?
「私のターン、ドロー!」
ブラック・マジシャン。来てくれた。でも相手の出方がわからない。様子を見る? ううん
「行くよ! 私はジュニアを生贄に捧げ」
ここで様子を見るのは戦略的にはアリだ。でもそんなのは私のデュエルじゃないよ!
全力で、私は私の1番大好きなカードを使って戦う! それが私のデュエルだから。
フィールドのジュニアがコクン、と頷く。飛び上がり、その体は光となって私の持つカードに集約する。
さあ、行くよ!
「最後まで……私と共にっ! 来て、ブラック・マジシャン!!」
フィールドに降り立つ、私の1番大好きなカード。ブラック・マジシャンはジュニアの力をもらって魔力を高めている。
ブラック・マジシャン
ATK2500→3500
「ハハハ……かかったな! 罠カード発動、黒魔族復活の棺!!」
ブラック・マジシャンの召喚タイミング。さっき、私がキマイラにたいして発動したように、神楽坂くんも罠カードを発動する。違うのは私は相手に干渉するカードじゃなく、あっちは紛れも無く除去カードだということ。
そうか! 黒魔族復活の棺!
私が気づいた時には既に、私のブラック・マジシャンと幻獣王ガゼルが棺に取り込まれていた。
「黒魔族復活の棺は相手がモンスターを召喚したときに発動することができる。召喚したモンスターと、俺の場のモンスター1体を生贄に捧げ、墓地から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する!」
「馬鹿な! あいつの墓地にいるのは、バフォメットだけだろ!?」
十代くんの叫び声が聞こえる。でも、それはハズレだよ。あったんだ、墓地に魔法使いを送るタイミングが。
「死者転生の時だよね?」
「その通りだ!」
完全に狙い撃ちに来ていたんだ。なぜジュニアを倒しに来なかったのか。ガゼルをわざわざ回収して召喚したのか、一気に1本の線に繋がる。
「お前のブラック・マジシャンは厄介だからな。早いうちに潰しておきたかったのさ。そして、墓地より蘇れ! 『俺の』ブラック・マジシャン!!」
二つの魂を喰らった棺から現れたのは、私のと同じ姿をした黒魔術師。そして、それはデュエルキングと共に戦った誇り高き魂の姿。
ブラック・マジシャン
ATK2500
「やはり、まだまだだったな。お前じゃ俺のブラック・マジシャンにはついてこれないみたいだぜ?」
「……魔法カード、死の床からの目覚めを発動するよ。相手はカードを1枚ドローし、私は墓地のモンスター1体を手札に戻す。墓地からブラック・マジシャンを手札に!」
私が回収したカードをみて、神楽坂くんは顔を歪めながら1枚ドローする。私はブラック・マジシャンのカードを、大切に胸に抱いた。
「ついて行くとか、ついて行けないとか、そんなのは関係ないよ。私は私の1番大好きなカードを使うだけ。カードを2枚伏せて、ターンエンドだよ」
失策だった? ううん、そんなことはない。
ブラック・マジシャンは遊戯さんのデッキのエースだ。それと私のエースが戦うほうが、とっても楽しいから。
でもブラック・マジシャンにキマイラ。流れは完全にあっちだ。でも、まだ戦える。
手札に戻したブラック・マジシャンのカード。でも、またすぐにフィールドに戻してあげる。
「ちっ、俺のターンだ! バトル! キマイラで、プレイヤーにダイレクトアタック!!」
双頭の幻獣が私に向かって猛ダッシュ。慌てず焦らず、私は伏せカードを表にする。
「リバースカードオープン! 罠カード、黒魔術の報復を発動! 相手が攻撃宣言した瞬間に、墓地の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚するよ。戻ってきて! ジュニア!!」
再びフィールドに舞い戻るジュニア。キマイラが一瞬止まった後、今度はジュニアに向かって突進し始める。
「さらに永続罠、血の代償を発動! 500ポイントライフを支払って、このタイミングで通常召喚を行うことができる!!」
「通常召喚……まさか!!」
何度だって、私はフィールドに戻す。このカードと戦うことが私のデュエルだから!
「ごめんね、ジュニア。もう一回ジュニアを生贄に、もう1度! 来て、ブラック・マジシャン!!」
相対する私のブラック・マジシャンと遊戯さんのデッキのブラック・マジシャン。お互いに杖を向け合い、戦う意思を見せあった。
舞花
LP3500→3000
ブラック・マジシャン
ATK2500→3500
「くそっ! 攻撃中止だ。カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「私のターン、ドロー! バトル! ブラック・マジシャンで、ブラック・マジシャンを攻撃! ブラック・マジック!!」
遂に行われる、ブラック・マジシャン同士の戦い。しかし、攻撃力は私のブラック・マジシャンの方が上。
私のブラック・マジシャンが放った魔力の塊が、一直線にむこうのブラック・マジシャンに向かう。
「甘い! リバースカードオープン、シフトチェンジ!!」
むこうのブラック・マジシャンの姿がふっと消え、その場所にキマイラが現れる。ブラック・マジックがキマイラを襲い、キマイラは断末魔をあげて破壊された。
神楽坂
LP4000→2500
「どうしてキマイラが?」
「シフトチェンジの効果で、攻撃対象になったモンスターを入れ替えたのよ」
少し焦る。シフトチェンジは予想していなかった。キマイラは破壊されても特殊効果で1体モンスターを場に残されてしまう。
「キマイラの効果発動! このカードが破壊されたとき、墓地からバフォメットかガゼルを特殊召喚することができる。蘇れ、バフォメット!!」
バフォメット
DEF1800
予想通りバフォメットが場に残される。モンスターの数を減らせなかった。
「さすが遊戯さんのデッキだね~。上手く攻めいる隙がほとんどないよ」
ワクワクしてる。思っていたよりもそのデッキを使いこなすことのできる神楽坂くんとのデュエル。
惜しむらくは、やっぱり使っているのが神楽坂くんであって遊戯さんじゃないってことかな?
「当たり前だ。これは最強のデッキだぜ!」
「ちがうよ」
周りにいるみんなが、私の否定に驚く。
あたりまえだよね。だって、デュエルキングのデッキを最強のデッキじゃないって言ったんだから。
「なにが違う? デュエルキングのデッキ……これこそが最強のデッキだろ!」
「ううん、そうじゃないよ。それはただの強いデッキでしかない。そのデッキが最強となったのは、あくまで武藤遊戯さんが使っていたからだよ」
「ふ、何を言い出すかと思えばそんなことか。俺は武藤遊戯のこのデッキも、プレイングも、なにもかもを研究し尽くしている。俺はデュエルキングのデュエルを完璧に再現できるんだ! 現に、このデュエルで、俺はお前に主導権を1度も渡していない! 俺が圧倒している」
「ちがうよ。遊戯さんとはちがう。だってそのデッキは、神楽坂くんが組んだデッキじゃないんだから」
心や感情。もちろんそれも大事だけど、他人の組んだデッキを使うっていうのはもっと別の、理屈的にダメなんだ。
「ちっ、意味不明なことを。まあいい、俺が勝つんだからな。俺のターン、ドロー!」
場にいるのはバフォメットとブラック・マジシャン。私のブラック・マジシャンに攻撃力で適わなくても、簡単にこの状況を打開するカードを引いてくるはずだ。
「バフォメットを生贄に捧げ、来い! ブラック・マジシャン・ガール!!」
ブラック・マジシャン・ガール
ブラック・マジシャンの弟子で、世界に1枚しかない伝説とまで言われているカードだ。その可愛らしい姿に油断したら、師弟の連携で一気にやられてしまうだろう。
ブラック・マジシャン・ガール
ATK2000
「すごいね~。ブラック・マジシャン・ガール、私初めて見たよ~」
世界に1枚しかない、武藤遊戯さんのデッキにしかないカード。ブラック・マジシャンを使っている身としては喉から手が出るほど欲しいカードだ。
「頑張れー、ブラック・マジシャン・ガール!!」
「あんたはどっちの味方してんのよ!!」
後ろで翔くんがあからさまに神楽坂くんの応援をし始めたけど気にしない。
とにかく、ここで攻撃力で劣るブラック・マジシャン・ガールを出して来たということは、何かあるはず。
神楽坂くんは動いた。
「手札から、魔法カード
ブラック・マジシャン&ブラック・マジシャン・ガール
ATK4500
ブラック・マジシャンの師弟は、かの
二人分の魔力を、私のブラック・マジシャンは受け止めた。
「墓地のジュニア・ブラック・マジシャンの効果発動! 墓地のこのカードを除外し、場のブラック・マジシャンの攻撃力を1000ポイント下げることで、1度だけ戦闘での破壊を免れる!」
魔力が晴れた後も、私のブラック・マジシャンはその場に留まっていた。
ブラック・マジシャン
ATK3500→2500
舞花
LP3000→1000
「ターンエンドだ!!」
倒せなかった事が悔しそう。わかってるんだよね。このデュエルの勝利条件を。
「このデュエル、ライフポイントは重要じゃないわ」
「ああ。このデュエル、ブラック・マジシャンを倒した方が勝つ!」
そうだ。私のブラック・マジシャンか、遊戯さんのブラック・マジシャンか。どちらが最後まで立っているかで勝負が決まる!
「私のターン、ドロー! バトル! ブラック・マジシャン・ガールを攻撃!!」
引いた手札じゃ、ブラック・マジシャンを倒せない。同攻撃力での相打ちが関の山だ。今は無防備なブラック・マジシャン・ガールを攻撃する。
神楽坂
LP2500→2000
「カードを2枚伏せてターンエンド」
私の場はブラック・マジシャンと2枚の伏せカード。神楽坂くんはブラック・マジシャンのみ。
このターンを耐えることが、私の勝負だ!
「ああ、ブラック・マジシャン・ガールが……」
ごめんね翔くん。
「俺のターン、ドロー! 強欲な壺を発動! デッキからカードを2枚ドローする」
ここで強欲な壺!? でも、そうじゃないと面白くないよ!
場と手札、これでお互いに使えるカードの量は同じ。このターンを耐えれば、私の勝利はすぐそこだ。
「これでどうだ!? 手札から魔法カード、千本ナイフを発動!!」
「待って、神楽坂くん!!」
その魔法カードが発動される前に、私は神楽坂くんを止める。
「なんだ? 怖気付いたのか?」
いや、そうじゃなくて。
「『センボンナイフ』じゃなくて『サウザンドナイフ』って読むんだけど……」
ひゅーって、夜風の吹く音が聞こえた。
「……『サウザンドナイフ』を発動! ブラック・マジシャンが俺の場にいるとき、相手モンスター1体を破壊する!」
「言い直したっすね」
「言い直したんだな」
「言い直しましたわ」
「言い直したわね」
「お前ら黙れ!!」
そんなことしている間に無数の(多分千本の)ナイフが私のブラック・マジシャンに向かう。
「破壊されたら舞花の負けだ!」
しかし、ナイフは私のブラック・マジシャンの体を通り過ぎる。
「すり抜けた……?」
「カウンター罠、闇の幻影の効果だよ」
闇の幻影は闇属性モンスターを対象にする、魔法、罠、モンスター効果を無効にするカード。
ブラック・マジシャンの居た場所には、ブラック・マジシャンの幻がいただけであり、だからすり抜けてしまった。
「くっ、まだだ! ブラック・マジシャンで、ブラック・マジシャンを攻撃!!」
さっきまでとは違う、同攻撃力でのブラック・マジシャン同士の戦い。お互いに向けあった杖の先から魔力を発する。
同攻撃力。2体のブラック・マジシャンは打ちあった魔力を体に受け、お互いに相打たれた。
「死者蘇生!!」
「正統なる血統!!」
破壊され、墓地に送られた2体の魔術師が、再びフィールドへ舞い戻る。
「何故だ!? 何故倒せない!?」
黒魔族復活の棺、
「何故だ!? 最強のデッキを使っている俺が! どうしてブラック・マジシャン1体倒せない!?」
「言ったよね、それは最強のデッキじゃないって。それはただの強いデッキなんだって」
「まだそんな戯言を……」
その言葉に対して私はふるふると首を振る。
「わからないかな? デッキを組んだ本人以外がそれを使ってもダメなんだよ。デッキを組んでいないんだから」
「ちっ、さっきも言っただろ! 俺はキングのデュエルを完璧に再現できるように研究したと!!」
「それでデッキに入っているカードの使い方を一通り学んだって、デッキを本当に動かすことなんてできないんだよ」
すう、と息を飲んだ。
他人が組んだデッキを使うに当たって本当の意味では使いこなすことなんてできないことがある。それは
「デッキを組むとき、デュエリストは1枚1枚のカードに意味を持たせるんだ。このカードはこうしようって、あのカードはこの時にって。そうやって1枚1枚に想いを込めるんだ。作った人じゃない人間にはその膨大な量の想いを把握することなんてできないんだよ。例え表面上の使い方が分かったって、本当の使いこなし方はほかの人には理解できないんだよ」
ただ強い人のデッキをコピーして、その回し方を仮に学んだとしても、そのデッキの本当の意味での使い方はやっぱり、本人にしかわからないんだ。
だからコピーデッキの使い手は、嫌われるだけでなく上手く勝てない人が多いんだよ。
「神楽坂くん。神楽坂くんには、自分の1番大好きなカードは無いのかもしれない。でもね、初めてデッキを組んだ時のことを思い出してみてよ」
ふっと、神楽坂くんが空を見上げる。いや、目を閉じて思い出しているのかもしれない。
「1枚1枚カードを見て、このカードは強いって思ったら入れてみて。たくさんあるカードの中から40枚を初めて選んだとき、神楽坂くんはどう感じたの?」
私は……とってもワクワクした。たくさんのカードから選んだ私だけの40枚でデュエルをすることへの興奮が、ワクワクがあった。
きっとあの時が1番、自分のこうしたいっていう想いが込もっていたと思う。
「強い人が使っているからそのカードを使う。強い人のカードの枚数がそうだから自分もそうする。あの時は、そんな風にデッキを組んでいた?」
たとえそのデッキは自分で作ったと言い張っても、そこには自分の想いは入ってこない。そして、そのカード達への本当の理解もできない。
「デッキの全てを理解している。それが自分の40の想いを込めた最強のデッキだよ」
私はただ、自分の1番好きなカードを使って戦うためのデッキを組んだ。でも、そのために他の39枚にも同じくらいの想いを込めている。
デッキって、そういうものなんだって思うんだ。
「だったらっ! このデッキを破ってみろよ!」
「うんっ」
神楽坂くんの挑発に、笑顔で応える。そっとデッキの上に手を置いて目を閉じた。
「……31分の10」
「何?」
私のつぶやいた言葉に反応する。他のみんなも首を傾げていた。
「私のデッキの、攻撃力を増減する魔法・罠カードの数だよ。そして私は、このデュエル中まだ、1枚も攻守増減の魔法・罠カードを引いていないんだ」
息を飲む。本来的には40分の10、つまり4分の1だ。初手に1枚以上あるべきだったんだ。でもそれをここまで引いていなかったということは、ここで引く確率はかなり大きい。
「私のターン……ドロー!」
引き抜いたカード。そこには装備魔法を表す十字のアイコンが描かれていた。
「装備魔法、魔術の呪文書を発動するよ! これでブラック・マジシャンの攻撃力は700ポイントアップ! ブラック・マジック!!」
4回目の、ブラック・マジシャン同士の対決。もうお互いにリバースカードも存在しない無防備な戦い。
完全な数値勝負となったこの戦いは、700ポイントの差で、私のブラック・マジシャンが勝った。
神楽坂
LP2000→1300
「ターンエンドだよ」
ふらふらと、神楽坂くんは最後のドローのために手をかける。勢いも覇気も何も見えなかった。
「俺のターン、ドロー」
神楽坂くんは引いたカードを見たあと、その手から力を抜いた。
「ターンエンド」
――真にデッキを愛し、理解しているデュエリストは、次にどんなカードを引いても、その時の最高のプレイングをすることができる
いつだったか、誰かが言っていた言葉が頭の中で響いた。
「私のターン、バトル! ブラック・マジシャンでプレイヤーにダイレクトアタック!!」
終止符をうつ最後の魔法。ブラック・マジシャンがこのデュエルに終焉を告げた……
神楽坂
LP1300→0
膝を付いている神楽坂くんに駆け寄って手を差しのべる。
「ごめんね」
「何を謝って……」
「本当はね、頭の中がぐちゃぐちゃしててさっきまで言ってたこと、あんまりまとまって無いんだ」
口に手をあててクスリと笑って見せる。神楽坂くんは呆れているかな?
「いや、ちゃんと伝わっているさ」
でも神楽坂くんはふふっと笑った。
良かった。結構不安だったんだもん。
「1枚1枚に想いを込めろ、か。そうだな。強いデッキをただ作ろうとするのに夢中で、カードに込めるための自分の想いを見ていなかった気がする」
ディスクからデッキを外して、私に差し出した。
「ありがとう。次は俺の気持ちを込めた、俺の最強のデッキで勝負したい。その時は、もう1度デュエルしてくれるか?」
「うんっ! また楽しくデュエルしようね!」
私は笑っていた。笑顔をまっすぐに神楽坂くんに向けて。
「よし、じゃあその時のためにメールアドレスを……」
「やったなっ! 舞花!!」
突然に、後ろから十代くんが背中を叩く。
私を褒めてくれているんだ。
いつもなら手放しで喜んでいるようなことなのに、私は手に持ったデッキをそのまま十代くんに手渡した。
「クロノス先生に渡しておいてね~」
「えっ……て、おい! 舞花!?」
また顔を見ないままに、私は部屋まで戻ることにした。
布団までダイブして、遅くなって削れてしまった睡眠時間を少しでも取るために目を閉じた。
今日あった出来事が脳裏にフラッシュバックしている。
想いを込める……
今の私が言えたことだったのかな。
想いを込めるということは、そのためにまず自分の想いと向き合わなければならない。
私は今、自分の気持ちと向き合えているのかな?
今日なんども十代くんに会ったのに、顔も見ようとしないですぐに離れていくの繰り返し。
でも十代くんに話しかけられてだけで、ドキドキして幸せな気分になるのは変わらないで、それでもまた苦しくなるのを怖がって離れていく。
私はどうしたいんだろう?
デッキを組むように、本当にやりたいことを構築すればいいはずなのに、どうしてもそれができない。私は苦しまないようにこの気持ちを消し去りたいのか、それとも幸せになるために実らせたいのか。
でも後者はどうしたってできないって分かっているから、前者を選ぼうとしている。でも、それができなくて、まだ話しかけられるだけでもふわふわと浮き上がっていくような気持ちになってしまって。
分かってしまったんだ。幸せにならなくていいから、苦しまないようにするために苦しんでいる中で
恋を諦めるってことは、恋を実らせるのと同じくらい、難しいことなんだって
今回の未OCG化カード
黒魔族復活の棺
通常罠
相手モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
魔法使い族モンスター1体を選択して発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスター1体と相手フィールド上のそのモンスター1体をリリースする。
その後、選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
死の床からの目覚め
通常魔法
相手はデッキからカードを1枚ドローする。
その後、自分の墓地に存在するモンスターカードを1枚選択して手札に加える。
黒魔術の報復
通常罠
相手フィールド上に存在するモンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在する魔法使い族モンスターを1体選択して自分フィールド上に特殊召喚する。
相手のバトルフェイズ終了時、この効果で特殊召喚したモンスターを破壊する。
通常魔法
自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」と「ブラック・マジシャン・ガール」が表側表示で存在する時に発動することができる。
このターンのエンドフェイズまで、自分フィールド上に表側表示で存在する「ブラック・マジシャン」の攻撃力は自分フィールド上に表側表示で存在する「ブラック・マジシャン・ガール」1体の攻撃力分アップする。