「十代君、橘さん、三沢君、天上院さん、ちょっときて欲しいのにゃ~」
今日最後の授業の錬金術。いつもよくわからないけど何だか楽しいこの授業が終わった後、授業をしていた大徳寺先生が私たち4人を呼んだ。
「何かあったのか? 先生」
十代くんが一番最初に先生に尋ねる。いつかの時と違って問題を起こした訳でもないし、あの時と違って三沢くんもいる。私もみんなもよくわからなくって首を傾げていた。
「実は……君たちにノース校との対抗デュエルに出て欲しいんだにゃ」
「ええ~!?」
「よっしゃあ!!」
私が声をあげ、十代くんはガッツポーズ。他の二人は単純にポカーンとしている。正直カイザーさんが今年も代表になると思っていたのだろう。私もそう思っていたから。
「……あの、代表は一人だけでは?」
「それに、何故俺たち1年生から……?」
三沢くんと明日香ちゃんは冷静に疑問点を上げていく。十代くんはそんなことも気にせずにすっごく嬉しそうだ。私がそっちを見てドキドキしているのは気にしないでくださいね。
「ノース校から、今年の代表は1年生にすると連絡があったのにゃ」
「それで1年生に?」
「そうだにゃ。それとその時、一緒に連絡されたのが……
今年はタッグデュエルにしようということですのにゃ」
タッグデュエル!?
あれ、それでもおかしいよね~?
「私たちは4人ですよ~」
タッグデュエルなら2人だ。でもここにいるのは4人で2人余ってしまう。私がそれを口にすると同時に、三沢くんと明日香ちゃんがにやりと笑っていた。
「そうか」
「そういうことね」
2人は分かったようだけど私と十代くんはよくわからない。大徳寺先生が説明をしてくれる。
「そう、ここにいる4人から2人を選ぶんだにゃ。タッグパートナーはそちらで決めてくださーい」
それだけ言ったら、大徳寺先生はさっさと帰ってしまった。一瞬ぽかんとしてしまったけど、私たちもようやくその意味を理解した。
「じゃあ~」
「お前たちとデュエルすんのか!!」
ここにいる内の2人とデュエルし、1人とペアを組む。そんなデュエル、考えただけでもワクワクするっ!!
「タッグはどうする?」
「「あ」」
三沢くんの一言で、はしゃいでいた私と十代くんが一度止まった。そうだよね、タッグ決めは重要だよね。
「じゃあ、私が十代と組むわね」
率先として声を上げたのは明日香ちゃんだった。そしてその内容に私は驚く。あの明日香ちゃんが、自分から、それも十代くんとペアを組みたいと言うなんて思っていなかったからだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。十代くんとは私が組むよっ」
でも、その意見を認めて引き下がる気には私はなれなかった。明日香ちゃんが相手でも、いや、明日香ちゃんが相手だからこそ、ここで引くわけにはいかない。レイちゃんじゃないけど恋愛センサーが自分に付いたように、明日香ちゃんから警鐘が鳴っている。
あの時、自分に自信のない私が引いてしまおうと思った理由。それは明日香ちゃんも十代くんを気にかけているということ。
それなら私は引き下がるわけにはいかない。例え自分に自信が無くても、それでも十代くんの隣に居続けたいと思ったから。
「じゃあどうしましょうか。デュエルで決める? 勝った方が十代と、負けた方が三沢くんと組む」
「うん。それでいいよ~」
「俺は外れ扱いなのか……?」
三沢くんの呟きなどどこ吹く風かとスルーして、私と明日香ちゃんは目から火花を散らす。お互いにデュエルで決着をつけることを了承して、フィールドに行こうとと足を向けると。
「ちょっと待てよ。俺の意見を無視して勝手に決めんなよな」
ちょっと膨れ顔の十代くんが拗ねたように声を出す。それを受けて私たちは足を止めた。
「明日香、悪い。俺は舞花と組むよ」
十代くんは明日香ちゃんにはっきりと断った。
そのことが嬉しいはずなのに、私は目をパチクリさせて十代くんを見る。
「十代くん、私でいいの?」
「ああ。舞花とはデュエルしたことあるし、お互いにデッキが分かってるからやりやすいだろ?」
十代くんの言葉は私の期待したものじゃなくて、打算から生まれた言葉だった。単純に、どちらと組んだ方がいいか、と考えた結果の答え。それでも私の心は嬉しくて、とくんと揺れてはにかんだ。
「……わかったわ。舞花、今回は譲る。けど次の時は、私を選んでもらうわ」
明日香ちゃんは順番にと言っているわけではない。次の時は十代くんに自分を選ばせる、と言っているのだ。打算でなく、純粋な気持ちで自分と。
「うん。でも次も……」
私が、とは言わなかった。お互いに分かったように首をこくんと頷かせると、明日香ちゃんは三沢くんの隣に立った。
「おっし! 一緒に頑張ろうぜ舞花!!」
「うんっ!」
十代くんとタッグデュエルだ。前に十代くんが翔くんとタッグデュエルをしたけど、私もやりたくてしょうがなかった。その願いが今叶う。嬉しくって、十代くんとのタッグでドキドキが大きくなる。楽しそうなデュエルの高ぶりと、恋の胸のドキドキが一緒になってなんだかとっても心地よい。
「十代」
私たちがはしゃいでいると、三沢くんが神妙な面持ちで十代くんの名を呼んだ。
「お前は入学試験の時に言ったな。1年生の中で、俺が2番目だと」
思い出す。私たちが初めて会ったあの場所で、筆記試験トップの三沢くんに向かって、十代くんはたしかにそう言っていた。
「これで決めよう。どっちが1年生最強なのかを」
視線が交錯する。十代くんと三沢くん、そして……
「そうね。さっきのことじゃなく、私たちもはっきりとさせましょうか。どちらが強いか」
私と明日香ちゃんも。いつもの、少し強くても優しさを帯びた瞳が、今はっきりと私に敵意を向けている。
リベンジマッチだ。前回負けてしまった私にとっては、これはリベンジ。
「うん、楽しみだよ~」
私も強く、その瞳に火花を返す。全身から力が溢れてくる。両手両足が軽く感じ、心には高揚が湧き上がってくる。まだ始まってもいないデュエルに対して、今とても燃えていた。
「じゃあ」
「あとは」
「デュエルの時に」
「語り合いましょう」
みんな口元がつり上がっている。この楽しみな気持ちを、奮い立つこの感情を、抑えることは全くできない。
目と目で互いの意思確認をした私たちは、2手に別れてその場を後にした。
「十代くん、どうしようか~?」
レッド寮の十代くんたちの部屋で、タッグデュエルの作戦会議を開く。会議といっても、いるのは私と十代くんと翔くんと隼人くんだけだけど。
「僕達の時と同じように、お互いのデッキをチェックしたら?」
「そうだな」
前回タッグをした2人がいるから、どういうことをすればいいかはなんとなく分かる。私と十代くんは部屋の中でデッキを広げた。
1枚1枚、お互いのカードを確認していく。十代くんのカードと私のカードの、シナジーしそうなものをピックアップして話し合う。そうしながらデッキを調整していった。
「そういえば、タッグデュエルのルールは前と一緒なんだよね?」
「多分そうだろ」
だったら、いくつか試してみたいカードがある。十代くんにそのカードを見せると、ニカっと笑って
「いいじゃん、入れようぜ」
そんなカードを数枚いれて、デッキの調整を終える。カードを束にして、さらに1枚1枚、もう一度カードをチェックしていく。
大丈夫だよね
最後の1枚までデッキを見終え、カードをきちんと整える。
「よし、できた~」
「よし、完成だ!」
出来上がったデッキを手に、二人で顔を見合わせる……って
「十代くん近いよ!!」
「え?」
見合わせた顔がものすごく近くにある。吸い込まれそうなくらいまっすぐに、十代くんの瞳が私の瞳を捉えている。
十代くんの顔、やっぱりかっこいいよね~
ポンっ、と音がしたかもしれない。体中の熱が顔に集まって頭の先から煙が出る。
耳! 耳まで真っ赤になってるよ~
自分の体温の感じから、そんなことを考えて、ようやく十代くんが後ろに引いてくれた。
「びっくりしたよ~」
体の熱さに気を取られていたけど、胸のドキドキがおさまらない。心臓が、空気を伝って十代くんまで届いてしまいそうなくらい大きく鳴動している。
でも、すっごく幸せだ
私は思わずはにかんだ。
「それじゃあ、翔くん、隼人くん、タッグデュエルの練習に協力してくれないかな~」
「いいよ」
「俺もいいぞ」
二人ともデュエルディスクを持って先に外へ出た。十代くんも自分のデュエルディスクを腕にセットした。
私は、十代くんの右手をつかんだ
一瞬、十代くんは驚いた。
「じゃあ、行こうよ~」
「ああ!!」
入学式の時とは逆に、私が手をつかんで引っ張っていく
暖かで、心地よい体温が、手から心臓へと駆けていった。
――side三沢大地――
「十代のエース、フレイム・ウイングマン。倒した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える危険なモンスターだ。これを警戒するにはフェザーマンかバーストレディのどちらかを押さえればいい」
学校のコンピュータールームで、今までの十代と橘のデュエルのビデオを見ながら対策を立てる。
「さらに、舞花のブラック・マジシャン。舞花のデッキならこのカードが要注意ね」
「明日香君か……」
キーボードを叩く手を一度止めて、後ろを振り向く。声から推察したとおり、天上院明日香がそこに立っていた。
「橘のブラック・マジシャン。今彼女のデュエルデータを見ていたが、驚異的だな」
もう一度キーボードに向き直って、橘のデュエルデータを呼び出し、その画面を見せつける。
「ほとんどのデュエルでブラック・マジシャンを呼び出すそのタクティクスも危険だが、もう一つ」
「一度ブラック・マジシャンを出したら、最後までフィールドに居続けている……」
「そのとおり」
橘はあくまでもブラック・マジシャンにこだわる。破壊されないように守り、破壊されてもフィールドへと舞い戻す。
「ブラック・マジシャンがフィールドを離れた最長時間は……神楽坂の時の1ターンか」
「少なくとも、往復1ターンは離れていないわね」
「恐ろしいな……」
まさに不動のエース。これを崩さない限り、橘に勝つのは困難だ。
「十代の方も、フレイム・ウイングマン、サンダージャイアント、あげていけばきりがないほどの融合モンスター。これらに個別に対策を取るのは容易じゃないな」
思考する。この2人への対策を。例えば……
「橘の方なら生贄召喚を封じるべきか。ジュニア・ブラック・マジシャンを生贄に捧げられなければ攻撃力は1000ポイントアップしないし、もう一つのエース、ブリザード・プリンセスを封じることもできる」
それならば生贄封じの仮面か? だがそれでは自分も上級モンスターの召喚ができなくなる。だがそこの兼ね合いをとっていけば……
「やめましょう」
明日香君がピシャリと言い放つ。その姿には、いいしれない威圧感が漂っている。
正直怖いんだが……
額から汗がたらりと流れた。
「やめる、とは……?」
明日香君は無言で俺の目の前のコンピューターを操作する。映るのは今俺が見ていた二人のデュエルしている映像。
「あなたはこの二人を見てどう思った?」
この二人を見て……?
「デッキの構築力、プレイング力、どれを見ても強い。だが、二人とも……」
言い切らずに口ごもる。明日香君の言いたいことが分かったからだ。そしてそれは、分析という尺では測ることのできない力のことだ。
「土壇場での引きがいい。天才ってのはこういう奴らのことをいうんだと思った」
土壇場でのドロー力。劣勢すら切り返す驚異の力。橘の方は少し弱いかもしれないが、二人に備わる力だ。
「そうよ。私たちはそんな相手に対してそんな戦略をとって勝てるのかしら?」
そんな戦略、つまりは対策をとりながら戦うということだろう。
「どういう意味かな?」
だからこそ、対策を立てて挑まなくてはいけないのではないか? 俺はそう思っていたからこそ首を傾げた。
「そんな相手なら、対策なんか立てたってどうせ打ち破ってくるわ」
「そんな……」
無茶苦茶だ。そう言いたかったけれど口をつぐんだ。
俺がどうかしていた
十代達ならそれくらいしてくる。それくらいのことができる。それが今研究していたあの二人じゃないか。
「だったら、私たちの勝ち目があるのなら、対策じゃなく、自分にできる最高のデュエルをすることじゃないかしら」
声は張り上がっていない。語調が強かったわけでもない。しかし、その言葉の強さが胸を貫いて心に届く。
それが、俺たちの勝ち目か……
「明日香君は、十代や橘に影響されてきてるんじゃないか?」
「それは嫌味かしら?」
「いや……」
首を振る。ああ、こんなにワクワクするのは久しぶりかもしれない。
対策をするわけでなく、自分の全力のデュエルで打ち破る。考えただけで気持ちが高ぶる。
「俺もそうだ」
計算や確率を打ち破る相手に、計算や確率で勝ってみせよう。
俺自身の、全力のデュエルで
作った拳を、ポケットの中で握り締めた。
――当日――
――side舞花――
「十代くん~」
今日は代表決定タッグデュエルの日だ。朝一番に、私は十代くんたちの部屋を訪れた。
「あ、アニキならまだ寝てるよ」
すでに起きていた翔くんがベッドの中を指さした。その場所を覗き込んでみると、すやすやと寝息を立てて眠っている十代くんが見える。
ぐっすり寝てるね~
そのまま十代くんの寝顔をまじまじと眺める。いつもの元気な顔じゃなくて、静かに、幸せそうに寝てる十代くんの顔が、なんだかすごく可愛らしい。
ずっと眺めていたいな~
「起こさなくていいの?」
「わわっ!」
後ろから話しかけてくる翔くんの声に驚いてしまった。そうだった、翔くんも居たんだった。
「そうだった。えっと、十代くん起きて~」
慌てて十代くんの体を揺さぶる。数回、寝ぼけた声を聞いたあと、十代くんは目を覚ました。
「よーっし! デュエルだデュエルだ!」
起きたばっかりなのに、すごく……ハイテンションです。
「それじゃあ、ご飯食べたら行きましょう~」
「よしっ、行くぞ!!」
もうすでにオシリスレッドの朝食は用意済みだ。それを聞くと、十代くんはすぐさま食堂に走っていった。
「それデーハ、これよりノース校との対抗デュエル代表決定デュエルを開催するノーネ!!」
いつものデュエル場。クロノス先生が何だか複雑そうな表情をしながらデュエルの前口上を述べていく。
何か嫌なことでもあったのかな~?
のんびりとそんなよそ見な思考をしていると、それを一蹴するかのような威圧感が胸を貫く。
それを感じた方向にいるのは、これから対戦するタッグの二人だ。
「負けないぜ」
「負けないわよ」
三沢くんは十代くんに、明日香ちゃんは私に向かってたった一言だけ投げかけた。威圧に飲まれかけている私は一瞬、口が固まる。
「こっちだって負けないぜ!」
それを払拭する十代くんの輝き。それに触れることのできた私は、喉にかかっていた言葉を引き上げた。
「楽しくデュエルしようねっ!」
全員が一度顔を見合わせてコクンと頷く。それと同時だった。
「それデーハ、代表候補者の入場ナノーネ!」
一斉に歩き出す。みんなはもう顔を向け合うことなく、ただデュエルフィールドを見つめていた。
みんなが配置につく。シャッフルを終えたデッキをディスクへと差し込み、腕を掲げて起動させる。
示し合わせたわけでなく、その動作は皆同時だった。
「準備はよろしいデスーカ? それでは、デュエル開始ナノーネ!!」
「「「「デュエル」」」」
クロノス先生の宣言でデュエルが開始した。
デュエルディスクが知らせた1番手は……私。
「私のターン、ドロー!」
1ターン目は誰も攻撃することができない。けど用心はするべきだよね。
「白魔導士ピケルを守備表示で召喚! ターンエンド」
小さくて白くて可愛らしい、ものすごく可愛い魔法使いの少女が姿を表す。あたふたしながらも杖を構えてポージングを決めた。
やっぱりかわいいよ~
白魔導士ピケル
DEF0
タッグデュエルのルールでは、パートナーとターンが続くことは無く、自分のタッグのどちらかのターンが終わったら、相手のタッグのどちらかのターンとなる。
だから、次のターンは十代くんではない。次のターンを表示されたのは……明日香ちゃんだ。
「私のターン、ドロー! サイバー・ジムナティクスを守備表示で召喚! カードを1枚伏せてターンエンド」
サイバー・ジムナティクス
DEF1800
危ないところだったよ~……
冷や汗がたらりと額を流れる。
サイバー・ジムナティクスは手札を1枚捨てることで攻撃表示のモンスターを1体破壊する効果を持っている。もしピケルを攻撃表示で出していたらやられてたかもしれない。
ほっと、一度安堵の息をついたところで次は十代くんのターンだ。
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、白魔導士ピケルの効果発動! スタンバイフェイズに、自分の場にいるモンスター1体につき、ライフポイントを400ポイント回復するよ。 ホーリー・サンクチュアリ!!」
舞花&十代
LP8000→8400
このデュエルでは、味方のフィールドも自分のフィールドとして扱う。十代くんのバブルマンなんかは、私のフィールドが効果の発動を邪魔してしまうかもしれないけど、私のピケルはその効果を大きく活用することができる。
「E・HERO スパークマンを守備表示で召喚! カードを2枚伏せてターンエンドだ」
E・HERO スパークマン
DEF1400
十代くんは定番となりつつあるスパークマンを召喚。ただ、ジムナティクスの効果を警戒しての守備表示。
どうしようとも、まだこのターンじゃ動けないもんね~
最後となる三沢くんのターンが始まる。
「俺のターン、ドロー。カーボネドンを守備表示で召喚。カードを2枚伏せてターンエンド」
カーボネドン
DEF600
みんな守備表示。さらに伏せカード。攻撃できない1ターン目はみんなして防御を固めてきた。
「私のターン、ドロー!」
でもここからは攻撃ができるようになる。本当の開始はここからだよ!
「スタンバイフェイズに、ピケルの効果を発動! ホーリー・サンクチュアリ」
ピケルの癒しの白魔法。私の体中を包み、淡く照らす。
舞花&十代
LP8400→9200
「そして、マジシャンズ・ヴァルキリアを召喚!」
十代くんのスパークマンのように、もはや定番となりつつある私のモンスター。
魔法使いの少女は臨戦態勢で杖を構えた。
マジシャンズ・ヴァルキリア
ATK1600
「装備魔法、王女の試練を発動するよ。ピケルの攻撃力を800ポイントアップ!」
白魔導士ピケル
ATK1200→2000
これでピケルの攻撃力はサイバー・ジムナティクスの守備力を超えた。さらに私はピケルを攻撃表示へと変更する。
さあ、いっくよ~
「バトルフェイズ! ピケルでサイバー・ジムナティクスを攻撃! ホーリーマジック!!」
ぴょこん、と擬音がつくようにピケルは跳ね、杖を構える。杖の先に白い魔力が溜まったかと思うと、レーザー丈になってサイバー・ジムナティクスを襲う。
パァンという音と共に、モンスターが光となって四散した。
「くっ」
「まだ攻撃は残ってるよ! マジシャンズ・ヴァルキリアで明日香ちゃんにダイレクトアタック!!」
マジシャンズ・ヴァルキリアが明日香ちゃんに杖の先を向ける。そのタイミングで、
明日香ちゃんが動いた。
「リバースカードオープン……」
絵柄に書かれているのは……今私の場にいるモンスター。
「ライバル登場!!」
私が前のデュエルで使ったカードだった。
「そのカードは……」
「前のデュエルであなたが使ったカードよ」
あの時、私がブラック・マジシャンを出すのに使ったカード。でも、何で明日香ちゃんが?
首を傾げる。明日香ちゃんはそんな私を鋭い目付きで見つめた。
「このカードをあなたが使ったとき、私はとても嬉しかったわ」
嬉しかった……?
私にはその意味がわからないと悟ったか、明日香ちゃんは続けて言葉を紡ぐ。
「私はアカデミアの女王と呼ばれていた。そのせいで、みんなからは羨望の眼差しでしか見られたことなんてなかったわ」
そうだ。いつもみんなは明日香ちゃんを尊敬していた。友達であるはずのジュンコちゃんやももえちゃんですらも、明日香ちゃんに対しては尊敬の眼差しを向けている時がある。
「だから、私は求めていたの。私が全力で戦えるような
孤高だった、明日香ちゃんは女子生徒の中では圧倒的に強かったから。そしてこの学校には、花嫁修業のような感覚で通ってる子もいるから、本気で強くなろうとする人が少ないんだ。
かと言って男の子じゃダメなんだ。同性の、まさにライバルという人間が、今まで居なかったんだ。
「あなたがこのカードを使ってくれたとき、私の願いが通じたようで嬉しかったわ。初めて会った時から、あなたは私のライバルになれる人間だと思っていたのだから」
私はあの時無意識に使っていたようで、同じことを思っていたのかもしれない。
明日香ちゃんは私の力を認めてくれていた。そして私も、最初からきっと良い
「その
エトワールサイバー
DEF1600
手を抜かない。その言葉の通りなのだろう。明日香ちゃんの切り札を呼ぶ1枚、エトワールサイバーが私のマジシャンズ・ヴァルキリアの攻撃を阻む。
「攻撃変更するよ。ヴァルキリアでカーボネドンを攻撃!!」
攻撃の方向が変わり、明日香ちゃんから三沢くんの場へと杖の向きが変わる。
フィールドを爆煙が包み、ヴァルキリアの攻撃はカーボネドンを粉砕する。
「私も……全力だよ」
攻撃の方向が三沢くんに行ってしまった。でも、私は逃げるわけじゃない。
「わかってるわ」
コクン、と明日香ちゃんは頷く。だって、これはタッグデュエルなのだから。目の前の
さりげなく、カーボネドンが破壊されたタイミングで、三沢くんは魂の綱を発動していた。その効果によってハイドロゲドンが三沢くんの目の前に特殊召喚される。
明日香&三沢
LP8000→7000
「ターンエンドだよ」
すう、と息を飲む。次の明日香ちゃんの一手が手に取るようにわかる。でも、今の私にはそれを防ぐ手段は無い。
「私のターン、ドロー!」
明日香ちゃんも、読まれているのは承知のようで、迷うことなく手札のカードに手をかけた。
「魔法カード、融合を発動!! 手札のブレード・スケーターとエトワールサイバーを融合! サイバー・ブレイダーを召喚!!」
前に戦った明日香ちゃんのエースカード。サイバー・ブレイダーがあっというまに召喚された。
サイバー・ブレイダー
ATK2100
今、私たちのフィールドのモンスターは、ピケル、ヴァルキリア、スパークマンの3体。よって私と十代くんは全ての効果を使うことができなくなってる。
「バトルよ! サイバー・ブレイダーで、マジシャンズ・ヴァルキリアを攻撃!! グリッサード・スラッシュ!!」
息をつく間もなく、ヴァルキリアはサイバー・ブレイダーのスケートの刃に両断される。2100-1600、500のダメージが私を襲う。
舞花&十代
LP9200→8700
「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」
宣言通り、いや、宣言なんてしなくても、明日香ちゃんは本気だ。
そして、もちろん私も、十代くんも、三沢くんだって本気のはず。
この燃え上がるように熱いデュエル。楽しくって仕方がないよ!
「行くぜ! 俺のターン、ドロー!」
「ピケルの効果発動! ホーリー・サンクチュアリ!」
舞花&十代
LP8700→9500
ピケルの効果でライフポイントは初期値よりも高い。でも、このデュエル、気を抜いたらきっとあっという間にやられちゃう。
「今度は俺の番だ! 融合を発動。場のスパークマンと手札のネクロダークマンを融合! 来い! E・HERO ダーク・ブライトマン!!」
十代くんの使った中で、まだ見たことが無いHERO。スパークマンとネクロダークマンの特徴を二つとも持っているようなHEROがフィールドへと現れた。
E・HERO ダーク・ブライトマン
ATK2000
「ダーク・ブライトマンで、ハイドロゲドンを攻撃! ダーク・フラッシュ!!」
ダーク・ブライトマンは両の手から黒い光を発生させる。スパークマンのスパークフラッシュのようにその光を相手モンスターに飛ばしていった。
「しまった……」
三沢&明日香
LP7000→6600
ハイドロゲドンが破壊されると、三沢くんは悔しそうに呟く。あのモンスターは、何か切り札を呼ぶためのモンスターだったのかもしれない。もしそうなら、今倒せたのは良かった。
「攻撃後、ダーク・ブライトマンは守備表示になる。ターンエンドだ」
E・HERO ダーク・ブライトマン
ATK2000→DEF1000
三沢くんのフィールドからはモンスターが居なくなった。けど、次は三沢くんのターンだ。入学試験トップの三沢くんが、1ターンでどんな行動をしてくるか分からない。
ちらり、と十代くんの顔を見た。
このデュエルが決まったとき、ライバル心をむき出しにして十代くんに宣戦布告した三沢くん。その三沢くんが、このターンどんな行動をとって自分を攻撃してくるのか。十代くんは気になって仕方がなくて、そしていつもの、とってもワクワクしている顔だ。
楽しいよねっ
心の中で呟いたのと同時に、十代くんはコクン、と頷いて笑った。
「俺のターン、ドロー。魔法カード、強欲な壺を発動。デッキからカードを2枚ドローする。さらに魔法カード、化石調査を発動。このカードは、デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加えることができる。その効果で、デッキからオキシゲドンを手札に加える」
強欲な壺の手札補充、さらに化石調査でのサーチ。三沢くんの手札が一気に濃くなる。
「十代、橘、俺はお前たちのようにカードのドローが良いわけではない。だが、俺はカードを駆使することで、その差を埋めてみせる!」
顔つきが険しくなる。三沢くんもこのターンで切り札を出してくるつもりだ!
「行くぞ! 手札に加えたオキシゲドンを召喚! さらに手札から装備魔法、早すぎた埋葬を発動! 800ポイントライフを支払い、墓地のモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。俺は墓地のハイドロゲドンを特殊召喚!」
三沢くんのフィールドに2体のモンスターが並ぶ。水素と酸素をまとった2体の恐竜がこちらを睨む。
三沢&明日香
LP6600→5800
ハイドロゲドン
ATK1600
オキシゲドン
ATK1800
「ハイドロゲドンで、ピケルを攻撃! ハイドロ・ブレス!!」
ハイドロゲドンの口から吐かれた水素の
「ピケルの方が攻撃力は上だよ~?」
そんなことは百も承知。そう言わんばかりに三沢くんは手札のカードに手をかけた。
「分かってるさ。速攻魔法、エネミーコントローラーを発動! モンスター1体の表示形式を変更する! ピケルを守備表示に変更」
空中に浮かび上がったコントローラーに、何かコマンドが入力される。ピケルに何かの強制力が働き、杖を構えた臨戦態勢から、膝をついて守りを固める守備体制へとむりやり変えられてしまった。
白魔導士ピケル
ATK2000→DEF0
「そんなっ!」
無防備と言っていいピケルの守備力。もちろん耐えられるわけもなく、水素のブレスに屈し、破壊されてしまった。
ピケル~……
「ハイドロゲドンの効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊したとき、デッキからハイドロゲドンを特殊召喚することができる!」
フィールドにもう1体ハイドロゲドンが増える。
そんな、これじゃあ破壊されればされるほど戦力が増えちゃうよ~
「2体目のハイドロゲドンで、ダーク・ブライトマンを攻撃!」
続いて放たれるブレス。効果によって守備体制をとっていたダーク・ブライトマンの低い守備力を襲う。
「罠発動! 異次元トンネル―ミラーゲート―! このカードは、E・HEROと名のつくモンスターが戦闘する時、相手モンスターと、自分のモンスターを入れ替えて戦闘を行う」
これでハイドロゲドンは十代くんのフィールドに移り、戦闘破壊しても効果を発動できない。ナイスプレイだよっ、十代くんっ!
「甘いぞ十代! リバースカードオープン、暴君の威圧!」
「何っ!?」
フィールドにいたはずの、攻撃を終えたハイドロゲドンが生贄の光になってフィールドから消えていく。
「暴君の威圧は、自分フィールド上のモンスターを1体生贄に捧げて発動する。このカードが存在する限り、俺のフィールドのモンスターは、罠の効果を受け付けない!!」
「じゃあ、ミラーゲートは……」
「不発だ!!」
ミラーゲートが入れ替えるはずだったバトルが、入れ替わることなく戦闘が継続する。ダーク・ブライトマンはブレスに飲み込まれて破壊されてしまった。
「だが、戦闘で破壊されたダーク・ブライトマンの効果を発動! 相手モンスター1体を破壊するぜ! サイバー・ブレイダーを破壊だ!!」
ダーク・ブライトマンの最後の力がサイバー・ブレイダーを襲う。明日香ちゃんは一度舌打ちをして、一枚のカードを発動させた。
「ただではやられないわ! 速攻魔法、融合解除を発動! サイバー・ブレイダーの融合を解除」
ダーク・ブライトマンの最後の効果が当たる前に、明日香ちゃんのフィールドが光る。サイバー・ブレイダーが二つに分かれ、融合前の二体に戻った。
エトワール・サイバー
ATK1200
ブレード・スケーター
ATK1400
「三沢くん?」
明日香ちゃんが少し……少しだよね? 怒った顔で三沢くんを睨む。三沢くんはひきつりながら後ずさった。
「あ、ああすまない。……ハイドロゲドンの効果発動! もう1体ハイドロゲドンを特殊召喚! そして、最後のハイドロゲドンとオキシゲドンで、十代をダイレクトアタック!!」
もう私たちのフィールドはがら空きになってしまっている。守る手段もなく、オキシゲドンの酸素のブレスと、ハイドロゲドンの水素のブレスの二つを受けてしまった。
「十代くんっ!!」
「大丈夫だ、舞花」
ニカッと笑って十代くんは楽しそうな笑顔を見せた。そうだよね、それでこそ十代くんだよ。
十代&舞花
LP9500→7700→6100
大きなダメージを受けてしまった。ピケルの効果で割らなかった初期ライフ値をとうとう下回ってしまう。
「十代! まだここからだ!!」
三沢くんが叫ぶ。その顔はあの時、宣戦布告したときと同じ顔。十代くんを打ち破ると、自信満々に言っていたあの時の顔だ。
「手札から魔法カード、ボンディングH2Oを発動! 場のハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体、つまり、酸素2と水素1を化合し、水を生成する! ウォータードラゴンを特殊召喚!!」
現れたのは水の龍。ハイドロゲドンの水素とオキシゲドンの酸素が化合した姿。
ウォータードラゴン
ATK2800
「そしてこの瞬間、墓地のカーボネドンの上に10枚のカードが積み重ねられた。カーボネドンは瞬間的に巨大な圧力をかけられて、ダイヤモンドを生成する。モンスター効果発動! このカードを除外することで、ダイヤモンド・ドラゴンを特殊召喚する!!」
ダイヤモンド・ドラゴン
ATK2100
「綺麗……」
思わずそう言ってしまった。それほどまでに綺麗に白く輝くダイヤモンドの光。ダイヤモンド・ドラゴンが大きな鳴き声を発してその存在感を周囲に知らしめた。
「最上級モンスターが2体も……」
しかもこっちのフィールドは0。この状況は、まさに絶体絶命だ。
「十代! 1番は返上してもらうぞ!!」
三沢くんがまっすぐに十代くんを指さした。
フィールドの2体の龍の圧力は、その言葉を具現しているかのようだった。
今回の未OCG化カード
カーボネドン
星1 光属性 ドラゴン族 ATK100 DEF600
墓地にあるこのカードの上に10枚のカードが置かれた場合、墓地のこのカードをゲームから除外して、「ダイヤモンド・ドラゴン」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
あ、OCG的にはダメージステップに融合解除は発動できませんが、アニメ的なルールなので細かくはつっこまないでください。……って言うと便利な言い訳に聞こえますね(^-^;)
作者的には分かってやってるのでルールミスでは無いです。