遊戯王GX 魔法使いの少女   作:時任 嵐

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13-turn 絶体絶命!? 奇跡を起こす軌跡

「十代! 1番は返上してもらうぞ!!」

 

 背に2体の最上級ドラゴンを従えた三沢くん。2体の龍が放つ圧力は、私たちを畏怖させようとしている。

 

 

 《フィールド》

 舞花&十代 

 モンスター無し 伏せカード無し

 

 三沢&明日香 

 エトワール・サイバー ブレード・スケーター ダイヤモンド・ドラゴン ウォータードラゴン 罠カード 暴君の威圧 伏せカード1枚

 

 

 舞花&十代

 LP6100

 

 三沢&明日香

 LP5800

 

 

 ライフポイントでは勝ってるけど、フィールドの差は圧倒的だ。私と十代くんのフィールドには、すでにカードが何もない。

 なんとか次の私のターンで、少しでも盛り返さないと。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 ようやく三沢くんのターンが終わる。この1ターンで出された2体の最上級ドラゴン。入学試験1位の面目躍如を果たしてきた。

 

 でも、私も十代くんもそんなに簡単に勝てるなんて思ってない。ここから盛り返していくよ!!

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ダメだ、手札が悪い。でも、今引いたこのカードを使えば……

 

「魔法カード、トレード・インを発動! 手札のレベル8のモンスターを墓地に送ってカードを2枚ドローするよ。手札のブリザード・プリンセスを墓地に送ってドロー!!」

 

 引いたカードを見てみる。1枚はタッグデュエル用に入れてみたカードの1枚。そしてもう1枚は……

 

 来てくれたね。『ブラック・マジシャン』

 

 引いたカード、残りの手札、使うことのできるあらゆる場所のカードを頭のなかで整理して考える。

 

 このカードを組み合わせれば……

 

 頭の中で一つの筋道が浮かぶ。それは私の手札に眠る、大好きなカードを呼び出すための道。

 

 よしっ、いけるよ~

 

「ジュニア・ブラック・マジシャンを守備表示で召喚! カードを2枚伏せてターンエンドだよ」

 

 

 ジュニア・ブラック・マジシャン

 DEF1000

 

 

 おなじみの私の可愛い相棒。ジュニアはフィールドで膝をおって両手を組む。

 

 あっさりターンを終えた私を明日香ちゃんは訝しげに見つめる。私の伏せカードを警戒しているようだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 明日香ちゃんの視線の先にあるのは、ジュニアだ。私の切り札を呼ぶための、私の相棒と呼べるモンスター。明日香ちゃんは、今私がどうやってブラック・マジシャンを出す気なのか考えているはずだ。

 

「(今までの舞花を考えれば……血の代償? その可能性はあるわね。でも、逆にそれ以外なら、舞花はブラック・マジシャンを召喚するために次の自分のターンを待たなければいけない。2枚の伏せカードは2ターンを耐えるためのものかもしれないわ)」

 

 数秒、動きが止まったかと思うと、明日香ちゃんの眼がキッと鋭くなる。攻撃する意思をこちらに向けた。

 

「あなたに対して、躊躇したってしょうがないわ。バトルよ! ブレード・スケーターで、ジュニア・ブラック・マジシャンを攻撃!!」

 

 フィールドに残っている2体のサイバー・ブレイダーの融合素材。その一方のブレード・スケーターがジュニアに向かって来る。

 

「リバースカードオープン! 罠カード、ラスト・エントラスト!!」

 

 直後、ブレード・スケーターの動きが止まり、ススと明日香ちゃんの下へと戻っていく。

 

「ラスト・エントラストは、このターンのバトルフェイズを終了させるよ」

 

 ただそれだけのシンプルな効果。でも、攻撃の無力化と違ってタイミングを選ばない。そしてその分だけデメリットが存在してしまうカード。

 

「そしてラスト・エントラストの効果で、私は相手プレイヤーに手札を1枚渡すよ」

 

 トトっと走って十代くんの下まで行く。

 

 カードを渡すのは相手プレイヤーだ。でも、迷宮兄弟さんたちがやっていたように、相手プレイヤーを対象に取る効果はパートナーに使うこともできるのがこのタッグデュエルのルール。だから、私は十代くんにこのカードを託す。

 

「十代くん……」

 

 私が十代くんに差し出したカードを十代くんは見つめる。驚きの表情が一瞬だけ浮かび上がった。

 

「舞花、このカードは……」

 

「お願い、だよ」

 

 その一言だけ告げて、私は自分の立ち位置まで戻っていった。

 

「でも、あなたは三沢くんのターンを耐えなければブラック・マジシャンを召喚できない! 私はこれでターンエンドよ」

 

 タッグデュエルの回り方なら、確かに私は三沢くんのターンを超えなければ『私の手札から』ブラック・マジシャンを召喚できない。

 

 でもっ!!

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 ここで始まる十代くんのターン。十代くんは一瞬だけ私の顔を見つめた。

 

 お願い、だよ

 

 コクン、と頷いた私に対して、いつものように十代くんはニカッと笑ってくれた。

 

「行くぜ!」

 

 十代くんが手札のカードに手をかけるのと同時に、私のフィールドのジュニアが飛び上がる。

 その体は光となって、十代くんの手のカードへと吸い込まれていく。

 

「そんな……まさかっ!?」

 

 忘れてはいけない。タッグデュエルのルールには、パートナーのモンスターを生贄に捧げる事ができるということを!

 

「ジュニア・ブラック・マジシャンを生贄に……」

 

 今、私はあなたのマスターになれないけれど、でも、あなたは私と……私たちと一緒に戦うんだ!

 

「最後まで……私たちと共にっ!」

 

「ブラック・マジシャンを召喚!!」

 

 私の場のジュニアを生贄に捧げられて召喚された、私のフェイバリットカード。ブラック・マジシャンは私ではなく十代くんのフィールドへ召喚された。

 

 

 ブラック・マジシャン

 ATK2500

 

 

「ジュニアを生贄に捧げて召喚したブラック・マジシャンは、攻撃力が1000ポイントアップするぜ!」

 

 

 ブラック・マジシャン

 ATK2500→3500

 

 

 これでブラック・マジシャンの攻撃力はフィールドの全てのモンスターを上回った。ようやく攻撃に入ることが出来そうだよ。

 

 十代くんも同じことを考えていたのか、すぐさまバトルフェイズに入った。

 

「バトル! ブラック・マジシャンでウォータードラゴンを攻撃!!」

 

 十代くんが私に目で合図を送ってきた。

 

 うんっ!

 

「ブラック・マジック!!」

 

 私が技名を叫ぶと、ブラック・マジシャンが呼応し魔力を生成する。黒い、巨大な黒魔法がウォータードラゴンに向かって一直線に向かっていった。

 

 と、同時だった。

 

「この時を待っていた! リバースカードオープン!」

 

 三沢くんが伏せていたカードを開く。それと同時にブラック・マジシャンの体が炎に包まれていく。

 

 

 ブラック・マジシャン

 ATK3500→0

 

 

「そんなっ! なんで……」

 

 突然にブラック・マジシャンの攻撃力が0になる。放たれていた黒い魔法はウォータードラゴンに弾き飛ばされた。

 

「DNA移植手術の効果により、俺はフィールド上のモンスターの属性をすべて炎属性に変更した」

 

 三沢くんの伏せカード、それはDNA移植手術だった。でも属性を変えるだけのカードでどうしてブラック・マジシャンが……

 

「そしてウォータードラゴンの効果により、フィールド上に存在する全ての炎族、炎属性モンスターの攻撃力は0になる」

 

「バカな! DNA移植手術の効果は自分のフィールドにも影響するはずだろ!? どうしてそっちのモンスターは攻撃力が0にならないんだ?」

 

 十代くんの指摘。それを聞いて私は背筋が凍るような寒気を感じた。この事態は初めから計算されていたのだという事実に気づいてしまったんだ。

 

「暴君の威圧だよね……?」

 

「そうだ! 暴君の威圧によって俺たちのフィールドのモンスターは罠の効果を受け付けない。よってDNA移植手術の効果は受けない!」

 

 それによって三沢くんたちのフィールドのモンスターは攻撃力を保っているということなんだね。

 

 私たちが戦ってる相手の強さを改めてすごいと感じる。こんな風に、計算し尽くしたプレイングをやってのけるのだから。

 

「すごい……」

「すっげえな……」

 

 思わず感嘆の声が漏れる。私と十代くんは同時に呟きが漏れていた。一瞬顔を見合わすると、私たちの心が一緒だということはひと目でわかった。

 

「すっげえぜ! 三沢!!」

 

「本当にすごいよ~!!」

 

 楽しい!

 

 心臓がドキドキする。それは十代くんに向けるものとはまた別のドキドキ。

 体の底から熱が湧き上がってくる。足の先から、頭のてっぺんまで覆い尽くすと、そこにあるのは高揚感。

 

 決闘におけるピンチは、むしろすっごく楽しい。

 相手が強くて、すっごいコンボを決めてきたときは本当に楽しい。

 

 それを打ち破るために、全力をつくして戦えるのだから

 

「褒めてくれるのは嬉しいが、ウォータードラゴンの反撃を忘れてはいないか?」

 

「「あ……」」

 

 そうだ、攻撃を仕掛けた私たちだったけど、攻撃力が0になっただけでまだ戦闘は継続しているんだった。

 

 ウォータードラゴンが水の息吹(ブレス)をブラック・マジシャンに向かって放っていた。

 

「罠発動! ブラック・イリュージョン!!」

 

 息吹はブラック・マジシャンの体をすり抜ける。

 

 間一髪、間に合った~……

 

「ブラック・イリュージョンの効果で、このターンブラック・マジシャンは戦闘とあらゆる効果では破壊されなくなるよ!」

 

「だが戦闘ダメージは受けてもらう!!」

 

 ウォータードラゴンの息吹(ブレス)はブラック・マジシャンをすり抜けたまま、十代くんへと直撃した。

 

「っつー……」

 

 

 舞花&十代

 LP6100→3300

 

 

「十代くん、平気?」

 

「ああ、へっちゃらだぜ!」

 

 問題ないと体を動かす十代くん。

 このターンの攻防でライフをまた大きく削られてしまった。

 

「ブラック・イリュージョンの効果で、相手プレイヤーは1枚ドローできる。十代くんに1枚ドローしてもらうよ」

 

 このルールだとブラック・イリュージョンは完全にメリットカードだ。

 

「ドロー!」

 

 十代くんの手札に、どうか逆転の一手が入ってくれますように……

 

 私のフィールドにはもう伏せカードは無い。それどころかモンスターすらいない。十代くんのこのドロー次第で、どうにかしないといけないんだ。

 

「よし! フィールド魔法、フュージョンゲートを発動!」

 

 十代くんが引いたカードを表にする。フィールド魔法の発動によって、あたりの風景がガラリと変わる。少しくらい、渦を巻いたようなものが見える場所が映し出された。

 

「フュージョンゲートの効果により、融合なしで融合召喚を行うことができる! 俺は手札のバブルマンとクレイマンを融合! 現れろ! E・HERO マッドボールマン!!」

 

 十代くんの手札から2体のモンスターが渦の中へと吸い込まれる。2体のモンスターが混ざり合ったと思うと、その中から大きなボールのようになったHEROが姿を表した。

 

 

 E・HERO マッドボールマン

 DEF3000

 

 

 攻撃系のモンスターじゃ攻撃力が0になってしまう。だから守備系のモンスターを出したんだ。マッドボールマンの守備力ならどのモンスターでも突破できない。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 十代くんのターンが終わる。次にターンが回ってくるのは、現状、最も強いモンスターを従えている

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 三沢くんだ。

 

 三沢くんは引いたカードを見た瞬間、にやりと笑いを浮かべた。

 

「魔法カード、撲滅の使徒を発動! このカードの効果により、伏せカード1枚を破壊する!」

 

 直前に十代くんが出したカードに向かって使徒が剣を振るう。

 

「チェーンだ! 罠カード発動!」

 

 十代くんが開いたカード、それは……

 

 

 ――このカード、俺も使って助け合おうぜ!――

 

 

 私がタッグデュエルに使えると思ってピックアップしたカードの中で、唯一二人ともデッキに入れたカードだった。

 

「強欲な贈り物!」

 

「何っ!?」

 

 強欲な贈り物は、相手プレイヤーに2枚カードをドローさせるだけのシンプルなカード。本来ならデメリットしかないはずのカードだけど、このタッグデュエルでは違う。

 

「舞花が2枚ドローするぜ!」

 

 シンプルが故に、デッキを選ぶ必要が無かった。強欲な贈り物の効果で2枚ドローする。

 

「ドロー!!」

 

「だが、これでお前たちの身を守るものは無い!! バトルだ! ウォータードラゴンで、ブラック・マジシャンを攻撃! ウォーターブレス!!」

 

 三沢くんの言うように、もう私たちの場には伏せカードは無い。純粋なモンスター勝負をしなければならなくなってしまった。

 

 でも、ブラック・マジシャンの攻撃力は……0

 

「ブラック・マジシャンっ!!」

 

 ウォータードラゴンのブレスに飲み込まれ、ブラック・マジシャンは破壊されてしまった。

 

 

 舞花&十代

 LP3300→500

 

 

「ああ~……」

 

「これで終わりだ! ダイヤモンド・ドラゴンで、橘にダイレクトアタック! ダイヤモンド・ブレス!!」

 

 フィールドに何も無い私に、ダイヤモンド・ドラゴンの攻撃が来る。

 

 私にも、十代くんにも、もう伏せカードが無い……

 

「俺たちの、勝ちだ!!」

 

 負けるの……?

 

 もう、だめなの……?

 

 ダイヤモンド・ドラゴンの息吹(ブレス)が、当たった。

 

 ――ドォン!!

 

 煙が上がる。ソリッドビジョンによって作られたその煙がだんだんと晴れていく……

 

「な、なんだ!?」

 

 薄くなっていく煙に、私以外の影が映る。両手を広げた、人影。

 

「ブラック・マジシャン……」

 

 破壊されたはずのブラック・マジシャンの姿が、私の目の前にあった。

 

 両手を広げ、私を守るようにして、私の前に立ち塞がっていた。

 でもその姿は本体ではなく、半透明の姿。墓地から伸びている光とつながっていた。

 

「な、何故だ!?」

 

 何故? 私にも分からなかった。でも、私の手札のカードが1枚光っている。

 

 そっか、このカードが……

 

「自分フィールド上のモンスターが破壊されたとき、手札を1枚捨てることでこのカードは手札から発動することができるんだ」

 

 1枚手札からカードを墓地に送る。そして、そのカードをちゃんと表にした。

 

「『死者の加護』」

 

 死してなお、ブラック・マジシャンが私を守ってくれた。半透明となっているブラック・マジシャンは、目をつむって私にコクンと頷いた。

 

 ありがとう、ブラック・マジシャン

 

「死者の加護の効果で、バトルフェイズは終了だよ」

 

「くそっ! ターンエンドだ」

 

 首の皮1枚繋がった……っていう感じだ。本当にずっと追い込まれてしまっている。今凌いだだけで、こっちはまさに絶体絶命の状況が続いてしまっている。

 

「私のターン……」

 

 でも、戦うよ。

 

 だって私はデュエルが好きだから。

 

 勝とうって思いながら、勝つって考えないまま、私は最後まで全力で、自分の出来ることをするんだ。

 

 それが楽しむってことだから。

 

「ドロー!!」

 

 手札に舞い込んだカードは希望をつなぐカード。

 

「手札から魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のモンスターカード5枚をデッキに戻して、2枚ドローするよ!!」

 

 ピケル、ヴァルキリア、プリンセス、ジュニア、そしてブラック・マジシャンの5枚をデッキに戻してシャッフルする。

 

「2枚ドロー!!」

 

 その2枚のカードを見たとき、

 

 私は笑った。 

 

 そして、頭に浮かんでくる。それは奇跡(勝利)を起こす軌跡。

 

 さあ、行こう

 

「黒魔術のカーテンを発動! ライフポイントを半分にして、デッキからブラック・マジシャンを特殊召喚するよ!!」

 

 デッキで一時休憩していた私のブラック・マジシャン。まだ疲れは取れてないかもしれないけど、でも……

 

「最後まで……私と共にっ! 来て、ブラック・マジシャン!!」

 

 最後まで私と戦って!

 

 再びフィールドに舞い戻る漆黒の黒魔術師。あなたの役目は、この状況を打破すること。

 

 

 舞花&十代

 LP500→250

 

 

「だが、DNA移植手術の効果でブラック・マジシャンは炎属性になり、ウォータードラゴンの効果で、攻撃力が0になる!!」

 

 ブラック・マジシャンの体を炎が包む。そしてその周りを、ウォータードラゴンの水が包み、攻撃力を奪う。

 

 

 ブラック・マジシャン

 ATK2500→0

 

 

「行くよ! 『黒・魔・導(ブラック・マジック)』!!」

 

 手札から1枚のカードをデュエルディスクにセットすると、ブラック・マジシャンが飛び上がり、杖の先に黒の魔力を貯める。

 いつもと違ってその魔力は横長く、モンスターの後ろに向かって飛んでいった。

 

 ――ドォン!!

 

 煙が晴れると、三沢くんの場にあった2枚の罠カードが消えていた。

 

「しまった!」

 

 専用魔法カード『黒・魔・導(ブラック・マジック)』。このカードの効果は、相手フィールド上の魔法・罠カードをすべて破壊する。かつて猛威を奮い、禁止カードに制定された『ハーピィの羽箒』と同じ効果を持つ強力カードだ。

 

「これでブラック・マジシャンの攻撃力は元に戻るよ!」

 

 ブラック・マジシャンの体から炎が取れる。その下から本来の紫の衣装が現れた。

 

 

 ブラック・マジシャン

 ATK0→2500

 

 

「バトル! ブラック・マジシャンで、ブレード・スケーターを攻撃! ブラック・マジック!!」

 

 場には十代くんのフュージョンゲートがある。このままほっておいたらまたサイバー・ブレイダーを特殊召喚されてしまう。だから厄介な最上級モンスターを置いといても攻撃しなきゃ。

 

 ブラック・マジシャンの攻撃がブレード・スケーターを破壊した。

 

「くっ……」

 

 

 三沢&明日香

 LP5800→4700

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだよ」

 

 これが私のできる精一杯。勝てるかどうかは分からなくても、勝つためのことは全部やった。

 手札も0。もう、やれることは無い。

 

「私のターン、ドロー!!」

 

 明日香ちゃんの場にいるのはエトワール・サイバーのみ。サイバー・ブレイダーという切り札を呼ぶ手段を失っている今、明日香ちゃんは一体どう仕掛けてくるだろう?

 

「マンジュ・ゴッドを召喚!」

 

 明日香ちゃんが出した中で、初めてサイバーとつかないモンスターカード。その効果は有名だから私も知っている。

 

「マンジュ・ゴッドの効果発動! このカードが召喚に成功したとき、デッキから儀式魔法カードを1枚手札に加えるわ」

 

 明日香ちゃんは融合召喚をメインにしているプレイヤーだと思っていた。でも、ここにきて儀式召喚の必須サポートであるマンジュ・ゴッドのカード。いったいどういうこと?

 

「サイバー・ブレイダーはもう出せないわ。なら、私はもう一つの切り札を出す!」

 

 まだ見たことの無い、明日香ちゃんのもう一つの切り札。デッキから手札に加えたカードをそのまま表にした。

 

「機械天使の儀式を発動! フィールドのエトワール・サイバーとマンジュ・ゴッドを生贄に捧げるわ」

 

 儀式召喚は自分の場か手札から儀式召喚するモンスターとレベルの数が一致かそれ以上になるように生贄に捧げる召喚法。今の2体を生贄にしたということは、最高でレベル8。

 

「サイバーエンジェル―荼枳尼―を儀式召喚!!」

 

 初めて見るモンスター。機械で出来た天使がフィールドに表れる。

 

 

 サイバーエンジェル―荼枳尼―

 ATK2700

 

 

「サイバーエンジェル―荼枳尼―の効果発動! このカードの儀式召喚に成功したとき、相手プレイヤーは自分モンスター1体を選択して破壊する!」

 

「えっ!?」

 

「なにっ!?」

 

 自分モンスター1体。私たちの場にはお互いに1体ずつのモンスター。

 

 どっちを破壊すればいいんだろう?

 

 思考する。頭を回転させてどうすればいいのかを考えてみる。

 

 単純に考えるなら、次は十代くんのターンだから、十代くんのモンスターを残すべきだよね。

 

 でも……

 

 ブラック・マジシャンを見る。これはつまり、ブラック・マジシャンを自ら選択して破壊するということをしなければならないということだ。

 

 どうしよう……

 

 一瞬葛藤する。でも、結論なんてすぐに出る。

 

 これはデュエルなんだ

 

 だから、勝つための行動を取るべきなんだ。

 

「私は、ブラック・マジシャンを……」

 

 一瞬だった。ほんのちょっと残っていた迷いが、言葉を一度途切らせ、そして

 

「マッドボールマンを破壊だ!!」

 

「ええっ!?」

 

 その間に十代くんが自分のマッドボールマンを破壊した。

 

「じゅ、十代くん……?」

 

 私のブラック・マジシャンを、守ってくれた……?

 

 十代くんは振り向かない。そして、これで十代くんのフィールドはがら空きだ。

 

「バトルよ! 荼枳尼で、十代にダイレクトアタック!!」

 

 まずい! これが通ったら、私たちの負けだ!

 

 それに……

 

 自分の身を守るすべを捨ててまで、私のブラック・マジシャンを守ってくれた十代くんを、

 

 私の大切な人(パートナー)

 

 守らなきゃ!!

 

「墓地の埋没神の救済の効果発動! 墓地のこのカードを含む5枚のカードをゲームから除外することで、バトルフェイズを終了させるよ!!」

 

 珍しいタイプの、墓地でしか効果を発動することができないカード。その効果によってバトルを行おうとした荼枳尼を止め、バトルフェイズを終了させた。

 

「くっ! ターンエンドよ!」

 

 一度舌打ちを交えて、明日香ちゃんは悔しそうな表情を浮かべる。

 

 なんとか……助かった……

 

 安堵の息を漏らす。でも、これでもう本当に身を守るすべはなくなった。

 

 だから、十代くん、これがラストチャンスだよ

 

「俺のターン」

 

 力を込める。十代くんの最後のドロー。その姿はまっすぐで、堂々としていて

 

「ドロー!!」

 

 そして、輝いて見えた。

 

「舞花!」

 

 大きな声で私の名前を呼ぶ。まっすぐに、私の瞳を視線が貫く。

 それだけで、私は十代くんの言いたいことが理解できた気がした。

 

 ――いいよ、十代くんが守ってくれたんだから――

 

 私はコクン、と頷いた。

 

「魔法カード、ヒーローマスクを発動! デッキからE・HEROと名のつくモンスターを1体墓地に送ることで、自分のモンスター1体を、そのモンスターと同じ名前にすることができる! デッキからフェザーマンを墓地に送るぜ!」

 

 墓地にフェザーマンを送ると、ブラック・マジシャンの顔に、フェザーマンのお面が表れる。これでこのターン、ブラック・マジシャンはフェザーマンになった。

 

「フュージョンゲートの効果発動! 手札のバーストレディと、フェザーマンとなったブラック・マジシャンを融合!」

 

 フュージョンゲートの渦に、ブラック・マジシャンとバーストレディが吸い込まれていく。この2体による融合は、きっと私が1番よく見てきた十代くんの融合モンスター。

 

「来い! マイフェイバリットヒーロー、フレイム・ウイングマン!!」

 

 ああ、きっと十代くんはわかってるんだ。私が伏せているカードがなにかということを。

 

 私の伏せているカードが、奇跡(逆転)を起こすためのものだということを。

 

 

 E・HERO フレイム・ウイングマン

 ATK2100

 

 

「行くぜ! フレイム・ウイングマンで攻撃!」

 

「バカな! 攻撃力では、俺たちの場のモンスターには敵わない!」

 

 そして十代くんは手札も場の他のカードも0。ひとりじゃ勝てない。

 

 でも、ひとりじゃない!

 

「いや、これが俺たちの、奇跡を起こすカードだ!」

 

「行くよ! リバースカードオープン! 『奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)』!!」

 

 

 E・HERO フレイム・ウイングマン

 ATK2100→3100

 

 

 フレイム・ウイングマンの攻撃力が、奇跡によってアップする。

 

奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)の効果により、攻撃力を1000ポイントアップするよ」

 

「そして、このターン、フレイム・ウイングマンは2回攻撃することができる!!」

 

 フレイム・ウイングマンがウォータードラゴンの顔の高さまで飛び上がる。そして、ウォータードラゴンの頭に向かって、右腕の口からでる炎を吐き、ウォータードラゴンの体中を炎が包んだ。

 

「ウォータードラゴン!!」

 

 圧倒的な火力により、ウォータードラゴンの体が蒸発する。

 

 そして移動してもう1体、荼枳尼に向かっても炎で攻撃する。

 

「荼枳尼っ!!」

 

奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)の効果により、フレイム・ウイングマンは戦闘ダメージを与えられない。けど……」

 

 でも、二人の目の前にフレイム・ウイングマンが降り立った。

 

「フレイム・ウイングマンの効果により、攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!!」

 

 二人を大きな炎が包む。二人のLPに、今破壊した2体の攻撃力分、ダメージが襲った。

 

 

 三沢&明日香

 LP4700→1900→0

 

 

「決まったノーネ……。勝者ーハ、ドロップアウトボーイーと、シニョーラ橘のペアナノーネ……」

 

 なんかとてつもなくテンションの低いクロノス先生がデュエルの終了を告げる。それと同時に会場が沸きあがった。

 

 ――ワァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――side明日香――

 

 会場の沸き上がる歓声の中心、舞花と十代が笑顔でデュエルの勝利を喜んでいる。

 

 ……どうせ舞花が数十秒後に赤面するのは置いときましょう。

 

「負け……たわね……」

 

「ああ……」

 

 力の抜けた声で、隣にいる三沢君に話しかける。三沢君も同様で、力の抜けた声を返す。

 でも、これは落ち込んでいたり、負けが悔しかったりするわけじゃない。いや、負けは悔しいことは悔しいのだけれど。

 

 やりきった、ということなのかしら

 

 ほんの少し乾いた笑いで三沢君を見つめると、コクン、と三沢君は頷き返してくる。

 同じ感情が体中を巡っているのだろう。それは見て分かった。

 

「俺たちの敗因は……」

 

「コンビネーション……でしょうね」

 

 三沢君が言おうとしていたことを先回りして口に出すと、やはりか、という表情を返される。

 

「私たちは、あくまでも自分のデュエルに集中していたわ」

 

「その結果、俺たちはお互いを援護しあうというタッグデュエルの本質から外れてしまっていたわけか」

 

 私たちは舞花と十代と違って、個人プレイに専念しすぎていた。三沢君も私も切り札を出し、二人を追い詰めていった。

 でも、二人の力を合わせたプレイングを見せつけられ、結局最後は負けてしまったのだ。

 

「おーい、明日香! 三沢!」

 

 いつの間にか、十代と舞花がこっちに来ていた。

 

 予想通りというかなんというか、舞花は恥ずかしがってるわね

 

 でも、デュエル中は観客の視線なんて気にしてないわけだし、このデュエル中の集中力も舞花の強さのひとつなのかもしれないわね。

 

「ちょ、ちょっと十代くん~」

 

 何故か十代が舞花の腕を取っていた。

 

 ……なんとなくやろうとしていることがわかってしまった私は思わず苦笑してしまった。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 いつも、十代がデュエルの後にやるこのポーズ。タッグデュエルだったせいか、舞花の腕も巻き込んで。

 

「ほわあ!!」

 

 ……舞花がまた真っ赤になってるわけだけど。

 でも、とても嬉しそうで、幸せそうで、見てるこっちにまでその心音が聞こえてしまいそうなくらい何を思っているかがわかりやすい。

 

「十代」

 

 ちょっと空気になりかけていた三沢君が十代の前に手を伸ばしていた。

 

「舞花」

 

 それを見て……いや、それを見る前からもう、私も同じように舞花の前に手を伸ばしていた。

 

「今回は負けた……だが、次は負けない」

 

「これで1勝1敗よ。次で決着をつけましょう」

 

 二人は、私たちの言葉とともに手を受け取った。

 

「次だって負けないぜ!」

 

「私もっ! 負けないよ~」

 

 私の手を握った親友(ライバル)の手は、小さく、華奢で、

 

 暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルは人の心を映す。今回のデュエルで、私は舞花の心の中が少しだけ見えた気がした

 

 

 

 

 でも、垣間見えたその心の中は、私の想像以上に純粋で

 

 

 

 私の想像以上に縛られているようだった

 

 

 

 

 

 

 あなたがデュエルを楽しもうとするのは、そんなに躍起になってするものなの?

 

 

 

 

 

 あなたは一体、何にそれを強いられているの?

 

 

 

 

 

 そして、何よりも

 

 

 

 

 

 あなたにとって、十代は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きることそのものに必要なの?

 

 

 

 




今回の未OCG化カード
ラスト・エントラスト
通常罠
バトルフェイズ時のみ発動する事ができる。自分の手札1枚を相手に渡す。バトルフェイズを終了する。

ブラック・イリュージョン
通常罠
発動ターンのエンドフェイズまで、自分フィールドに表側表示で存在する「ブラック・マジシャン」1体は戦闘とカード効果では破壊できない。
このカードの発動後、相手はデッキからカードを1枚ドローする。

死者の加護
速攻魔法
自分フィールド上のモンスターが戦闘で破壊された時に発動する事ができる。
手札を1枚捨てる事でバトルフェイズを終了する。
このカードは相手ターンでも手札から発動する事ができる。

埋没神の救済
速攻魔法
自分の墓地に存在するこのカードを含む5枚のカードを選択してゲームから除外して発動する。
このターンのバトルフェイズを終了する。

機械天使の儀式
儀式魔法
「サイバー・エンジェル」と名のついたモンスターの降臨に使用する事ができる。
自分のフィールドまたは手札から儀式召喚するモンスターと同じレベルになるように
モンスターをリリースしなければならない。

サイバーエンジェル―荼枳尼―
儀式モンスター
星8 光属性 天使族 ATK2700 DEF2400
「機械天使の儀式」により降臨。
このカードが特殊召喚に成功した時、相手モンスター1体を相手が選択して破壊する。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
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