波
それは海の波ではなく、多過ぎる人の波。左右を見回しても周りの風景を見ることができず、視界を遮っていく人ごみ。
「おかあさぁん……」
その波の中でひとりの少女が泣いている。しかし、その泣き声は波を飛び越すことなく掻き消えていく。
少女はひとりだ。
周りにはこんなに人がいるのに。
少女はひとりだ。
だから少女は泣いている。ひとりでいることに耐えられぬのだから。
少女は歩いていく。
ひとりでいることを拒むために。
少女は歩いていく。
その波にさらわれぬように。
「ここ……どこぉ……?」
少女がたどり着いた場所は、見知らぬ風景。
右も知らない。左も知らない。
少女はどこにいるのか分からない。
わからない。
わからないことは、怖い。
少女は身震いした。
周りには人がいなかった。
さっきは、いても孤独だと思っていたのに、
居なくなった途端に、もっと恐ろしい恐怖が体を包んでいた。
怖い
怖い
怖い
怖い
少女はすぐさま、近くにあったお店に飛び込んでいった。
人がいて欲しかったから、
人を見たかったから
例え自分を見ていない人でも、自分が人を見たかったから
店に飛び込んだ瞬間に耳に飛び込んでくる喧騒が、少女の心を僅かに安堵させる。
少しだけ涙の引いた目に、辺の光景が飛び込んでくる。
「なんだろう……これ……?」
目に飛び込んできたのは、数多の絵柄の書かれた札。
四方に、埋め尽くすかのように、壁に掛けられて並んでいる。
「これ……かわいい」
絵柄には幾つもの種類があった。
かっこいいもの、かわいいもの、うつくしいもの、
逆に、かっこわるいもの、かわいくないもの、きしょくわるいものまで様々であった。
少女がいくつかの絵を見ていくと、その奥にある少し広いスペースに出た。
そこにはたくさんのテーブルが並んでいて、そこにはたくさんの人が座っていた。
「攻撃!!」
「発動!!」
入った時から聞こえていた喧騒はここからだったのかと少女は納得して人々を見た。
そして
少女の目が止まった
「っしゃあぁぁ!! 俺の勝ちぃ!」
その人の顔が特徴的な形をしていたわけではない
その人の声が大きかったわけではない
ただ
「楽しいデュエルだったな!」
その人の笑顔だけ、とても眩しく見えたのだ。