遊戯王GX 魔法使いの少女   作:時任 嵐

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14-turn 雷の心 逃亡からの逃亡

 辺り一面、広大な海しか見えない世界。

 辺には霧が立ち込めていて、足元に広がる海は光を反射することなく暗黒を広げている。

 そんな世界の中心にいるのは、俺のみ。

 

 波のザァーという音のみが耳を刺激し、他の音が無いことを強調させている。

 

「くそっ、カラか……」

 

 手に持ったペットボトルの中身は既に空気しか入っていなかった。

 

 俺は一体、何をやっているんだろうな……?

 

 一言で言えば、俺は漂流していた。アカデミアを離れるために乗った俺の船はエンジンのトラブルを起こし、身動きが取れなくなってしまったのだ。

 

 海を伝ってきた波風が、首筋をサラっとなぞると体が少し震えた。

 

 薄暗い空を見上げながら、自分のあまりの愚かさにもはや笑いが漏れていた。

 

「クロノス……、遊城十代……」

 

 つぶやいているのは、自分をこのような状況に追い込んでいった者たちの名前。恨めしいはずなのに何故か、憎悪という感情は湧いてこなかった。

 

「橘……舞花……」

 

 真っ直ぐに俺を心配する目を、俺は忘れることができないからか……

 

 

 

「くそっ!!」

 

 

 

 空に向かってカラになったペットボトルを放り投げる。払拭するように、足掻くように。

 

 それでも目に焼き付いた映像は消えることはなく、残り続けている。

 

 

 ――ザァー!!

 

 

「何っ!?」

 

 大きな音に目を向けると、自分の投げたペットボトルをさらって大波がこちらに近づいてきていた。

 

「う、うわああああ!!」

 

 抵抗することもできずに、俺はその大波に体をさらわれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。俺はどこかの島に流れ着いていた。

 辺り一面が白銀に彩られた世界。周りには氷山しか見えず、感じる空気は冷たい。

 よく凍死しなかったな、などと余計なことを考えることができる位には大丈夫なようだ。

 

「ここはどこだ?」

 

 その世界を見渡すと、島の中心方向と思われる方角に建物が見える。気持ちデュエルアカデミアの校舎に似てるかもしれないと考えながら、俺はその建物へと歩いた。

 

 建物の前まで行くと、大仰な門が行くてを阻んでいる。

 

「おい、開けろ!」

 

 ドンドンとその門を何回か叩くも、何も返事は無く、扉が開くことも無い。

 

「誰も居ないのか! おい!!」

 

「無駄だ」

 

 隣から声が聞こえた。妙に弱々しい声に振り向くと、そこには40は過ぎてるようなじじいが座り込んでいる。

 

「どういうことだ?」

 

「ここはデュエルアカデミアノース校。その門は40枚のカードがなければ開かない」

 

 デュエルアカデミアノース校。聞いたことがあるがこんなところにあったのか。

 

 だが、この門を開くための条件に、少しおかしいと首を傾げた。

 

「俺は40枚のカードを持っている」

 

 腕に付けたデュエルディスクには、しっかりと今まで使ってきたデッキがセットされている。なのにどうして開かない。

 

「そのカード、水に濡れてふやけている」

 

「何ぃ!?」

 

 慌ててデッキをディスクから外すと、いつものピシっとしたカードの感触ではなく、ふやけた感触を指で感じる。数枚は裏面からも剥がれてしまっている。

 

 なるほど、これではディスクにセットしても使えない、か。

 

「扉は40枚の使うことのできるカードが無いと開かない」

 

「なら、どうすればいい?」

 

「この学園の周りのクレバスや洞窟にはカードが隠されている。それを集め、40枚のデッキを作れば……」

 

 そこで俺は、じじいのディスクにセットされているデッキに目をやった。

 

「それは……」

 

「ここには37枚のカードがある。ここまで集めるのに、私は体力を使い果たしてしまった」

 

 つまりこのじじいは、40枚のカードを集めることのできなかった、ただの脱落者か。

 

「ならば、これでそのカードを俺に売れ」

 

 キャッシュカードを差し出す。俺は万丈目グループの人間だ、預金などいくらでもある。ようは言い値ということだ。

 

「ふ、ふざけるな。これは私の生きた証だ! お前はそれを奪うというのか!!」

 

 じじいは慌てて腕に付けたディスクを体で隠すようにうずくまる。じじいの言葉などどうでもいいが、売る気がないということだけはよくわかった。

 やれやれ、と首を回して立ち上がる。どうせこの周りでカードを集めるしかないようだ。

 

「まあいい。自分のことは自分でやる」

 

 譲る気がないというなら自分でどうにかするしかない。

 周囲の氷山やクレバスに目をやる。険しそうなそれらを見ていると、身の毛がよだった。あの中から探さなければならないのか。

 

 まあいいだろう。やるしか無さそうだからな。

 

 身を奮い立たせて、カードを集めに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体を引きずるように歩いていく。

 全身びしょ濡れになりながらも凍死していない自分を不思議に思いながらも、門のもとまで歩いていく。

 

 全身の疲労感を払拭するように体を奮うと、ようやく門の下までたどり着いた。

 

「おお! 君は……」

 

「じじい、まだいたのか」

 

 門の下には、座り込んでいたじじいがまだ居た。じじいは俺の姿を確認するとすぐさま駆け寄ってきた。

 

「まさか、カードを集めきったのか」

 

 俺のディスクにセットされているカードを見て、じじいは驚いたように、けれども少し嬉しそうに聞いた。

 

「まあな」

 

 苦労の末に集めたので、俺も少々誇らしく思っているので自慢しておこう。

 

「北海のシャチと戦い…」

 

 そんなものはいなかったが

 

「はてしない断崖を登り…」

 

 なぜか登りやすいようになっていたが

 

「シロクマと戦い…」

 

 逃げ回っただけだが

 

「吸血コウモリと戦い…」

 

 妙におとなしかったが

 

「ついに揃えたぜ!」

 

 とにかく揃えきったのは確かだ! 

 

「おお、すごい……。よかった、わしは君が行ったあとずっと後悔していたのじゃ」

 

「後悔?」

 

 俺はじじいがつぶやくように行った言葉を聞き逃さなかった。じじいは少し困ったように言葉を繋げる。

 

「わしは、君にカードを譲るべきだったのだ。若い君は、わしのようになってはならん」

 

 じじいは俺の目を真っ直ぐに見て話してくる。俺の目に写ったじじいの目、それは……心配?

 

「しかし、君はカードを揃えて戻ってきてくれた。さあ、早く門をくぐりたまえ」

 

「じじい、お前も一緒に行くんだ」

 

 瞬間、口が動いていた。無意識だ……と思う。けど、その言葉を発した自分に全く驚いていないことに少し驚いた。

 デッキから3枚のカードを引き抜いた。

 

「え、しかしそれでは君のデッキが」

 

「勘違いするな、43枚ある。お前の分も拾ってきただけだ」

 

 なぜ、俺はこんな嘘を言っているのだろう?

 どうして、俺はこのじじいを助けようなどと思っているのだろう?  

 

 この自問に、答えが出ない。動揺するが、表情には出さないようにじじいに笑う。

 

「ありがとう。君はわしの恩人じゃ」

 

「さっさと行け、俺は疲れた。少し休んでから行く」

 

「ああ! 本当にありがとう……。そうだ、あんたの名前は」

 

 じじいの起こしていた焚き火の前に腰を下ろす。じじいの姿を見上げるようにして、答えた。

 

「万丈目準だ」

 

 その言葉を聞くと、満足したじじいは門をくぐっていった。

 

「3枚、足りなくなっちまったな」

 

 43枚あるなんて嘘だ。これで俺のデッキには37枚しかなくなっちまった。

 自分の愚かさに苛立つのかと思っていたが、不思議と悪い気分はしない。それどころか、何故か少し気分がいいくらいだ。

 

「され、どうするかな」

 

 普通に考えれば、また集めにいくしかない。けれども、40枚集めることに体力も精神力も使い切ってしまった俺にはもう、立ち上がるような気力すらわかなかった。

 

 あと3枚……

 

 あと3枚なんだ……

 

「3枚……か……」

 

 自分の胸に下がったペンダントを手に取る。この偶然の一致に胸が震える。

 

 だが、こいつらは……

 

 体が硬直する。全身が鉛になったかのように冷たく感じる。まるで自分の体が別のどこかにあるようだ。

 それでいて指先ははっきりとこいつらを捉えている。もう、使う気は無かったってのに……

 

 ――デュエルは、自分の一番大好きなカードを使って戦う時、一番楽しいんだよ――

 

「ちがう。もう一度3枚集めるのが面倒なだけだ……」

 

 頭に浮かんできた奴のイメージを必死に振り払う。

 そして言い聞かせるように、言い訳を胸に突き刺す。しょうがない……しょうがないんだと止めようとする感情を必死に止める。

 

「行くぞ、雑魚ども」 

 

 デッキに突き刺した3枚のカードが笑ってるように見えた俺は、きっと頭がわいているんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ! 40枚カードを揃えてきてやったぞ! さっさと入れろ!!」

 

 門に向かってデッキの付いたディスクをかざすと、それに反応するように門が動く。

 左右に開いた門をくぐると、中に見える風景は・・・・・・西部?

 妙にウエスタン? とでも言えばいいのか、よく西部劇で見る大きく中央が開いた町並みに、木でできた家々が両側にストレートに並んでいる。

 

「ぐわぁあ!!」

 

 悲鳴が聞こえたと思うと、一つの家から飛び出してくる人影。飛び出してきたと言うより投げ出されたというべきだろうか、その人物は道の真ん中に寝転んだ。

 

 ん、あいつは・・・・・・

 

「おいじじい!」

 

 さっきのじじいだ。じじいに駆け寄って起こすと、家の中から他の人間が大勢出てきた。

 大勢の中に、椅子に座る人間が一人、どうやらこいつがボスのようだ。

 

「おい、また新入りだぜ」

 

 発言から察するにこいつらがこの学校の生徒のようだ。

 

「お前ら、これは一体どういうことだ?」

 

 連中はじじいを見ながら嘲笑うと、俺に目を向けて説明した。

 

「この学校のルールでな。新入生はランク付けのために俺たちの中のランクの低い順から戦っていき、負けたところでランクが決まるのさ」

 

「そいつは一番最初に負けた。つまりそいつは一番下のランクだ!」

 

 じじいは一回で負けたのか。まあこんなところでかき集めたデッキなら仕方が無いか・・・・・・

 

 普通ならな!

 

「じゃあ、俺の相手もしてもらおうか!」

 

 ディスクを起動する。そういえば久しぶりのデュエルだ、腕が鳴るぜ。

 

「ああ、最初の相手は俺だ! 行くぞ新入り!!」

 

「新入りじゃない! 俺の名は・・・・・・」

 

 一泊呼吸をおく。そして天高らかに人差し指を突き上げた。

 

「一! 十! 百! 千! 万丈目さんだ!!」

 

 最初の相手がディスクを構える。一番最初の雑魚などさっさと蹴散らしてやるぜ!!

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 

 

「リミッター解除!」

 

 一人目・・・・・・

 

「ダイレクトアタック!」

 

 10人目・・・・・・

 

「罠カード!!」

 

 ・・・・・・ええい、もう何人目だか覚えてない!!

 

「やるな」

 

「しかしここまでだ」

 

「俺たち四天王が相手をしてやる」

 

 最初に見たボスっぽい奴の周りにいた4人が立ち上がる。なるほど、こいつらが出てきたということは、最後の相手までもう少しか。

 

「面倒だ! 4人まとめてかかって来い!!」

 

 学校最強(メインディッシュ)を前にしたら、うずうずが止まらないぜ。こいつらをさっさと蹴散らしてあいつとデュエルしてやる。

 

「なめやがって、俺は切り込み隊長を召喚!!」

 

 早速とばかりに四天王の一人が切り込み隊長を召喚する。

 

「切り込み隊長の効果発動! このカードが召喚に成功したとき、手札のレベル4以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚できる!」

 

「慌てるな阿呆が。切り込み隊長の効果はレベル4以下のモンスターだ。戦士族縛りは無いぞ」

 

 訂正してやったら慌ててテキストを確認しだした。まさか本当にわかっていなかったのか? 流石にいい間違いだと思ってたぞ。

 

 その程度の実力で四天王だとは、笑わせる。

 

「とにかく、切り込み隊長の効果で切り込み隊長を召喚!!」

 

 2体に増える切り込み隊長。そしてまだ他の相手ターンだ。

 

「俺のターン」

 

「俺のターン」

 

「俺のターン」

 

 まるでリピート映像を見ているように切り込み隊長が並んでいく。全く、四天王全員が同じ戦略だとはな。

 

「切り込み隊長が2対以上並んでいるとき、相手は攻撃できない!」

 

「これが俺たちの切り込み隊長ロックだ!!」

 

 慌てずに自分のカードをドローする。この局面で俺のプレイングは・・・・・・これだな。

 

「俺は巨大ネズミを守備表示で召喚。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「はっ! 俺たちのロックを前に手も足も出ないようだな」

 

 四天王どもが嘲笑うように俺を見てくる。しかし、それを俺は一笑した。

 

「それはどうかな?」

 

 俺は、ずっと考えてきた。このカードたちを集めるサバイバルの途中で、集めてきたカードを活かす方法を。あらゆる局面でのプレイングを。

 この程度の事態は予想済みだ。

 

「強がりを! 俺は手札から連合軍を発動! このカードの効果で、俺の場の戦士族モンスターは俺の場の戦士族モンスター1体につき、攻撃力を200ポイントアップさせる!!」

 

 

 切り込み隊長

 ATK1200→ATK2800

 

 

 一気に切り込み隊長の攻撃力が最上級モンスターレベルまで跳ね上がる。

 

 しかし、どうでもいいな。

 

 このデュエルはもう、終わっているのだから。

 

「切り込み隊長でその雑魚を攻撃!!」

 

 巨大ネズミ程度の守備力ではどうすることもできずに両断される。しかし、俺の雑魚はそんな程度で終わりはしない!

 

「巨大ネズミの効果発動! このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスターを1体特殊召喚する! 逆ギレパンダを特殊召喚」

 

 

 逆ギレパンダ

 ATK800

 

 

「その程度の雑魚など!」

 

「逆ギレパンダの効果発動! 相手モンスター1体につき、このカードの攻撃力が500ポイントアップする!!」

 

 

 逆ギレパンダ

 ATK800→4800

 

 

 連合軍程度の攻撃力上昇など物ともしない大型モンスターが完成した。切り込み隊長は寸前でブレーキをかけ立ち止まる。

 

 だがこれではロックを突破できない。しかし、これで終わりだ!

 

「さらに罠カード、破壊輪! このカードの効果でモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを全てのプレイヤーに与える!」

 

 攻撃力4800となった逆ギレパンダに破壊輪が装着される。こいつが爆発すればライフは0だな。

 

「ばかな、俺たちと自滅する気か!!」

 

 馬鹿が何か喚いている。しょうがない、教えてやるか。

 

「速効魔法、防御輪。こいつがダメージから俺を守ってくれる」

 

 つまり、ダメージを受けるのはあいつらだけだ。

 

 ドォン、と爆発音が響くと、四天王4人はその場に横たわっていた。

 

「さあ、これで後はお前だけだ!!」

 

 ピシッと、未だ椅子に座っているボスに指を突きつける。それを受けて奴はようやく重たい腰を上げた。

 

「ふうん、ここまで勝ち残った気力、体力、褒めてやろう。だが、ここまで勝ち進むのに手の内を晒しすぎたな」

 

 うっ、と一瞬後ずさりそうになるが踏みとどまる。

 

 表情を変えるな。まだ余裕を見せつけてやれ!

 

「だったら、この俺を倒してみせるんだな?」

 

「もちろんだ!」

 

 ディスクを展開する。これで……最後のデュエルだ。こいつに勝って証明してやる!

 

 俺は……強いデュエリストであると!!

 

「「デュエル!!」

 

 先行は……ちっ、奴か。

 

「俺の先行! 俺は手札からデビルズ・サンクチュアリを2枚発動! このカードの効果により、俺はメタルデビルトークンを2体特殊召喚」

 

 いきなり魔法カードによって2体のトークンが呼び出される。メタルデビル・トークンの攻撃力は0だが、トークンにしては珍しく生贄に捧げることができる。

 

「俺は2体のメタルデビルトークンを生贄に、デビルゾアを召喚!」

 

 

 デビルゾア

 ATK2600

 

 

 いきなり呼び出された最上級悪魔族モンスター。攻撃力が高く、俺のデッキのモンスターじゃどうやったって太刀打ちできない。

 

「さらにカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 手札、フィールドを見回す。しかし、このいきなり現れた高攻撃力モンスターに太刀打ちできる手段は……

 

 

 

 

 

 ある……

 

 

 

 

 

 だが……俺は……

 

 

 頭を振り回しながら浮かんできたものを払いのけようとする。それと同時に、他の案を思考する。

 

 ああ、わかってるさ。他の方法はないってことくらい。

 

 奴は俺のデッキを見尽くした。ならば、今まで使ってきたカードの対策は立てているはずだ。さらに奴はこの学校最強の男。ミスを期待することはできない。

 

 だが……冷たい。

 

 指先のカードを触れる感触が、まるで鉄に触れているかのように無機質に冷たい。全身の感覚はどんどんぼやけていってるのに、カードを触れるその指先のみ、はっきりと俺の脳にその感触を伝えてくる。

 

「どうした! 早くしろぉ!」

 

 ビクッと体が跳ねる。それと同時に体の感覚が戻ってきた。背中から溢れ出した汗がとても冷たい。

 

「俺はデス・シザースを守備表示で召喚! カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 KA-2 デス・シザース

 DEF1000

 

 

 ようやく相手にターンを渡す。奴はそんな俺を見て、高らかに笑いあげた。

 

「ふはははははは! どうやら勝機は無いと悟ったらしいな!」

 

「逆だ。お前如きに負けるはずないと改めて思っていただけだ」

 

 あくまでも強がる。デュエル中に弱みなんぞ見せてたまるか。もし見せれば、それはすなわち弱点となり、敗因となりかねない。だからこそデュエリストは常に、自信満々の顔で立っているべきなのだ。

 

「言っていろ! 俺のターン。リバースカードオープン、メタル化・魔法反射装甲。このカードをデビルゾアに装備する」

 

 デビルゾアにメタル化。デュエルモンスターズの中でも有名な組み合わせのひとつだ。つまり、奴が次に出してくるモンスターは、一つ。

 

「デビルゾアを生贄に捧げ、デッキよりメタルデビルゾアを特殊召喚! さらに罠カード、リビングデッドの呼び声を発動! このカードによって、墓地のデビルゾアを特殊召喚!!」

 

 

 メタルデビルゾア

 ATK3000

 

 

 一気に並ぶ2体のデビルゾア。最も、片方は機械の体になってしまっているが。しかし、これで高攻撃力モンスターが2体並んでしまった。

 

「ふはははははは! お前のデッキのモンスターは雑魚ばかりだ! お前にはこのデビルゾアを倒せることのできるモンスターは居ない!!」

 

 言う……通りだ。

 

 俺のデッキにはデビルゾアを超える攻撃力を持つモンスターは存在しない。唯一、攻撃力の上回る可能性のある、逆ギレパンダはその存在を知られてしまっている。多数のモンスターを並べては来ないだろう。

 

「行け、デビルゾア! あの雑魚モンスターを粉砕しろ! デビルエクスシザース!!」

 

 ひとたまりもなく、破壊されるデス・シザース。これで俺のフィールドは……がら空きか。

 

「さあ喰らえ! メタルデビルゾアでダイレクトアタック!! メタルデビルエクスシザース!!」

 

 機械で出来た体の悪魔が俺に向かって突進してくる。両の手をクロスに構え、俺の体を切り裂いた。

 

「がっ……!」

 

 

 万丈目

 LP4000→1000

 

 

「さあ、これでお前のライフは風前の灯火。さらにデッキには雑魚モンスターのみ。俺の勝ちだなあ? 万丈目」

 

 既に勝ち誇った笑みをこちらに向けてくる。

 

 雑魚モンスターか

 

 確かにそうだ。このデッキに入ってるモンスターたちは、全部低攻撃力の下級モンスターしかいない。

 

 雑魚と呼ばれたって仕方がない

 

 

「教えてやるよ、万丈目。デュエルはな、雑魚モンスターが強いモンスターに勝つことなんて無いんだ」

 

 ああ

 

「そうだな……」

 

 雑魚モンスターが、強いモンスターに勝つことなんてできやしない

 

「物わかりがいいじゃないか」

 

 そんなことは分かってる

 

「貴様より、頭がいいだけだ」

 

 ずっと昔から、知っている

 

「言ってくれるじゃないか」

 

 何故なら、俺は使っていたことがあるからだ

 

「事実だからな」

 

 雑魚と言われたモンスターを

 

「なら、お前は負けだと理解しているな?」

 

 しかし、手放した

 

「いいや」

 

 耐えられなかったからだ

 

「まさか、勝つつもりなのか?」

 

 自分のカードが雑魚と言われ、罵られ、貶されることを 

 そして、何よりも……

 

 ――オジャ万丈目――

 

 自分自身のプライドを、粉々にされることをだ

 

「当たり前だ! 速攻魔法発動、ヘル・テンペスト!!」

 

 開かれた速攻魔法、ヘル・テンペスト。このカードは3000ポイント以上のダメージを受けたときに発動することができる。

 カタカタと震える手で、自分のデッキを手に取った。

 

「このカードの効果で、お互いのデッキ、墓地のモンスターをすべてゲームから除外する!」

 

 自分のデッキから、すべてのモンスターカードを抜き取る。一枚一枚、丁寧に、慈しむように。

 冷たい指先があるカードを捉えると、耳の奥でノイズが走る。

 

「ふん、自らの雑魚モンスターをすべてゲームから除外するとは……何を考えている?」 

 

 そのせいで、あいつの声などほとんど聞こえやしなかった。 

 

 無反応でいた俺から、口だけで諦めたとでも思ったのか、奴は勝ち誇った笑いを浮かべている。

 

「ターンエンドだ! さっさとサレンダーでもするんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かだ

 

 

 

 

 

 

 心の中が、まるで空っぽになってしまったかのように

 

 

 なにもない空間が広がっていく

 

 

 ポツン、と一人立っている俺

 

 

 これが、今の俺の結果なのだろうか?

 

 

 無限に広がっていく空虚は、無機質な冷たさを体中に突き刺す

 

 

 俺は、何を感じてきたのだろうか?

 

「ドロー!」

 

 カードを引いた。俺の求めていた、そして、このデュエルを終わらせるための、『雑魚カード』

 

「リバースカードオープン! 異次元からの帰還!」

 

 万丈目

 LP1000→500

 

 開かれた罠カード。異次元からの帰還はライフポイント半分をコストにゲームから除外されている自分のモンスターを可能な限り特殊召喚するカード。

 

 これで呼ぶのは、俺がかつて使ってきた、雑魚カード。

 

「出て来い! デス・シザース! 逆ギレパンダ!」

 

 そして、残るは……もう使うことのないと思ってきたカードたち。

 

 胸の奥に槍が刺さる。その上さらに体の中でぐりぐりと回されているような痛み。

 

 手に取ったそのカードたちは、また笑っている。使ってくれることを喜んでいるのだろうか?

 それとも……

 

「おジャマ共!」

 

『『『どうも~』』』

 

『久しぶりアニキ~』

 

 ああ、昔と何も変わらないノリのやつらだ。

 黄、黒、緑。三色の三兄弟は昔と何も変わらないままで、俺の目の前に姿を現した。

 

 おジャマ共を見る奴の目は明らかに訝しげだ。

 

 分かってるさ。こいつらが使う価値のない雑魚カードだってことくらいな。

 

「そんな雑魚どもが出てきたところで、俺のデビルゾアを倒すことはできんぞ!」

 

「それはどうかな? 魔法カード発動!」

 

 デュエルモンスターズには、ロマンカードと言うものがある。単純に発動することが難しい、というかほぼできないと考えられているカードのことだ。

 

 少なくとも、昔の俺は、このカードを使おうと考えた時、そこに至る道筋を浮かべることができなかった。

 ただのロマンだと、言われていた。誰からも、お前には発動することはできないと、言われていた。 

 しかし、俺は今このカードを発動している。

 

 発動、できている

 

『さあ行くぞ!』

『おジャマ究極奥義!』

『おジャマ……』

 

「デルタハリケーン!!」

 

 三匹のおジャマ達がケツを合わせあって、大回転しているというシュールな絵。

 しかし、その回転は大きな竜巻を作り、相手のフィールドを飲み込む。

 

「で、デビルゾア!!」

 

 竜巻の中心部にデビルゾアは引き込まれた。360度の全方位からの攻撃。

 デビルゾアは断末魔をあげて破壊された。

 

「おジャマ・デルタハリケーンは相手のフィールド上のカードをすべて破壊する」

 

 風が晴れ、俺のフィールドにおジャマどもが帰ってくると、相手のフィールドには何もなくなっていた。

 

「だ、だが攻撃力0が3体並んでいる程度で……」

 

「右手に盾を左手に剣を」

 

 俺が表にした魔法カード。奴はそれで自分の敗北を察知した。

 

「全員! 一斉攻撃!!」

 

 敗北の瞬間の奴の声は聞こえなかった。

 

 俺は、また、空虚な世界に身を委ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、新しいキングが誕生したようじゃな」

 

 気がつくと、ソリッドビジョンは消え、目の前には最初に会ったじじいが立っている。

 

「……そうみたいだな」

 

 しかし俺は、無感動に返事を返す。こんな雑魚どもの王になったところで嬉しくもなんともないのだ。

 

「これで、君がデュエルアカデミア本校との対抗試合の代表ということになる」

 

「本校との対抗試合? どういうことだ!? いや、そもそもどうしてそんなことをお前が!?」

 

 なぜ俺と同時にここに入ったはずのこのじじいがそんなことを知っている? そして本校との対抗試合とはどういうことだ?

 いくつかの疑問が頭の中を駆け巡り、少しくらついた。

 

「まず最初に、私はこのデュエルアカデミアノース校の校長じゃ。君がここに来る事を事前に察知していたので、君を見るために演技していたのだ」

 

「お前が校長だと?」

 

 とりあえず最初の疑問は解決した。ほっと胸をなでおろして、次の言葉を待つ。

 

「対抗試合とは、両校の名誉をかけて年に一回代表を出してデュエルするのだ。向こうに今年の代表は1年生になるだろうと言ったら向こうも1年生を用意してきたよ」

 

「お前……俺がここのキングになると読んで……」

 

 そこまで言葉を口にしたところで、ハッと気がつく。

 

 1年生?

 

 本校の1年生で、代表になるほどの腕を持つもの。

 

 しかし、あいつはオシリスレッドだ。その1点でクロノス教諭が反対しているかもしれない。

 だが、もしかしたら、

 

 胸がざわめく。森林に強風が吹いたかのような音が体中を巡っていた。

 感情があふれてくる。期待と希望、言いようのない憎しみ。そして……

 

 

「向こうの1年生の名前は!?」

 

 

 校長の口の動き、一挙一動から目を離さなかった。

 

 

「確か……遊城十代と、橘舞花だったか」

 

 その言葉を聞いた瞬間、心の底で拳を握った。

 全身を、風がスゥと抜けていく。

 

「そうか、お前たちなのか……」

 

 予期せぬ再戦の舞台の成立に胸が躍った。

 

 歓喜なのだろうか? 憎悪なのだろうか?

 それとも、また別の何かなのだろうか?

 

 自分を包んだ感情が何かまでは、分からない。

 

「待ってろよ」

 

 それでも、心は躍っていた。 

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