遊戯王GX 魔法使いの少女   作:時任 嵐

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15-turn 自由への道

「う……ん……」

 

 目が、覚めた。

 太陽の光が、まだ閉じられているカーテンの後ろから淡く注がれている。

 起き上がって目を2、3回こすった後、勢い良くカーテンを左右に開くと、暖かな日光が体中を包んで、おはようと言ってくれた。

 私もおはようと返すように目をパッチリと覚まし、ちらりとカレンダーの日付を確認する。

 

「よしっ、今日だね~」

 

 カレンダーに赤くつけられた丸印。それは今日の日付の上に記されている。

 

 今日は、待ちに待った学園対抗タッグデュエルの日だ。

 

 ちらりと自分の机の上に広げられている自分のデッキを見てみる。昨日徹夜してデッキの見直しをして、また、改良を行っていたので、まだ一つの束にはまとめていない。

 そこに広がっているカード一枚一枚を覗き込むと、やる気十分、と私に意気込みを見せてくれている気がした。

 

「がんばろうね~」

 

 時間を確認してみると、もう少しでノース校の代表の人が来る時間だと気づく。 

 

「じゃあ、行こっか」

 

 散らばっているカードを一つの束にまとめた後、私は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 港に着くと、ノース校の代表生徒の姿を一目見ようと、たくさんの生徒が来ていた。

 ざわざわと賑わっている中で、私は他のみんなを見つけることが出来ずに、後ろのほうで人垣を眺めていた。

 

「お前!?」

 

 前の方のざわめきが大きくなっている。その中から突出した声の聞き覚え。

 十代くんの声が聞こえた。

 そして、十代くんの声の異常なくらいの慌てよう。

 

 いったい何があったんだろう?

 

 あまり強引なことはしたくなかったけど、人ごみの間のわずかな隙間をくぐって前まで抜けていく。なんとか通れる位の隙間があってよかった。

 

 ……小さいからじゃないですよ?

 

 最前列まで抜けたとき、私の目に飛び込んできたのは、忘れるはずの無い人の顔。

 青と白の蛍光色で明るく輝いていたかつての姿とは違い、全身を真っ黒く包み、光を埋めている。

 

「ま……万丈目くん……?」

 

 私は、戸惑いながら、その名を呼んだ。

 

 かつて、オベリスクブルー1年生の中で最強を誇った人。

 かつて、十代くんと私とデュエルをした人。

 

 そして、かつて私が、傷つけてしまった人。

 

 

 

 

 やった

 

 

 

 私の心は、歓喜に打ち震えていた。

 信じていたことは、今ここに現実となって目の前に現れてくれた。

 

 きっと万丈目くんは、デュエルを辞めない

 

 そして、いつかもう一度デュエルできるって

 

 

 誰かが言ったわけでもないのに、私は目の前の万丈目くんがデュエル相手だと確信していた。

 

 そんなもの、見れば分かるから……

 

 自然、笑みが漏れる。そして、万丈目くんに言うべきことを口にしようとした。

 

「万丈目くん」

 

「バカもの! よりにもよってこのお方をくん付けだと!!」

 

「ひっ!」

 

 万丈目くんの周りにいた大きな人が大声で怒鳴る。

 驚いて少し後ずさり、少しだけ悲鳴が漏れてしまった。

 

 な、何も言い出せないよ~

 

「いい。ほっておけ」

 

 万丈目くんが熱り立っていた大きな人を諌めると、私と、十代くんの方を向いて呟いた。

 

「そいつらに、さん付けされる資格なんて無いからな」

 

 その呟きにこめられているのは、寂しさでも、悔しさでもない。

 そこに込められていたのは、奮い立つ闘争心。

 

「まあ、俺たちお前に勝ってるもんな」

 

「そのとおりだ。だが……今度は負けん!」

 

 立ち込める熱気が万丈目くんの周りを包む。気のせいか、気温がわずかに上がっているようにも感じる。

 これからの戦いに、どれだけ燃えているのか私には分からない。推し量ることが、出来ない。

 

 それほどまでの高ぶりを私は感じていた。

 

「面白れえ! 今度も絶対負けないぜ、万丈目」

 

 二人の視線が交錯し、火花を散らし始めたと思った瞬間、上空から聞こえてくる空気を切り裂くプロペラ音。

 

「おいっ! あれを見ろ!」

 

 誰かが声を上げ、上空を指差す。その方向を見上げると、そこには数台のヘリコプターが旋回している。そして、その車体の下には丸に囲まれた『万』という文字。

 

 あれは一体……?

 

「まさか……」

 

 万丈目くんの顔色が変わる。困惑が手に取るように分かる。ヘリの中から2人の人物が顔を出した。

 

「長作兄さん! 庄司兄さん!」

 

 兄さん……?

 

 と、いうことは、今私が見ている2人の人物は万丈目くんのお兄さんなんだろう。その2人がなぜこんなところに来ているのだろうか?

 

「はい、みなさんこっちを向いて~。対戦するのは、そこにいる4人かな?」

 

 今度は一体なんだろう?

 

 私たちを呼んだ人は、大きなカメラをこちらに向けていた。しかも丁寧に光を当てるための鏡なんかも来ている。

 

「これは一体どういうことですかな?」

 

 たまらなくなった校長先生が、万丈目くんのお兄さんたちに向かって問いかける。一人が高笑いしながら答えた。

 

「もちろん、我が弟の勝利を祝福するのだよ。全国ネットでな!」

 

 ……全国ネット?

 

 その言葉に一瞬首をかしげて考えてみる。

 

 え~っと、全国ネットっていうことは、あの本格的な大きいカメラはTVカメラで、それに映ってるっていうことは……

 

「えー! じゃあ俺たち、日本国中に映ってるってことか!?」

 

 十代くんが言ってくれました。

 私はとっさに十代くんの後ろに隠れてカメラの死角に入り込みました。

 

 よしっ……これで映らないね~

 

「舞花、どうせデュエル中は映るわよ」

 

「どうしよう明日香ちゃん~……」

 

 正直泣きそうです。

 

「覚悟を決めなさい」

 

「そんな~」

 

 私がうなだれている間に撮影の人たちは一度撤収した。この後はデュエルを映すときまでは撮影はないみたいで、ひとまず息をつけた。

 けど、この後はどうしたって避けられない。どうすればいいんだろう?

 

「覚悟を決めなさい」

 

「二回言われたっ!?」

 

「どうせあんたのことだから、デュエルが始まっちゃえば気になんなくなるでしょ?」

 

「ほんのちょっと我慢すればすぐに終わりますわ~」

 

「そんなもんかな~?」

 

 ジュンコちゃんの言うとおり、いつもはそうだけれども。

 けど今回はTV中継だ。いつものような集中力だけで埋められるのだろうか?

 

「それに、覚悟を決めるのはそれだけじゃないでしょ?」

 

 明日香ちゃんの言った言葉に対して、私は必要ないと首を振った。

 

「そっちは、覚悟なんていらないよ」

 

 腰につけてあるデッキケースをやさしく触る。

 ケース越しに感じる私のデッキの暖かさが、指を伝って胸まで届いた。

 

 

 

 

「私は、楽しくデュエルするだけだから」

 

 

 

 

 そこに必要なのは、覚悟なんかじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―side万丈目―

 

 

「兄さんたち、どうしてこんなことを……?」

 

「決まっているじゃないか。俺たちの夢を現実にするためのプランさ」

 

 俺たちの夢、と聞いて一瞬で頭に浮かんでくる。

 それは兄さんたちとともに、政界・財界・カードゲーム界の三つを兄弟たちで制覇して、世界に万丈目帝国を作り上げることだ。

 

 俺たちの夢

 

 いつも兄弟たちの落ちこぼれとして扱われ、邪魔者として扱われてきた俺が、唯一自分の価値を認めてもらったのがデュエルだった。

 

 

 お前はいらないとさえ言われてきてしまった俺が、唯一頂点を期待してもらったデュエル。

 唯一俺が、万丈目帝国を作ることに貢献できること。

 

 うれしかったんだ。これで俺もようやく、万丈目の人間として期待されるって。

 

 

 けど、

 

 

「だから準、ちゃんと勝つんだぞ」

 

「しっかり勝って、デュエル界の新たなカリスマとして君臨するのだ」

 

 

 今、俺に向けられている視線は期待ではない。

 

 

 勝って当然だと、負けることを許さないと。

 万丈目一族という家柄に纏わりついた、頂点であるという常。

 

 勝つ期待なんて、俺に対してはもうない。

 

 

 俺に向いているのは、ただ『勝った』という結果のみを求めている、そんな視線。

 

 

「分かっています。俺は絶対に負けない」

 

 

 しかし、自身を支えている自信はぐらぐらと揺れてしまっている。

 

 それでも、その自信を支えにして、俺は立っていなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!!」

 

 デュエル場に行く途中、頭を冷やそうとトイレに寄った。

 文字通りに頭を冷水に晒して体温を下げようと努める。しかし、そこで感じてしまったのは、熱ではなく、重圧。肩にかかっている大きな荷物は、自身を押しつぶしてしまいそうだ。

 

「勝てば……いいんだろう!」

 

 ドンっ、と大きな音がその場に響いた。右の拳が赤くなってしまっている。 

 

「そうだ、勝てばいいんだ」

 

 口から出ている言葉は、まるで自分の物ではないかのような冷ややかだ。

 

 結局、俺は勝つしかない。それこそ……

 

「どんな手を、使ってでも……」

 

 そうすれば、勝ち続ければいつか、この肩に乗っている荷は下りるはずなのだから。

 

 

 自分の考えていることに対して、自分自身に抱く嫌悪感。

 

 滴る水の音が、1万キロ先のように耳から離れている。

 

 

 ちくしょう

 

 

 ―デュエルは楽しく、ハッピーにやるんだよ~―

 

『アニキ~』

 

 

 

「黙れ」

 

 

 俺は勝つしかない……勝つしかないんだ。

 

 

「行こう」

 

 

 プライドを、かなぐり捨ててでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―side舞花―

 

「し、信じられないノーネ! 今、このワタシの姿がTVに映ってるなンーテ!」

 

 デュエル場の中央で、クロノス先生がマイクを持ってライトに当たっている。

 今から始まる対抗デュエルの司会をするためなのだが、とてもうれしそうにカメラの方を向いていた。

 

「それデーハ、これよりデュエルアカデミア対抗デュエルを開催するノーネ!」

 

 クロノス先生の宣言と同時に会場中が湧き上がる。

 大きすぎる声が会場全体を揺らすと、観客席を映していたカメラが再び中央に戻る。

 

「選手の紹介するノーネ」

 

 すーはー、と呼吸を繰り返して心を静めていく。

 

「舞花、大丈夫か?」

 

「うんっ!」

 

 笑顔でこくんと頷くと、十代くんは安心したようで視線を壇上にと移す。そこに出てくるであろう対戦相手のことに思いをはせているようだ。

 

「万丈目はさ」

 

 視線をそっちにおいたまま、十代くんは口を開いていた。

 

「別の学校に1人で行って、そこの頭をとってここに乗り込んできたんだ」

 

 その口調は、まるで今口を開いているのを気づいていないかのように、漏れてしまった心の声にさえ聞こえた。

 

「今のあいつは……すげえ。正直、尊敬する」

 

 だからこそ……

 

 十代くんの心の中は、手に取るように分かってきてしまう。

 だって、私も同じことを考えているのだから。

 

 握り締めた拳に滲んでいる汗は、緊張感と、闘争心。

 

 そして何よりも、楽しみだ。

 

 十代くんの言うとおり、別の学校の頭をとって

 ここに、もう一度戦いに来た彼との戦い。

 

 いったいどれだけ強くなっているのだろう?

 

 いったい、どんなデュエルをしてくるのだろう?

 

 ワクワクする

 

 とってもとっても、ワクワクするんだ。

 

 

 ねえ明日香ちゃん

 

 やっぱり覚悟は必要じゃないよ

 

 私は今、こんなに楽しみなんだから

 

 

 

「それデーハ、デュエルアカデミア本校代表、ドロップアウ……ではなく、遊城ジュウダーイ!」

 

 十代くんはいつものように楽しそうに、壇上に上がって客席のみんなに手を振っている。

 

 私はデュエルディスクにセットしてあるデッキを、一回だけそっとなでた。

 

「よしっ、行こうか」

 

「デュエルアカデミア本校代表! 『可愛らしい奇術師(トリッキー・プリンセス)』橘舞花ナノーネ!」

 

 みんなの拍手の中、私も壇上へと上がっていく。

 

 緊張も恥ずかしさも、何もない。

 

 今あるのはこれから始まるデュエルへの期待だけ。

 全身を包む高揚感は、静かに、けれども確かに体温をわずかに上げる。

 

 胸に当てた手から感じる自分の心音は、ワクワクしていると告げていた。

 

 

 

 ……ん?

 

 

 

「『可愛らしい奇術師(トリッキー・プリンセス)』って何ですかっ!?」

 

「ホニャーラ? 何言ってるノーネ? みんなそう呼んでルーノネ」

 

 ……おかしい、私はそんな呼ばれ方された記憶がない。

 

「さんざん、墓地から罠だの相手ターンに手札から魔法だの使ってるからよ」

 

「けっこう前からそんな風に噂されてましたわ」

 

「いつの間に!?」

 

 全く聞き覚えのない呼ばれ方で呼ばれたことに意識が行ったので、本当はちょっと残っていた緊張とか気恥ずかしさとか一気に吹っ飛びました。

 そして全くTVに映る気が無い様で、明日香ちゃんだけこっそり映らないように避けている。

 

 む~、ずるいよ~

 

「続きマシーテ、デュエルアカデミアノース校代表! デビルゾアの使い手、江戸川遊離!!」

 

 意識を何とか対戦相手の方に戻すと、奥から大きな男性が現れる。全身にもりもりついている筋肉が、こちらに向けて威圧感を放っている。

 

 って、港で会ったあの人だ。

 

 そういえば、あの時は万丈目くんにいっぱいいっぱいで、そのパートナーのことまで頭が回っていなかった。

 そっか、あの人が万丈目くんのパートナーだったんだ。

 

「そして、最後ーハ……」

 

「いらん、自分の紹介は自分でする」

 

 もうすでに壇上に上がってきた万丈目くんがクロノス先生からマイクをひったくる。

 クロノス先生は名残惜しそうにそのマイクを見ていたが、さすがに万丈目くんのお兄さん方がこのTVのスポンサーなので、文句も言えずに縮こまった。

 

「お前たち! この俺を覚えているか!!」

 

 しん、と一瞬にして会場が静まった。

 ひそひそと話すそんな小さな声すらも無い完全なる無音。デュエル場についている空調の音がはっきりと聞こえてくるほどだ。

 そして、一瞬にして、みんなの視線が万丈目くんに集まっていた。

 

「俺が消えてせいせいしたと思っている奴。俺の退学を自業自得だと思っている奴!」

 

 少しずつ、みんなの視線が疎らになる。本当にそう思っていた人がいたのかもしれない。そんな人たちがここからなら手に取るように分かってしまって、少し苦しい。

 

「確かにその通りだ! だが俺は、地獄の底から這い上がってきた!! もう一度、俺の名を刻み込め!!」

 

 万丈目くんが人差し指を天に掲げる。その様は、言いようの無いほどに似合っていた。

 

「俺の名は一・十・百・千!!」

 

「「「「「万丈目サンダー!!!!」」」」」

 

 万丈目くんのコールにあわせて、客席に座っていたノース校のほかの生徒が声を響かせる。

 その姿はある意味奇妙だ。だけど、それだけ万丈目くんがみんなに慕われてると思って、なんだか少し口元を吊り上げた。

 

「行くぞ十代! 橘!」

 

「来いっ! 万丈目!!」

 

「楽しいデュエルを、期待してるよ~」

 

「サンダー、俺がサポートします」

 

 各々がデュエルディスクを構える。

 

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

 

 十代&舞花

 LP8000

 

 万丈目&江戸川

 LP8000

 

 デュエルディスクに、共通ライフである8000ポイントが表示される。そして、決定されたターン順も表示された。

 

 順番は、万丈目くん→十代くん→江戸川さん→私だ。

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 ファーストターンを得た万丈目くんが勢い良くカードを引き抜く。

 

「俺はアームド・ドラゴンLV3を守備表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 現れたモンスターは、まだ可愛らしい小さなドラゴン。両手を胸の前で交差して防御体制をとっている。

 

 

 アームド・ドラゴンLV3

 DEF900

 

 

「レベルアップモンスター!?」

 

「伝説のレアカードじゃないか!!」

 

 観客席から驚きの声が上がっている。無理も無い。レベルアップモンスターなんて見る機会、本当に無いのだから。私も見たのは初めてだ。

 

 

 レベルアップモンスター

 

 確か、特定の条件を満たすと上級のモンスターにレベルアップしていくモンスターだ。

 今はあんなに可愛らしいドラゴンだけれども、レベルアップしたらどんな強力なモンスターになるか分からない。慎重に行かないと。

 

「俺のターン、ドロー! E・HERO バーストレディを攻撃表示で召喚。ターンエンドだ」

 

 

 E・HERO バーストレディ

 ATK1200

 

 

 続く十代くんのターン。召喚されたのは十代くんのお気に入り、フレイム・ウイングマンの融合素材であるバーストレディ。

 攻撃表示で出されたが、タッグデュエルの1ターン目は攻撃することが出来ないのでターンエンドした。

 

「俺のターン、ドロー! ジャイアントオークを召喚!」

 

 

 ジャイアント・オーク

 ATK2200

 

 

 ジャイアント・オークは下級モンスターにしては破格の攻撃力を持っている代わりに、一度攻撃したら守備表示になって次のターン動けなくなるというデメリットを持っている。

 しかし、2200の攻撃力は高く、突破するのは時間がかかってしまうかもしれない……

 

「さらに魔法カード、生贄人形を発動!」

 

 そう思っていたら、発動された魔法カードによって、ジャイアント・オークが生贄となってフィールドから消える。

 わざわざ、高攻撃力モンスターを生贄にしてまで、出そうとするモンスターっていったい?

 

「生贄人形の効果により、手札からレベル7のモンスターを特殊召喚する! 来い、デビルゾア!!」

 

 

 デビルゾア

 ATK2600

 

 

 現れたモンスターは悪魔族の中でも攻撃力の高いモンスター、デビルゾア。

 通常モンスターでレベル7という部分が、私のお気に入りであるブラック・マジシャンと似ている。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 うまい。

 生贄人形で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃することが出来ない。

 そのデメリットも、タッグデュエルで1ターン目攻撃できないルールなら無視することが出来る。

 

 さすがにノース校もう一人の代表だけあって強い人なんだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 手札にはカードがそろっている。次のターンには、ブラック・マジシャンを出せそうだ!

 

「ジュニア・ブラック・マジシャンを守備表示で召喚! ターンエンドだよ」

 

 

 ジュニア・ブラック・マジシャン

 DEF1000

 

 

 出てきた私の可愛らしい相棒、ジュニア。この子を次のターンまで生かすことが出来れば、ブラック・マジシャンを召喚することが出来る。

 

 

「俺のターンだ」

 

 そして始まる万丈目くんのターン。そして、このターンから攻撃宣言を行うことが出来る。

 万丈目くんはカードを引いた直後、場にいるアームド・ドラゴンを指差して宣言を行った。

 

「アームド・ドラゴンLV3の効果発動! このカードが俺のスタンバイフェイズ時に表側表示で存在する場合、このモンスターを墓地に送り、デッキからアームド・ドラゴンLV5を特殊召喚することが出来る!! 出でよっ! アームド・ドラゴンLV5!!」

 

 フィールドにいたアームド・ドラゴンLV3の姿が変わっていく。

 オレンジ色だった体色は赤くなり、着ている鎧は黒くなっている。

 

 

 アームド・ドラゴンLV5

 ATK2400

 

 

「行くぞ! アームド・ドラゴンのモンスター効果発動! 手札からモンスターカード1枚を墓地に送り、そのモンスターの攻撃力以下のモンスターを1体破壊する!」

 

「何っ!?」

 

 モンスターが持つ、破壊効果。万丈目くんの手札には、攻撃力幾つのモンスターがいるの?

 

「俺が手札から捨てるのは、仮面竜! このカードの攻撃力は1400。よって攻撃力1200のバーストレディを破壊する! くらえ! デストロイ・パイル!!」

 

 アームド・ドラゴンが鎧の後ろに付いていた棘をミサイルのように飛ばす。と、いうよりミサイルだったようで、バーストレディに着弾し、バーストレディを破壊した。

 

「しまったっ!」

 

「そして、まだ攻撃が残っている! バトルだ! ジュニア・ブラック・マジシャンを攻撃!」

 

 今度は巨大な爪を使ってジュニアを引き裂く。ジュニアが悲鳴を上げて破壊されてしまった。

 

「お前のブラック・マジシャンは厄介だ。そいつを潰すだけじゃ足りん! 永続魔法、禁止令を発動! このカードがある限り、お前はブラック・マジシャンをプレイすることが出来ない!」

 

「そんなっ!?」

 

 ブラック・マジシャンを完全に封じられた。禁止令がある状態じゃ、手札のブラック・マジシャンを出せないし、仮に出せたとしても、行動することが出来ない。

 

「まだだっ! アームド・ドラゴンが相手モンスターを戦闘で破壊したターンのエンドフェイズ、LV5はLV7へと進化する! さらに進化せよ、アームド・ドラゴン!!」

 

 LV5が更なる成長を遂げる。大きくなっていた体がさらに巨大となり、デュエル場のドームの天井にさえ届きそうと錯覚するほど。LV7になったからには、さらに強力な力を身につけてしまっているのだろう……

 

 

 アームド・ドラゴンLV7

 ATK28000

 

 

 強い……

 万丈目くんが強いのは知っていたけど、何だろうこの違和感は。

 

 何よりも、また万丈目くんは苦しそうな表情で戦っている。

 

 

 だめだ

 

 

 前のデュエルとは違うんだ。

 

 今は……せめて私と十代くんだけでもデュエルを楽しもう。

 

「すっげえモンスターだな、万丈目!」

 

 いつもと変わらずに、十代くんは万丈目くんのモンスターを見て興奮している。

 でも、それは私も同じだ。こんな強そうなモンスターと、戦うだけでもワクワクしてくる。

 

 

 なんとか、万丈目くんの張った禁止令を突破して、私はブラック・マジシャンで戦おう。

 

「次は俺のターンだ、ドロー!」

 

 続く十代くんのターン。カードを引いた十代くんの表情が明るくなる。

 いつもながら、キーカードを引いたんだ。

 

 十代くんなら、きっと融合のカードだ。

 

「万丈目! お前がそんなすげえモンスターで来るなら、俺も最強のHEROで戦うぜ! 俺は手札のバブルマン、フェザーマン、スパークマンを融合して、テンペスターを……」

 

「お前が融合を引くのは読んでいた」

 

 静かに……しかし、威圧感が万丈目くんの周りから発せられている。

 万丈目くんは、ゆっくりと自身の伏せカードを開いた……

 

 

 

 

 

 

「融合禁止エリアを発動」

 

 

 

 

 

 

「ばかなっ!?」

 

 手札から発動しようとしていた融合のカードを、十代くんは手札にしまう。

 

 予想外だ

 

 万丈目くんが融合対策を使ってくるかもしれないということは考えていたかもしれない。けれど、今までの万丈目くんなら、きっとまたヘル・ポリマー辺りだと思っていた。

 しかし、万丈目くんが発動したのは、直接的に、そして永続に融合を封じる『融合禁止エリア』

 

 万丈目くんの高いプライドなら、決して選択することは無いと考えていた選択肢。

 

 

 まって

 

 

 禁止令だってそうだ。万丈目くんなら、前の万丈目くんだったら、こんなに直接的で簡単な方法で封じようなんて考えてこなかった。

 少し癖があっても、アドバンテージをしっかり取れるカードを使いこなして封じようとしてきていた。

 

 なのに、どうして……

 

「なりふりなんて……構ってたまるか」

 

 万丈目くんが発した言葉は……冷たい?

 いや、寂しくて、悔しくて、情けない。そんな感情を込めた、呟き。

 

 やりたくないんだ。したくないんだ。

 

 万丈目くんは、それでもただ勝つためにこのカードを選択した。

 

「何もかもかなぐり捨ててでも、お前たちに勝つ!!」

 

 

 万丈目くんの叫びが、デュエル場にこだました。

 

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