朝
ちゅんちゅんという小鳥のさえずりが聞こえてきた頃に、私は目を覚ました。
ボケーっとする頭を少しずつ覚醒させていって今日の予定を頭の中に浮かべていく。
「……今日、入学式だ」
少し慌てて時計を見たが時間は何も問題なく、今から準備していけば十分に間に合う時間だ。
「ごはん…」
目をこすりながら食卓に行くと、そこには昨日の内に用意しておいたパンがある。
レーズンパンをほおばりながらこれからのことについて考えていた。
「これからは、一人じゃないんだよね」
格安のアパートの一室。そこに居るのは私一人だ。
両親は物心ついた頃には居なかった。けれどもどういうわけか私はどこにも引き取られなかった。
親戚と名乗る人は一人も現れず、私を受け入れてくれる孤児院もなかった。
通帳の中には、私が大学に入る間くらいまでは問題なく暮らしていけるようなお金があったから、今までは問題なくすごしていけた。
でも、やっぱり寂しかった。
全寮制のデュエルアカデミアを受験した理由も一つはそこにある。
朝起きて部屋を出たら私以外の人が居て、そしておはようって言い合う。そんな些細なことに、私は憧れていた。
でも、デュエルアカデミアにしたのはやっぱりデュエルが大好きだからなんだけどね。
「そろそろ行かなくちゃ~」
洗面所の鏡の前に立つ。
寝起きでまだ眠気が抜け切っていない顔をバシャバシャと洗い、少ししゃっきりとさせる。
お化粧はまだしたことがなかったけど、これからはしていくのかな?
寮に入ったら皆に聞いてみようと思いながら歯を磨き、髪を整える。
胸よりも下までの長さの髪にくしを入れた後、愛用の黒いリボンで髪をまとめる。
あごから耳の延長線のゴールデンポイントと呼ばれる場所で結び、慣れたポニーテールを作る。
鏡を見ながらちょっとずつ調整して、いつもと同じように出来たらそろそろ出る時間だ。
今まで着慣れていた制服に着替えると、今日でこれを着るのも終わりだということに気づいてなんだか少し寂しくなった。
いや、そもそも今まで過ごしてきたこのアパートともお別れなんだな。荷物はもうほとんど纏めてあって、さっぱりしている部屋。
残っているものは大家さんに頼んで処分してもらうことになっている。この部屋にはもう二度と帰ってこないかもしれない。
準備の整った私は、カバンを持って玄関から外に出た。
「行ってきます」
口から出た言葉はいつもと同じ、慣れた挨拶だった。
「おい、大丈夫かよ?舞花」
「うん、酔い止めの薬は飲んできたからね」
「その割には辛そうだね・・・・・・」
デュエルアカデミア行きのヘリコプターの搭乗場所に行くと、一番最初に私に声をかけてきたのは遊城くんだった。
またねって言っておいてどっちかが落ちていたらどうしようとか考えていたけど、やっぱり杞憂だったようだ。その隣にはあの時の眼鏡くんもいた。名前は丸藤翔くんって言うらしい。
あ、あと受験番号1番くんも居た。彼の名前は三沢大地くんって言うらしい。
友達がたくさんできたよ~って喜んでいたら、ヘリコプターに乗ってくださいって言われた。
このとき、私は覚悟を決めた。
自慢じゃないけど私は乗り物にとっても弱い。
どれくらい弱いかというと、小さな頃からブランコに乗ると気持ち悪くて目を回してしまうくらい。
電車は揺れない路線なら大丈夫だけれど、ほとんどの乗り物は乗るとかなりつらい。
でも、だいじょ~ぶ。
今日の私には酔い止めがあるのです。
ちゃんと使用方法にしたがって飲んだんだけど、乗って少ししたらいつものように気持ち悪くなってきた。
酔い止めのう~そ~つ~き~
結局私はデュエルアカデミアにつくまで、遊城くんに背中をさすってもらっていた。
「ひどい目にあったよ~」
ヘリコプターから降りて、私たちはデュエルアカデミアの島についた。
皆がきらきらした目であたりを見渡している間、私は気持ち悪いのが抜けるまでその場に座り込んでいた。
「大丈夫か?」
その中で遊城くんが私を気遣ってくれた。
「うん、ありがとう遊城くん」
遊城くんの手を借りて立ち上がり、私もあたりを見渡して見た。
アカデミアの校舎と、ここから見える寮以外は自然に囲まれた島。
動物さんも居るのかな~?
「舞花、皆もう行っちゃうぜ」
「へ?」
見ると、すでに皆がアカデミアの校舎に向かって歩き出していた。ヘリの横に居るのは私と遊城くんの二人。
「行こうぜ、舞花」
遊城くんは私の手を引っ張って皆に向かってかけていく。
……あれ?私ひょっとしてさっき手を借りたときから手を繋いだままだったの?
遊城くんにがっしり?まれた手を見ていたら、頬が熱くなっていた。
アカデミアについたら一人一人に制服が渡された。3種類の青と黄色と赤の制服。
この色で寮分けをするのだと一緒に渡された生徒手帳に書いてあった。
私は青い制服をもらった。というより女子は青い制服しかないようだ。
遊城くんがもらった制服は赤だった。なんだかちょっと残念。
同じ色でも男女では寮が違うとは思うけれども同じ色がよかったな~。
もらった制服に着替えた後に入学式が始まった。
恒例行事である校長先生の話が始まると同時に、遊城くんがうとうととし始めていた。
早いよ~、校長先生そんなに長く話しているわけじゃないのに~。
つんつんとつっついて遊城くんを起こしたら、校長先生の話が終わった。
普通とっても長くなる校長先生の話がとっても短くてびっくりしました~。
入学式が終わって解散すると、遊城くんと丸藤くんと少し話すことに。
「舞花、俺たちはオシリスレッドだったけど、お前は何だった?」
「私はオベリスクブルーだよ。女子はブルーしかないんだって」
寮の話をしていると、そこに三沢くんが通りかかってきた。
「やぁ2番、お前もレッドか?」
「いや、僕は制服の色でわかるように、ラーイエローだ」
三沢くんは制服の襟を少しつまんで色を見せてきた。
そんなことをしなくても黄色だって言うのはわかるけどね。
「どうして君がレッドなのか不思議でしょうがないよ」
「何か引っかかる言い方だな?」
そんなつもりはないのだろうけど、三沢くんが少し嫌味を言ってるように聞こえた。
本人も少し気になったのか少し申し訳なさそうな顔をするけど、遊城くんはそこまで気にしていたわけじゃないみたいですぐに笑っていた。
「じゃあ、私はそろそろ行くね」
寮の歓迎会はまだだけど、寮生活をするのだから寮のほかの女の子とも友達になりたい。だから私は寮に向かうことにした。
「おうっ、またな」
「またね」
「うんっ、それじゃあまたね」
遊城くんと丸藤くんの返事をもらって私は寮に向かって歩いていった。
「わわわわわ、凄く豪華だよ~」
女子寮に着いたら、とても広くて目がまんまるくなった。
私の今まで住んでいたアパートの何倍あるんだろう?
荷物を置くために、部屋に案内してもらう。寮長の鮎川先生はとっても美人で優しい人だった。よかったよ~。
聞くところによると、今年の高等部編入者の女子は私一人で、後は皆中等部からあがってきた人たちらしい。
あわわ、友達が作りづらいよ~。
同じ編入者が居ればその子とはすぐに友達になれそうだったけど、皆中等部から上がってきてるんだったらすでに友達のグループが出来ているはずだ。そこに入れてもらうのは難しいような気がする。
う~ん、弱気になっちゃダメだね。ファイトっ、私。
「ようしっ」
「あら、あなたは?」
実はすでに部屋から出てお友達探しをしていた私。寮のロビーで気合を入れた声を聞いて、一人の女の子が私に話しかけてきた。
金髪で、美人で、スタイルがすっごくいい女の子。
ちなみに私は美人じゃなくて、幼児体型で、ポニーテールの女の子。
このすっごい美人さんが、私のことをまじまじと見てくる。
「あの、恥ずかしいんですけど~」
「あら、ごめんなさい」
少し顔を赤くして訴えたら、あっさりと目線を変えてくれた。
いい人なのかな?
「あなた、入試デュエルでクロノス先生に勝った子よね?」
「へ、あの古代の機械巨人《アンティーク・ギアゴーレム》の先生ですか~?」
そういえば私、あの先生の名前知らないや。
「そう。やっぱりそうなのね。私は天上院明日香よ」
「あ、橘舞花です」
名乗られたのでで名乗り返す。天上院さんは探し物を見つけたみたいな目で私を見ていた。
この人、お友達になってくれないかな~。
「あなた、デュエル強いのよね。いずれ手合わせしたいわ」
「へ?」
それだけ言うと天上院さんはどこかへ行ってしまった。それを見送っていたら、私にある考えが浮かぶ。
そうだっ、デュエルしてお友達になればいいんだよ。
私はデュエルディスクとデッキを持って、天上院さんの後を追いかけていった。
天上院さんを追いかけていくと学校まで戻ってきてしまった。
??何しにきたんだろう。
「て、天上院さ~ん」
学校に入る寸前に何とか追いつく。少し大きな声を出して名前を呼ぶと、こっちに気づいて振り向いてくれた。
「橘さん、どうしたの?」
ちょっと言葉が詰まる。
えっと、友達になろう?ちょっと違うよね。でもいきなりデュエルしようって言うのもへんかな~?
ちょっと悩んでいる間に、天上院さんは私の腕についているデュエルディスクに気がつく。
「ひょっとして、デュエルのお誘いかしら?」
察してくれて、助け舟を出してくれる。
私は嬉しくなって首を縦にぶんぶん振った。
「うん!デュエルしようよ!」
そんな私の様子に天上院さんはクスっと笑った。
「いいわ。じゃあ中のデュエルフィ-ルドを使いましょう」
天上院さんに案内されて学校の中に入っていく。さっきはチラッとしか見ていなかった校舎の中を楽しそうに見ていると、天上院さんはまたクスっと笑っていた。
「ここよ」
デュエルフィールドに着くと、中から妙に聞き覚えのある声が聞こえる。
耳を澄まして聞いてみると、この声は……遊城くん?
中を見てみると、遊城くん、丸藤くん、それからブルーの男子生徒の3人の計5人が居た。
「あいつら…」
天上院さんはブルーの3人を見ると表情が変わる。すこし怒った表情に変わった天上院さんにすこし聞きたいことがあった。
「えっと、あの人たちは?」
人を指差しちゃいけないことはわかってるけど、誰のことを言ってるのかわからないかなって思ってブルーの3人を指差して聞いてみる。
「……万丈目くんって言って、中等部のトップだった人よ。取り巻き共々エリート意識が強くて、ろくでもない連中よ」
その万丈目くんと遊城くんが、なにやら険悪な雰囲気で勝負だのなんだのと言っている。ひょっとしてデュエルする気なのかな?
「出来ればその実力、ここで見せてほしいものだな」
「いいぜ」
どうやら二人ともやる気満々のようだ。けれども私はそのまえに走り出していた。
「ストーップ!」
二人の間に割って入ると、何事かと皆が私に注目する。遊城くんと丸藤くんは私だとわかると安心したようだったけどブルーの3人は目を丸くしていた。
「何で止めるんだよ?舞花」
遊城くんが不満の表情で私に文句を言う。
むぅ、わかっていたけどそんな顔されるのはちょっと傷つくよ~。
「そんな険悪のままデュエルはやっちゃダメです。デュエルは楽しく、ハッピーに、だよ」
全員があっけに取られたような目で私を見ていた。特にブルーの3人は何言ってるんだ、馬鹿を見るような目で見ていた。
私、何か変な事言ったかな?
少しの間硬直した後に、天上院さんと遊城くんが笑い出した。
「ははっ!そのとおりだな。万丈目!また今度やろうぜ」
「万丈目さんだ。まぁいいだろう、興がそがれた。いくぞお前たち」
万丈目くんは踵を返すと出口に向かって歩いていった。
「ふふっ、あなた本当に面白いわね」
「?天上院さん、私何か変な事言ったかな」
その疑問を天上院さんにむかって問いかけると、その場に居た皆がまた笑い始めた。
「ううん、何も言ってないわよ。純粋ね、あなた」
「そうなのかな?じゃあ何で皆笑っているの?」
「気にすんなって」
遊城くんが笑いながら言ってきているのでやっぱり気になるけど、みんな教えてくれないんだろうなと思った。
「まぁいいや。天上院さん、デュエルしようよ」
そこまで言ったら天上院さんははっと何かに気づいた様子で時計を見た。
こっちを向いて、天上院さんは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「そろそろ寮の歓迎会が始まるわ。また今度ね」
「ええぇ~」
私も時計をみたら、確かにそろそろ歓迎会が始まる時間だった。私はしぶしぶデュエルディスクをしまう。
「あなた達もそろそろ歓迎会よ。戻ったほうがいいわ。それと、今後万丈目くんの挑発にのらないことね。あいつらろくでもない連中だから」
途中まで普通だったけど、天上院さんは万丈目くんのことを言うときに表情が少し怖くなる。何かあったのかな?
「初対面の俺にそんなことを言うなんて、ひょっとして俺にほれたか?」
「ありえないっスよ、兄貴」
いつの間にか丸藤くんの、遊城くんの呼び方が兄貴になっていた。兄弟の契りでも交わしたのだろうか?
ところで、遊城くんの言った言葉になぜか私はいらっときた。私にはそんなこと言ってないのに。
衝動的に遊城くんの足を思いっきり踏みつけていた。
「いってぇぇ!!何すんだよ舞花!」
「別に何もしてないよ~」
思いっきりジト目で遊城くんを見たら、なんだかバツの悪そうな顔になる。
俺が何か悪いことしたかよと言いたげだけど、思いっきり無視した。
「ふふっ、面白いわねあなた達」
私と遊城くんが二人で疑問符を浮かべていると、丸藤くんが慌てて遊城くんの袖を引っ張った。
「そろそろ行かないと間に合わないっスよ、兄貴」
「おぉ、ほんとだ。二人とも、また今度な」
丸藤くんに引っ張られていたはずの遊城くんは、途中で止まって私たちのほうを向いた。
「そういえば、あんたなんて名前だ?」
天上院さんに向かって遊城くんが話しかける。
「天上院明日香よ」
「そっか。俺、遊城十代。よろしくな」
それだけ聞いたら遊城くんたちはレッド寮に向かって走っていった。
残された私たちもそろそろ寮に戻ろうかなと思ったら、天上院さんがぽつんと一言言葉を洩らした。
「十代」
笑顔で言葉を洩らした天上院さんに、私は慌てる。
「ひょっとして、天上院さんほんとに遊城くんに惚れちゃったの!?」
それだとしたらどうしよう。
私は天上院さんほど美人でもスタイル良くも無いし、どうやったって勝てないよ~……ってあれ?なんで勝ち負けとか考えてるんだろ、私。
「安心して、とったりしないわよ」
天上院さんが悪戯っぽい笑顔を私に向けてそう告げる。
「と、とったりって、私と遊城くんは付き合ったりしてるわけじゃないよ~~」
あせっていたせいか、いつもよりも語尾が少し延びている。あたふたしている私を天上院さんは凄く面白そうに見ていた。
この人…S?
「じゃあ、片思いなのね」
「か、かたっ……」
私が、遊城くんに?
えええええええええええええ!!
心臓がバクバクと高鳴る。顔に集まっていく熱は今にも頭のてっぺんから湯気を発しそうなほどに熱い。
「ち、違うよ……ほら、天上院さん、そろそろ歓迎会始まっちゃうよ」
なんとか話題を反らそうとするその意図は向こうも分かっているようだったけど、時間が無いのも確かなので天上院さんも寮に戻る気になった。
「そうね、早く行きましょう。舞花」
「へ?」
聞き間違いじゃないだろうか?天上院さんは今、私のことを名前で呼んでいなかっただろうか?
「え、えっと天上院さん」
「明日香でいいわよ。もうお友達でしょう」
さっきまでと同じように天上院さんと呼んだら、訂正するように言ってくる。
お友達。この学校に入ってはじめての同性のお友達。
しかもそんなに嬉しいことを私じゃなくて、向こうからいってきてくれてもっともっと嬉しくなった。
「うん、ありがとう。明日香ちゃん」
呼びすてはちょっと無理だけど、ここではじめて出来た友達に親しみを込めてちゃんづけをした。
「今日はとっても楽しかったな~」
あの後、寮の歓迎会で明日香ちゃんはお友達の枕田ジュンコちゃんと浜口ももえちゃんを紹介してくれた。
二人とも私のことを品定めするような目で見てきたけれども、少しおしゃべりをしてるうちに自然と仲良くなれた。
ジュンコちゃんはちょっと気が強いところもあるけど実は結構やさしい人で、ももえちゃんはおっとりとしたお嬢様っていう感じの人だけどしきりにいい殿方はいませんかと私に聞いてきた。
そしたら明日香ちゃんが遊城くんのことを話して、そしたら私が遊城くんに片思いしてるってことになってしまった。
うぅ、そんなんじゃないのに。
自室のベッドの上でぼんやりとそのことについて考えていた。
目を閉じたら古代の機械巨人《アンティーク・ギアゴーレム》を倒したときの遊城くんの姿が浮かんでくる。
それを思い出すと顔に熱がいき、心臓の鼓動は大きくなっていく。
好き……なのかなぁ?
私はまだ初恋もしたことが無い。だから、これが好きという感情なのかも分からない。
ゆっくりと、これから時間をかけて分かっていこう。
今日はそういう結論をして、電気を消した。
寝付けないよ~。
時計を見てみると、時間はまだ0時のちょっと前。
さっきまで遊城くんのことを考えていたせいか、胸が高鳴ってなかなか寝付けない。
少し外でも散歩して頭を冷やしてこよう。
そう思って、パジャマから制服に着替える。制服のスカートをはいたところでコンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「舞花、まだ起きてる?」
明日香ちゃんの声だった。こんな時間にどうしたんだろうと思いつつ、はぁい、と返事をして扉を開ける。
私と同じように制服姿の明日香ちゃんがそこに立っていた。
「どうしたの?」
「……これを見て」
すっと差し出してきたのは学園のPDA。ピピっとそれを操作してメールの画面を呼び出し、一通のビデオメールを再生する。
映し出されたのは昼間の万丈目くんだった。
『天上院くん。今夜0時にデュエルフィールドで、あのドロップアウトボーイに学園の厳しさを教えてやろうと思う。よかったら見に来てくれ』
ドロップアウトボーイって遊城くんのことかな?
学園の厳しさを教えるっていうことはデュエルをするっていうことなのかな?
ちょっとよく分からない部分が多かったけど、とにかく0時にデュエルフィードで何かやるっていうことは分かった。
「行くの?明日香ちゃん」
「ええ、だからあなたも誘いに」
愛しの遊城十代のためにもね、と付け加えた明日香ちゃんに私は顔を赤くして抗議する。はいはい、と受け流している明日香ちゃんにこれ以上何を言っても無駄だということが分かったので、おとなしく引き下がることにした。
「行きましょう」
ちょうど制服に着替えていたので、私たちはすぐに寮を出てアカデミアの校舎に向かう。廊下を抜けて奥まで進むと、光が漏れている部屋がある。さっきのデュエルフィールドだ。
「もう始まってるわ」
明日香ちゃんとデュエルフィールドに入った瞬間、目に付いたのはフレイム・ウイングマン。
ちょうど遊城くんが融合召喚を行ったようだ。
「かかったな、罠カード発動。ヘルポリマー!」
万丈目くんが発動したカードはヘルポリマー。
「ヘルポリマーって?」
丸藤くんがつぶやいた声に、すかさず明日香ちゃんが説明に入った。
「相手が融合モンスターを召喚したとき、自分のモンスター1体を生贄にそのモンスターのコントロールを得るカードよ。デュエリストにとって基本的な知識よ」
「融合を使う場合、ヘルポリマー、融合禁止エリアなんかは特に注意する必要があるんだよ。ヘルポリマーは成功したときのアドバンテージが大きいけど、使うのに生贄が必要でちょっと使いづらいから、普通は融合禁止エリアのほうを使うんだけどね」
明日香ちゃんの説明に私が補足として付け加える。フィールドの遊城くんはそっかー知らなかったぜ、とまだのんきな表情を浮かべていた。
「じゃあ扱いの難しいほうをあえて使ってるのは、万丈目くんはそれを使いこなせるほどに強いってこと!?」
反対に、丸藤くんはとても不安そうな顔でフィールドを見た。遊城くんはまだまだいくぜと手札を見ていた。
「クレイマンを守備表示で召喚。ターンエンド」
返しのターンに万丈目くんはヘルソルジャーを召喚し、2体で攻撃を仕掛ける。
フレイム・ウイングマンがクレイマンを破壊し、攻撃力分の800ダメージを与える。ヘルソルジャーの攻撃とあわせて2000ポイントのダメージをうけた。
「楽しそうだね、二人とも」
ぽつんと、私は言葉を洩らしていた。
えっ、という言葉とともに私のほうを向いた丸藤くんは、どうして、と聞いてくる。
「遊城くん、まだ全然あきらめてないもん。相手がが強ければ強いほど面白いんだよ~、きっと」
私と同じように。
相手が強ければ強いほど、どうやって打ち破るのかを考えるのが楽しくなる。遊城くんも、私も同じだ。
遊城くんはスパークマンを召喚し、ヘルソルジャーに攻撃を仕掛ける。
1600-1200の400ポイントのダメージを与えた。そのとき、破壊したヘルソルジャーの剣が宙を舞う。狙いを定めたかのように遊城くんに切っ先を向け、遊城くんに向かって飛んでいった。
「モンスター効果だ。ヘルソルジャーが破壊されたとき、そのダメージは相手プレイヤーも受ける」
剣が遊城くんを貫き400ポイントのダメージ。ライフが減っていくが、この程度なら問題ないはずだよ。
「彼、ちょっと迂闊ね。モンスター効果を無視するなんて」
あきれた様な目で明日香ちゃんは遊城くんを見ていた。でも、私は違うと思った。
「ううん、ダメージを覚悟していたんだよ。少しのダメージを負ってでも、モンスターを倒さなきゃ進めないから」
遊城くんはただ退かなかっただけ。
傷を負ってでも倒そうという意志で動いたんだ。
そして、きっとそれが正解だったはず。
遊城くんはカードを1枚伏せてターンエンドを宣言した。このままじゃ、フレイム・ウイングマンにやられてしまう。
けれども、きっとあのリバースカード、それでまた逆転する気なんだ、きっと。そう思うとついつい、頬が緩んだ。
万丈目くんはターンに入るとすぐさま攻撃を仕掛けた。
「リバースカードオープン!異次元トンネル-ミラーゲート-」
その効果は相手の攻撃宣言時に、攻撃対象となったモンスターと攻撃を仕掛けたモンスターを入れ替えてバトルをするカード。
その効果により、遊城くんのばにフレイム・ウイングマンが戻りスパークマンとバトルする。
戦闘でスパークマンは破壊され、万丈目くんに500ポイントのダメージとフレイム・ウイングマンの効果で1600ポイントのダメージを与える。
「ちっ、魔法カードヘルブラストを発動!自分のモンスターが自分のバトルフェイズで破壊されたとき、破壊したモンスターを破壊して、相手にそのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える」
フレイム・ウイングマンが破壊され、その攻撃力の半分の1050のダメージが遊城くんに与えられる。これでライフポイントは550の残りわずか。
「さらに罠カード発動、リビングデットの呼び声。墓地のヘルソルジャーを特殊召喚。さらにヘルソルジャーを生贄に地獄将軍メフィストを召喚!!」
万丈目くんの場に攻撃力1800のモンスターが現れる。比べて遊城くんの場にはもう何も無かった。フィールドの状態から万丈目くんが圧倒的に有利。そのせいなのか万丈目くんはまるで勝ったかのように振舞い始める。
「オシリスレッドにしては頑張ったようだが、オベリスクブルーの俺には勝てん!これで自分の身の程をわきまえるんだな」
「それはどうかな?」
「何?」
まただ、また遊城くんのあの目。どんな状況でもあきらめずデッキを信じて戦うあの目。吸い込まれそうになりながら、私はその目を見ていた。
そっか、私は
頭の中に、またあの時の、古代の機械巨人《アンティーク・ギアゴーレム》を倒したときの遊城くんが浮かんでくる。
あの、絶対にあきらめない目を、その姿勢を、かっこいいって思ったんだ。
「頑張って、十代くんっ!」
「おうっ!!」
遊城くんのおそらくラストドロー、勢いよくカードを引き抜いた。
遊城くんのドローカード。それを見た遊城くんは明るい表情になる。
キーカードを引いたんだ。
そこで、誰かがデュエルフィールドに向かってくる足音が聞こえる。
「ガードマンが来るわ、時間外の施設利用は校則違反よ!退学になるかもしれないわ」
明日香ちゃんがそう叫ぶと、万丈目くんはデュエルを終了しようとデュエルディスクに手をかける。
「待ってよ!!」
ここで終わりにしちゃいけない。だって、遊城くんはキーカードを引いた筈なんだから。
私の声に、万丈目くんはデュエルディスクにかけたようとした手を止める。
「何だ?俺たちに退学になれというのか?」
「私がガードマンを遠ざけるから、最後までやって。お願いだよ~」
真剣な目で懇願している私を見て、万丈目くんはちっ、と舌打ちをしながらもその提案を了承する。
「おい、舞花」
心配そうな目で私を見ている遊城くんに私はニッコリと笑った。
「デュエルが途中で終わるとつまらないよ~。楽しいデュエルは最後まで、ね」
そう言うと遊城くんは納得したのか万丈目くんのほうを向いた。これでちゃんと決着がつけられる。
私はすぐに廊下に出て、ガードマンの方に向かう。
「誰だ!?」
私の目の前に、ガードマンが現れる。
懐中電灯から発せられる光が私に当たってとってもまぶしい。
「何をしている」
まぶしがっているのを考慮してくれたのか、光を下に向けてガードマンさんが私に尋問してきた。
「新入生なんですけど、夜の散歩をしていたら迷子になっちゃったんです~。女子寮まで案内してもらえませんか~?」
嘘だけれども、とっさに思いついたのはこんなものだった。普段からよく迷子になっているから頭にパッと浮かんでしまった。
「そうか……この奥には誰かいたか?」
「誰も見ませんでしたよ~」
「ふむ、今日の巡回はこの奥で終わりだが、誰もいなかったのならいいだろう。送っていってあげよう」
ガードマンさんはいい人のようで、私を信じてくれたようだ。
そのまま私はガードマンさんに女子寮まで送ってもらった。
部屋に戻ってきてベッドの上に横たわる。
遊城くん勝ったのかな~。
あの後どうなったのかは私は分からない。まだ明日香ちゃんも戻ってきてないし、早く戻ってこないかな~。
ピリリリリ
静かだった室内にPDAの音が鳴り響く。ちょっとびっくりしたけど、この音が通話機能の音だと分かると、すぐにPDAをつかむ。
明日香ちゃんかな?
そう思ってPDAの通話機能に出た。
「もしもし~?」
『舞花か?』
私が明日香ちゃんだと思って出ると、聞こえてきたのは男の子の声。
耳に響いてきたその声は、さっきデュエルしていた人だとすぐに分かった。
「遊城くんだよね?」
『ああ、無事なのか?舞花』
心配そうな口調で私の名前を呼んでくれる。それがとっても嬉しくってなんだか笑ってしまった。
「うん、それより遊城くん……勝ったよね?」
さっきから聞きたくてうずうずしていた。期待を込めた口調で遊城くんに問いかける。
『もちろん!あの時死者蘇生を引いたから、フレイム・ウイングマンを蘇生して勝ったぜ!!」
デュエルの興奮が戻ってきたのか、少し大きな声で遊城くんは説明した。
そっか、あの時のドローは死者蘇生だったんだ~。
「おめでとう、遊城くん」
やっぱり、遊城くんは逆転勝利をしていたんだ。それが分かると私もまたすっごく嬉しかった。
『お前のおかげだよ、舞花。お前があの時、ガードマンを引きつけてくれたから。何よりも、お前があの時応援してくれたから』
応援と聞いて、私は頭に疑問符を浮かべる。何かしたかなっと頭を捻った。
『なぁ、舞花。俺、このデュエルのあれはお前に一番に聞いてもらいたかったから、あの時万丈目にはやらなかったんだ』
あれってなんだろう?さっきから分からないことが多くって頭を捻りすぎてしまいそう。
『ガッチャ、楽しいデュエルだったぜ!お前のおかげだ、舞花」
電話越しに遊城くんがあのポーズをとっているのが目に浮かぶ。そうか、あれってこれのことなんだ。
遊城くんが私に一番に聞いてもらいたいって、そういってくれた事がとっても嬉しい。さっきから遊城くんは私のことを喜ばせてばっかりだよ~。
「ありがとう、遊城くん」
『十代って呼んでくれよ。あの時だってそう呼んでたじゃんか』
あの時?
私が遊城くんを十代って呼んだことなんてあったかな~?
『応援してくれたとき、十代って呼んでくれて嬉しかったんだぜ』
瞬間、思い出した。
――頑張って、十代くんっ!――
最後のドローの寸前、私は確かにそう言っていた。それを今思い出した。
私、あの時は夢中で叫んでいた。それよりも、今は私は遊城くんの言った言葉を問いたい。
「う、嬉しかったって?」
『なんか、やっと友達になれた気がしてさ』
返ってきた答えに、私はなんともいえない複雑な感情を起こされた。
友達、か……。
他の誰かに言われていたらきっと無条件に嬉しかったであろうその言葉は、彼に言われるとなんだか少し残念な気がしてしまった。
友達よりも、もっと上に……
そう考えてしまった私は欲張りなのかな?
でもきっと今はこれでいいんだ。友達として、これからちょっとずついろんなものを育んでいけるのだから。
「友達……だよ。じゃあまた明日ね~十代くん」
『ああ。また明日な、舞花』
ピッと、通話を切る。
再び戻った静寂の空間に、夜風の音がカタカタと鳴っていた。
「また明日」
夜の冷えた中を歩いていたのに、頬はまだ熱いままだった。
遊戯王OCGでは、フレイム・ウイングマンは融合召喚以外で特殊召喚をすることはできません。
ですが、アニメ内では融合解除などで特殊召喚される場合があるため、アニメ効果では蘇生制限を満たせば特殊召喚可能だと思われます。
この小説ではそちらのアニメ効果を採用しています。ややこしくて申し訳ありませんがご了承ください。