「十代くんも翔くんも、もっとちゃんと勉強しなきゃダメだよ~」
オシリスレッド寮の十代くんたちの部屋で、私は十代くんと翔くんと一緒に勉強をしていた。というか、私が二人の勉強を見ていた。
明日は月1試験の日。私たちデュエルアカデミアの生徒が必死になって勉強していい成績を取らなければいけない日だ。
特に目の前にいる十代くんたちオシリスレッドの生徒にとっては下手をしたら留年や退学になってしまうかもしれない危険性がある。にもかかわらず、十代くんは全く勉強しないでいた。
「だ~か~ら、俺は実技で勝つから大丈夫だって」
私の授業のノートを目の前にしてうねっている十代くんが、ペンを口に乗せて不満そうな顔をしている。勉強がいやだとさっきから全く身が入っていない。
「実技だけ良くってもダメですっ。筆記もちゃんといい成績をとらなくちゃ~」
ひょっとしたらそのまま寮昇格にもなるかもしれないし、そうしたら私と同じブルーになって、そうしたらもっと一緒に……
なんだか想像したら恥ずかしくなってきたよ~
少し上がっていた顔の熱を下げようと、翔くんの方を見てみる。
必死になって勉強しているのは分かるのだけれども、詰め込みすぎのような気もする。必死も必死に暗記を進めていた。
「そろそろごはんなんだな」
3段ベッドの一番上から、2人と同室の前田隼人くんの声がした。言われてみてようやく時計を見ると、確かに夕ご飯の時間だった。
「それじゃあ私は戻るね~。二人とも、明日に向けてしっかりね~」
ブルー女子寮に帰ろうとしている私の背中に向かって、十代くんが声をかけた。
「いや、舞花も一緒に食べようぜ」
振り向いてみると、ニカッと笑っている十代くん。一緒にごはんと誘われた私は、嬉しくなってついつい了承してしまった。
みんなと一緒にレッドの食堂に行ってみると、なんだか他の生徒が騒ぎ出していた。
「みんな~、ごめんだにゃ~」
その中心には、オシリスレッドの寮長である大徳寺先生がいた。なにやら申し訳なさそうな顔で生徒たちに謝っている。
「どうしたんだ?大徳寺先生」
まだ事情が分かっていない私たちの中で、十代くんが率先して大徳寺先生に何が起こったのかを聞く。すると先生は困った顔をして言った。
「実は、いつもレッドの食事を作ってくれてる人が今日はお休みなんだにゃ。で、私は料理が作れないから、今日はごはんが食べられないのにゃ」
「ええー、飯抜きかよ。なぁ、だれか料理できるやつはいないのか?」
大徳寺先生の説明が終わると、十代くんはみんなに向かって呼びかける。けれども、レッド寮の中には、料理を作れる男の子はいなかったようで、だからそもそも騒ぎになっていたのだと納得する。
「舞花!おまえ料理できないか?」
レッド寮の生徒が誰も料理できないと分かると、すぐさま十代くんは私に振る。そして、十代くんの発言と共に、レッド寮の生徒全員の目が私に向いた。
「えっと……人並みにはできるよ~」
正直言ってみんなの目線が私に集まっているので恥ずかしい。
「橘さん、みんなのためにも料理を作って欲しいんだにゃ~。お願いだにゃ~」
「「「「お願いしますっ」」」」
大徳寺先生が両手を合わせて必死に私に頼み込んでくる。しかも周りのレッド生徒もみんな私に向かって頭を下げていた。翔くんまで。
「わ、わかりました」
結局、その場の空気にのまれてしまった私は、その申し出を受け入れてしまった。
食堂の調理場に行くと、すでに材料が出ていた。誰かが頑張って作ろうとしたのだろうか?ひとまずその材料を確認して、何を作るか考える。
……お味噌汁を作る材料とめざし、それからたくあんしかないよ~。
成長期にこれって大丈夫なのかな?疑問に思いつつ他の材料を探して冷蔵庫を見てみる。冷蔵庫の中にもほんの少しだけ他の材料が入っていた。
男の子ならお肉が食べたいかなって思ってたけど、お肉が全く無い。これで作るの?
なんだかめざしを焼いてお味噌汁を作るのが精一杯なんだけど。いつもこんな料理なのかな?
「十代くん、レッドの献立っていつもはどんなの?」
「いつもめざしと味噌汁とごはんとたくあんだぜ」
それだけなんだ…。というか今私が想像した料理そのままだ。
毎日それじゃあ飽きちゃうよね、と私は材料を見ながら他に何かできないか思案する。
とりあえず、こんな感じかな?
今、頭の中で想像したものを形にしていく。
包丁をトントンと叩いて材料を切っていき、お味噌汁のなべへと入れていく。だしはしっかりと鰹節でとっておいた。材料を煮ていって、最後に味噌を溶いていく。
お味噌汁の準備が整った後、もう一つの準備を始める。
めざしをちょうどよい頃合まで焼いた後、身をほぐす。もやしとほうれん草をボイルして、先に焼いためざしと合わせていく。
簡単になっちゃったけど、こんな感じで良いかな。
「できました~」
材料のこともあったけど、私のレパートリーじゃ結局変わったものは作れなかった。目の前にあるのは、みんなにとって見慣れた味噌汁とごはん。それから私が作ったのは
「舞花、これなんだ?」
「めざしのサラダだよ~」
十代くんが不思議そうな顔をして指を指したのは、唯一いつもと違う献立。とはいっても結局はめざしなんだけど。
ふ~ん、とよく分からなさそうな顔をして、十代くんは料理に箸をつけた。
な、なんだかドキドキするよ
十代くんに自分の料理を食べてもらうことに、少しばかり緊張していた。
十代くんが箸で掴んだ料理を口へと入れる。もぐもぐと何回かかんだ後に、ごくんと飲み込むと、ニカッと笑って一言。
「うめぇ!」
その後はがつがつと一気に食べていく。周りからもおいしいおいしいとの声が聞こえてきた。
よかった~
ほっと安堵の息をつく。安心してなんだか脱力した。
「いつものよりうまいんだな」
ちらっと一言、隼人くんがそんなことを洩らすと、周りからも賛同の声が上がる。
褒めてくれるのは嬉しいんだけどな~。
「そうだ!舞花、これから毎日料理作ってくれよ」
毎日、料理……
毎朝、お味噌汁……
夫婦?
あわわわわわ!
そんな、私たちまだ高校生だよ!早いよ!
「どうしたんだ?」
とたんに真っ赤になった私を心配して十代くんが私の顔を覗き込んでくる。正面に十代くんの顔が現れ て、私の顔はより熱を増していった。
「なななな何でもないよっ」
落ち着こう私。十代くんはそんなつもりで言ってない。少し深呼吸しよう。
吸って~、吸って~、吸って~、はいて~。
ようしっ、落ち着いたよ
「それじゃあ十代くんまた明日」
「あ、ああ」
十代くんの返事も聞かずに一目散にレッド寮を出て行く。落ち着いたからこそさっきまで自分が考えていたことが余計に恥ずかしい。
明日のテスト、だいじょうぶかな~
テストの日、私はいつもどおりに目が覚めた。
明日香ちゃんたちと朝ごはんを食べた後、学校へと向かう。
教室に入ると、テスト前の最後の時間に必死になって勉強している生徒がたくさん見えた。
みんなぴりぴりしてるよ~
ふといつもの席を見てみると、そこには翔くんの姿はあったものの、十代くんの姿は無かった。
寝坊かな?
でも、翔くんが十代くんを置いてくるというのもおかしい。何かあったのだろうか?
しかし翔くんに聞こうにも、必死にノートを見返している翔くんに話しかけるのもなんだか悪い気がした。まだ少し時間もあったので、なんとなく外を探してみることにした。
ぴりぴりとした空気の張り詰める教室を離れたら、なんだか外の空気が美味しい。軽く体を伸ばして日光に当たると気持ちがよかった。
「あれ?」
2.0の自慢の視力で、少し離れた所で何かが動いているのが見えた。
目を凝らしてよく見てみると車の姿だった。しかし、何かトラブルでもあったのか、エンジンを使って坂道を登ってきているのではなく、誰かが後ろからそれを押して動かしていた。重量のある車を一人で押しているので、遠目にもその人が辛そうにしているのが分かる。
手伝わなくっちゃ
私はすでに走り出していた。
「手伝いますよ~」
はぁはぁと少し呼吸を乱した私がそこに到着するや否や、私も車の後ろに入って押し始める。今まで車を押していた人は、びっくりした表情で私のことを見た。
「ちょっと、いいよ、今日はテストだろ?遅刻しちゃうよ」
車を押していたおばさんが私を心配して言ってくる。けれども私としてはほっといてテストを受けてたら気になって集中できないし、気づいてしまった以上手伝わなくちゃ気分が悪い。
「大丈夫ですよ~。それより、早く頂上まで押しましょう」
う~ん、と腕に力を込めている私を見て、おばさんは悪いねぇと一言だけ洩らして押し始めた。けれども非力な私の力が加わっただけではあまり意味が無く、車はあまり進まない。
どうしようと考えているうちに、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「遅刻だ遅刻だぁ!!」
最初に会ったときのように、叫びながら走ってくる十代くん。私たちの横まで来ると、勢いを緩めて止まった。
「俺も手伝うぜ!」
十代くんはすぐさま私たちと同じように車を押し始めた。男の子の力が一つ加わっただけでさっきとは段違いに車が動いていく。
「でも、十代くん遅刻しちゃうよ」
そう、私と違って十代くんはオシリスレッドだ。悪い成績をとればそれだけで退学の要因になりかねない。けれども十代くんはおばちゃんの方を目で指して一言。
「困ってる人をほっとけないだろ。困ったときはお互い様さ」
「すまないねぇ、二人とも」
十代くんが言った言葉に、おばちゃんが感謝の意を示す。
十代くんも私と同じようなことを思ってくれたのが少し嬉しかった。
「ありがとう二人とも」
おばちゃんからお礼をもらうとすぐに、私たちは試験の教室に走り出した。
何とか辿り着いたら、すでに時間は30分も経過していた。
「ぐぅ、ぐぅ」
教室では、みんなが頭を捻っている中、一人だけ机に突っ伏していびきをかいている人がいた。レッドの制服に水色の髪の毛、翔くんだ。
「兄貴~、ごめんよ~」
「許さ~ん、絶対に許さんぞ」
翔くんの寝言に返事をする十代くん。翔くんはその言葉を聴いてすぐに起きた。
「あ、兄貴」
十代くんを確認すると、翔くんは苦笑いを浮かべる。何か後ろめたいことでもあったのだろうか?罪悪感が見えた。
「二人とも~、さわいじゃダメだよ。早くテストを受けようよ」
二人が騒いでいる間に、大徳寺先生から答案用紙をもらってきた私は、十代くんに手渡した。
「ああ、分かってるって」
私から答案用紙を受け取った十代くんは、翔くんの隣に座って試験を受け始めた。私も自分の席に座って試験問題を見始める。
ほんの数分、問題を解いたと思ったら、さっきと同じ方向から、再び誰かのいびきが聞こえた。それも、今度は二人分。
十代くんも翔くんも寝ちゃダメだよ~
けれども試験中に声を出すわけにもいかないので起こすことはできなかった。しょうがない、十代くんは昨日言ったとうりに実技で何とかするだろうし、翔くんも昨日あれだけ勉強していたのだから寝る前にある程度できているよね。
あきらめて私は自分の問題用紙に鉛筆を走らせ始めた。
「これで筆記テストは終了、実技テストは午後から体育館でおこないま~す」
スピーカーから大徳寺先生の声が響く。それを合図にみんなが鉛筆を置いて、筆記テストは終了した。
「「「「うおおおおおおおお」」」」
「へ?なに?」
試験終了と同時に、教室にいたみんなが外に出て走り出した。
なんだか鬼気迫るような感じで飛び出していくみんなの姿を私は目をぱちくりさせながら見ていた。
「明日香ちゃん、何があったの?」
みんなと違って教室の外に飛び出していかなかった明日香ちゃんに今の現象の説明を求める。
「購買に新しいカードが入荷されるのよ。みんな午後の試験のためにレアカードを買いにいったのよ」
「明日香ちゃんはいいの?」
新しいカードを買えば、それが強力なカードなら午後は格段に有利になる。けれども明日香ちゃんはあせった様子も無く教室に残っていた。
「私はいいわ。今自分のカードを信じられないようじゃデュエリストとして失格じゃない?」
当たり前じゃないといった風に明日香ちゃんは言ってのける。
「でも、どんなカードが入ったのか見たくない?」
「え……そうね、ちょっとは」
「じゃあ行こうよ、十代くんたちも購買行かない~?」
明日香ちゃんの手を掴んで、同じように教室に残っていた十代くん、翔くん、三沢くんにも声をかける。3人もその話をしていたらしく、乗り気な顔を見せていた。
「ああ、速く行こうぜ、売り切れちまう」
「うん、行こう~」
教室を出て、今度は購買部に向かって走り出した。
「あれ?誰もいないよ~」
さっき出て行ったはずの大勢の人はこの購買部に向かっていたはずなのに、いざついてみると購買部には人の影が全く無かった。
「もう全部売れちまったのか?」
十代くんが言った言葉が、きっとそのまま真実なのだろう。みんなはすでにカードを買って戻ってしまったのだろう。
「お姉さん、カードはどうなりました?」
とりあえず確かめるために、私はレジに立っているお姉さんに聞いてみた。
「それが、たくさん買っていった生徒さんがいたから」
レジの奥からごそごそと何かをあさっている。そこから取り出したのは一つのパックだった。
「もうこれしかないのよ」
申し訳なさそうな表情で私たちの前にそのパックを置く。あと一つのパックを誰が買おうか?
「……私はいいよ~、今の自分のデッキが気に入ってるから」
「私もいいわ。もともと買うつもりも無かったもの」
私は元々買いに来たというよりも見に来たのだ。私としては今のデッキのままがいい。明日香ちゃんもさっき言ったとおり買うつもりは無いようだ。
それに今カードが必要なのは、実技の成績しだいでは退学もありえる二人の方なのだから。
「俺もいいから、翔が買えよ」
十代くんもいらないと翔くんのほうにパックを渡す。その姿を見た翔くんは受け取る前に少し慌てる。
「いいの?アニキだってカードが必要なんじゃ」
「気にすんなって、いいから買えよ」
遠慮している翔くんの手にパックをのせる。これで翔くんが買うことは決定した。
「それじゃ、実技までの時間でデッキを組みたてよ~」
「お待ち」
レジの奥から、なんだか聞いたことのある声がした。奥から誰かが歩いてきたかと思うと、そこにいたのは少し太ったおばさん。
「あ、今朝のおばちゃん」
今朝車を押していたおばさんだった。
「おばちゃんじゃないよ、トメって呼んで」
「トメさんって購買部のおばちゃんだったのか」
今朝助けたおばちゃんとこうしてもう一度会えたのはなんだか嬉しい。
そのトメさんはなんだか楽しそうに笑っていた。
「ほら、二人に今朝のお礼だよ」
そういってトメさんは私たちに二つのパックを手渡してくれた。
「「ありがとう、トメさん」」
私と十代くんが同時にお礼を言うと、トメさんは照れくさそうにいいよいいよと言ってくれた。
私と十代くん、そして翔くんはさっそくもらったパックを開けてみた。
「お、進化する翼だって、面白そうなカードだな」
十代くんはパックから出たレアカードをみて喜んでいた。翔くんはあまりいいカードが出なかったようで、少し残念そうな表情を浮かべていた。
私の空けたパックからも、レアカードが出てきた。それを見て表情を硬くしていた私のほうを気にせず、みんなが私の持っているカードに注目した。
「お、ウルトラレアカード」
「魔法使い族のサポートカードじゃない、よかったわね、舞花」
みんなが嬉しそうに騒いでいる中、私はあんまりいい表情を出せなかった。
「どうしたんだ?嬉しくないのかよ」
「え?ううん、嬉しいよ~」
言った手前、どうしようもなかったので、私はそのカードをデッキの中に入れる。
大丈夫……大丈夫……
言い聞かせるように、私は心の中でつぶやいた。
「じゃあ、午後のテストまでにデッキ調整しようぜ」
―side万丈目―
畜生
今までは自分一人でいることなんてほとんど無かった。俺の行くところには必ず誰かが付いてきて、そして俺はそいつらを引っ張っていた。なのにだ
――オシリスレッドに負けた
その事実が俺のすべてを消し去った。
あの日、入学式の後に行った遊城十代とのデュエル。俺は勝てると思っていた。いや、ほとんど勝っていた。だが、あいつは
『死者蘇生で、フレイムウイングマンを特殊召喚』
最後の一枚
たった一枚のドローカードで全部ひっくり返しやがった。ムカつくぜ、戦略を馬鹿にしたような引きしやがって。
そう、俺は実力で負けたわけではない、だが、取り巻きのあいつらは
――オシリスレッドに負けた雑魚
そういって、俺の元から去っていった。あいつらは一体何を見ていたんだ?デュエリストとして、明らかに俺のほうが上だったというのに。
そして、いつの間にか俺がレッドに負けたという噂が広まっていた。そしたら、今まで俺に負け、俺にこびてきたすべての連中が、手のひらを返したように俺のことを見下し始めた。
俺よりも弱い連中がっ!
俺はデュエルキングになる
それは兄さんたちと誓った約束であり、果たさなければならない俺の義務だ。いや、デュエルキングになること、それは俺の夢なんだ。
だから、こんなところで足踏みなんてしていられない。俺はクロノス教諭の元に行った。
「クロノス教諭、俺を遊城十代と戦わせてください」
もう一度デュエルすれば、今度は必ず俺が勝つ。大勢の前で俺のほうが上だということを、俺を馬鹿にしてきたやつらに証明する。
しかし、クロノス教諭は、顔をしかめてこう言った。
「それはダメなノーネ。アナタがドロップアウトボーイに負けたという話は、私も知っているノーネ」
俺は唇をかみ締めた。こんなところにまでそのことは伝わっていたのか。ならばもう全校生徒が知っていてもおかしくは無い。
「あれはただのマグレです。今度はどうやったって俺が勝つ」
拳を握り締めて、クロノス教諭に気合を見せ付ける。しかし、クロノス教諭は首を横に振っていた。
「ダメなノーネ。アナタはブルーとしての力が足りてないノーネ。そこで、今回の実技試験ーデ、アナタが負けたらラーイエローに降格してもらうノーネ」
クロノス教諭からの宣告に、俺は絶句した。
降格だと?冗談じゃない。
こんなところで俺は足踏みしている場合ではないんだ。デュエルキングになるために、俺は降格なんてしている暇は無いんだ。
「相手は……そうでスーネ、アナタが中等部の時から合わせて戦っていないブルー生徒のシニョーラ橘にするノーネ」
「橘……あの遊城十代と一緒にいる女か」
あの女は確かに高等部編入組。外部の男子はブルーに入れないから確かに俺が手合わせしたことのない唯一のブルー生徒だ。それに
あいつもクロノス教諭に勝ったんだ。
それだったら十代でなくとも、あいつらを見返す分にはいいかもしれない。
どちらにしても俺に拒否権なんて無いんだ。あいつに勝って、俺はブルーに残留する。
「分かりました」
踵を返して、俺はその場所を後にする。あいつに負けるとも思えないが、念には念を入れるべきか。
俺は購買部に向かって走っていった。
―side舞花―
「万丈目くんが相手なんですか~?」
実技試験の会場で、目の前にいる対戦相手を見て私はその場にいたクロノス先生に尋ねる。
「そうでスーノ。同じ色だカーラ、問題ないノーネ」
確かに同じブルーだけれども、私は同じ女子と戦うことになると思っていたから驚いていた。でも万丈目くんなら相手にとって不足は無い。強い相手ならそれはきっと楽しいデュエルができるから。
「じゃあ、よろしくねっ、万丈目くん」
ニッコリ笑って万丈目くんに手を差し出す。けれども万丈目くんは何も言わないでさっさとデュエルの定位置についてしまった。
「さっさとしろ、始めるぞ」
左腕につけたデュエルディスクを起動させる。万丈目くんはすでにデッキの上から5枚のカードを引いていた。
「ま、待ってよ~」
慌てて私も定位置について、ディスクを起動させる。カードを5枚引いて、いつもなら何も迷わず手札を見る。けれども私は気になっていた。
万丈目くん、何か変だよ
私は別に万丈目くんとたくさんお話したわけではないし、そんなことを分かるくらい万丈目くんのことを知っているわけでもない。しかし、そんな違和感とも言える何かを感じていた。
焦ってる、怖がっている、不安がっている。
その感情は私には分からなかったけど、私には知ることはできないけれども、楽しいデュエルをすれば、きっと笑顔になると信じて。
「「デュエル」」
デュエルディスクが、私の先行を告げた。
「私のターン、ドロー!私は白魔導師ピケルを召喚」
白魔導師ピケル
ATK1200
手札から召喚された小さな白魔導師。その愛らしい姿がソリッドビジョンとなって映し出された。その途端
「「「「かわいい~~」」」」
客席の多数の女生徒から、黄色い声が飛んできた。ソリッドビジョンによって映し出されたピケルは、私も含めて女の子にとってはかわいくって抱きしめたくなるよ。
ただ、女の子の声に混ざって低い男声が聞こえてきたのは少し寒気がしたけれど。なんだか聞き覚えのある声が聞こえた気がした。恐る恐る客席の方を見ると三沢くんがなんだか頬を赤らめてピケルのほうを見ていた。
……見なかったことにしよう~
少しずれていた思考をデュエルに戻す。万丈目くんはピケルの登場をみて余裕の表情を浮かべていた。少なくともピケルよりは攻撃力の高いモンスターがいるということだろう。なら
「さらに手札から王女の試練を発動するよ。ピケルの攻撃力を800ポイントアップ」
白魔導師ピケル
ATK1200→2000
「ターンエンドだよ」
攻撃力2000のピケルを前にして、万丈目くんは全く余裕の表情を崩さない。何か手があるのだろうか?
「俺のターン、ドロー。俺は手札からV-タイガージェットを召喚。さらに永続魔法前線基地を発動。このカードの効果によって1ターンに1度、レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。俺はW-ウイングカタパルトを特殊召喚」
次々と並んでいく万丈目くんのモンスターたち。その展開力は見事としか言えない。
「そして、俺はこの2体のモンスターを合体させる。出でよ、VW-タイガーカタパルト!」
万丈目くんの場の2体のモンスターが合体して、一つのモンスターとなる。その合体ロボットのような合体は、昔のアニメのようだ。
個人的には合体ロボはとってもかっこいいって思うんだよ~。
VW-タイガーカタパルト
ATK2000
それでもまだピケルと同じ攻撃力。ひとまずこれなら安心と私は胸をなでおろす。
「VW-タイガーカタパルトのモンスター効果発動!手札を1枚捨てることで、相手モンスター1対の表示形式を変更する!ピケルを守備表示に変更だ!」
「そんなっ!」
ピケルの表示形式が変わる。
今まで臨戦体制だったピケルは両手を交差して膝をつき、無防備な守備力をさらけ出した。
白魔導師ピケル
DEF0
「バトルだっ!VW―タイガーカタパルトでピケルに攻撃!!」
タイガーカタパルトとから2発のミサイルが発射される。ミサイルは一直線の弾道を描き、ピケルに直撃した。
爆風が起こり、煙が立ち込める。その煙が晴れた時、私のフィールドのピケルは消えていた。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」
やっぱり…
せっかくピケルを破壊したというのに、万丈目くんは全く嬉しそうじゃない。最初に感じたとおり、万丈目くんは何かに苦しんでいる。
デュエルを楽しんでいない
その事が、わかってしまった。
「私のターン、ドロー」
いつものように、引いたカードを手札に加えようとする。しかし、私はそのカードを確認すると共に、
そのカードを落としてしまった。
このカードは……
さっきトメさんからもらったパックに入っていたカード。確かに強くて、そして私のデッキにぴったりのレアカード。でも私は……
「何をしている!さっさとターンを進めろ」
万丈目くんの声が聞こえた。そしてその声から、聞こえてきたものがあった。
それに気づいたとき、私は落としたカードを拾う。この使い方をしたらきっと怒られる。けれども私は、この使い方をしたい。
私のデュエルの楽しみ方はこうだから。そして、万丈目くんもデュエルを楽しんで欲しい。
『大丈夫だよ』
声が、聞こえた。今までに聞いたことの無い、でも何故だか知っている声。見ると、私の手札にいる1枚のカードが笑っていた。
ジュニア……
私はまた、いつものように、デュエルをしているときの笑顔になる。心強い、私の頼れるパートナーがそこにいるから。
「私はマジシャンズヴァルキリアを守備表示で召喚するよ、カードを2枚伏せてターン終了」
マジシャンズヴァルキリア
DEF1800
守備表示で現れた魔法使いの女の子。他のモンスターと同様に、両手を組んで膝をついて守りの体制に入った。
「俺のターン、ドロー。手札のX-ヘッドキャノンを召喚、さらに前線基地の効果によりZ-メタルキャタピラーを特殊召喚」
万丈目くんは1ターン目と同様の展開力を見せ、場にモンスターを並べていく。
X、Z、ときたのだ。おそらく、このターン中にもう1枚来るはず。
「さらに罠カード発動!リビングデットの呼び声!このカードの効果で、俺は墓地のY-ドラゴンヘッドを特殊召喚!そして」
予想どおり万丈目くんはYまで場に揃えてきた。つまりこれで合体モンスターがすべて揃った。
「XYZを合体させ、XYZ-ドラゴンキャノンを特殊召喚!」
圧巻の一言。
万丈目くんの場には攻撃力2000を越えるモンスターが2体並んだ。
「まだだ、俺はさらにこの2体を合体!VWXYZ-ドラゴンカタパルトキャノン!!」
大型の2体のロボットが一つに合体する。
さっきよりもさらに大きい1体のロボットが姿を現した。
VWXYZ-ドラゴンカタパルトキャノン
ATK3000
「VWXYZの効果発動!1ターンに1度、相手の場のカード1枚を除外する。マジシャンズヴァルキリアを除外しろ!アルティメットデストラクション!!」
VWXYZの胸の砲台から青いエネルギー波が発射される。マジシャンズヴァルキリアにあたったらひとたまりも無いだろう。
ドクン、と心臓が揺れる。
あのカードを開くタイミングは、今!
「リバースカードオープン!速攻魔法、ディメンション・マジック!!」
エネルギー波がマジシャンズヴァルキリアに直撃すると思った刹那、マジシャンズヴァルキリアの姿が光の粒子となって四散する。
「サクリファイスエスケープだ!」
なぜか、客席にいる三沢くんの声がはっきりと聞こえた。そして、それに対するほかの人の声までも。
「サクリファイスエスケープ?」
翔くんの声、そしてその声は三沢くんに対して説明を求めていた。
「相手の効果の対象となったモンスターを生贄に捧げることによって、その効果をかわす高等テクニックだ!」
その言葉のとおり、VWXYZのエネルギー波は対象を失って空振りした。そして私のディメンションマジックの効果はまだ続く。
「ディメンションマジックは、自分のフィールドに魔法使い族モンスターがいるとき、モンスター1体を生贄に捧げて発動するカードだよ。私は手札の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚するよ!」
手札のカードのうちの1枚。それはさっき私を励ましてくれたカード。
行こう、私と一緒に。
「ジュニア・ブラック・マジシャンを特殊召喚!」
現れたのは小さな黒魔術師。ブラックマジシャンをデフォルメされたようなその姿と、そのポージングで、私のフィールドに降り立った。
ジュニア・ブラック・マジシャン
ATK1000
「まだディメンションマジックには効果がある。特殊召喚に成功した時、フィールド上のモンスター1体を破壊できる」
客席の三沢くんの呟きが聞こえる。
そう、本来ならディメンションマジックにはもう一つの効果がある。けれども、私は……
「……万丈目くん、バトルフェイズに入る?」
「何を言っている!?まだお前のディメンションマジックの最後の効果が残っているだろう?」
悔しそうに、目を私に向けて万丈目くんは言い放つ。
ここで私が発した言葉はきっと誰しも予想しなかっただろう。
私は覚悟を決めて、微笑んだ。
「破壊効果は、任意効果だから、使わないのです~」
一瞬、体育館内の音が消えた。
みんなが私の発した言葉の意味を理解できなかったのだろう。そして、いち早くその意味を理解した万丈目くんは、私に怒りを向けた。
「ふざけるなっ!!手加減でもしているつもりか!?俺を馬鹿にするな!!」
万丈目くんの怒鳴り声が、無声だった館内に響き渡る。それを皮切りにして、客席にいるみんなも騒ぎ出した。
「ふざけてないよ」
ぴたっと、再び館内の声が止まる。万丈目くんは目を見開いていた。
「これが私のデュエルだから。私は、カード効果で相手のモンスターを破壊するのが大嫌いだから。
私はデュエルを楽しみたい。私は相手の全力と戦いたい。全力で相手のモンスターとぶつかり合いたい。だから私はモンスターを破壊するカードは1枚だって使わないよ」
これは私の意地なのかもしれない。でも、私はやっぱり、モンスターを破壊するカードを使いたくない。
自分の信頼しているカードが、汎用除去1枚で消えてしまうのは、どうしても嫌だから。
みんなが絶句している中、万丈目くんは肩を震わせていた。
「……バトルフェイズ。VWXYZで、ジュニア・ブラック・マジシャンを攻撃!」
「リバースカードオープン、攻撃の無力化。相手の攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了するよ」
再び放たれたエネルギー波。しかしそれは時空の穴へと消えていった。
「……ターンエンドだ」
万丈目くんは怒ってる声を出すまいとしているのか、少し静かだ。
「私のターン、ドロー。魔法カード強欲な壷を発動するよ。デッキからさらにカードを2枚ドロー」
手札に入ったカードは、きっとそうだろうと思っていた。来ると信じていたからこそ、ジュニアを召喚したのだから。
「万丈目くん」
私はメインフェイズに入る前に、万丈目くんに声をかける。
万丈目くんは、私の言葉を聞きたくないのか、目をそむけていた。
「どうして、デュエルを楽しまないの?」
私の発した言葉に、万丈目くんは反応する。歯をくいしばり、さっきよりも怒りをあらわにしている。
「楽しむだとっ!?デュエルとは、相手に勝つためにするものだ!そして、俺は勝ち続けてデュエルキングになる!!デュエルを楽しむ必要など無い!!」
万丈目くんは怒りの表情で、怒声で、私に向かって言い放った。
でも、だったらどうして
「なら、どうしてそんなに苦しそうなの?」
万丈目くんは瞳に苦しみを宿していた。遠目にも、私にはっきりと見えるくらいに。
「黙れっ!!」
「黙らないよっ!!万丈目くんだってほんとはデュエルを楽しみたいんでしょ?」
私はさっき引いたカードを表にする。
場にいるジュニアの姿が光となって消えて行き、その光が集まって、私の持っているカードに吸収されていく。
「万丈目くんの、1番大切なカードは何?デュエルは……」
私は手に持っているカードを、デュエルディスクへとセットした。
「1番大好きなカードを使って戦う時、1番楽しいんだよっ!!最後まで……私と共にっ!来て、ブラック・マジシャン!!」
フィールド上に現れたのは、ジュニアと違ってデフォルメされているわけではない、普通の、私の最も大切なカード。
紫色の衣をまとった黒魔術師が、召喚された。
ブラック・マジシャン
ATK2500
「ジュニアはブラック・マジシャンを生贄召喚する時、1体で2体分の生贄とすることができる。そして、ジュニアを生贄にして召喚したブラックマジシャンは攻撃力が1000ポイントアップするよ」
ブラック・マジシャン
ATK2500→3500
「バトル!ブラック・マジシャンで、VWXYZ-ドラゴンカタパルトキャノンを攻撃!ブラック・マジック!!」
ブラック・マジシャンの杖先から放たれた闇の魔法。VWXYZに当たると、VWXYZは爆音と共に破壊された。
万丈目
LP4000→3500
「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
万丈目くんは、黙っていた。自分の胸に手を当てて、そこにある何かを握り締めるようにしていた。
「俺のターン、ドロー。手札から装備魔法、再融合を発動。ライフを800支払い、墓地にいる融合モンスターを特殊召喚する」
万丈目
LP3500→2700
万丈目くんの墓地から、つい今さっき倒したVWXYZが復活する。
「VWXYZのモンスター効果発動。ブラック・マジシャンを除外する」
今度はかわす術が無い。私のフィールドのブラック・マジシャンは、ゲームから除外され、私のフィールドから消えていった。
「1番好きなカードを使って戦う?何を言っている。デュエリストにとってカードは戦うための道具にすぎない。俺はお前らとは違う!楽しいかどうかなど、好きかどうかなど関係ない。そんなカードになど頼らず、俺は自分の力で戦う!!VWXYZでプレイヤーにダイレクトアタック!アルティメットデストラクション!!」
VWXYZから放たれた青のエネルギー波が私の体を貫いた。
「きゃぁ!!」
3000ポイント分の衝撃が私の体を襲う。飛ばされてしまいそうな力から、必死になって体を支えた。
舞花
LP4000→1000
「万丈目くんにだって、あるはずだよ。自分と共に戦ってきて、自分の最も信頼できるカードが。じゃなきゃそんな目をするはずないよね?」
万丈目くんの目には寂しさが映っていた。それは、自分の信頼するカードと共に戦わないことの寂しさ。
きっと万丈目くんにだって、自分の1番好きなカードを使って楽しくデュエルをしていた時期があったはずだ。けれども、どうして今はそんなにつらそうにデュエルをするの?
「黙れっ!そんなことは関係ない!!俺はただ、強くなってデュエルキングになるだけだっ!!ターンエンド」
「エンドフェイズ、リバースカードオープン!闇次元の開放を発動!ゲームから除外されている闇属性モンスター1体を特殊召喚するよ。戻ってきて、ブラック・マジシャン!」
私のフィールドに舞い戻るブラックマジシャン。
このタイミングでの帰還に、万丈目くんは私のもう1枚のリバースカードに目を向ける。そして、万丈目くんの考えていることは多分正解だ。
「私のターン」
なんなんだろう?このデュエル。
いつもなら、このデュエルはどれだけ楽しめていたのだろう?VWXYZを高速召喚するその手際。倒したVWXYZを復活させて繰り出してきた見事な反撃。
さっきまで私の有利だったというのに、いつの間にか形勢は私の不利。こんなに楽しいデュエルなのに、万丈目くんは苦しんでいる。
終わらせよう
意を決して、私はカードを引いた。
「私は装備魔法、魔術の呪文書をブラックマジシャンに装備するよ。その効果により、ブラック・マジシャンの攻撃力は700ポイントアップ。VWXYZに攻撃!ブラック・マジック!!」
ブラック・マジシャン
ATK2500→3200
さっきと同じビジョンが、フィールド上で行われる。ブラック・マジシャンの闇の魔法によって、VWXYZが破壊された。
万丈目
LP2700→2500
「ねえ、万丈目くん」
VWXYZが破壊され、万丈目くんは悔しそうに目を瞑っていた。私の声はおそらく届いていると思う。
「私はね、デュエリストは自分の信頼するカードと一緒に強くなっていくと思うんだ」
そっと、ディスクにせっとされているブラック・マジシャンのカードを撫でる。いままでずっと一緒に戦ってきたそのカードの表面の傷を、やさしく撫でた。
「だから、ただ自分ひとりで、ただ苦しんでいる万丈目くんは、このままじゃデュエルキングになんて……なれないよ。リバースカードオープン」
私のフィールドで開かれたリバースカード。それは『未来王の予言』。このターンの召喚を封じて、もう1度攻撃を行えるカード。
そのカードが告げるのは、このデュエルの終焉。
「ブラック・マジシャンの追加攻撃!ブラック・マジック!!」
「畜生……」
ブラック・マジシャンの杖先から、黒い球体が形成される。大きくなったその球体が、ブラック・マジシャンの杖から離れ、万丈目くんにぶつかった。
「ちくしょぉぉ!!!」
万丈目
LP2500→0
デュエルの勝敗が決した。
万丈目くんはその場に座り込み、放心していた。
私は万丈目くんに近づいていき、手を差し伸べた。しかし
バシィン!!
私の差し出した手を万丈目くんは払いのけた。キッと私をにらめつけて、言った。
「俺はデュエルキングに…ならないといけないんだ!!それなのに、なぜお前たちのようなお気楽デュエリストが俺の道を阻む!!」
今、私にははっきりと見えた。万丈目くんの背中の後ろにある、重圧。デュエルキングにならなくては『いけない』その大きなプレッシャーが。
「万丈目くん……」
「くそっ!!」
万丈目くんは走って行った。有無を言わさないその背中を多くの人に見せ付けて。
「あ……」
頬を、冷たい感触が流れていく。
私は……泣いていた。
私は無責任だったんだ。私には万丈目くんの背負っているものも、万丈目くんの何も知らなかった。なのに私は勝手なことを言って、ただ私の考えを押し付けようとしていた。
どうして、こんなにデュエルをつらく感じているんだろう?万丈目くんは、どうしてこんなにつらいのにデュエルをしているんだろう?
「舞花……」
いつの間にか、十代くんが私のそばに来ていた。そっと、私の頭を撫でてくれていた。
「うわぁぁぁんん!!」
何もかまわず、私は十代くんの胸に顔をうずめて、大きな声で泣いてしまった。
十代くんは私が泣き止むまで、優しく私の頭を撫でてくれていた。
万丈目くんは、次の日から、学校に来なくなってしまった。