遊戯王GX 魔法使いの少女   作:時任 嵐

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5-turn ユメ

 傷つけてしまった万丈目くんの心。

 その事実によって、傷ついてしまった私の心。

 

 

 あの日の次の日。私は万丈目くんに謝りに行こうとしていた。しかし、授業の時間になっても万丈目くんが現れることはなかった。

 その日の授業が終わると私はすぐに探しに行った。

 ブルー寮には帰っていないと言われたとき、一つの可能性が頭によぎった。それを確かめるべく、港へと向かう。

 港にはブルー寮の、アカデミアのカイザーと言われた丸藤亮さんがいた。そして、私は確かめるべく、その人に向かって口を開く。

 

――万丈目くんを見ませんでしたか?

 

 カイザーさんは、一瞬も思考することなく、答えてくれた。

 

――島から、出て行った。

 

 その答えが耳を通ったとき、私の目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「舞花、いい加減に出てきて」

 

 部屋の外で、明日香ちゃんの声が聞こえる。私に出て来いと言っている。無理も無い、あの日から4日間、私は部屋を出ていなかった。

 部屋の中で、部屋の隅でずっと座っている私は答える力さえも無かった。

 

「十代はまた今日も寮の前まで来てたわよ。みんな貴方を心配してるわ」

 

 ああ、私はみんなに迷惑をかけているのか。

 自覚はしていた。そして、罪悪感も感じていた。けれども、私の体は出て行こうとはしなかった。出て行く力も、気概も無かった。

 

 私は、傷つけてしまったのだ。

 

 あの後、私はクロノス先生に事情を聞いた。あのデュエルに負けたら、万丈目くんはラーイエローに降格だったということを。

 パズルのピースが、あの時欠けていたピースが嵌っていった。

 万丈目くんが、楽しむこともせず、ただデュエルに勝とうと必死だった訳を。万丈目くんが、あんなにデュエルを怖がっていた訳を、私は知った。

 

 私は何をしていたんだろう?

 

 あんなに追い込まれていた万丈目くんに、私は自分の考えを押し付けようとしかしていなかった。万丈目くんが苦しんでいることを、私は気づいていたのに。

 私はどうして……

 

 万丈目くんの背負ったものを、感じることができなかったんだろう

 

 万丈目くんがデュエルキングにこだわる訳を、私は知っているわけではない。

 でも、あの背負っていた圧力は、きっと万丈目くんを苦しませていたのだろう。そして、私が行ったあのデュエルでの行動もまた、万丈目くんを苦しめていたのだろう。

 

 

 

 

 どうすれば良かったんだろう?どうすればいいんだろう?

 

 

 

 

 頭の中で考えていることが、ぐちゃぐちゃになっていく。

 まとまらない、堂々巡りの思考を、止めることすらできない。

 

 胸が痛くて、苦しい。

 眼が熱くて、涙が流れ続けている。

 

 体中を不快感が支配する。そして、私は私に対して嫌悪感を抱く。

 

 すべて私のせいで、気づけなかった私のせいで。

 

 そして、私は謝る事さえもできないのだ。

 

 

 

「舞花……」

 

 外から、また声が聞こえてくる。女子寮に入って、一番最初に友達になってくれたその人は、さっきからずっとそこにいてくれたのだろう。

 

「貴方が悩んでることも、何に悩んでるかも分かってるわ」

 

 優しい声が、聞こえてくる。そして、その声は、私の心を蝕む。

 

「外に出てきて。そして、私と……私たちと一緒に、どうしたら良いか考えましょう」

 

 優しくて、暖かいその声は、私に届く。そして、私に、手を差し伸べてくる。

 けれども、私は、その声に、応えることはできない。私は、その手を、受け取ることはできない。

 

 全部、私の、せいなのだから

 

「……ごめんなさい」

 

 かすれるような声が、私の喉から発せられた。誰に発していたのかは、私にも分からない。

 

 万丈目くん?明日香ちゃん?十代くん?

 

 いや、きっとみんなだ。

 

「ごめんなさい」

 

 ようやくはっきりとでたそのことばが、どこかにとどいたのか、わたしにはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 いつの間にか眠っていたようだ。目をこすると、涙の後が乾いているのに気がついた。

 どれくらい眠っていたのだろう?それを確認しようと、部屋の時計のあるほうを向く。

 

 瞬間、気がついた。

 

「ここは……どこ?」

 

 いつもの自分の部屋ではない場所に、私はいた。

 その場所は言うならば空間。何も無い、ただ真っ白いだけの無の空間。

 

 立ち上がり、その虚無の空間の中で目印になる何かが無いのか必死に目を動かす。けれどもその場所には本当に何も無かった。

 

「こんにちは」

 

 はっと、後ろから声が聞こえた。

 驚いた勢いのまま振り返ると、そこには20前後くらいの女の人が立っていた。

 

「……こんにちは~」

 

 私は笑うこともできず、小さな声で挨拶を返した。

 その私の様子を見て、お姉さんはニコニコ笑いながらこう言った。

 

「デュエルしよっか」

 

 人差し指を立てて、お姉さんは提案してきた。その言葉に私は呆気にとられた。

 

「え?」

 

「じゃあ、はいこれ」

 

 固まっている私に、お姉さんはデュエルディスクを取り出して、私の腕につける。有無を言わさないまま距離を取り、ディスクを展開させていた。

 

「じゃあ、はじめよっか」

 

 もう何がなんだか分からない。流されるままに、ディスクを展開させた。

 

「「デュエル」」

 

 先攻はお姉さんだ。私は手札を確認することなく、ぼんやりとお姉さんのプレイングを見る。

 

「私のターン、ドロー!私はモンスターを裏側守備表示で召喚してターン終了」

 

 おなじみのようにカードの裏側の絵柄がソリッドビジョンとなって表示された。

 

「私のターン、ドロー」

 

 流されるまま、始めたこのデュエル。気乗りしないまま、私は引いたカードを表にした。

 

「マジシャンズヴァルキリアを攻撃表示で召喚。裏側表示モンスターに攻撃」

 

 

マジシャンズヴァルキリア

ATK1600

 

 

 マジシャンズヴァルキリアがソリッドビジョンで立体化し、すぐさまお姉さんの裏側守備モンスターに魔法を放つ。

 攻撃に反応するように相手のモンスターは表側表示になり、ヴァルキリアの攻撃をはじき返した。

 

「墓守の偵察者は守備力2000。残念だけど攻撃は失敗ね。さらに私は墓守の偵察者のリバース効果によりデッキから墓守と名のついた攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚できる。2枚目の墓守の偵察者を守備表示で召喚」

 

 

墓守の偵察者

DEF2000

 

舞花

LP4000→3600

 

 

 デッキよりもう1枚の墓守の偵察者が、場の墓守の偵察者の隣に召喚される。これで守備力2000のモンスターが2体並んだ。

 

「ターンエンドです」

 

 抑揚のない声で、私はエンド宣言をする。

 

 ダメ、全然楽しくないよ

 

 また傷つけてしまうのが怖いのだろうか?私は……今の私はカードを見ることさえも苦しく感じていた。

 

 

「私のターン、ドロー!強欲な壷を発動してさらに2枚ドロー!2体の墓守の偵察者を生贄に、氷の女王を召喚!!」

 

 2体の生贄を消費する最上級モンスター、氷の女王が召喚される。水色の髪の女性が、絶対的な存在感を持って立ちふさがっていた。

 

 

氷の女王

ATK2900

 

 

「氷の女王でマジシャンズヴァルキリアを攻撃!コールド・ブリザード!!」

 

 氷の女王が杖を一振りすると、そこには吹雪が現れた。マジシャンズヴァルキリアがあっという間に凍っていき、氷結した瞬間、音を立てて砕け散った。

 

舞花

LP2300

 

 私は呆けたまま、マジシャンズヴァルキリアの破壊される姿を見ていた。

 

「…私はカードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

 そんな私の姿を気に入らないような目でお姉さんは見ていた。けれども、今の私はどうしても目の前のデュエルに集中できない。

 

 大好きなデュエルをしているはずなのに、どうしてこんなに苦しんでいるんだろう。

 

 これが、万丈目くんの感じていた苦しみなのだろうか?それともまた、別の苦しみなのだろうか?どちらにせよ、私は胸が苦しかった。

 他人を傷つけて、それで楽しくデュエルをやろうなんて、そんなことはできなかった。

 

「何してるの?」

 

 目の前にいる名前も知らないお姉さんが、少しいらいらした表情で私のことを見ていた。この人もまた、私とデュエルするのが嫌なのかな?だったら私はもうやめてしまおうか。

 

 サレンダー

 

 その言葉が頭をよぎった。

 

「……楽しくデュエルをしようって、そういう風にはもうできないの?」

 

 お姉さんの表情がまた変わっていて、今度は哀れむような目で私を見ていた。

 

「…無理ですよ~」

 

 顔を伏せて、目を見られないようにして、私は答えた。

 他人を傷つけた私が、どうして楽しくデュエルをできるんだろうか。

 

「そんなに怖いの?他人を傷つけることが」

 

「怖いです。誰かが悲しんでいると、私はとっても悲しいです」

 

 他人の不幸を蜜の味にして味わうことなんて、私にはできない。誰かが辛そうに、苦しそうにしているのを見ると、胸が張り裂けそうに痛くなる。だから私は、他人の不幸を、笑って見過ごすことなんてできない。

 

「そう、だったら……」

 

 お姉さんがふわっと微笑んだ。まるで小さな子供を諭すように。

 

「あなたは、誰かが笑っていたら一緒に笑える?」

 

 ふと、一瞬頭の中で想像していた。誰かが楽しそうに笑っていたら、私もとっても楽しい。誰かが嬉しそうに笑っていたら、きっと私もとっても嬉しい。

 

「……はい」

 

 誰かが幸せそうに笑っていたら、きっと私も幸せだ。

 

「だったら、あなたが笑顔で、デュエルを楽しまないでどうするの?」

 

 その言葉の意味が、頭の中で急速に理解できた。私はあのときのデュエル、全力で楽しんでいただろうか?笑顔が絶えて、ただただ必死に万丈目くんに言葉を浴びせていた私は、心の底から、デュエルを楽しめていたのだろうか?

 

「あ……」

 

 あのときの私は、ただ必死で、言葉を向けていただけで、笑顔なんて出せなくて、万丈目くんと苦しんでいた。

 

 そうだよ

 

 私が幸せそうに、楽しくデュエルをしないで、どうして万丈目くんも楽しめるの?

 

 万丈目くんには事情があった、負けられない事情が。でも、万丈目くんだってデュエルが大好きで、だったら心の底からデュエルを苦しみきるはずがなかったんだ。

 

 どうすればよかった?私は全力でデュエルを楽しめばよかったんだ。そうすれば、一緒に万丈目くんも笑えたかもしれなかったんだ。言葉じゃなくてデュエルで、一緒に語ればよかったんだ。

 

 どうすればいい?もう1度、万丈目くんとデュエルしよう。万丈目くんは、きっとデュエルを辞めない。ならきっとどこかでもう1度デュエルできる。そうしたら、今度はすっごく楽しくデュエルをしよう。

 

 

 胸のつかえがとれる。ほんの少し心が軽くなった気がした。目の前にいるお姉さんはまたニコニコと私を見ながら笑っていた。

 

「もう、大丈夫かな?」

 

「はい」

 

 真っ直ぐに、私は今のフィールドを見つめた。相手の場にいる氷の女王。これをまずは倒さなくちゃ。

 自然、笑顔が現れていた。いつものような胸の高鳴りが、高揚感が、私を支配する。

 

 全力で楽しもう、このデュエル!

 

「私のターン、ドロー!」

 

 初めて私は自分の手札を見つめた。この手札では氷の女王は倒せない。でも、倒すための準備を整えることはできるかもしれない。

 

「私はホーリーエルフを守備表示で召喚します。カードを4枚伏せてターンエンドです」

 

 

ホーリーエルフ

DEF2000

 

 

 一気に4枚ものカードを伏せた私を、お姉さんは一瞬驚いたように見つめ、そして笑った。

 お姉さんも、すっごく楽しそうにデュエルをしていて。私は十代くんの顔が頭をよぎっていた。二人は似ているのかもしれない。

 

「私のターン、ドロー!私はヂェミナイ・エルフを召喚」

 

 双子の女性エルフが相手の場に現れる。

 

 

ヂェミナイ・エルフ

ATK1900

 

 

 そういえば、お姉さんのデッキも私と同じ魔法使い族だ。ミラーマッチなんて初めてだから、なんだかとっても楽しい。

 

「リバースカード4枚なんて私は恐れないわよ~。バトル、氷の女王でホーリーエルフを攻撃!コールド・ブリザード!!」

 

 さっきと同様に、私の場のホーリーエルフが凍らされ、砕かれる。私の場にはモンスターが居なくなった。

 

「ヂェミナイ・エルフでダイレクトアタック!」

 

 二人のエルフによるコンビネーション攻撃。片方が私に攻撃を入れ、間髪いれずにもう一人が私に攻撃を仕掛けてきた。

 

 

舞花

LP2300→400

 

 

「あれ?4枚のリバースカードは発動しないのかな?」

 

 私の場にある4枚の伏せカード。それをこのバトルフェイズで発動してくると思ったのだろう、不思議そうな顔でそれを眺めていた。

 

「いいえ、発動しますよ~」

 

 攻撃が終わり、バトルフェイズも終了するとき。このタイミングで、私は自分の場の伏せカードを開いた。

 

「速攻魔法発動!魔法の教科書!!」

 

 私が4枚のカードを伏せた理由は、手札に置いておけなかったから。私は最後に残っていた手札を墓地へと送った。

 

「このカードは手札を全て捨てて発動します。デッキからカードを1枚ドローしてそれが魔法カードだったら発動します」

 

 デッキから鼓動を感じる。それは、私が最も信頼してるカードの鼓動。だからなのだろうか?私はこの1番上のカードが何なのか、分かるような気がしていた。

 

「ドロー!」

 

 私は引いたカードを見なかった。そして、私はそのカードをそのまま発動した。

 

「黒魔術のカーテンを発動!!」

 

 

舞花

LP400→200

 

 

 フィールドに現れる黒き魔術師のカーテン。私のライフを半分吸収して、そのカーテンが開かれる。

 

「最後まで……私と共にっ!来て、ブラック・マジシャン!!」

 

 カーテンから現れた、黒魔術師。私の最も信頼するエースモンスター。

 このカードが場にあるだけで、安心感が違ってくる。

 

 

ブラック・マジシャン

ATK2500

 

 

「……ブラック・マジシャン、か」

 

 お姉さんがなんだか懐かしそうな目で私のブラック・マジシャンを見ていた。そして、それに答えるかのように、ブラック・マジシャンもお姉さんを見ていた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「なんでもないわ。カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

 お姉さんはくすりと笑った後、なんでもないと手を振った。少し疑問に思いつつも、私は自分のターンを開始する。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 お姉さんの場にある2枚の伏せカード。私はこのデュエル中に、まだ1回も攻撃を成功させてないことを思い出す。ならあれは攻撃反応型罠の可能性がある。でも、

 引いたカードを見て、私は笑う。このカードなら、いける。

 

「リバースカードオープン、黙する死者を発動!墓地の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚します。ホーリーエルフを守備表示で召喚」

 

 場に再び現れるホーリーエルフ。ごめんね、また墓地に戻すことになるけれど、あなたの生贄は無駄にしないから。

 

「ホーリーエルフを生贄に、お願い!ブリザード・プリンセス!!」

 

 ホーリーエルフが生贄の光となって四散する。そしてその場所には水色の髪の少女が現れた。

 

 

ブリザード・プリンセス

ATK2800

 

 

「プリンセスの効果により、お姉さんはこのターン、魔法・罠カードを発動させることはできませんよ」

 

 プリンセスが場に現れると同時に、お姉さんの場の伏せカードが凍結する。これでこのターンお姉さんはこの2枚を発動できない。

 

「でも、その2体じゃ氷の女王は超えられないわよ?」

 

「大丈夫ですよ~。リバースカードオープン、秘術の書!プリンセスに装備して、攻撃力、守備力を300ポイントアップします」

 

 開かれた秘術の書。ぱらぱらとめくられながらプリンセスの魔法力を高めていく。

 

 

ブリザード・プリンセス

ATK2800→3100

 

 

「バトル、プリンセスで氷の女王を攻撃!!」

 

 プリンセスが手に持った大きなハンマーを振るう。氷の女王の頭上にハンマーが振り下ろされ、氷の女王は押しつぶされた。

 

 

お姉さん

LP4000→3800

 

 

「あらら、破壊されちゃったわね。でも氷の女王の効果発動!このモンスターが破壊されたとき、墓地に魔法使い族モンスターが3体以上いるなら墓地の魔法カード1枚を手札に加えるわ。強欲な壷を手札に加えるわよ」

 

 お姉さんの手札は……5枚。さらに1枚は強欲な壷。次のターンでとんでもない反撃がくるのは必至。ならこのターンで……

 

「ブラック・マジシャンでヂェミナイ・エルフを攻撃する?」

 

 ふと、お姉さんが悪戯っぽく笑っていた。一体何だろう?魔法・罠カードを封じているこの状況で、何かあるというのだろうか?

 手札誘発カード?あの多い手札ならそれがあってもおかしくはない。なら、私がとる行動は

 

「いいえ~、リバースカードオープン!イクイップ・シュートを発動!このカードの効果により、私はヂェミナイ・エルフにプリンセスの秘術の書を装備します」

 

 プリンセスの手元にあった秘術の書が、ヂェミナイ・エルフの方へと移る。今度はヂェミナイ・エルフの攻撃力が高まった。

 

 

ヂェミナイ・エルフ

ATK1900→2200

 

 

「あら、私のモンスターを強化してどうするのかな?」

 

「イクイップ・シュートの効果は、装備カードを相手に移して、その装備カードを装備していたモンスターと装備カードを移した相手モンスターをバトルさせます!プリンセスでもう1度攻撃!!」

 

 プリンセスのハンマーが、今度はヂェミナイ・エルフの方へと向かっていく。それに反応したお姉さんは、手札のカードを表にした。

 

「私は手札のジェム・マーチャントの効果発動!このカードを墓地に送ってヂェミナイ・エルフの攻撃力を1000ポイントアップさせるわ」

 

「無理ですよ。イクイップ・シュートの追加攻撃はこのカードの効果処理です。効果処理中に他のカードの効果を発動することはできませんよ~」

 

 言葉どおり、ヂェミナイ・エルフに攻撃力は加算されなかった。そのままプリンセスの振るったハンマーが、ヂェミナイ・エルフを粉砕する。

 

 

お姉さん

LP3800→3200

 

 

「あらら、私のこれ、読まれちゃってたんだ」

 

 楽しそうに笑いながら手札のジェム・マーチャントを見せてくる。

 

 すごい

 

 今、イクイップ・シュートが無かったら、ブラック・マジシャンはやられていた。

 魔法・罠カードを封じていたのに、反撃を繰り出そうとするなんてすごい。この人はとっても強いんだ。

 

「ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!ブラック・マジック!!」

 

 ブラック・マジシャンの杖から放たれた黒魔術。その塊がお姉さんの体を直撃する。

 

 

お姉さん

LP3200→700

 

 

「ターンエンドです」

 

 私の手札は0、対してお姉さんの手札は5。さらに1枚は強欲な壷。これだけの手札を温存して戦っているなんて。これだけ使ってるカードの量が違うのに、まだライフポイントも追いつけてない。

 

「じゃあ、私のターン、ドロー!さらに強欲な壷を発動して2枚ドロー!!」

 

 直感している。私はこのターンで負けるだろうと。けれども私は、どんな手を使ってくるのか、どんなカードを出してくるのかそればっかりが気になっていた。

 

「手札1枚をコストに、THE・トリッキーを特殊召喚。さらに速攻魔法トリッキーズ・マジック4を発動!トリッキーを生贄に、相手の場のモンスターと同じだけトリッキートークンを特殊召喚するわ。トリッキートークンを2体特殊召喚!!」

 

 

トリッキートークン×2

DEF1200

 

 

 特殊召喚されたトリッキーが、瞬時に1度消え、2体のトークンとなってフィールドに舞い戻ってくる。さらに、お姉さんは通常召喚の権利が残っている。

 

「私はトリッキートークンを1体生贄に捧げ、カオス・マジシャンを召喚!さらに二重召喚(デュアルサモン)を発動!もう1度通常召喚を行うわ。もう1体のトリッキートークンを生贄に捧げ、サイバネティック・マジシャンを召喚!!」

 

 早すぎる展開力。あっという間にお姉さんの場には2体のレベル6マジシャンが並んでいた。

 

 

カオス・マジシャン

ATK2400

 

サイバネティック・マジシャン

ATK2400

 

 

 その2体のモンスターを召喚した後、お姉さんは最後の手札を手にかけていた。

 

「舞花ちゃん。楽しいデュエルだったけど、これでおしまい。最後は私の最強の魔法使いでいくわよ」

 

「最強の魔法使いですか~?」

 

 楽しそうに笑うお姉さんの顔を前にして、私もずっと笑っている。最強の魔法使い、一体何が出てくるんだろう。

 

「じゃあ、いくわよ。2体のレベル6以上の魔法使い族モンスターを生贄に捧げ」

 

 輝く2体のマジシャンが、光の粒子となってお姉さんの手札のカードへと吸収される。そのカードから感じる、大きな力。氷の女王よりもはるかに強い力を感じた。

 

「最強の黒魔術師としてその姿を現せ!黒の魔法神官(マジック・ハイエロファント・オブ・ブラック)を特殊召喚!!」

 

 お姉さんの場に現れた魔法使い族モンスターは、私のブラック・マジシャンによく似ていた。けれどもブラック・マジシャンよりも大きな力が、そのカードからは溢れていた。

 

 

黒の魔法神官

ATK3200

 

 

「バトル!黒の魔法神官で、ブラック・マジシャン……いえ、ブリザード・プリンセスを攻撃!セレスティアル・ブラック・バーニング!!」

 

 黒の魔法神官が、その杖から大きな魔力の塊を作り上げる。その力はやはり、私の持つあらゆる魔法使いの力を超えていた。

 放たれたその力になすすべも無く、プリンセスは爆発音と共に消え去っていた。

 

 

舞花

LP200→0

 

 

 勝敗が決し、ソリッドビジョンが消える。私は一瞬、その場から動けなかった。

 

「あらら、大丈夫かな?」

 

「え、はい。大丈夫ですよ~」

 

 心配そうな目で私の顔を覗き込んでくるお姉さん。私はあはは、と笑いながら元気を主張した。

 

「最後は何でプリンセスを攻撃したんですか?」

 

 一瞬、お姉さんはブラック・マジシャンを攻撃しようとしていたはずだ。けれども、直前でいきなり、プリンセスへと攻撃を変更したのに疑問を持っていた。

 

「だって、健気にブラック・マジシャンを守ろうとしていたから。破壊できないのは分かっていたしね」

 

 笑いながらお姉さんは私のデュエルディスクの墓地の場所を指差す。つまり、お姉さんは分かっていたんだ。

 

「私の墓地に、ジュニア・ブラック・マジシャンがいるの分かってたんですね?」

 

「そういうこと」

 

 パチリ、と片目を閉じてウインクしたお姉さんは、なんだかとても可愛らしかった。

 

『舞花』

 

 途端、声がする。私のデュエルディスクの墓地ゾーンから1体の映像が出てきた。

 

「どうしたの、ジュニア?」

 

 いまさらジュニアがソリッドビジョンなしで立体化しても驚いたりなんてしない。しゃべったり、絵柄がウインクしたりするのだから。

 

『ごめんね、舞花が苦しんでるときに出てこれなくて。本当は僕が元気付けなくちゃいけなかったのに』

 

 申し訳なさそうに小さな体をすくめるジュニアの姿がなんだかかわいくって、ついつい頭を撫でてしまっていた。

 

「いいんだよ~。だって私がデッキを出さなかったんだもん」

 

『それでも、ごめん。それからお姉さん、ありがとう』

 

「いいのいいの。これからはあなたが頑張ってね。小さな魔法使いさん」

 

「先にお礼言っちゃダメだよ~。お姉さん、本当にありがとうございました」

 

 私とジュニア、2人分のお礼をお姉さんは笑いながら受け止めてくれた。

 

「うんうん、それじゃあ私はもう行くね。もう少ししたらあなたたちも外に出られるから安心してね」

 

 お姉さんが笑顔で手を振って別れを告げる。そのお姉さんの姿に、私は最初に抱くべき疑問を告げた。

 

「あの、お姉さんは一体誰なんですか?」

 

 その質問に、お姉さんは笑みを浮かべたまま人差し指を唇の前に立てた。

 

「秘密。謎のお助けお姉さん、かな?」

 

 その悪戯っぽい笑みを見たら、なんだかどうでもよくなってきたかもしれない。お姉さんはお姉さん、それでいいような気がする。

 

「わかりました」

 

「うん。じゃあ帰ったらお友達に元気な顔を見せてあげなよ」

 

 十代くん、明日香ちゃん、ジュンコちゃん、ももえちゃん、翔くん、隼人くん、三沢くん。心配してくれていたみんなに、迷惑をかけてしまったみんなにちゃんと謝らなくっちゃね。

 

「はいっ」

 

「いい子だね。じゃあ、もう時間切れかな?」

 

 お姉さんがそう言ったと思ったら、私の体が足から順に消え始めていた。

 

「最後に。デュエルは楽しく、ハッピーに、ね」

 

 その言葉は、いつか自分が言っていた言葉。デュエルは苦しむものなんかじゃなくて、楽しく、ハッピーにやるもの。私は自分の言葉をもう1度しっかり胸にと刻み込んだ。

 

「ありがとうございました」

 

『ありがとうございました』

 

 私とジュニアがそう言った瞬間。私の体はその世界から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後まで私と共に、ね」

 

 白い空間に、一人の女性がたたずんでいた。

 

「無意識に言ってるんだよね、あの子は」

 

 その女性はほんの少し、悲しげな目をしていた。

 

「思い出さないでほしいんだけどなあ」

 

 女性は空を見上げた。

 

 その白い空間には、空に太陽も星もないと、わかっていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いか」

 

 声が聞こえる。その声は私が愛しいと思っている人の声。

 

「舞花」

 

 声は私の名前を呼んでいた。そのことを理解した瞬間、私は目が覚めた。

 

「気がついたか舞花」

 

 目を開けた瞬間、私の目の前には十代くんの顔があった。

 吐息があたってしまうのではないかというほどの近い距離に十代くんの顔があった。

 

「……ええええ!!??」

 

 瞬間、頬が一気に紅潮する。

 心臓が大きく脈を打ち、まだ覚醒しきってなかった頭が一気にのぼせ上がる。

 

 何で? どうして目の前に十代くんがいるの?

 

 一方、当の本人は私が急に叫んだことで驚き、体を遠ざけていた。

 視界一杯だった十代くんの顔が離れ、真っ白い天井が新たに視界に入る。すんと香る消毒液の匂いが私の鼻をくすぐった。

 

「ここは……?」

 

「ああ、女子寮の保健室だよ。お前がいつまでたっても部屋から出てこないから、心配になって合鍵を使って部屋に入ったら倒れてたんだ」

 

「そうだったんだ……」

 

 十代くんの方を向くために体を起こそうとすると、右腕にちくりとした感触。そこからは管が伸びていて何かの薬が入っているパックへと繋がっていた。

 

 少し恥ずかしかったので、視線を十代くんから少し逸らして口を開く。

 

「そういえば、鮎川先生は?」

 

「さっきまでいたんだけど、何か用があるって言って出てった。明日香たちも一緒に」

 

 じゃあ、今は私と十代くんの二人だけ?

 

 さっきの十代くんの顔のドアップが脳裏に蘇る。吐息がかかってしまうほどの至近距離にある黒い瞳にがまっすぐにこっちを向いていて、普段楽しそうに吊り上っている口元が、辛そうに下がっていて。

 

 ああ、十代くんは私を心配してくれたのかな?

 

 確かめようと、逸らしていた視線を十代くんの方に向ける。いつもの太陽の様に輝く笑顔じゃなくて、ほっとしているような微笑。

 

「ありがとう」

 

 ただ、口をついて声が出ていた。自分のせいで閉じこもった私をずっと心配してくれて、こうして私の為に笑ってくれて。

 

 十代くんはほんの少し照れくさそうに頬をかくと、表情を真剣なものにして口を開いた。

 

「舞花、万丈目のことだけど……」

 

 真剣。でも言いにくそうに十代くんは話す。解決しないといけないと思ったんだろう。私はずっと閉じこもっていたから、強引にでもこのタイミングで話しかけないと何も解決しない、そしてまた、私は元に戻るだけだと思って。

 

「ねえ」

 

 十代くんが話そうとするのを私は遮った。この話から逃げようとするのではなく、受け止めるために。

 

「十代くんなら、どうしてた?」

 

 もしかしたら、拒絶のように、転嫁のように、聞こえてしまうかもしれない。でもこれは、私の心の底からの疑問。

 

 私と十代くんは、似ている。そう思ったから聞いてみようと思ったのだ。

 

 十代くんは一瞬止まって、けれども考えるように止まったりはせず、間髪入れずに答えた。

 

「ただ全力でデュエルして、全力で楽しんでいたと思う」

 

 それは、私が聞きたかった答え。

 

「そうだよね」

 

 それは、十代くんが自分だけじゃなく、相手さえも楽しませるほどデュエルを楽しむ人だからこその答え。

 

 似ていても、私は十代くんのようにはいかなかった。

 

 私は相手を楽しませるほど、自分が楽しんでいたわけじゃなかったのかもしれない。こだわりに縛られ、志向を押し付け、楽しむ以外のことをしていたのかもしれない。

 

 もうやめよう。私はただ楽しく笑おう。カードと向き合って、相手の正面に立って、心の底から楽しく。万丈目くんに、デュエルを楽しんで貰うためにも。

 

「十代くん。万丈目くんは戻ってくるかな?」

 

「きっと戻ってくる。あいつもデュエルが好きだから」

 

 それが確実なら、私はもう迷うことはない。

 

「じゃ~あ。次のデュエルは、楽しく、ハッピーにできるようにしよう~」

 

 その言葉を聞いた十代くんは、いつものようにニカっと笑ってくれた。




補足
お姉さんの伏せカードは聖なるバリア―ミラーフォース―と収縮でした。なのでプリンセス無しだと全滅していたという流れ。
あと出てきたイクイップ・シュートがややこしいのでテキストの全文を↓に

イクイップ・シュート
バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターに装備された装備カード1枚と相手フィールド上に存在する表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、選択した装備カードを選択した相手モンスターに装備する。
その後、選択した装備カードを装備していた自分のモンスターと、選択した相手モンスターで戦闘を行いダメージ計算を行う。

+今回の未OCG化カード
魔法の教科書
速効魔法
自分の手札を全て捨てて発動する。
自分のデッキの上からカードを1枚めくり、それが魔法カードだった場合はそのカードの効果を発動する。
魔法カード以外のカードだった場合は墓地へ送る。
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