―side丸藤翔―
いよいよ、制裁タッグデュエルの日がやってきた。最後のデッキチェックを、アニキと一緒にすませる。
「いよいよだね」
「そうだな」
1枚1枚デッキのカードを確認し、40枚の束をデッキホルダーに納めようとする。しかし、震えていた手はほんの少し場所を外して、数枚のカードが散らばった。
「おい、大丈夫かよ翔?」
「……ごめんアニキ。やっぱり僕、足を引っ張っちゃいそうだ」
僕の実力は、やっぱり弱い。アニキの足を引っ張って、強いアニキまでも退学に追い込んでしまったらどうしよう。
何回も振り払ってきた不安と恐怖が、また自分を襲う。体は震え、心臓が大きく鼓動する。
「何言ってんだよ、お前なら大丈夫さ。なんたってお前は、俺のパートナーなんだからな」
答えになってないアニキの言葉。でも、アニキの声色と笑顔は、本当に僕のことを信じきっているのだと教えてくれる。
僕はアニキのパートナー
こうして僕をちゃんと頼ってくれているアニキの期待に、ちゃんと応えなきゃと気合を入れた。
「がんばるんだな。お前たち二人がまたこの部屋に帰ってくるって信じてるぞ」
隼人君の激励を受けて、部屋の扉を開ける。
「じゃあ、行ってくるぜ」
「行ってきます」
帰ってくるという意志を示して、僕達は扉を開けた。
―side橘舞花―
デュエル場はすでにたくさんの生徒で溢れかえっていた。大勢の中から自分の知り合いを探すためにキョロキョロする。中心のデュエルフィールドに目が一瞬行き着くと、少しの間忘れていた心配が出てくる。
二人とも、大丈夫だよね
不安に思う心を励ますように自分に言い聞かせる。
「舞花」
「橘君」
二人分の声に同時に呼ばれる。そこにいたのは明日香ちゃんと三沢くんだ。
「あ、よかった~。見つけたよ」
呼ばれた二人の方に駆け寄り、明日香ちゃんの隣に座る。
「舞花、十代はどうだった?」
「へ? 今日はまだ会ってないよ~」
「え?」
明日香ちゃんが不思議そうな目で私を見る。私、何か変なこと言ったかな?
「あなたなら、デュエル前に十代に会いに行くと思ってたわ」
「……あれ?」
そういえば、そうだ。何故か私は今日会いに行こうと思っていなかった。何もせず、ただここに見に来ただけだった。
どうしたんだろ、私
自分の行動を自分で不可解に思って首を傾げる。考えてもよく分からなかったのでその疑問を放置した。
「来たぞ」
三沢くんの声に反応してデュエルフィールドを見る。いつものように笑っている十代くんと、少しだけ不安げな色を見せつつも、覚悟を決めて前向きな表情の翔くんが現れた。
よかった。十代くんはいつもどおりだ
翔くんも、またおどおどしたりすることなく立っていた。そんな二人を見て少しだけ安堵する。
「おーい!」
中心にいる十代くんがこっちに向かって手を振った。どうしようかと迷っていると、隣にいる明日香ちゃんに肘でつつかれる。暗に反応死なさいと言っているのがよく分かった。
「が、がんばってね~」
上手く声を張り上げることは出来なかったけど、その声は届いたようで十代くんはガッツポーズをとる。頑張ると、その態度で返事をしてくれた。
「それデーハ、これより制裁タッグデュエルを始めルーノネ」
クロノス先生がステージに上がって宣言する。生徒たちの盛り上がる声を耳に入れながら、私は両手を握って祈る。
どうか、十代くん達が勝ちますように
「デーハ、対戦するデュエリストーヲ紹介するノーネ」
「「ハッ」」
クロノス先生の言葉が終わると同時に、デュエルフィールド上に二つの影が飛び込んでくる。空中で一回転して、フィールド上に降り立った。
「我ら流浪の番人」
「迷宮兄弟!」
二つの同じ顔に、額に『迷』と『宮』の文字。そして迷宮兄弟という名前。それらは一つの答を私の中に出した。
「それって、あのデュエルキングと戦ったことのある、あの?」
「その通りでスーノ。彼らこそあのデュエルキング武藤遊戯と戦ったことのある、伝説のデュエリストなノーネ」
私の記憶が的中する。つまり十代くんたちは、伝説と呼ばれるデュエリストと対戦して勝たなければいけないということだ。
「聞いたことがあるわ。その強力なコンビネーションで、デュエルキングを苦しめたことがあるという兄弟デュエリスト」
「そんな相手なんて、十代達に勝てるはずがない」
明日香ちゃんと三沢くん、二人の呟きに私はクスっと笑う。
「だいじょうぶ、だよ」
二人が、え? と私に反応する。私は中央の十代くんを見るように促した。
「十代くん、すっごく楽しそうだもん」
伝説のデュエリストを前にして、負けたら退学のデュエルの直前で、十代くんは目の前のデュエルを楽しみにしていた。
相手がどんなに強くても、どんな大変なデュエルでも、それを楽しみにできる十代くんの強さ。
「十代くんは、きっと負けないよ~」
心の底に、どこか心配する自分が残っていても、私は安心してこれからのデュエルを見れる。きっと勝って、また一緒にいられると信じて。
中心のデュエリストが、皆一斉にデュエルディスクを構える。
「それデーハ、制裁タッグデュエル、開始なノーネ!!」
「「「「デュエル!!」」」」
退学を賭けたデュエルが始まった。
―side丸藤翔―
とうとうデュエルが始まる。開始は僕のターンからだ。
「僕のターン、ドロー! 僕はジャイロイドを攻撃表示で召喚!」
「私のターン、ドロー! 地雷蜘蛛を攻撃表示で召喚!」
「俺のターン、ドロー! E・HERO バーストレディを守備表示で召喚!」
「私のターン、ドロー! カイザーシーホースを攻撃表示で召喚!」
全員の1ターン目、1人1体ずつ自分フィールド上にモンスターを召喚する。
タッグデュエルのルールでは、1ターン目には攻撃できない。次の僕のターンが勝負の始まりだ。
「さらに魔法カード、生贄人形を発動!」
「え?」
そのまま終わると思った迷宮兄弟のターン。でも手札から魔法カードを発動してきた。
「生贄人形は自分フィールド上のモンスターを生贄にして発動する。地雷蜘蛛を生贄に、手札からレベル7のモンスターを特殊召喚する。私は風魔神-ヒューガを召喚!」
油断していた。何もしないと安堵していたら、いきなり攻撃力2600のモンスターが特殊召喚される。風魔神-ヒューガ。一体どんなモンスターなんだろう?
「すまないな兄者。礼をせねば。手札から魔法カード、闇の指名者を発動! このカードはカード名を一つ宣言し、相手のデッキにそのカードがある場合、相手は手札に加える。私の指名するカードは雷魔神-サンガ!」
闇の指名者のカードを、自分のタッグパートナーに向かって発動した。そんな、それじゃあ外れようが無いじゃないか!
「ククク、ありがたい。もちろん私のデッキにはサンガのカードはある」
迷宮兄弟兄は、デッキからサンガのカードを手札に加える。
どうしよう、1ターン目からこんなモンスターを呼ばれて、その上手札にもまだ強力モンスターが。
「あ、アニキ」
「さすが伝説のデュエリストだけあるな。俺たちも負けてらんないぜ、翔」
アニキは笑っていた。目の前の強力なモンスターを見て無邪気に。
アニキはやっぱりすごいや。僕にはそんなこと……
――デュエルは楽しく、ハッピーにやるんだよ――
頭の中で、声が響く。そうだ、教わったじゃないか。デュエルは楽しくやるものだって。
目の前のヒューガを見る。相手は僕達にちゃんと全力を尽くしてくれているんだ。僕が弱気になって力を出さなかったら、アニキに迷惑がかかるだけじゃなく、迷宮兄弟の2人にだって失礼なんだ。
相手は僕たちをリスペクトしてくれたんだ。だから、僕もそれに応えるんだ!
「僕のターン、ドロー!!」
僕は勢いよく、カードを引き抜いた。
―side橘舞花―
少し怖がっていた翔くんの目に闘志が灯る。よかった、ちゃんと気が付いてくれた。
そうやって相手のことを考えて、ちゃんと全力を出せば、自然とデュエルは楽しくなっていく。翔くんはもうひとりよがりに戦ったりなんてしない。
「僕は見逃してないぞ。ヒューガの生贄にされたのは、迷宮兄弟、兄のモンスター。つまり、兄のフィールドには壁モンスターがいない!」
翔くんはちゃんと場を観察していた。でも、1つだけ見落としていることがある。
翔くんは融合を使ってスチームジャイロイドを特殊召喚する。そして、がら空きのお兄さんに対してダイレクトアタックを仕掛けた。
「ククク、風魔神-ヒューガの特殊効果発動! 相手モンスターからの戦闘ダメージを、1度だけ0にする!」
翔くんの攻撃は、ヒューガの風の防壁によって阻まれる。
翔くん……
今までの翔くんだったら、絶対に気落ちして思いつめる。けれども翔くんは場をしっかりと見据えていた。
「そうか、ヒューガにはそんな特殊効果があるんだ……」
足りない知識を補って、次に繋いでいこうとする姿勢。翔くんはもう逃げずに目の前のデュエルにしっかりと向き合っていた。
十代くんと目で会話しながら、次の状況に向かって思考している。
「翔君、まるで別人ね」
「うん。翔くんはもう、立派なデュエリストだよ」
おどおどしたり、ビクついたりもしない。ついには笑みが漏れ出していた。デュエルを楽しむ心を持って、翔くんはデュエリストになったんだ。
翔くんはターンを終了する。続いて迷宮兄弟、お兄さんのターン。死者蘇生でさっき生贄に捧げた地雷蜘蛛を特殊召喚する。さらに、弟さんと同じく生贄人形を発動した。レベル7のモンスター、水魔神-スーガが特殊召喚される。
まって、まだ通常召喚が残ってる! しかも弟さんの場にいるのはカイザーシーホース。さらにお兄さんの手札にはさっき指名されたあのカードが!
「カイザーシーホースを生贄に捧げる。このモンスターは、光属性モンスターの召喚の生贄になる場合、1体で2体分の生贄とすることができる! 雷魔神-サンガを召喚!!」
迷宮兄弟さんのフィールドに3体の魔神が召喚される。でも、迷宮兄弟、お兄さんの手はまだ止まっていなかった。
「さらに水魔神-スーガ、風魔神-ヒューガ、雷魔神-サンガの3体を生贄に捧げることで、ゲート・ガーディアンを特殊召喚!!」
すごい……
私は感嘆の息を漏らす。
その召喚条件から、扱うことはできないとされていたゲート・ガーディアンのカード。それをいとも簡単に出した迷宮兄弟さんはとってもすごい!
私もデュエルしたい!
デュエリストとしての心が騒ぐ。でも、今はタッグデュエルの最中だからと頑張って黙った。
召喚されたゲート・ガーディアンの攻撃で翔くんのスチームジャイロイドは破壊され、大きくライフポイントを削られる。
強大なゲート・ガーディアンを前にして、十代くんも私と似たような気持ちになっているようだ。このモンスターをどうやって倒すか、考えただけでワクワクしているみたい。
そして、翔くんもまた笑っていた。楽しそうに、目の前の強大なモンスターを見ていた。
「翔君も、十代や舞花のデュエル菌が移ったみたいね」
「む~、それってどういう意味? 明日香ちゃん」
私がちょっと膨れて見せると、明日香ちゃんはクスッと笑った。
「いい意味よ」
「そうだな」
隣にいた三沢くんまでもが同意する。
とりあえず、褒められてるってことでいいのかな?
デュエルは十代くんのターンへと移行する。十代くんはまず、クレイマンを召喚して融合を発動。場のバーストレディとクレイマンを融合して、ランパートガンナーを融合召喚した。
でも、ランパートガンナーの攻撃力、守備力じゃゲート・ガーディアンには敵わない。どうするの、十代くん。
「E・HERO ランパートガンナーは、守備表示のまま相手プレイヤーにダイレクトアタックができる!ランパートショット!!」
防御体制をとっているランパートガンナーが盾をほんの少しどけて、右腕のランチャーからミサイルを発射する。目の前にいたゲート・ガーディアンをスルーして迷宮兄弟さんへと直接攻撃した。
「この効果では、攻撃力の半分のダメージだけどな」
ランパートガンナーの攻撃力の半分、1000ポイントが迷宮兄弟さんのライフポイントから引かれる。まだまだ場では負けてるけど、これが反撃の狼煙になるはず。
続く迷宮兄弟、弟さんのターン。メテオ・ストライクをゲート・ガーディアンに装備する。でも、そのカードにチェーンして翔くんがサイクロンを発動した。
これでメテオ・ストライクを破壊して、貫通効果から身を守ることができるよ!
「甘い! カウンター罠アヌビスの裁き!」
アヌビスの裁きは、確か魔法・罠カードを破壊する効果を無効にして、さらに相手フィールド上にいるモンスター1体を選択して破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与えるカードだ。
翔くんの発動したサイクロンが無効になり、十代くんの場のランパートガンナーが破壊される。その攻撃力分のダメージが2人のライフポイントから引かれた。
「まずいな。やはり初めてのタッグデュエルで、相手が伝説のデュエリストではいくら十代でも……」
「そんなことないよ」
三沢くんの呟きに反論する。きっぱりと、自信を持って。
「デュエリストが負ける時は、そのデュエルをあきらめた時だよ。まだ、十代くんはあきらめてなんかいないよ」
信じている。でも少し手が震え、心がざわめく。心の奥に眠る不安が表面に表れ始めた。
心配だよ
心の呟きは、自分の中の不安を加速させた。
それでも私は目を閉じたりなんてしない。ちゃんと十代くんたちを信じている自分の心に従って。
続いていた迷宮兄弟、弟さんのターン。ディフェンスウォールを召喚される。これで、全ての攻撃はディフェンスウォールが受けることになった。
先にディフェンスウォールを突破しないと、ゲート・ガーディアンには届かない。
次は翔くんのターンだ。でも、翔くんはまた、いつものように体を震わせてしまっていた。
翔くん……
―side丸藤翔―
「僕のターン。サイクロイドを守備表示で召喚して、ターンエンド」
ゴメン、アニキ。僕が余計な事をしたから、こんなピンチになっちゃった。
サイクロンは、僕達の身を守るどころか、僕達のライフポイントを大きく削る結果となってしまった。
どうしよう
自分の心に不安が訪れる。目の前にいる強大なモンスターに恐怖を感じていた。でも、それと同時に、僕の中のデュエリストとしての心が騒ぐ。
このモンスターをどうやって攻略しようか、と。
恐怖と高揚、二つの心が入り乱れて混乱する。デュエルを楽しく感じる心と、大好きなアニキを退学に追い込むかもしれないという恐怖。
そんなことを考えていたら、頭が痛くなってきた。
ふと、アニキの方を見る。アニキは真っ直ぐにゲート・ガーディアンを見つめていた。
アニキはまだあきらめていないんだ
「翔」
アニキが目線を外して、僕の方を見て話しかけてくる。
「失敗なんて誰にでもある。でも、俺はお前を信じてるぜ」
ニカッと笑って僕に言う。僕を信じて、僕のデュエルを信じてくれている。
そうだ、アニキは僕をパートナーだって言ってくれたじゃないか。だったら、アニキがあきらめるまで、僕があきらめるわけにはいかない!!
恐怖心を噛み殺す。それと同時に、高揚感が体を支配する。デュエルを楽しむ。いままで舞花ちゃんが言い続けてきたその言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。
この気持ち、この高ぶり、これがデュエルを楽しむって事なんだ!
もう怖がらない、もう怯えない、もう俯かない。僕は相手をリスペクトして、最高のデュエルをするんだ!
ターンはすでに渡っている。迷宮兄弟、兄のターン。
「ゲート・ガーディアンでサイクロイドを攻撃! 魔神衝撃波!!」
迷うことなく、サイクロイドを貫く。メテオ・ストライクの効果によって貫通ダメージをくらった。
耐えている。僕たちのライフはまだあるんだ。残り1700となったライフポイントはまだ希望だと言っていい。あきらめちゃ駄目だ。
でも、どうしてもゲート・ガーディアンを倒す手段が浮かんでこない。どうすればいいんだろう?
「翔、俺たち2人であのゲート・ガーディアンを倒すぞ!」
アニキが僕に言う。アニキには何か考えがあるんだ。そしてそれは、僕の力を必要とするもの。
よし、だったらまず、アニキの考えを理解しなきゃ
「わかったよ、アニキ!」
アニキのターンが始まる。アニキはスパークマンを召喚し、スパークガンを装備する。そして、ゲート・ガーディアンを守備表示へと変更させた。
そうか! アニキは僕にあのカードを使えって言ってるんだ。
ただ守備表示にしただけの行動。迷宮兄弟は意味のないことだと鼻で笑っている。でも僕にはアニキからのメッセージが伝わった。次のターン、僕はゲート・ガーディアンを倒す!
「リバースカードを1枚伏せ、俺のターンは終了だ」
アニキは僕のためにサポートに徹してくれている。本当にありがとう、アニキ。
「私のターン。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
迷宮兄弟、弟のターンが終わる。僕はカードを引く前に、アニキに向かって問いかけた。
「ねえ、アニキ」
「ん?」
アニキが不思議そうに僕の呼びかけに応える。
「アニキはどうして僕のことを信用してくれるの?」
僕は、やっぱり弱い。舞花ちゃんや明日香さんがパートナーだったら、きっともっといい展開になっていたはずだ。
僕はアニキを信用している。でもアニキは僕の弱い実力をあてになんてすることないのに。僕みたいな弱いデュエリストを信用する理由なんてないのに。
アニキは僕の言葉に、ニカッと笑って答えた。
「だってお前もデュエル好きだろ? お前は自分の持ってるカード全部大事にしている。そういうとこ、俺は好きだぜ」
よかった
僕は心の底から安堵した。だってアニキは、僕をちゃんと僕として見て、信用してくれているんだ。
誰でも良いわけじゃなくって、ちゃんと僕を信用してくれているんだ。なら、僕はそれに応えるんだ。
アニキが整えたこの状況。これを生かすために、僕はあのカードを引くんだ!
「僕のターン」
僕はまだデュエルをしたい。この学園で、この学園のみんなと。だから、応えてくれ僕のデッキ! 僕はまだ、この学園に居たいんだ!!
「ドロー!!」
引いたカードを目の前に持ってくる。それを見た瞬間
僕は笑っていた
「僕はドリルロイドを召喚! バトルだ! ドリルロイドで、ゲート・ガーディアンを攻撃!!」
「血迷ったか。そのモンスターではゲート・ガーディアンは倒せん!」
確かに、僕のドリルロイドの攻撃力は1600。全くゲート・ガーディアンには届かない。でも
「ドリルロイドは守備表示モンスターを攻撃したとき、そのモンスターを破壊する!!」
「「何!!」」
ゲート・ガーディアンに向かって、ドリルロイドが正面についているドリルを回しながら突っ込んでいく。ゲート・ガーディアンに突き刺さる直前に、ディフェンスウォールに阻まれた。
「甘い! ディフェンスウォールの効果で、ゲート・ガーディアンは無傷だ!」
「ディフェンスウォールが邪魔をするのは、分かっていたよ」
ドリルロイドが攻撃したことにより、ディフェンスウォールの守備力より劣っていた攻撃力分、僕達のライフが引かれる。だから、ゲート・ガーディアンに攻撃が通っていたら、僕達が負けていたんだ。
「僕たちの本当の狙いはこっちだ! 魔法カード、シールドクラッシュ発動!!」
シールドクラッシュは、相手の守備表示モンスターを1体破壊する。アニキがわざわざ守備表示にしてくれたゲート・ガーディアンを破壊する!
爆発音が響き、煙が巻き上がる。それが晴れると、ゲート・ガーディアンは破壊されていた。
「やったな翔!」
「うん、アニキ!」
二人してガッツポーズをとった。
―side橘舞花―
「まさか、彼がゲート・ガーディアンを破壊するとは……」
三沢くんが驚いた声で言葉を発する。
「二人は、タッグデュエル用にデッキを合わせたりしていなかったのかもしれない。でもね、二人ともお互いのデッキを知って、お互いのカード間のシナジーをちゃんと把握しているんだよ。これもきっと、一つのタッグデュエルの戦い方だよ」
二つのデッキを合わせれば、タッグデュエルにおいて戦いやすくなるかもしれない。でも、二人はそうせず、自分たちのデッキのカードを把握しきった。そうすることでこのタッグデュエルを戦うことにしたんだ。
「僕は、カードを1枚伏せてターンエンド」
翔くんのターンが終わる。ゲート・ガーディアンを倒された迷宮兄弟さんたちはどう出るのかな?
「ゲート・ガーディアンを倒すとは……少々甘く見すぎていたようだ。ならば私のターン、ドロー! 魔法カード発動! ダーク・エレメント!!」
ダーク・エレメント。一体どういう効果なんだろう
「このカードは、ゲート・ガーディアンが墓地にあるときに発動する! ライフポイントを半分払い、デッキから闇の守護神-ダーク・ガーディアンを特殊召喚する!!」
ゲート・ガーディアンを倒したことによって、更なる切り札が迷宮兄弟さんの場に召喚される。攻撃力は……3800!
ダーク・ガーディアンがすかさず戦闘を仕掛ける。
「まずい、この攻撃が通ったら十代たちの負けだ!!」
「十代くん……」
十代くんはまだあきらめていない! すかさず十代くんはヒーローバリアを発動して、ダーク・ガーディアンの攻撃を止める。まだ希望を繋いでいるんだ。
迷宮兄弟、お兄さんはターンを終える。今度は十代くんのターンだ。
負けて欲しくない。私はまだ、十代くんと一緒にいたい!
「がんばって! 十代くん!!」
さっきと違って、声を張り上げ大声で叫ぶ。それに応えるように、十代くんはカードを引いた。
「強欲な壺を発動!! デッキからカードをさらに2枚ドロー!!」
手札補充。あきらめない十代くんの心にデッキが応えていく。
「フィールド魔法、フュージョンゲートを発動! その効果により、俺は手札のフェザーマンとバブルマン、そして場のスパークマンを融合!! E・HERO テンペスターを召喚!!」
私とのデュエルで出した3体融合モンスター、テンペスターが召喚された。
でも攻撃力はまだ届かない。十代くんはさらに、手札のカードに手をかけた。
「フィールド魔法、スカイスクレイパー発動! この効果により、E・HEROと名のつくモンスターが、自分より攻撃力の高いモンスターと戦闘する場合、HEROの攻撃力を1000ポイントアップするぜ!! ダーク・ガーディアンに攻撃! カオス・テンペスト!!」
2800の攻撃力が上昇して、3800。ダーク・ガーディアンに並ぶ。テンペスターの効果を使えば、ダーク・ガーディアンを倒せる。
「だが、ダーク・ガーディアンは戦闘では破壊されない!!」
しかし、決死の攻撃も無に終わる。十代くんは分かっていたという風に翔くんの場のカードを墓地に送り、テンペスターの破壊を無効にした。
十代くんは……何かを伝えようとしている?
翔くんは、その十代くんの思いに気づいているのだろうか……
―side丸藤翔―
アニキの攻撃が無駄に終わる。でもアニキは何か言いたげに僕を見ていた。
まさか、アニキは何かを伝えようとしているんじゃ……
今度は何をして欲しいのかまだ分からない。でも、僕にできることがあるはずなんだ。
目の前のダーク・ガーディアンは邪気を放って僕らを威嚇する。ターンは迷宮兄弟、弟に移った。
「罠カード発動、一騎打ち!! このターン、お互いのフィールドにいる攻撃力の1番高いモンスターで戦闘を行う!!」
本来操ることのできないはずのダーク・ガーディアンを使って戦闘を行う。テンペスターに攻撃が向かう。
まずい、アニキのフィールドにはテンペスターで墓地に送れるカードがない!
「俺は、テンペスターの破壊を逃れるために、スカイスクレイパーを墓地に送る!」
摩天楼の風景が変わり、元のデュエルフィールドに戻る。これによって本来上昇するはずだったテンペスターの攻撃力は上がらず、僕らはダメージを負った。
追い込まれた。残りライフは700.これで僕達は次の僕のターンで勝たなきゃいけなくなった。
「僕のターン」
思考を巡らせる。何を引けば勝てるんだろう。分からないままに、僕はカードを引いた。
「このカードは……」
引いたカードは、パワーボンド。封印されたカード。
この光景はあの時のゴリ助とのデュエルを彷彿させた。使えば、強力なモンスターを呼べる。でも、それだけじゃ勝てない。ダーク・ガーディアンは戦闘で破壊できない……
ピン、と頭の中で一本の線が通る。そうか、アニキはこのことを伝えようとしていたんだ!
「でも……」
僕はどうしてもパワーボンドを発動させることができず、体を硬直させる。このカードは、封印されて……
――デュエリストの道は、自分で切り開いていくものだ――
いつだったか、お兄さんが僕に言った言葉。ここで、何かにこだわって、僕は負けるのか? 違う。僕はこの状況を切り開くんだ!
震える手で、パワーボンドのカードを手に取る。発動させるんだ! このカードを!!
勇気を奮い起こす。それと同時に、一つの状況が頭をよぎった。
僕が女子寮で捕まったときの、アニキと舞花ちゃんのデュエル。そして、そのときの言葉。
――どんな時が、1番デュエルを楽しいって思う~?――
その言葉の答え、彼女の答えを胸にこめて、僕はパワーボンドを引き抜いた。
「デュエルが1番楽しいのは……」
――1番好きなカードを使って戦うとき!――
「1番好きなカードを使って戦うとき! その時が1番楽しいんだ!! 魔法カード発動!! パワーボンド!!」
胸を張って僕は言える。このカードが僕のフェイバリットカード。僕の1番好きなカードだって。
だって、大好きなお兄さんに貰ったカードだから。
「アニキ、モンスターを貰うよ!」
「おう、頼んだぜ! 翔!!」
アニキが勢いよく応えて、僕は手札のユーフォロイドを墓地に送る。
「パワーボンドは機械族専用の融合カード。僕は手札のユーフォロイドと、アニキの場のテンペスターを融合!!」
思えば、このデュエルアニキはずっと僕のサポートをしてきてくれた。アニキは僕がちゃんと立って歩けるように、僕のために戦ってくれたんだ。
そして、迷宮兄弟。ありがとう。僕達を侮らずに、全力できてくれたから、僕達はこんな楽しいデュエルができたんだ。
勝っても負けても悔いなんてない。だから、この1撃に全部込める!
「ユーフォロイド・ファイターを召喚!!」
テンペスターがユーフォロイドに乗っただけに見える。でもその力は2つの力の融合だ。
「ユーフォロイド・ファイターの攻撃力は、融合素材にしたモンスターの攻撃力の合計となる」
テンペスターの2800に、ユーフォロイドの1200の攻撃力が合わさる。総合して、4000ポイントだ。
「だ、だがダーク・ガーディアンは戦闘では破壊されない」
「でもダメージは通る! パワーボンドの効果により、このカードで特殊召喚したモンスターの攻撃力は2倍になる!!」
アニキが体を張って伝えてくれた。戦闘で破壊できなくても、ダメージは通るって。アニキは僕を信頼してあんなことをしていたんだ。だから、僕もそれに応える!
2倍になったユーフォロイド・ファイターの攻撃力は……
「は、8000だとぉ!?」
迷宮兄弟のライフは残り3500! これで決まりだ!!
「ユーフォロイド・ファイターで攻撃!! フォーチュン・テンペスト!!」
大きな竜巻が、ダーク・ガーディアンを貫いていく。その大きさは、その程度の障害をものともしないように、迷宮兄弟をも貫いていった。
これで、僕たちの勝ちだ!!
迷宮兄弟のライフポイントが0になった。
―side橘舞花―
「や、やったー!!」
翔くんが放った最後の1撃が勝敗を決する。迷宮兄弟さんのライフが0を刻み、十代くんと翔くんの勝利を告げる。
よかった~。これで2人ともまた一緒にいられるよ~
嬉しくて、すぐさま二人の所まで駆けて行った。
段を降りていって、中央の2人のところまで降りていく。ついたときには、十代くんがいつものようにガッチャってやってた。
「おめでと~二人とも」
「うん!」
「おう!」
賞賛の言葉に、二人は嬉々とした返事を返す。本当によかったよ~。
安堵感が体を支配して、ほんの僅かに脱力する。でも、抜ききらないでその場に立ち止まった。
「あ、舞花サンキュー。お前の応援よく聞こえたぜ」
「え……よ、よかった~」
聞こえるくらいの大きな声を張り上げていた自分が少し恥ずかしい。
「お前の応援は、いつも元気が出るんだ。本当にありがとな!」
十代くんの言葉に、心臓がドキッとなる。十代くんは、私の応援で元気になるって……
嬉しくてすこしはにかむ。心がドキドキ言っている。
十代くんは私の方に手をのばす。タッチかな? 握手かな?
私はわからなかった。だって……
――パシィン
はたく音が、場内に響く。それは、私が十代くんの手をはたきおとした音
え? 私今何をしたの?
私がした行動に、1番驚いていたのは私。でも、驚いていたのはその場にいたみんなだ。私も、みんなも時が止まったかのように硬直する。
静寂が少しの間流れる。1番早く開口したのは、私だった。
「ご、ごめんね!」
分からなかった。分かっていた。
私がした行動に自分で結論を出しながら頭の仲でぐるぐる変える。何でこんなことをしたの? どうして私は……
その場から走り去る。その私の脳内に、1つの言葉が浮かぶ。
――怖かった