魔法の世界で……   作:アルペリア

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オスティアへ

 

 

 泊まっている部屋の外の階段を、誰かが上がってくる音が聞こえる。読んでいた本から顔を上げて、壁にかかっている時計を見ると、時間はそろそろ夕食の時間になる頃だった。

 依頼を受けに行ったセイバーもそろそろ戻ってくるだろう。今回の依頼はどんなものなのだろうか。最近は戦争が激しくなってき始めているから、依頼も必然と厳しいものになってくるだろうとぼんやりと考えていた。

 

 

「マスター。ただいま戻りました。」

 

 

 そんなことを考えていたら、セイバーが鍵を開けて部屋に入ってきていた。

 ん?何だかセイバーの雰囲気が心なしか苛立っているように感じる。依頼の話し合いで何かあったのだろうか?

 

 

「お帰りセイバー。ところで依頼の打ち合わせで何かあった?何だか苛立っているように見えるんだけど。」

 

 

 気になり尋ねてみると、ハッとした顔をする。自分が苛立っていた事に気付いていなかったようだ。

 普段冷静なセイバーが珍しい。依頼の打ち合わせで何かあったのは間違いないだろう。

 

 

「……マスター、申し訳ありません。今回の依頼、私の独断で断ってしまいました。」

 

 

 頭を下げてセイバーが謝ってくる。

 セイバーが依頼を断るとはいったいどういう事だろうか。

 数年前に俺が依頼を依頼者から直接受けに行った時、依頼者と言って接触してきたのは実は当時敵視されていた相手からの刺客で、その刺客に襲われて負傷して以来こういった直接受ける依頼は、まずセイバーが依頼を受けてくるという形に変更したが、それ以来初めての事だ。

 

 

「セイバー、依頼の話し合いで何があった?詳しく話してほしい。」

 

 

 セイバーを椅子に座らせて、話を促す。一体どんな依頼を相手は持ってきていたのだろうか。

 

 

「依頼主は最初に受け取った手紙通り元老院の者。実際に来たのはその部下の者でした。部下は手紙に同封されていた写真と同じ人物でした。主の名前は明かしませんでしたし、彼自身についても特に話してくることはありませんでした。」

「その部下は何か自分の上司について何か言っていたかい?」

「いいえ、手掛かりになる様なことは何も言いませんでした。」

 

 

 セイバーの言葉を聞いて少し考える。

 

 

「そっか……。それで依頼の内容は何だったの?」

 

 

 元老院関係のところから来た依頼だったから、戦争関連だとは予想していたが、セイバーが断ってしまう依頼だ。

 一体向こうはどんな依頼を言ってきたのだろうか。

 

 

「依頼の内容は『黄昏の姫御子』の抹消でした。」

「何っ!?」

 

 

 セイバー口から出た依頼内容が信じられなくて、身を乗り出してしまった。驚く俺に対して、セイバーは話を続ける。

 

 

「相手は最低でも負傷させて、彼女が行動できないようにしろと言ってきました。」

「『姫御子』を……。そんなことをしたら、連合はオスティアを捨てるのか?」

「彼らは『姫御子』が戦争の一因となっているから、それを無くそうとしているようです。」

「確かに彼女の『完全魔法無効化能力』は一つの要因となるかもしれないが、まだあんな子どもに対してなんていう事をしようとするんだ。」

「また、奴らはこうも言っていました。彼女は人ではなく、化け物だと……。」

 

 

 セイバーが拳を握りしめながら言う。それを見ながら、連合からの依頼を彼女が受けなかった訳を理解した。

 セイバーは騎士道に反する事に対して嫌悪感を持っている。今回の暗殺、そして守るべき存在である子どもに対して絶対に行ってはいけない行為だ。

 いや、騎士道に通じていない俺ですら嫌悪感を抱く内容だ。

 これは受けなくて正解だったな。

 

 

「あの……私の独断で断ってしまいましたが、まずかったでしょうか?」

 

 

 セイバーが此方を少し不安そうな顔で見てくる。確かに彼女の意志に反する内容の依頼だったが、主の了承無しに断ってしまった事を気にしている。そんな表情だった。

 そんなセイバーに軽く微笑みながら伝える。

 

 

「いや、セイバーの判断に間違いはないよ。俺もそんな依頼は受けたくないし、今までセイバーの判断に従って間違ったことはないからね。今回もこれが正解なんだ。」

 

 

 俺が言うと、セイバーは少し安心したようだった。

 

 

「しかし、連合が姫御子を排除しようとしているというのなら、今後の戦争がどうなっていくのか……。」

「そうですね。恐らく長期化、泥沼化していくのでしょう。そしてそれに比例してこの世界全体が疲弊していくのでは……。」

「その前にどうにかしたいところだけど、俺たちにはそんな大きな力はないからね。どうするべきか。」

 

 

 セイバーとこの後の戦争について話すが、二人だけではどうしようもない。戦力差があり過ぎる。

 せめて、ピエロのところで会った彼らと会えるのなら、まだ可能性はあるのかもしれないが。

 

 

「戦争も軽視できませんが、私は依頼に出てきた姫御子の事も心配です。」

 

 

 セイバーが口を開く。姫御子について、一体何が心配なのだろう。俺の疑問を感じたようで、セイバーは続けて話す。

 

 

「姫御子の依頼。相手が本気なら今日私が断っただけで諦めるとは思えません。」

「まさか、俺たち以外に同じ依頼をする……という事か、セイバー?」

 

 

 セイバーの話から思ったことを言うと、彼女は無言で頷いた。

 

 

「我々のように信念を持って活動している方も多くいますが、中にはそうでないのも大勢います。報酬の内容によっては受ける者もいるでしょう。」

「……確かに、これほどの内容の依頼なら報酬もそれに釣り合う程だろう。それを求めて受けるのがいてもおかしくはないな。」

「ええ、そしてそれらは必ず複数いると考えてよいでしょう。」

「複数も来られたら、オスティアは姫御子を守り切れるのか?ついこの前侵攻作戦があったばかりだぞ。戦力が残っているとは思えないな。」

「依頼に来た者が言っていましたが、数日後また帝国が侵攻してくるそうです。」

「何だって…………。」

 

 

 戦闘となれば姫御子は前線に居なくてはならない。そんな場所では帝国、そして依頼を受けた者両方からの危険に晒されてしまう。

 戦闘中、しかも連戦の中でどれだけの戦力があてになるかなんて期待は出来ない。最悪の事態になってしまう可能性が十分にあり得る。

 そんなことは阻止しなくてはいけない。

 

 

「……セイバー。」

 

 

 声を掛けると、セイバーも俺と同じことを考えていたようだ。こっちを見て頷く。

 

 

「はい、行きましょう。オスティアに。」

 

 

 この依頼の事を知っていて、今自由に動けるのは俺たち位だろう。俺たちが止めなくてはならない。

 

 

「ただ、王国の方に姫御子が暗殺されそうですなんて言う事は出来ないから、表立っての警護は難しそうだな。」

「それはそうでしょう。陰で待機しながら警護につくしかありませんね。」

「敵がどこにいるか分からない状態だから、気を使うことになりそうだ。」

「それは仕方ありません。ですが、王国の方に敵がいないとは限りません。私たちだけで守りきるつもりで行かなくては。」

「内通者の可能性か……。」

 

 

 考えればあり得る話だ。俺たちが王国に協力を仰いで、それがどこで相手に伝わるか分からない。それを考えればセイバーの言うとおり俺たちだけでやり通さなくてはいけない。骨の折れる仕事になりそうだ。

 

 

「でも、やることは決まった。セイバーそろそろここを出よう。今から出発してどれ位でオスティアに着くかな?」

「何とか戦闘が始まる前にはつきたいですが、グレート=ブリッジが使えるか、使えないかで変わってきますから、何とも言えません。」

「そっか。何とかなればいいけど。」

「私が昼夜問わずに運転します。急ぎましょう。」

「昼夜問わずって、大丈夫なのか。」

従者(サーヴァント)ですから、ある程度の無理はききます。それに動かすのはピエロから受け取った車ですから、問題はないでしょう。」

「大丈夫でしょうって、セイバーは前に運転したことがあるんだっけ?」

「ええ、何度か。性能は化け物クラスですので、何とか間に合わせてみせます。」

 

 

 セイバーが俺を真っ直ぐ見て言ってくる。その眼から伝わってくる自信を信じて、セイバーに頷いて、二人で部屋を出る。

 

 

 

………。

 

 

 

……………。

 

 

 

 宿の清算を終えて表の大通りに待たせているセイバーのもとに行くと、すでにセイバーは車に乗って待っていた。

 セイバーが乗っているのは彼女自身も第四次聖杯戦争で乗ったことのある車だ。それをピエロはどういう訳か依頼の報酬として性能を上げたやつを渡してきた。最初は場所をとるだけだと思っていたが、ご丁寧に収納魔法付きで渡してきたので、場所には困らず、こうして移動手段として使用している。

 

 

「準備は良いですか、マスター?」

「ああ、大丈夫だ。それじゃセイバー頼んだよ。」

「お任せください。」

 

 

 俺の言葉に頷きながら、セイバーは車を発進させる。俺たちを乗せた車は人気のない大通りを猛スピードで走っていく。

 目的地はオスティア。何としても姫御子・アスナを守ってみせる。そう思いながら、俺はセイバーの運転に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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