魔法文明発祥の地ウェスペルタティア王国の首都オスティア。普段なら美しい風景が広がっているが今は火の海に包まれていた。
帝国からやってくる戦艦に巨大な人型の兵器、魔法使いの編隊。大小数多くの戦力がオスティアを占領せんと侵攻していた。
そんな惨状がよく見える丘に赤髪の少年を先頭にして四人のが駆けつけていた。
「くそっ遅かったか!」
先頭の少年についてきていた近衛詠春が悔しそうに言う。それに続いて先頭の少年、ナギ・スプリングフィールドも怒りに顔を歪ませる。
「気にいらねぇぜ!」
「始まってしまいましたか。」
ナギの後ろからついてきていたフードをかぶった青年、アルビレオ・イマも戦火に包まれているオスティアを見て呟く。
「どうするのですか、ナギ?」
「そんなの決まってるだろ!さっさと行ってこの戦いを終わらせるぞ!」
アルビレオの問いかけに即答するナギ。アルビレオも答えが分かっていたようで一つ笑みをこぼすと、前を向いて戦場を見る。
その隣では詠春も準備を整え、いつでも行ける態勢だ。そんな仲間を見てナギは「よっし、行くか。」と呟き、自分の後ろにいる一緒にここまで来た最後の仲間に声を掛ける。
「準備は良いか!ユキト!!」
「あぁ、問題ない。何時でも行けるぜ。」
黒のジャケットに身を包んだ少年と青年の間くらいの年の男子。ピエロによってこの世界に連れてこられた五人の一人、火野幸人。彼も剣を取り出し、ナギの問いに威勢よく答える。
「よっしゃぁ!行くぜっ!!」
ナギの声に連なって、四人は一斉に地面を蹴って宙に舞った。
………。
…………。
「黄昏の姫御子…何だって、そんなもん!?」
「歴史と伝統だけが売りの小国に他に手はないでしょう。」
塔に向かって高速で移動している途中、ナギの問いにアルビレオが答える。先ほど、帝国の戦艦からの砲撃が一瞬にしてかき消されたのを見て、アルビレオに尋ねた所、そうアルビレオは返してきた。
「王族だろ?!まだ小さな女の子だって聞くぜ。」
ナギが苛立ったように叫ぶ。小さい子が戦争に参加していることに憤りを感じているようだ。
そんなナギに詠春は落ち着けと注意するが、ナギは冷静だと怒鳴り返すが誰が見ても冷静とは言えない状態だった。
「戦争ですからね…。向こう目的も恐らくそれに少女の年齢も私同様見た目通りとは…。」
「そんなことはどうでもいい!」
アルビレオの言葉に火野幸人が反応する。三人の目が彼に注目する中、口を開く。
「目の前で戦争が起こっているんだ。俺たちにそれを止める力がある。なら、考えるのは後だ!まずは戦闘を終わらせる!」
火野幸人が力強く宣言する。アルビレオは「ほぅ。」と感心したように息を吐き、詠春は「まぁ、お前らしいか。」と苦笑いと共に言う。そしてナギは我が意を得たりといった風に笑い、
「そうだ!その通りだぜユキト!さっさと行って終わらせて来ようぜ!!」
と叫ぶ。四人はさらに速度を上げて戦場に向かって行った。
………。
……………。
「……これは凄いことになってるな。」
セイバーが運転する車から降りて見えた景色は火の海だった。帝国からの大軍が王国に迫っていた。
一方的すぎる状況に王国が落ちてしまうのは時間の問題だと分かってしまう。車を収納したセイバーが後ろから声を掛ける。
「マスタ―、急ぎましょう。状況は絶望的ですが、まだ王国は生きています。」
「急ぐってここからどこに向かったらいい?ここが戦闘の最前線だけど、姫御子の位置が分からない。」
すぐに行こうと言うセイバーだが、肝心の姫御子の場所が分からないのだから動きようがない。
そんな俺にセイバーは「アレを見てください。」と言って指をさす。その方向には砲撃を放つ帝国の戦艦があった。
砲撃は王国の町に届くと思われたが、俺たちのすぐ近くにある塔に接近したときに突然消失した。
「砲撃が一瞬で……。まさかこの上に姫御子が……。」
「可能性は高いでしょう。ここは帝国との最前線ですから、それに先ほどの砲撃をかき消したのも恐らく姫御子の力と考えて間違いないかと。」
セイバーの言葉に頷く。これはこの上に姫御子がいる可能性が高いな。
「セイバー、周りに相手がいるか分かるか?」
「……恐らく、いないと思いますが、相手はおそらくプロの暗殺者。簡単に気配を気取られるという事は無いでしょう。」
敵の状況は分からないか。ここはいると考えて行動した方がいいかな。
「帝国の軍が近くまで来ている。急いで行こう。」
「私が先行します。マスターは私の後ろから来てください。」
セイバーに頷いて、塔の入り口に入る。人気は無く、上の方から人の気配がかすかに感じられる。あたりを見回すと、上に行く螺旋階段を見つけた。セイバーに声を掛け階段の麓に駆けつける。上を見るとかなりの距離だ。
急いで行かないといけないが、これは骨が折れそうだ。
「急ぎましょう。」
セイバーが声を掛けてくる。その声に頷きつつ、身体強化の魔法を掛ける。俺が魔法を掛けたのを見たセイバーは「飛ばしていきますよ。」と言って、猛スピードで先に階段を駆け上がる。
それに遅れないように俺も階段を上り始める。
……。
………。
渡良瀬アキラとセイバーが塔を登り始めた時、最上階の広場は絶体絶命な状況になっていた。敵の戦艦からの長距離砲撃は黄昏の姫御子によって無効化できたが、戦艦から投下された巨大な人型の兵器が群れを成して侵攻していた。
その内の一体が塔に向かって手を伸ばす。最上階にいる数人の神官らしき人が「防御結界を!」と叫ぶが、それが間に合うとは思えないほど、巨人の手が迫ってきていた。 そんな中、神官たちの中央にある魔法陣の中にいる少女は感情の移っていない瞳で、自分に迫ってきている手を見ていた。
周りの神官たちは結界が間に合わないと分かると、我先に逃げ出していた。そして、巨人の手が少女に届くと思われたその瞬間、もの凄い音と、衝撃と共に巨人が横薙ぎに真っ二つにされた。
逃げ出そうとした神官たちが呆然と見つめる中、巨人が倒れたことによって出来た煙の中から少年の背中が見えてきた。
「そんなガキまでかつぎ出すこたねぇ。後は俺に任せときな。」
少年の言葉に逃げ出していた神官たちが反応する。複数の神官から「あ、あれは。」「
その呟きに反応して少年は神官たちの方に振り向いて名乗りを上げる
「そう!ナギ・スプリングフィールド!!またの名をサウザンドマスター!!」
その名乗りを彼の仲間は「自分で言ってるよコイツ。」「フフ、ノリノリですね。」「何で、あんなに堂々と言えるんだよ…。」と若干冷めた感じで見ていた。
その間にも帝国の大軍は王国に向かって進んできて来て、彼ら紅き翼の前にも迫ってきていた。その大軍を見て彼らの雰囲気が一変する。詠春は刀を構え、アルビレオも魔法を放つ態勢に変わる。
火野幸人は「この二枚でいいか。」と呟きつつ、右手に持った剣に左手に持った二枚のトランプのカードみたいな物を剣の刃の近くにある溝に走らせる。〔スラッシュ。サンダー。〕と音声が出るのを確認すると、彼も構えをとる。
ナギも「
「行くぜオラァッ!!」
叫びつつ腕を振るい『
その様子を見て神官たちから「おぉ…。」と感嘆の声が漏れる。その声に彼らの方を振り向きつつナギは自信たっぷりに言う。
「安心しな、俺達が全て終わらせてやる。」
「な…しかし……。」
「敵の数を見たのか!?お前達に何が…。」
ナギの発言に絶句する神官や不可能だと声を荒げる神官。その声にナギは首を振りつつ「俺を誰だと思ってる、ジジィ。」と呟き、自分を指差し、宣言する。
「俺は最強の魔法使いだ。(魔法学校だきゃ中退だがな)」
その発言に神官たちは絶句する。ナギの後ろから来ていたアルビレオは「カンニングしながら呪文を放つあなたが言っても説得力がありませんね。」と笑いながら言い、詠春は刀を担ぎながらため息を吐く。火野幸人は「まぁ、当たらずとも遠からずってか?」と言う。
後ろからの発言に「あ―あ―」と言って聞こえないふりをするナギ。そんなナギに近づき、小さくアルビレオは話しかける。
「それに…あなた個人の力が、いかに強大であろうと世界を変えることなど到底…。」
「るせ―っつってんだろアル。俺は俺のやりたいよ―にやってるだけだバ―カ。」
アルビレオの言う事を遮ってナギは言う。そしてさっきから自分を見ている少女に向かって行き、彼女の口元から流れる血をふきながら尋ねる。
「よう、嬢ちゃん。名前は?」
「ナ…マエ……?」
尋ねられた少女は感情の籠っていない声で答える。
「アスナ……アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。」
「なげーな、オイ。けど…アスナか、いい名前だ。」
少女・アスナの答えに満足そうに頷き、「よし、待ってなアスナ。」と言いつつ立ち上がろうとするナギ。
その時、今までの戦闘とは違った感じで周りが騒がしくなった。この最上階の隅の方から何かが、高速で近づいてきている。
その方向に目を向けたナギが見たのは、神官の格好をした者が、此方に向かってナイフを振りかぶりながら高速で近づいてきていた。
「くたばれ!姫御子ォ!!」
意識せずに体が動いたナギはアスナを守るように身を出す。
自分に迫ってくる凶器、後ろから聞こえる仲間の声と駆けつけようとする足音。それらを見、聞きながら、ナギは「俺は、こんなところで死ぬのか?」と思っていた。
ナイフが自分に届きそうな瞬間、目を瞑ったナギにナイフが刺さる事は無く、代わりに自分のすぐ前で何か金属らしき物がぶつかる甲高い音が聞こえた。
「最強の男と言うには、少々周りへの注意が疎かですよ。サウザンドマスター。」
目を開けると、襲ってきていた神官は広場の隅の方まで飛ばされており、代わりに自分の前には青い騎士甲冑を纏った女性が立っていた。
「ア…アンタは?」
と尋ねるナギに女性は辺りを警戒しつつも、ナギの方を見て言った。
「我が名はセイバー。立場と経緯は違えど、姫御子を守るために来た者です。」
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