セイバーに遅れて最上階の広場に来た俺の前には、姫御子とローブの少年を守るように立っているセイバーが見えた。広場の隅の方に倒れている神官を取り押さえている神官たちを見ると、どうやらあの縛られているのが刺客という事なのだろう。神官の格好をして潜んでいたという訳か。
そして、どうやらセイバーは姫御子を守ったようだ。俺のスピードに合わせずに、先に行かせて正解だった。突然下から上がってきた俺に対して幾人かの視線を感じる。
「セイバー、敵はあの縛られている奴か?」
「ええ、私がこの部屋に入った時にまさに襲おうとしているところでした」
「そうか……」
セイバーの陰にいる、姫御子を見る。彼女は感情の籠っていない目で俺を見てきた。
「初めまして。渡良瀬アキラって言います。君の名前は?」
「……アスナ」
「そっか、アスナちゃんか。よろしくね」
姫御子と同じ目線になるように屈んで話しかけると、彼女は名前を言ってくれた。鎖で繋がれていてあげられない手にそっと自分の手を合わせると、少しだけ、握り返してくれた。
そんな姫御子の隣で、姫御子を守るように抱えている少年と目が合った。この少年は確か……。
「なぁ、アンタは誰だ?この甲冑の姉ちゃんの仲間か?」
声を掛けようとしたら、先に掛けられた。俺は「ああ」と答えつつ、少年をもう一度しっかりと見る。
赤毛で一本出ているアホ毛、意志の強そうな目に足元に落ちている身の丈程の杖。この少年が……
「君がナギ・スプリングフィールドか」
「アンタ、何で俺の名前を知ってるんだ?前に何処かであったか?」
思わず口に出てしまったのをナギは聞き逃さず、不思議がる。あぁ、口が滑ったなぁと思いつつ、彼が口を開く前に話す。
「いや、噂を耳にしただけだよ。少年なのに凄腕の魔法使いがいるってね」
「凄腕……まぁ当然だよな。俺は最強の魔法使いだしな。」
取りあえず口にすると、ナギは嬉しそうに笑う。何とか誤魔化せたかな?
「そう言えば、アンタの名前を聞いてなかったな。名前、なんて言うんだ?」
「名前か、俺は渡良s「あぁー!なんでアンタがここにいるんだよ!!」……」
ナギに向かって話そうとした時に、ナギの後ろの方から声が遮ってきた。何事かと視線を向ける。
「君は確か……火野だったか?」
「そうだよ、それで何でアンタがここにいるんだよ?」
この世界に来る前のピエロの部屋であった火野幸人。数年ぶりに見る彼の姿は少し背が伸びたように感じるが、俺に向かって話しかけてくる声の口調は以前聞いたものそのままだった。
「それについては俺も聞きたいな。何故君が彼らと行動しているのかを」
それを聞いた火野は口を開こうとするが、それを遮るように、今まで後ろで静観していたローブの青年が口を開いた。
「どうやらお互い聞きたいことがあるようですね。ですがその前に目の前の脅威をどうにかしないといけないのでは?」
ローブの青年(おそらくアルビレオ・イマだろう)に言われてさっきまで帝国の軍隊が向かってきていた方を見ると、まだ距離は少しあるが、新しい巨人たちが向かってきていた。
周りの神官たちが「まだ、あんなに戦力があったのか……」と弱弱しい声で言っていた。声の方を向くと、フードで顔全体は見えないが、怯えた、絶望した口元が見えた。
「ナギ、大丈夫ですか?相手はまだ来ていますが」
「問題ねえよ。俺はまだまだいけるぜ」
対してナギたちは特に悲観していることはなく、早くも戦闘準備に入っている。さて、俺は魔法が使えないので、巨人との戦闘には参加できないから、姫御子の近くで警護でもしていようかな。
「待ちなさい、ナギ・スプリングフィールド」
巨人へと向かおうとしていたナギをセイバーが止める。
今まさに行こうとしていたナギは後ろから待ったを掛けられ、不機嫌そうにセイバーを見る。ナギの視線を気にする様子もなくセイバーが続ける。
「貴方はすでに一度戦っている。相手の戦力がまだどれ程残っているか分からない状況ですので、ここは私が出ましょう」
「何言ってるんだよ、セイバーさん。アンタどう見ても剣士じゃないか。それであの大軍が相手に出来るのかよ?」
セイバーの発言にナギが返す。まぁ彼の言っていることは最もだろう。セイバーはパッと見はどう見ても剣士だ。そんな彼女が代わりにあの巨人たちと戦おうと言っているのだから、ナギが難色を示すのは当然だろう。まぁセイバーの考えはあの巨人の群れにぶっ放すことだろうけど、ナギはそれを知らない。
俺からも何か言った方がいいかなと思って口を開こうとしたら、先に横から口を出された。
「まぁ落ち着いてくださいナギ。彼女も無策のまま言っている訳ではないようですし」
「そうかもしれねぇけどさアル。セイバーさんはどう見ても騎士だぜ。俺みたいな広い範囲の魔法を撃つなんて考えられねぇ」
「ですが彼女の自信、きっと見た目では判断できないのではない物をお持ちなのでしょう。ここはひとつ任せてみませんか?」
アルビレオ・イマからの言葉でナギは渋々セイバーが先に出ることに了解したみたいだった。それに対してセイバーは「任せてください」と言い、ナギの隣で静観していた近衛詠春に声を掛ける。
「ナギ・スプリングフィールドの隣の眼鏡をかけた貴方。名前を何と言うのですか?」
「私か?近衛詠春だ」
「ありがとう。私はセイバー、一つお願いしたいのですが」
「お願い?」
「ええ、先ほど貴方が使っていた浮遊用の札をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
セイバーのお願いに詠春はすぐに札を渡してきた。それを見ていたナギが「いいのか?」と聞いてきたのに対して詠春は「そんなに高価なものでないし、まだ数はあるから問題はないさ」と答えていた。
「詠春、感謝します」
セイバーはそう言って詠春から使い方を教わっていた。その向こうでは巨人たちが此方に向かってきてはいるが、また若干の余裕はある距離だ。
最も俺の後ろに居る神官たちは気が気ではないようで、巨人たちを視界に入れずに話しているセイバーたちに何か言いたげな表情だ。だが、だれも声に出す人はいない。彼らは戦う力を持っていないのだろう。
特に何かするわけでもなく、周りを見ていた俺のローブの裾をアスナちゃんが引っ張ってきた。
「ん?どうかしたアスナちゃん?」
「あノ……オンなのヒトはツよイの?」
あまり話すということをしていないのだろう。一言一言ゆっくりとぎこちない感じで尋ねてくる。
「あぁ、セイバーの事かい?大丈夫、彼女はとっても強いよ」
そう答えると、アスナちゃんは満足したのか、視線を下に戻した。まだうまく喋れないであろうアスナちゃんが俺に話しかけてきたことに対して少し驚いていた。 だが、それについて考える前に横から火野が声を掛けてきた。
「なぁ、あのセイバーは俺が知っているセイバーと同じなのか?」
「……質問の意味が良く分からないが、君が言っているのが“stay night”のセイバーのことを言っているのならば、正解だ」
「やっぱそうなのか」
「正確には“zero”が終わった直後らしいけどな」
「別にそこはいいけど、なら使うのって……」
「君が思っている物だと思うぞ。まぁ、使うには俺の魔力をいくらか消費するけどな」
視線の先では詠春から使い方を教わったセイバーが札を使って俺達がいる塔より少し先に浮遊していた。巨人たちはかなり近くまで来ている。新しく投入された物が恐らく全て射程距離に入っただろう。
セイバーは風の鞘から抜かれた金色の刃を一息に振り下ろす。
目の前が金色一色になると、隣に居た火野があまりの眩しさに小さく呻いている。初めて見るなら当然かと思いながら、反対側に居るアスナちゃんが怖がらないように、背を屈めて手を繋ぎながら、光が収まるのを待った。