○幼竜イングヴァルト
征天竜イングヴァルトの幼体。成体ほどの能力は無いが、幼竜でも危険度は高い。通常は森の奥に生息し人の生活領域に入ってくることはないが、稀に食料等を求めて人里近くに現れることがある。
縄張り意識が強いので、無闇に近づかないこと。成体ほど風を操ることが出来ず、風圧による攻撃は成功確率は低いがそれでも成功すれば一魔法使いでは対処できないくらいの攻撃をしてくるので、注意しておくこと。
体に纏っている風の障壁は遠距離攻撃を軽減させるので、頭の角を壊して障壁をはれないようにする必要がある。
「これがイングヴァルトか。こりゃ時間がかかりそうだな。」
「そうですね。まずは頭の角をどうにかしないといけませんね。」
翌朝俺とセイバーはピエロからの依頼で倒す相手のイングヴァルトの情報を手に入れにギルドに来ていた。この幼竜は滅多に人里に来る事は無いがたまに出現するそうで、山の近くに住む人にとっては大敵らしい。
そして竜にしては繁殖力が強く、数も増えやすいので見つけ次第追い払うか、討伐するのが良いとのこと。しかし、幼竜でもかなり強いのでしっかりと準備をしていかないと返り討ちにあうらしい。そしてある程度の人数が必要だという。決して二人という少人数で討伐しに行く相手ではないという事だ。
「俺たちだけで行くと何か言われるかな?」
「言われるでしょうね。」
俺の質問にセイバーが即答する。
やっぱね、図鑑に危険って書いているから二人で行くのはギルドから反対されるかね。
となると依頼が貼ってあっても受理せずに行った方がいいかな?でもそれだと依頼を受けた人たちとトラブルが起きそうで嫌だな。
「ですが見たところイングヴァルトの依頼は無いみたいですね。」
セイバーの指差す依頼が貼ってある掲示板を見ると確かにイングヴァルトに関する依頼は一個もなかった。
「あれ、依頼無いの?てっきりあると思ったんだけど。」
「今は無いみたいですよ。それでもピエロは討伐の依頼を出してきたんですから、何かほかにあるのではないのでしょうか」
「何かねぇ。それはそれで嫌な感じがしないでもないけど、実際は行ってみないと分からないかな?」
「そうでしょうね。ですから取り合えずクノエの森に行ってみましょう。」
「そうしようか。」
俺とセイバーはギルドを後にしてクノエの森に向かった。
・クノエの森
ヘラス帝国のほぼ北に位置する場所にある森林地帯。豊かな自然が存在しており帝国の中でも有数の森林地帯である。
豊かな自然があるためにそれを求めて魔法生物も多く生息しており、一定の力量を持つ人しか入ることを許されていない。特に竜種の征天竜イングヴァルトの繁殖場所、幼竜の生息場所としても有名である。
「……凄いね、ここ。」
「はい、イングヴァルトだけではなく、ほかにも強力な生物がいそうですね。」
「なんか森自体がピリピリしてるよ。」
俺とセイバーはクノエの森入口にいた。日本にいた頃ではまず見る事のできないような森林で、鬱蒼と茂っている木々がまるで森に入るなと言っているようで、入る前から帰りたい。森自体から何か意思を感じる気がした。
「ここにピエロの言っていた竜がいるんだよね?」
「ええ、そのようですね。」
「この森何だかすごい嫌な感じがするんだけど………」
「それでも森に入って竜を倒さないといけないですよ。」
そうなんだよな。セイバーに言われるまでもなく分かっているんだけど、足が動かない。
「さあマスター、行きますよ。」
「了解しました。」
ここで時間を食っていても意味がない。まずは森に入って竜を見つけないと始まらない。というか戦う手段がほとんどない俺が竜など倒せるのだろうか?
「大丈夫ですよ。」
「ん、セイバー?」
考えていることが顔に出ていたのだろうか。セイバーに声をかけられる。
「マスターは私が守りますから、安心してください。」
俺の目を見て軽く微笑みながら言われる。俺の不安を感じてくれているようで、こういってくれているのだろう。
……かなわないなぁセイバーには………。
……………。
…………………。
森に入ってどれ位時間が経っただろうか。俺とセイバーはひたすら森の中を歩いていた。自分の中では森に入って結構な時間が経ったと思っているんだが、まだ目的の竜イングヴァルトに出会えていない。
というか森に入ってまだ生き物に遭遇していない。ただ、ひたすらに森を歩いているだけ。
「なあセイバー、俺たち森に入ってどれ位経ったか分かる?」
歩きながら前を歩くセイバーに尋ねる。初めて会ったときもそうだったが、セイバーの後ろ姿からは疲れを感じない。タフだなぁ。
「そうですね。もう二時間くらいは経過していると思います。」
「二時間か、まだ何も会えないって普通なのかな?」
「どうでしょう、でも森に入る前に感じた気配があれほどあったのにそれにすら合わないというのは少し変ですね。」
「そっか……………セイバー、前に少し開けた場所がある。そこで少し周りを確認しよう。」
話しながら歩いていると、少し開けた場所に出た。今までずっと森だったが、いきなりポツンとそこだけ開いた場所に出た。
今まで何も生物と会うことがなかったが、これからはどうなるのだろうか。目標のイングヴァルトと会うことが出来るのか。このまま真っ直ぐ森を歩くか、方向転換した方がいいのか。
「セイバー、これからどうする?」
セイバーの方を向くと、セイバーは何やら険しい顔をしていた。
「セイバー、どうかしたか?」
「マスター、この開けた場所を見て何か気づきませんか?」
「この場所?」
セイバーに言われ、辺りをもう一度見回す。この場所に木々が全くないわけではなく、何か薙ぎ払われたように場所が開いていた。
「この開けた場所、自然にできた感じじゃない?」
「ええ、まるで何かによって力づくで開かれたような場所です。」
「じゃあ何かがここにいたという…………。」
俺の言葉は最後まで言う事は出来なかった。話している最中に後ろから大きな、何かが落ちてくるような音が響いてきた。
隣にいたセイバーを見ると、彼女は音のした方に振り向いていた。セイバーに続いて後ろを向くと、そこにはここに来る前にギルドで見た図鑑の写真と同じ竜がいた。
「これがイングヴァルト。」
目の前のイングヴァルトは自分のテリトリーにいる見たこともない存在である俺たちをじっと見ていた。
確か図鑑には縄張り意識が強いって書いてあったから、俺たちの事を多分よくは思っていないのだろうな、なんて考えていると、イングヴァルトの雰囲気がなんかよろしくない感じに膨れ上がっていった。
これは………
「セイバー、これって…………。」
「っつ!こっちにマスター!!」
俺が何か言おうとする前にセイバーが手をつかんで横に跳び、近くの林に身を隠す。直後
「―――――!!!」
とんでもない大きさの声というか、音が鳴り響いた。
とてつもない音量だったのでどんな音だったのかは分からなかった。
森に入る前にしておいた保護の魔法の意味なんてないほどに耳をやられた。体のバランスが取れずにクラクラする。俺を引っ張ってくれた隣にいるセイバーは無事だろうか?
「っつ!?」
隣を見るとセイバーが顔をしかめていた。どうやら彼女でも無傷というわけにはいかなかったようだ。
「大丈夫か、セイバー?」
「ええ、何とか。それよりもマスターは?」
「何とか動けるよ。でもさっきのアレは一体何だったんだ?」
「ただイングヴァルトが咆哮しただけだと思います。」
「ただの咆哮でアレか。とんでもないな。」
「そうですね。しかもアレでまだ幼竜というのですから成体になったらどうなるのか、考えるだけで恐ろしいものです。」
「そんなアイツをどうやって倒せばいいのかねぇ。」
セイバーと話しながら隠れている木の陰から広場の方を覗き見る。
イングヴァルトはさっきと同じ位置にいて辺りにまだ余所者がいないかどうかを確かめるように首を振っている。確か図鑑の通りに行けば頭にある角をまず壊さないといけないんだったよな。
「やるしかないか。」
「ええ、やるしかありません。役割は先ほど話した通りに。」
「ああ、俺が誘導、囮。セイバーが仕留める。何時も通りだな。」
「はい、いつもとやることは同じです。いきましょうマスター。」
セイバーと確認し合いイングヴァルトの方を向く。丁度相手もこちらに首を向けていたようで目があう。
「やってやるさ……。」
竜退治の始まりだ。
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