竜退治と言っても、魔法を撃つことが出来ない俺があのイングヴァルトを倒すなんて事は出来ない。俺に出来るのはセイバーに確実に必殺の一撃を出させるまでイングヴァルトの気を引いておくこと。 まぁ早い話が囮。とどめをさすのはセイバー。この役割は今までと変わらない。
「やっぱり宝具は使うのか?」
隣を走るセイバーに尋ねる。俺たちはイングヴァルトの居る広場から少し離れた林の中に来ていた。
さっき目があった時にすぐに攻撃が来ると思って退避したがイングヴァルトは何もしてこなかった。視線と殺気はこちらに向いているのは分かるが、自身が移動しようとする素振りは見せない。
「あの幼竜がどれほどの強さか分からない以上、こちらの最大戦力で討つのが最善かと。」
答えるセイバーの姿はいつもの黒いスーツではなく、戦闘服、青いドレスに騎士甲冑だ。
さっき林に退避したときに衣装が変わっていた。いつものスーツよりもやはりこちらの方が戦闘には向いているらしい。しかし、こちらの最大戦力があの竜に確実に通用するのだろうか?
「その点については問題はありません。」
「はっきり言うねセイバー。」
「自分の宝具については自信がありますし、それに威力で言えばこの世界の古代ギリシャ語の上位魔法と同等以上です。それに幼体の竜が耐えられるとは考えられません。」
「……確かにそうだな。」
「幼体で上位魔法に耐えるのなら成体はとんだ化け物です。それこそ、この地は彼らイングヴァルトだけで埋まってしまい、人が滅びます。」
そりゃそうだそんな化け物がいたらこの魔法世界は竜の王国だ。
「それに………。」
「それに?」
「事前の打ち合わせ通りにマスターには囮と誘導、そしてあの竜の頭部の角の破壊を行ってもらいますが、最悪の場合、角の破壊が出来ないと言う可能性もあります。そうなれば奴の纏っている障壁ごと切り裂くことになります。あの障壁がどれほどの魔法を軽減するかは分かりませんが、私の宝具なら何とでもなるでしょう。」
「まぁ、宝具使えばそうだろうけど。」
「ですから、マスター。」
話を区切ってセイバーが真っ直ぐに見つめてくる。
「角の破壊をするために無茶な行動は控えてください。囮の行動もです。捨て身の特攻はやめてください。最悪の場合私が死んでもあのピエロの事です、代わりの従者をよこしてくるでしょう。しかしあなたが死ぬという事はあってはいけない。この身に変えても私が…「セイバー…。」…。」
話しの途中で割り込んでしまった。ついでに目の前にいる彼女の肩をつかんで目を合わせる。セイバーが言っていることが引っかかってしまった。
「まだ君と会って半年程しかたっていないけど、君以外の従者は考えられない。俺たちは二人で一つだ。無茶をしないってのは約束出来ないけど、死なないってこと約束する。だから俺を信じて宝具の準備をしてくれ。」
………一気に言っちゃったけど恥ずかしいなこれ。ちょっと顔が赤くなっているかもしれない。戦い前に俺は何言ってんだ。
今は動いていないだけでイングヴァルトが来る可能性だってあるのに何やってんだ。セイバー引いてないかな。
当のセイバーは最初驚いたように少し目を見開いたが、すぐにフッと微笑む。
「二人で一つですか。分かりました。それでは私は私の役割を果たします……………信じていますよマスター。」
「…………ああ。」
そう言って俺たちは分かれて行動を開始した。あぁ、恥ずかしい。
…………。
……………。
………………。
「さてと。」
セイバーと別れてイングヴァルトの左側の林に隠れる、セイバーは丁度反対側の右側に隠れている。
相変わらずイングヴァルトは殺気は向けているが移動する様子はない。だが、俺たちが二手に分かれたことで警戒はしているようだ。どちらをより警戒するかは悩んでいるように感じる。殺気が時々方向を変えているのを感じることが出来る。
この世界に来るまで殺気なんて分かりもしなかったのに、この半年で嫌でも分かるようになった。必要なのかもしれないけどあまり嬉しくはない。イングヴァルトは魔力が多い俺の方を警戒すべきと判断したのだろう、こっちに殺気が集中してきた。
まぁ、それはこっちにとっても好都合だ。俺に注意が行けばいくほどセイバーへの意識が低くなる。それはセイバーが集中して準備を進められる。もっとこっちに集中してもらうために俺も動くとしますか。
「どっこいしょ。」
肩に下げていた革袋を地面に下ろして口を開ける。中から取り出すのはこの森に来る前にギルドで買ってきた戦闘用アイテムだ。
ほかの魔法使いの様に、攻撃魔法を放つことが出来ない俺みたいな魔法を放つことが出来ない人は、沢山というわけではないが一定数はいる。そういった人たちでも一通り戦うことが出来るようになるアイテムが存在する。
アイテムは護身用の簡単なものから大規模戦闘用までと多岐にわたる。まぁ、その分値段もピンキリだ。
今回俺が買ってきたのは、閃光弾と手榴弾と魔法銃。魔法銃がやっぱり高かった。手榴弾や閃光弾、これらのアイテムは旧世界にある物に形は似ているがピンを抜いて爆発するものではなく、本体の上部にあるスイッチを魔力を込めて押すと起動するみたいだ。
魔法銃も魔力を込めて引き金を引くと、その魔力が弾に伝わり、弾の内部に込められている魔法が発射されるという仕組みだ。
ただこの銃は単発式なので一発撃つごとに空の薬莢を取出し、新しいものを入れないといけない。結構面倒くさいな、連発式とかないのかな?
「………っよしっと。」
銃に弾をセットする。今セットした弾には『魔法の射手・氷』の魔法が込められている。威力は低いが、まずはこれで様子見といこう。ついでに言えば値段も結構低い、お手頃価格という奴だった。
何故氷にしたかと言えば、氷は射手の核に氷が存在しているから、ほかの魔法よりも威力があるのかなと思ったから。今はこちらにイングヴァルトの注意が来ているが、いつセイバーに移るか分からない。もっとこっちに集中してもらいましょう。
「………『戦いの旋律』。」
身体強化の魔法を唱えつつ木の陰から体を出し、イングヴァルトに向けて銃を構えて引き金を引く。ポシュッという気の抜けるような音とは別に銃口からは一本の『魔法の射手』が飛んで行ったが、イングヴァルトに当たる前に何か透明な壁みたいなものにぶつかり消えた。
あの壁みたいなのが風の障壁だろう。そして予想はしていたが低級魔法である『魔法の射手』では障壁に消されてしまう。核にある氷も消えているから、イングヴァルト本体には何もダメージを与えられなかったみたいだ。
だが、そんな攻撃でもイングヴァルトの勘には障ったようで、体ごとこちらを向いて低いうなり声を出してきた。完全にセイバーは意識の外になったようだ。
「一先ずはよしっと。」
イングヴァルトから視線を外さないようにしながら次弾を装填する。次の弾には『魔法の射手・収束・氷の十矢』が入っている。さっきの弾に対して単純に考えれば十倍の威力だ。さらに収束もかかっているからもうちょっと威力は上がっているだろう。どうでもいいが値段も十倍とまではいかないが、数倍になっている。
それをこちらに対して威嚇はしているが、相変わらず動こうとはしないイングヴァルトに対して撃つ。さっきより太い矢が向かって行くが、障壁に当たって消える。収束しても十本程度じゃダメってことか。あの障壁を貫通するにはもっと威力の高い魔法弾を撃つ必要がある。
だが、今の俺にはそんな高威力な弾は持っていない。
「どうする…………やばっ!!」
考えに意識を傾け過ぎていて、イングヴァルトに対しての注意がおろそかになってしまった。
その瞬間を奴は見逃さなかったようで、体の前に空気で作った塊を俺に向かって撃ち出してきた。咄嗟に横に跳ぶと、さっきまで自分がいたところを空気の塊がもの凄い速さで通過していった。そして、その通り道にあった木は根こそぎ薙ぎ払われていた。
「この威力の風を操ってまだ幼竜なのかよ。」
冷や汗が流れる。
アレは直撃したら一たまりもない。宝具を放つ瞬間にでも、セイバーに対して使わせるわけにはいかない。絶対に角を破壊して風の制御を出来ないようにして、障壁を張れないようにしなくては。しかし…………。
「魔法銃じゃ威力が足りない。」
角を破壊できるような威力の弾なんてない。ほかのアイテムで何かできるか?ほかのアイテムは閃光弾と手榴弾。ん?
「そうか、手榴弾があるじゃないか。」
これなら俺の持っている弾よりずっと威力が高い。これなら奴の角も破壊できるだろう。だが、その前の障壁をどうするか。それに手榴弾は起動してから爆発までの時間が長いとは言えない。遠くから投げていたら、届く前に爆発という可能性だってあり得る。
ならどうするか。
「…………障壁の内部から投げるしかないか?」
それならば届く前に爆発してしまうという事態にはならないだろう。だが、問題はそこまで奴に近づくことが出来るかどうかだ。近づく前にさっきのみたいなやつを喰らったら俺は即終了だ。
「でも、『戦いも旋律』使ってるから、何とかなるかな?」
やると決めたらすぐに行動しよう。木の陰から飛び出して、イングヴァルトに向かって走り出す。イングヴァルトも、林の陰から飛び出してきた俺に向かって、さっきと同じような空気の塊を撃ち出してくる。
一度見ているから、なんとなくそれが来る感じが分かっていたので、打ち出されると同時に横に跳んで躱して、走り続ける。すぐに二発目を撃ってくると思っていたが、どうやら連射は出来ないようで、ただじっとしているだけだ。
その間に、イングヴァルトの近くまで辿りつく。奴の体から五メートルくらいの距離まで来た時、何かを通り抜ける感じがしたが、恐らくそれが障壁なのだろう。
「当たれぇぇぇ!!」
障壁を抜けたことを確認しつつ、右手に握った手榴弾のスイッチを押してイングヴァルトの頭の角目掛けて投げつける。
イングヴァルトは自分に飛んでくるものが何か分からないようで、正体を知ろうとしたのか、動きを止めていた。
その間に爆風に巻き込まれないように、障壁の外に出て距離をとって様子を見る。俺が外に出てすぐに爆発が起こった。
あの手榴弾限界はあるが、スイッチを押す時に込める魔力によって威力が変化してくる。俺はちょっと多めに込めたから、中々の爆発が起こった。
「これで、角は折れたかな?」
結果を確認するためにイングヴァルトに近づく。
「これで折れてなけりゃ、あとはセイバー頼みしかないか………………ん?」
歩いていくと足に何かが当たった。拾い上げてきるとそれは、大きさが三十センチほどの角らしきものだった。
「これって、これがあるってことは。」
爆発の煙が晴れた後にいたのは角が折れて、顔に傷を負っているイングヴァルトだった。負傷の痛みで悶えている。どうやら俺の攻撃が通じたようだ。
思わず敵の前なのにガッツポーズをとってしまう。
「っしゃ!見たか、俺のファインプレー!!」
なんて言って喜んでいて油断していたのだろう。俺は横から襲ってくる物体に気づくのが遅れた。
「ヤバっ!!」
気づいた時には遅くて、襲ってくる物体に当たり、俺は吹っ飛ばされた。
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