魔法の世界で……   作:アルペリア

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宝具

 

 

体に強い衝撃が来たと思うと、自分の体が一瞬の浮遊感を感じた後、背中に強い衝撃が来た。

 

 

「がぁっ!!」

 

 

 声なのか、ただの息の音なのか分からない音が口から出てくる。何が起こったのか忘れそうになったが、すぐに自分が何かに当たって、吹っ飛んだのだと思いだした。

 さっきイングヴァルトの頭の角を壊した後、調子に乗って浮かれていた時にガツンとやられたわけだ。

 

 

「いってぇ………。」

 

 

 声を出すだけでも体中に痛みが走る。背中が一番痛みを感じるから、背中から何かにぶつかったのだろう。何かと言ってもこの広場には木しかなかったはずだから木にぶつかったとしか考えられない。

 身体強化の魔法をかけていたはずなのに、ここまで重傷になるとは思いもしなかった。いや、身体強化をかけてこれなのだから、かけていなかったらどうなっていたのだろうか。恐らく吹っ飛ばされた時にすでに死んでいただろう。

 これは不幸中の幸いなのか?ぶつかった直後に比べて大分頭と視界がはっきりしてきたので、首を動かして自分の体を見る。

 

 

「うわぁ……マジか。」

 

 

 一番酷かったのは左腕で、普通曲がる方向じゃない方に腕が曲がっている。絶対に骨が折れているとしか思えない。これだけ重傷なら痛みも凄いはずなのに、まだ頭が麻痺しているのか痛みを感じない。

 ほかの部分、両足は見た感じは酷そうには見えなかったが、うまく動かないのを見ると、こっちも結構負傷しているのだろう。

 誰が言ったか「油断せずに行こう。」全くその通りだ。油断した結果がこれだ、ある意味貴重な体験だよ。

 自分がこうやって他人事のように思えるのが信じられない。頭撃っておかしくなったか?

 

 

「………そう言えば、イングヴァルトはどうなった?」

 

 

 今まで自分の事で一杯々だったが、俺をここまで吹っ飛ばした相手のイングヴァルトはどうしたのだろう。頭の角を俺が壊して、その痛みで悶えていたのは覚えている。

 おそらく俺はその痛みで悶えている時に振り回していた尻尾とかに当たって吹っ飛んだのだろう。

 

 

「あのまま痛みで倒れてくれてたら楽なんだがなぁ。」

 

 

 そうすればピエロからの依頼は終了する。セイバーの宝具は結局出さないことになってしまうけど、ああいうのは出さないなら出さない方がいいからな。

 ぼやいているうちに、視界がはっきりしてきて、目の前の俺が吹っ飛んだ時に起きた砂埃も大分晴れてきて、目の前が見えるようになってきた。

 

 

 

「………そう上手くいくわけはないか………」

 

 

 前が見えるようになってから視界に入ってきたのは、角を折られながらも未だ四足で地面に立っているイングヴァルトだった。

 奴と俺の距離は約十メートル。この距離、体では奴のあの空気の砲弾を回避するのは不可能。そして、イングヴァルトは角を折られた事への怒りがあるようで、最初に見た時より殺気が大きくなっている。

 あぁ、これは絶体絶命だ。

 

 

…………。

 

 

……………。

 

 

 

「マスター!!無事ですか!?」

 

 

 あきらめて目を閉じようとした時に、右の方から声が聞こえてきた。そっちに目を向けると、セイバーがこっちに向かって走ってきていた。

 イングヴァルトも横から来る新しいものに興味が行ったのか、俺への注意が途切れる。その間にセイバーが俺のもとにまでやってくる。

 

 

「マスター。大丈夫ですか、意識は保っていられますか?」

「……何とか、それなら。でも、動くことが出来ない。」

「その怪我なら当然です。今は動かないでください。あとは私がやりますので。」

 

 

 それだけ言うと、セイバーは俺に背を向けてイングヴァルトと対峙する。イングヴァルトも、自分の前に立つ存在であるセイバーに意識を定めたようだ。イングヴァルトの殺気がセイバーに集中する。

 二人の距離は五メートル、俺だったら怖気づいてしまうが、さすがはセイバーと言ったところ。イングヴァルトから来る殺気なんて、物ともせずに立っている。

 さっきは見えなかったが、セイバーの右手には金色に輝く刀身を持った剣が握られていた。どうやら俺は時間稼ぎをすることは出来ていたようだ。

 その剣を正眼に構える。剣が自分の正面に着た途端、今まで殺気を放っていたイングヴァルトの態度が変わった。何か、剣を恐れるように、後ずさった。

 

 

「ほう、まだ幼いながらこの剣を恐れているのですか。」

 

 

 セイバーが呟く。その間にも剣は輝きを放ち続けている。

 

 

「さて、そろそろ終わりにしましょう。早くあなたを倒さないと森への被害が大きくなりそうですし、マスターの怪我の事もありますから。」

 

 

 そう言って剣を握りなおす。今までも十分強い輝きを放っていた剣はさらに輝きを増していった。セイバーはイングヴァルトを真っ直ぐ見ながら、剣を振り上げ

 

 

約束された(エクス)――」

 

 

 一息で振り下ろす。

 

 

「――勝利の剣(カリバー)!!」

 

 

 巨大な光の剣がイングヴァルトを呑み込んでいく。俺の目に見えたのはそこまでで、あとは目の前が真っ白になってしまい、何も見えなくなってしまった。宝具の光が強すぎて周りが見えない。俺自身も光に包まれていく気がして、意識が薄れいった。

 

 

…………。

 

 

……………。

 

 

………………。

 

 

「駄目ですよぉ、セイバーさん。まだ幼い竜に対して、宝具なんてぶっ放しちゃ。オーバーキルもいいとこ、自然破壊ですよぉ。」

「「は?」」

 

 

 目を覚ましたら、そこはさっきまでいたクノエの森ではなくて、俺が『ネギま』の世界に来る前に来た場所だった。前回と違う点は俺たちが座っていた椅子がなくなって、何もない空間になっていたという点だった。

 その空間にピエロ(以前俺はコイツのことをタキシードと呼んでいたが、セイバーに合わせてピエロと呼ぶことにした。)が、上機嫌に笑いながら立っていた。あまりに唐突な事なので、剣を振り切った姿勢で固まってしまっているセイバーと、その後ろに突っ立ったままの俺は、そろって声を出してしまう。

 あれ?今俺は普通に立っているが、さっきまではとても立てる状態の体じゃなかったのに、これは一体どういう事だろう。

 

 

「あぁ、それでしたら、私が治しておきました。」

「は?」

「同じリアクションは新鮮味がないですよ。渡良瀬さん。」

 

 

 やれやれと首を振るピエロ。そんな事はどうでもいい。

 

 

「いや、あんな大怪我だったのに………って言うか、何でアンタが治せるんだよ?」

「それは、ここに呼んだ時にちょちょいって感じに。詳しいことは言えませんが。」

 

 

 ピエロは口に人差し指を当てながら、「企業秘密です。」なんて言いやがった。もの凄く似合ってないし、イラッとくる。

 

 

「それより、マスターの怪我はここから出たらまた、元に戻るという事は無いのでしょうね?」

「ええ、その点については抜かりはありませんよ、セイバーさん。それにしても、マスターの体の事を気にしているなんて、従者の鏡ですねぇ。」

 

 

セイバーの問いに自信満々で答えるピエロ。

 後半にからかわれても、眉ひとつ動かさずに「当然です。」と答えるセイバー。ありがとうセイバー俺が聞きたい事を聞いてくれて。そして俺は良い従者と会えたよ。

 

 

「さて、渡良瀬さんの怪我の事は一先ず、そろそろ本題に入りましょう。」

「本題?」

「えぇ、そうです。本題です。私が意味もなくあなた方をここに呼ぶわけがないでしょう。」

 

 

………そうなのか。俺はまだ、頭の整理がついてないよ。そんな俺を置いて、ピエロは話を先に進める。

 

 

「さて、あなた方は私が提示した依頼を見事達成されました。今回お呼びしたのはその報酬をお渡しするためです。」

「報酬。」

「えぇ、報酬です。依頼を達成したのですから、当然でしょう。」

 

 

 報酬か。それがあるなんて、考えてもいなかったな。

 

 

「さて、渡良瀬さん。どうしますか?報酬は私が可能な範囲で用意させていただきますよ。」

 

 

………………。ピエロに言われたことを考える。ピエロの可能な範囲で、と言っていたが、今俺が欲しい物と言っても思いつくものが無い。さて、どうするべきか。

 

 

「…………。」

 

 

 隣で無言のまま立っているセイバーを見る。

 

 

「セイバー。」

「はい。なんでしょうか?」

「今回の報酬だけどさ、セイバーに譲るよ。」

「何を言っているのですか。マスターであるあなたが要求を言うのが当然です。」

 

 

 思った通り、セイバーに譲ると言ったら、反対してきた。だが、今回の勝因は間違いなくセイバーだから、俺としてはセイバーにこそ要求する権利があると思うのだが。

 

 

「考えたんだけど、報酬として思いつくものが無いんだよ。」

「それでも、依頼されたのはマスターです。私ではありません。ですので、私に要求する権利はありません。」

「うーん。なら、何か意見とかないか?今までの生活で不便だったこととかさ。セイバーの意見を参考にして、俺が要求しよう。そうすれば、俺が報酬を頼んだことになるんじゃないかな?」

「何か無理やりな感じもしますが、マスターがそうしたいというのであれば、私は反対はありません。ならば…………。

 

 

 渋々といった感じだったが、セイバーは考え始めてくれた。無理を言ってしまったかな?

 

 

「…………そうですね。何か移動用の乗り物とかがあれば、よいのではないのでしょうか?」

「なるほど、確かにそれがあれば、移動が楽になるな。じゃあ、それでいいか。」

 

 

 回答を決めて、ピエロに向き直る。

 

 

「分かりました。それでは用意しておきましょう。しかし………。」

「しかし、何だ?」

「渡良瀬さんが新しい能力とか、言ってくれるのを期待していたんですけどね。『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』とか。」

「あんな物使いこなせるか。」

 

 

 少し残念そうに言うピエロ。あんな物、ただの人間の俺に使いこなせるわけがない。

 

 

「まぁ、いいでしょう。報酬については、明日までに用意しておきますので、ご安心を。さて、それではお二人を宿の方までお送りしましょう。」

「宿?さっきのクノエの森じゃないのか?」

「森の方がいいですか?私としましてはあまりお勧めはしませんが。」

「何でそんなことが言えるんだ?」

 

 

 俺の問いにピエロはチラリとセイバーを見る。

 

 

「クノエの森から、突如謎の光が上がって、光の出た場所には何もなく、地面にイングヴァルトの角らしきものが落ちていたとなっていて、辺り一帯騒然としていますよ。そんな墓所に転移したらどうなります?」

「…………宿に頼む。」

「了解しました。」

 

 

 まさか、あの場所がそんなことになっていたとは。それにセイバーの宝具はもしかしたらと思っていたが、オーバーキルだったか。

 チラリとセイバーを見ると、セイバーは少し申し訳なさそうな顔をしながら「あれでも一応力は抑えたんです。」と言っていた。それなら、本気の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』はどれ位の威力なんだろうか。

 

 

「さて、それではいきますよ。」

 

 

 ピエロの声と共に俺とセイバーの足元が光り始める。光が強くなっていく中で、隣のセイバーに話しかける。

 

 

「取りあえず、これで一段落かな?」

「ええ、ですが無茶をするなと言っておきながら、無茶をしたマスターとは少し話し合う必要があります。」

「いやぁ………お手柔らかに。」

「…………まぁ、まずは休息を取りましょう。」

「了解。」

「マスター。」「ん?何セイバー?」

「いろいろありましたが、角を壊すと言って、それを実行できたマスターの勇気と行動は見事でした。」

「………ありがとう。」

 

 

 最後に笑顔で言ってくるセイバー。あぁ、この笑顔を見ると、気持ちが安らぐ。セイバーに笑顔を返すと、セイバーもまた笑ってくれる。お互い笑っていると、光が全身を包み込み、何もない場所から俺たちは転移した。

 

 

 

 

 

 

 





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