衛宮士郎が白髪になるまでのお話   作:ぽぽりんご

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第7話

 

 

『──で、士郎が引き取る事にしたの?』

 

 心休まる声。

 食事を終えたリアは再び眠ってしまったため、その間に士郎は遠坂に昨日の出来事を報告することにした。

 引き際がなってないと散々に怒られたが、いつもの事だ。

 

「引き取ると決めたわけじゃない。緊急措置だ」

『どちらにしろ、士郎には二つしか選択肢がないでしょ。自分で引き取るか、私に泣きつくか』

「泣きつくかもしれない。覚悟しておいてくれ」

『別にいいわよ? 代償は高く付くけど。そっちこそ覚悟しておいてほしいわね』

 

 赤い悪魔の取り立ては厳しい。

 だてに鬼や悪魔呼ばわりされているわけではないのだ。

 呼んでいるのは、おもに士郎だが。

 

 

『さて、本題。士郎、今すぐその街を出なさい』

「なんでさ」

 

 唐突に本題に入り、唐突に結論を述べる。

 昨日の戦いに至るまでの不出来が、まだ腹に据えかねているのだろう。

 

『時計塔の上層部に今の話が流れたら、間違いなく隠蔽工作に動くわよ。難民プログラムに参加した子供達を、横から丸ごと掻っ攫うなんて正気の沙汰じゃない。士郎は巻き込まれ体質だし、まとめて葬り去られないようにしないと』

 

 時計塔。

 魔術協会の総本山。

 確かに彼らであれば、事件の隠蔽のために何だってするであろう。

 

『それに、おそらく聖堂教会も動くでしょうね。こちらの動きを察知してからの話だから、そこまで気にする必要はないとは思うけど』

 

 聖堂教会。

 教義に反するモノを抹消するために活動する、武闘派組織。

 士郎にとって、あまり良い思い出は無い。

 

「あー、それなんだが遠坂」

 

 士郎は、バツが悪そうに語った。

 今、この町から出ることはできない。

 政府軍に包囲されているのだ。武装集団の残党狩りが終わるまでの数日間、包囲が解かれることは無い。

 士郎自身は政府側の傭兵として参加していたのだが、万全の包囲を期すために町の外に出ることは禁止されている。

 それを聞いた遠坂は、重い溜息をついた。

 

『いつも思うんだけど。士郎って、とことんトラブル体質よね。不運の星の下に生まれてきたのかしら』

「遠坂にだけは言われたくないぞ」

 

 遠坂凛こそ、希代のトラブルメーカーである。

 きっと、うっかりの星の下に生まれてきたのだろう。

 

「俺一人ならともかく、女の子を連れて脱出なんて真似はできない。この町の周辺は、隠れられるような場所がほとんどないんだ。もし追いかけられたら、逃げきれない」

『待つしかない、か。ああもう、世話の焼ける……士郎、私の宝石は持ってる?』

 

 士郎は、懐の宝石に手を触れた。

 指先から熱が伝わってくるような感覚。

 大事なお守りだ。

 

「ああ、肌身離さず持ってる」

『ならいいわ。いざとなれば少しだけ(・・・・)手助けはできるけど、期待しすぎないように。こっちにも準備が必要なんだから。じゃあね士郎、近いうちにまた』

 

 それだけ言うと、遠坂は通信を切った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「服を買いに行こう」

 

 夕刻に差し掛かり、リアが目を覚ました後。

 大事なものが無い事に気づいた士郎は提案した。

 

「……疑問。服、あるよ?」

「もっとちゃんとした服だ。最低限、あと二着は欲しい。外套もな」

 

 リアが手を挙げながら答える。

 が、士郎の外套に身を包んだその姿は、妖怪か何かにしか見えなかった。

 手を挙げてたのも、外套が盛り上がった事による推測でしかない。

 

 補足しておくと、一応外套の下に服は着ている。

 炊き出しの補給品に、子供服もあったのだ。

 荷物の緩衝材替わりに、余った服を入れていたのが役に立った。

 リアは小柄なので、サイズは問題はない。

 ……男物であるのは、問題点に含まれるだろうか?

 

「難しい」

「頭で考えるより、見に行った方が早いさ。こんな町でも、多少のマーケットはまだ生きてる」

 

 手早く外出の準備を整える。

 といっても、荷物を隠すだけだが。

 

 外に出る士郎に、リアは小さな歩幅でついてきた。

 今日も風は無い。砂埃がたたないのは嬉しいが、代わりに強い西日が肌を焼く。

 士郎の外套はリアに貸し出してしまっている。さすがの士郎も、外套無しでは少々つらい。

 

 

 あちこちの物に興味をしめし質問をしてくるリアに答えながら、士郎たちはようやくマーケットに到着する。

 選ぶほど服装にバリエーションがないのは、良かったのか悪かったのか。

 ついでに食材や調味料も頂いた。

 政府軍が駐留しているため、それに付随する補給部隊も町に到着していたのだ。

 傭兵とはいえ士郎も政府軍に所属していたため、多少の融通は効く。

 

 

 

 

 手早く補給を終えて、士郎達は帰路につく。

 日が沈むまであと半刻。少し急がなければならない。

 

 と。目を離した隙に、リアは路地裏にいた犬と睨めっこをしていた。

 至近距離でにらみ合う一人と一匹。

 

「……わん?」

 

 ちなみに今鳴いたのは、犬ではなくリアの方だ。

 犬の方は、若干迷惑そうな目でリアの事を見つめている。

 

 士郎が近づくとリアから視線を逸らし、救いを求めるような目を向けてきた。

 士郎は荷物から食料を少し取り出し、犬に与えた。

 犬は士郎の顔を少し見た後、勢いよく食べ始める。

 

「……感嘆。これが、犬?」

「ああ、犬だ。見るのは初めてか?」

「たぶん、初めて」

 

 食事を貪る様子を、興味深げに見つめるリア。

 心なしか、目が輝いているように見える。

 こうしてみていると、普通の人間と変わらない。

 

 勢いよくすべての食糧をその腹に収めた犬は、ワンと一声鳴いた後走り去っていった。

 ずいぶん元気だ。この町にはしばらく軍隊が駐留するし、生きていくことに困りはしない。

 手が空いた者が、誰かしら相手をしてくれる。

 

 

 

 弾むように歩くリアを引き連れ、士郎はようやく家にたどり着いた。

 犬と会ってから、ずいぶんと機嫌がいい。

 腕まくりをし、久しぶりに調理に向かう士郎の行動にも興味津々といった様子だ。

 

 興味を持つのはいいことだ。

 好奇心は猫をも殺すというが、好奇心がなければ生きてはいけない。

 

「それ、何につかうの?」

「これは、豆なんかをつぶすのに使うんだ。ほら、こんな風に」

「へー」

 

 喋る事に慣れてきたのか、徐々に会話がスムーズになってきている。

 自律行動可能なホムンクルスであるし、あらかじめ知識はインプットされていたのだろう。

 知識を引き出す練習さえすれば、あっというまに成長していく。

 知識量という点でいえば、そもそも士郎すら上回っているかもしれない相手だ。

 

 

 料理に興味がある様子だったので、リアに食事の準備を手伝ってもらうことにした。

 彼女に何が出来て、何ができないのか。

 何のために生み出され、彼女は何をしたいのか。

 それがわからないうちに、士郎は彼女から目を離す事ができない。

 自発的に色々試してもらえるなら、その方がいい。

 

 

 しばらくして。

 少々手間はかかったが、ようやく食事の準備を終えることができた。

 

「シロウ、シロウ。何これ何これ、すっごくおいしい。すごい」

 

 当初は黙々と口に食事を運んでいたリアは、九割がた食べ終えると目を輝かせる。

 こうも素直に感想を述べられると、士郎も頑張った甲斐があるというものだ。

 

 ただし。

 

 

「リア、危ないからスープを持ったまま立ち上がるのは止めてくれ。こぼしたら火傷するぞ」

 

 やはり、彼女には常識というものが欠けているらしい。

 

 

 

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