衛宮士郎が白髪になるまでのお話   作:ぽぽりんご

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結構適当なこと言いまくった _(:3」∠)_
あと、人物の名前を誤変換しまくっていたのを指摘された。
はっはっは、そんなまさかご冗談を……あっ、本当だ。
うわー! うわー! ゴロゴロゴロゴロ!

本日、投稿前に見つけて修正した誤字。
正:彼女が、生に興味を
誤:彼女が、性に興味を

私は、間違っている方が好きです。



第8話

 

 

 翌朝。

 士郎は、朝の鍛錬に望んでいた。

 

「ふっ!」

 

 息を吐くと同時に、左手に握った曲刀を水平に薙ぎ払う。

 そして一歩踏み込み、次は右手の一撃。

 流れるように、止まらないように両の手を振るう。

 

 体の調子は上々だ。

 怪我の後遺症はない。

 

 

「シロウ、それ楽しい?」

 

 離れたところで見学していたリアが問いかけてくる。

 体をそわそわさせている所を見るに、自分もやってみたいのだろう。

 士郎は、少し考えてから返答した。

 

「楽しいか、って言われるとわからないな。ただ、体を動かさないとスッキリしないんだ」

「体を動かすと、スッキリする?」

「ああ、するぞ」

「なら、私もやる」

 

 予想通りの流れではある。

 目覚めたばかりの頃は自分から行動するタイプに見えなかったが、それは外の世界を知らなかったからだろう。

 彼女は外界に興味を示し、急激に成長していた。

 きっかけは、犬だろうか。それとも食事だろうか。

 

 なんにせよ、好ましい事だ。

 こうして目の前で何かを見ると、手を出さずにはいられない。

 普通の子供と何ら変わりなく、彼女は生きていける。

 そう思った士郎は、少し笑みを漏らした。

 

 

「……危ないから、少しだけだぞ」

 

 こういうのは、拒否すると面倒な事になる。

 子供は、どうせ我慢なんて出来やしないのだ。

 自分の目の届くところでチャレンジしてもらった方が、安心というものである。

 

 

 

投影、開始(トレース・オン)──」

 

 投影魔術。この世に贋作を生み出す、士郎の魔術。

 物騒な物を出すつもりはない。

 用意するのは、中が空洞になっている木剣だ。

 それを外套の下でこっそり生成し、リアへと手渡した。

 

 

 そして、自身も木剣を正眼に構える。

 基本に忠実な型。見本のつもりで見せた剣。

 (あね)に教わり、彼女(セイバー)に正された構え。

 

 

 だがしかし、見様見真似で剣を構えたリアを見た士郎は、息を呑んだ。

 

 重心のブレがない。呼吸が落ち着いている。

 凛とした佇まいは、近づくものを寄せ付けない。

 剣の結界。彼女は、剣に愛されている。

 

 

 そして何より。

 彼女の立ち姿は、彼女(セイバー)を彷彿とさせた。

 

 気にしすぎだとは思う。

 だが、彼女に近い剣気を放つ姿から、目が離せない。

 エクスカリバーに似た光を放った彼女の姿が、頭から離れない。

 

 

 士郎が呆けている間に、リアは両手を振り上げ、剣を振ろうと力を籠める。

 

「!? 待──」

 

 士郎は手にした木剣を放り投げ、慌てて彼女の元に走った。

 リアが剣を振るう。

 その手からは魔力が勢いよく噴き出し、リアの小さな体は腕に振り回され(・・・・・・・)、その場で一回転した。

 士郎がその体を抱き留める事が出来たのは、リアが地面に激突する直前。

 

「……あれ、失敗?」

「失敗、だな」

 

 ほっと一息ついた士郎は、リアをゆっくりと地面におろした。

 並み魔術師では考えられないほどの魔力量。

 戦闘型のホムンクルスをも凌駕する力。

 単純な力やスピードなら、現時点で士郎をも上回っているだろう。

 やはり、リアは特別製らしい。

 

「もう少し弱い力から始めていこうか」

「うん、わかった」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 日が落ち、世界を満天の星が覆い尽くした。

 この時刻になると町は静寂に包まれるのが常だったが、今日はいつもと違い喧騒(けんそう)に埋もれている。

 町の広場にこれでもかと並べられたのは、大型の照明器具。

 光は周辺の大通りにまで及び、町を空から見れば雪の結晶のように見えたに違いない。

 

 光の中心部では、住民たちに食事が振る舞われている。

 政府主導のプロパガンダではあるが、住民にとってみれば何であれ変わらない。

 多くの住人が集まり、町はさながらお祭りのような騒ぎとなっていた。

 

 

「……焼きそばの屋台、だよな。これ」

 

 士郎は、どこか懐かしい風景を見て思わず呟いた。

 ソースの焦げる臭いが、空腹感をあおる。

 視線を落とすと、その匂いに目を輝かせている少女の姿。

 苦笑しつつ二人分の焼きそばを受け取り、かわりにチップ程度の硬貨を手渡した。

 妙に屋台の似合う、笑顔の怖いガチムチマッチョ──政府軍の兵士。士郎の顔見知りである。

 

 そもそも、焼きそばの作り方を教えたのが士郎だ。

 不味い軍用食に辟易した兵士達に乞われ、士郎はよく調理(あんな大ざっぱなものは料理とはいわない)を行っていた。

 それを見た補給部隊の連中が、調理方法を聞きに来るというのも、よくある光景だった。

 

 むろん、この地方が不味い飯で溢れているというわけではない。

 だが、ヨーロッパから供給される食材を持て余していたのは確かだ。

 基本的に、調味料の性質が違いすぎる。

 

 

 

 見慣れぬ食事に興奮するリアを連れ、空いたスペースに座る。

 地面の感触がやや冷たい。おそらく、事前に水を撒いていたのだろう。

 そうでもしないと砂埃が料理に入ってしまうため、とても屋台などできない。

 

 リアが落ち着くまで、士郎は町の様子をゆっくりと眺めた。

 道行く人の表情は明るい。政府側としては、食料の大盤振る舞いをした甲斐があったというもの。

 町の住人は、子供や老人が過半数を占めている。

 以前は半々といった所だったが、今では年老いた者の方が多い。

 その理由に思いを馳せると、胸がチクリと痛んだ。

 

 

「シロウ、この飲み物は何? シュワシュワする」

 

 脇にいるリアに話しかけられ、士郎は気を取り直した。リアが手にしているのは、世界一有名な飲み物だ。士郎からその名を聞いたリアは、目を輝かせた。

 

「ほお、これが。コーラの実が入ってないと噂されるにもかかわらずコーラと呼ばれている、謎飲料……! この強烈なのど越し。3.8kg/cm^2程度のガス圧力がかかっていると推測するが、どうか」

「いや、圧力については知らないな」

「残念」

 

 リアの素は、結構変な子かもしれない。

 

 

 食事を終えたリアは、周囲をきょろきょろと見回しはじめた。

 次は何に興味を示すのだろうか。

 

 士郎もつられて、辺りを見回す。

 出されている食事を見ると、士郎のよく知る料理を出している場所がほとんどだ。

 店と料理だけ切り出してみると、日本の風景と勘違いするかもしれない。

 

 どこから屋台を調達したのか。

 なぜ、わざわざ屋台スタイルを模しているのか。

 士郎は、調理方法を教えただけなのだが。

 

 

 

 と、空に花が咲いた。

 

「──え、何あれ」

 

 上空を見上げたリアが、茫然と呟く。

 夜空を彩った輝きを受け、リアの瞳がさらに鮮やかに彩られる。

 一拍遅れて、体を揺さぶるような音が襲った。

 

「花火だよ。ここまでくると、本当にお祭りみたいだ」

 

 考えてみると、東の方では矢の月の祭りが開かれたばかりだ。

 長きに渡るペルシャとトゥーランの戦。その終結と、雨の恵みを祝う大きな祭り。

 そこで使う物資のおこぼれなのかもしれない。

 

「なんで、花火があるとお祭りになるの?」

「ん? なんでって言われると」

 

 空に咲いた花が重力に引かれ、やがて落ちていく。

 消えゆく光を見ながら、士郎は記憶の底をあさった。

 花火の起源は、確か──

 

「俺の知ってる話だと、死者を祭る──供養するために花火を打ち上げるんだったかな。死者を迎え、送り返すための目印」

「迷子にならないようにするため?」

「そうだな。あれだけ派手だと、まず見落とさないだろう?」

 

 死者を祭り、神を(まつ)る。お祭りの語源だ。

 神を崇め、死者を供養するための祈り。

 火で厄を清め、払うための儀式。

 

 

 

 宝石のように煌めく星空に、再び大輪が咲いた。

 火の明かりが、星より強い光の軌跡を空に残す。

 そうして一瞬のうちに散り、周囲を再び夜の闇が覆った。

 

 リアは、その様をじっと。

 息をのんで、見つめていた。

 

 

 呆けた顔で空を見上げるリアの横顔を見ながら、士郎は一息ついた。

 少し心配だったのだ。ホムンクルスが、他者に。世界に、興味を持てるかどうかが。

 どんな生き物も、自身が生を望まねば生きてはいけない。

 

 士郎は、以前。

 アインツベルンと戦った時に、自らの命を捨てて戦い続けるホムンクルス達を見ている。

 彼女らは皆、生きる事に興味を持っていなかった。

 そうして皆、自身の限界を超えてなお力を振り絞り続け、死んだ。

 

 だが、リアは大丈夫だ。

 彼女は、きっと。生きていける。

 

 

 

 花火が終わって。

 一瞬の静寂の後、町にざわめきが戻ってくる。

 リアは、まだ空を見上げていた。

 

 

「……綺麗だったね」

「そうだな。星よりキラキラ輝いていた」

「花火、すごいなぁ。あ、私は星も好きだけど」

 

 リアは星を指さしながら、その名前を読み上げ始めた。

 中には、士郎の知らない星もある。

 ずいぶんと偏りがあるが、リアの知識量は相当なものだ。

 おそらくは、占星術のために詰め込まれた知識だとは思うが。

 

 

 しばらくリアの声を聞いていた士郎は、ふと思い出した。

 祭りに、星といえば──

 

「そういや、今日は七夕か?」

「七夕?」

 

 

 リアの知識には無いらしい。

 有名ではあるが、東アジアの祭りだ。

 アインツベルンには不要な知識なのかもしれない。

 

 士郎はリアのすぐ横に腰を落とす。

 そうして視線の高さを揃え、空を指さした。

 七夕は、織姫と彦星が年に一度だけ会う事を許された日。

 冷静に考えてみると、存外ひどい話のように感じたため、士郎は詳細をぼかしてリアに伝えた。

 

「まぁつまり、星に願いごとをする日だな」

「……願いごと、かぁ」

「なんでもいいぞ。誰かが叶えてくれるかもしれない」

「ずいぶんと、後ろ向きな発言な気もするけど」

「そうか?」

 

 口にしなければ意味を持たず、形にもならない。

 願いとは、そういう物だ。

 リアはこの短時間で、ずいぶん流暢に話せるようになった。

 会話を続けて刺激を与えてやれば、彼女はどんどん成長する。

 年相応、とまではまだ行かないが。

 

「思いつかない。私の願い事」

「──そっか」

 

 それは、とても悲しい事のような気がした。

 だが、生まれたばかりなのだとしたら、こんなものかもしれない。

 願いがないわけではない。

 何か新しい物を見つけるたびに、興味深そうに様子を伺う様はまるで猫のよう。

 だから、まだ何も知らないだけなのだ。この少女は。

 

 まず、リアは願い事を見つけるところから始める必要がある。

 明確な望みを持たねば、自らの足で歩いていくことすらできない。

 無気力な心では、道に迷う事すらできない。

 少なくとも、士郎はそうだった。

 

「あ、思いついた。美味しい物食べたい」

「その願い事なら、俺が頑張ればいいのか?」

「シロウの料理食べたい。さっき食べたのより、シロウの作ったものの方がおいしかった」

 

 このままだと、随分と食いしん坊に育ってしまいそうだ。

 まるで餌付けだ。

 そういえば、かつて出会った少女──セイバー(アルトリア)も、今思うと餌付けしているようなものだったかもしれない。

 

「……俺って、成長してないのか?」

 

 やっている事が同じだ。

 だが、自分にできる事はこれしかない。独創性など不要。先人の知恵を集結し、食材の特性を見抜き、最適解を得る──衛宮士郎にできるのは、ただそれのみ。衛宮士郎の戦場は、いつだって自分との戦いだ。今までの自分を超えて、最高の食事を。ただ願う。

 

「食料も沢山融通してもらったし、明日は久々に全力で料理するか。食べたいもの、何かあるか?」

「わからないけど、甘いものが好き」

「デザートだな。しかし、卵・バターに冷蔵庫もオーブンも無しだと……いや、できない事もないか。よしわかった、やってみよう」

「やったー!」

 

 リアが嬉しそうに笑顔をこぼした。

 短期間で成長したのは、お喋りだけではないらしい。

 表情がコロコロと変わる。これも年相応というよりは、やや幼いかもしれない。

 

 

 士郎も、思わず笑みを漏らした。

 昔を思い出す。士郎もこうやって、切嗣についていったものだ。

 

 切嗣がいて。

 士郎がいて。

 そして、イリヤがいたならば。

 きっと、幸せだっただろう。

 

 

 

 ──ああ、駄目だと。士郎は感情を少し沈めた。

 

 違うとわかっていても。

 どうしたって。リアを見ていると、彼女を思い出す。

 血染めの雪に、士郎の心は捕らわれた。

 

 

 

 

 風向きが変わった。

 リアが急に立ち上がる。

 士郎の頬を撫でた風は、リアから漏れ出た魔力が引き起こしたもの。

 

「シロウ、何か変」

「──魔力反応、か? いやそんなレベルじゃない。これは」

 

 士郎も遅れて立ち上がり、周囲を見渡す。

 雑多な喧噪。だがそれに、フィルタが掛けられたかのような感覚。

 大規模な儀式魔術。こんなに人の多い所で?

 

 魔術の効果はわからない。だが、ろくな内容でない事は確かだ。

 チリチリと首筋に走る感覚が、生命の危機を士郎に知らせている。

 発動させるわけにはいかない。

 

 

 これは、誘いだ。

 士郎達をおびき寄せるための示威行為。

 

 士郎は冷や汗をかいた。

 これだけの規模の魔術を組み上げられる者など、一握り。

 範囲を指定しての魔術ではない。

 それなら士郎も、魔術構成を組み上げている最中に気づくはず。

 ならば、一見無差別に見える魔術ではあるが、効果対象を指定している。

 つまり、それだけ精密な制御を行えるという事。

 

 もし、戦闘になれば。

 儀式魔術を抜きにしても、ひどい戦いになる。

 

「リア、ここから離れよう」

 

 その言葉にリアは緊張した面持ちで頷き、士郎の袖をぎゅっと握りしめた。

 

 リアを危険な場所に連れて行きたくはない。

 が、この状況。敵が狙うとしたら、士郎かリアか?

 答えは明白。リアを連れ出して早々狙われたのだから、リアが狙いであると判断するのが妥当だろう。

 であるならば、リアから離れるわけにはいかない。

 

 

 

 二人は周囲を警戒しながら、町の外れへと移動していく。

 元々、ゴーストタウンに近かった町だ。

 おまけに、ほとんどの人は町の中心部に集まっている。少し歩くだけで、もう誰もいない。

 先ほどまでの華やかさが嘘のような静寂。

 朽ち果てた建物が並ぶ、闇に沈んだ街並み。

 いつしか月に雲が掛かり、夜の気配が増した。

 

 士郎は、ヒタヒタと迫る気配に意識を集中する。

 近い。悪意の泥が凝り固まったかのような気配。

 

 この気配は、知っている。

 その悪意を、覚えている。

 

 十年前の──

 

 

「久しいの、小僧」

 

 

 ゾワリと、背筋が凍る。

 いつまでも記憶の底にこびりつき、こちらを覗き込んでくる悪夢。

 人を呪い、生あるものを呪い、生に執着する悪魔のような男。

 

 

 子供達に植え付けられた蟲を見た時に、もしやとは思った。

 だが彼は、自らのサーヴァントに裏切られて死んだはずだ。

 

 かつて、冬木市で起きた第五次聖杯戦争。

 その中で、三騎のサーヴァントを使役し士郎の前に立ち塞がった男。

 御三家の一角。五百年の時を生きる、大魔術師。

 

 

「──間桐(まとう)臓硯(ぞうけん)

 

 

 夜よりもなお暗い闇が、士郎の前に立ち塞がった。

 

 

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