さて、最終章というのもあり、おそらくこれまでで一番長い章になると思いますが、それでもいい方は時間がある時にでも、読んでくださいませ。
side Renata Scarlet
──地霊殿
魔法のゲートを通じて、地霊殿のさとりの部屋前まで来れた。
目立った障害もなく、地霊殿はいつも通り平穏に見えた。
「さとり! 居ますか!?」
「居ますよ。......ふむ。異変? お空が?」
部屋には落ち着き払った様子のさとりが椅子に座ってお茶を飲んでいた。
そして、部屋に入るなり早速心の声を聞いたらしい。正しく言うと聞いたではなく、聞こえた、だろうか。さとりには能力の制御ができず、常に周りの人の声が聞こえている。いわば不可抗力なのだ。
「なんかすいません。わざわざ心の中まで弁護してくださって」
「あ、いえ! こちらこそ気を使わせてしまい......って、そうじゃなくてですね。さとり。心の中を読んであらかた察したと思いますが、お空を止めてください!」
「とは言われましても......。ペット達にはこの力のせいか避けられていますし、力尽くでしようにも非力な私なんかじゃとても止めれるとは......」
「いえ! ペット達はさとりのことを悪くは思っていないはずですよ!」
少なくとも、お燐はそう思っていないと考えている。
お燐はよくさとりに従い、いつも楽しそうに仕事をしていた。あんなに楽しそうにする娘が、悪く思っていないはずだ。
「......ふふふ。確かにこんな私のことを慕ってくれる方もいますね。それにしても、なんだか面白い人ですよね、レナって」
「お、面白いです? 私って......」
「えぇ、とても。考えていることはいつもよく分からないですが、心の中と外で口調が違うのが面白いですね。
いえ、面白いよりも、本当にお姉さんが......レミリアが好きなんですね。その気持ちがとても強いのが分かります。しかし、それと同時に罪悪感、でしょうか? あっ、いえ。すいません......。無闇に人の心を暴いてはいけないですね......」
「......大丈夫ですよ。それよりも、早く止めに行きましょう」
この異変を終わらせてミアを助けること。
長い人生を奪ったのも同意な罪を、それくらいで滅ぼせるとは思っていない。
──しかし少しでも罪滅ぼしになってほしい。本人に許してもらえているがそれでも私は......。
「矛盾していますよ。本人には逆に迷惑かと。いえ、私が言えることではありませんが」
「......もしかしたらそうかもしれません。ですが、今は聞けません。だから助けるためにこうしているのです。まだ確実に関わっているとは分かっていませんけどね。それに、おかしな異変にお姉様達を巻き込まさせたくないですから」
「なるほど。異変を終わらせたい本当の理由が聞けて良かったです。
私も喜んで、貴女の異変解決を手伝わさせてもらいます。よろしくお願いしますね」
さとりが笑顔を見せて右手を出し、握手を求めてきた。
それに対して、同じように手を出してさとりの手を握る。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「では、早速お空のところに行きましょう。巫女達よりも早く行かないと面倒なことになりそうですからね。中庭に地下へと続く穴があります。お空が居る場所はそこから行けますよ」
「ここからさらに地下もあるのですね......。行きましょう。準備はできています」
「えぇ、行きましょうか」
さとりに引き連れられた私は、中庭を通ってお空の場所へと向かった────
side Hakurei Reimu
──地底の大穴
私達は深く長い大穴を降り、上から差す少しの光もない地面へと降り立った。
そこでも黒い煙が満ちており、念のために布を口に当てたりして、私達は煙を吸わないように細心の注意を払っている。
黒い煙は視界を悪くさせ、先へ進むことを拒むように煙の密度は地上よりも濃くなっていた。
「この煙を追っていけば異変の黒幕にでも会えるのかしら。それにしても煙というか、霧みたいね。これ」
「そうですねー。というかこれって霧なんじゃないですか?」
付いてきていた早苗が陽気な声で訪ねてくる。
敵地と言っても過言ではないこの場所で、どうしてこの子は元気なのだろうか、と疑問に思う。
「どっちでもいいんじゃないか? 対して違いはないだろ?」
「何を言ってるのですか魔理沙さん! 意外と違いますからね!」
「お、おぅ、そうか......」
『毒素を含んでいるかどうか、それだけ気を付けて進みなさい』
「......え? 今の誰?」
どこからか、私達三人以外の声が聞こえた。
どこかで聞き覚えがあるものの、今いる三人の誰でもないことだけは確かだ。
「いや、私じゃないぜ。早苗じゃないのか?」
「私でもないですよ。というか今の声、紫さんじゃ......?」
「えぇ......、いやいや。ここまで来てあの妖怪の幻聴とか聞きたくわないわ」
『......陰陽玉を通じて、会話ができるようにしておいたのよ。貴女がサボらないように』
「えっ!? これから聞こえているの?」
懐から出して耳を当てると、確かにそこから音が聞こえていた。
どうやら声の言う通り、行く前に紫から貰った陰陽玉が通信機の役割を果たしているようだ。
──あの妖怪、私のこと信用しているのかしてないのか......全く分からないわね。
「ほへー。凄いなそれ。そういや、私もアリスから攻撃支援とか言って、人形を渡されてんだよな。もしやそれも......いや、まさかなぁ」
『それも私が用意した物ですわ。山の巫女が行くことは想定外でしたので、そちらの分は用意してませんが。
いずれその人形で、アリスから連絡があることでしょう』
「怖っ。話す人形もそうだが、どうしてそこまで手が回ってんだよ......」
「はいはい。話は後でいいから先に進むわよ」
途中で話を切らせると、旧都の入り口へと足を踏み入れる。
と言っても、視界が悪い中歩いていくよりも空を飛んだ方が安全と判断し、飛んで向かっているのだが。
「......あら? 何かしらこれ」
手探り状態の中、ゆっくり進んでいると、下に薄らと橋のような何かが見えた。
下に川でも流れているのか、意外と大きい気がする。
「あ、霊夢さん。これって橋ですよ。ほら、よく見ると両脇に手すりも付いていますし、下から水の流れる音もしますし」
「それは見てわかるけど、よく聞こえたわね」
「ちょっと待ちなさい。そこの貴方達。......もしかして人間?」
霧の中、前へ進むのを遮るように人影が現れた。
霧で姿はよく見えないが、その人影の目は緑色に光っているように見える。
「私達は異変を解決するため。
そして妖怪を退治するためにやって来た人間。いえ、風祝です!」
「それ、あんただけね。私は普通の人間よ。だからそこを通してくれる?」
「だから、の意味が分からないわ。ここは人間の来るところでは無い。
それに見て分かる通り、今は普通じゃないの。潔く帰った方が身のためよ」
「帰ったところで異変が終わるわけないでしょう? この異変は迷惑なの。無理矢理にでもここを通らせてもらうわよ」
視界が悪い中、相手の光る目だけを見据えて御札を構える。
私の行動に気付いてか、魔理沙と早苗も戦闘態勢に入っていた。
「別に通さないとは言って......勘づかれたわね。探知範囲広いだなんて妬ましいわ。
貴方達! 先に進むつもりなら付いてきなさい! 逃げるわよ!」
「はあ? どういうこと?」
『......霊夢。その妖怪の言う通りにした方がいいですわ。強い妖力がそちらに向かっています。無駄な時間と労力を消費する必要はありませんわ』
「ふーん。......確かに、嘘じゃないようね」
集中して周りの妖力を探ってみると、拡散する霧らしき弱い妖力の中に、一際強い妖力が二、三程近付いているのが分かった。
この強い妖力は前にも感じたことがある。おそらくは鬼か、それと同等以上の何かだろう。
「あ、確かに誰か来ているようですよ! 退治しましょうか?」
「人間が適う敵じゃないわ。......その自尊心も妬ましい」
「......勝てなくもないけど、めんどくさいことには変わりないわ。それに、
逃げた先で教えてもらうわよ?」
「それくらい、お易い御用よ。ひとまず付いてきて。できる限り霧に隠れて、ゆっくり。見つかって戦うことになる前にね」
姿も見えぬ妖怪の言う通りにすることも癪だが、いつもの勘でそうした方がいいと思ったのもあり、妖怪の後に付いていく。
妖怪に連れられた場所は、通りに立ち並ぶ平屋の一つだった。
中はほとんど人と変わらない生活風景を思わせる作りで、人間の家だと言っても差し支えなかった。
「ここまで来れば大丈夫......なはずよ」
平屋の中までは霧は入っておらず、電灯もあるので妖怪の姿もはっきりと見える。
その妖怪は金色のショートボブと緑色の目を持ち、妖怪と分かりやすく尖った耳を持っている。そして、口には布を巻き付け、霧から身を守っているようにも見える。
何の妖怪か分からないが、嫉妬心が強い妖怪とだけは分かった。
「それにしても妬ましいわ。地上って陽の光を浴びれるし、風の巡りも感じれる。どうしてこんな忌み嫌われた者が集まる地底なんて来たのよ。地上の方がよっぽど幸せに暮らせるわよ」
「その地上もあの霧のせいで真っ暗闇なのよ。おまけに神社に鬼が来て襲撃されたり......」
「......鬼達に狙われているのね。ここも、今では自由が無くなりつつあるわ。
この霧が現れてから一週間かしら。とにかくこれを長時間吸った妖怪達は正気を失ったり他の妖怪を襲ったり......色々とひどいのよ」
そんなに危険だったとは知らなかったが、霧を吸わないようにしていて正解だったようだ。というよりも、こんな霧の中、吸わないように気を付けないわけがないのだが。
「そんなことが起きていたとはな......。おい、紫。お前は何も知らなかったのか?」
『......知ったのは最近のことです。そして、妖怪には不可侵条約があるので、手が出せないでいました』
「......妖怪の賢者ね。別に地上の妖怪は恨んでいないけど、今まで安全だったなんて妬ましいわ」
「もうそれはいいから。で、具体的に説明してもらいましょうか。この霧のこと、地底のことを」
「そうね......。戦う覚悟もあるみたいだし、話してあげるわ」
そうして始まる妖怪の言葉に、私達は耳を傾けた────
次回、戦闘あったりするから大変だったり、じゃなかったり()