東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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月が沈むように、紅い月(達)もまた、いつかは沈むもの──

というわけで、『東方紅転録』の最終回です。
では、ごゆっくりお読みくださいませ。


EX3、「全ては終わり、長女は再び決意する」

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(玄関ホール)

 

 今日はルネ達が旅に出る日。そして夕日が上がるよりも早い時間帯。

 念のためにと日傘を差した二人が紅魔館の出入り口に立っていた。

 

 地底の異変を終え、レナを死という運命から助けるための奮闘も終わり、全てを終えたルネ達は幻想郷から出ていくという。

 

「......ねぇ、ルナ、ミア、咲夜。レナ達はまだなの?」

 

 しかし、大事な一日になると言うのに、妹達が時間になっても現れないのだ。

 いつもなら予告していた時間の五分前には来ると言うのに。

 

「うーん......さぁ。知らないなぁ」

「......私は知らない。フラン、昨日から見てない」

「おそらくはレナ様のお部屋に......いましたね。

 すでに着替えは終わっているみたいですから、すぐ来ると思いますよ」

「え? そ、そう......」

 

 その時、一瞬だけ咲夜の姿が消えたように見えた。

 ──もしかして、時を止めて見に行ったのかしら? 流石咲夜ね......。

 

レナ()のことですし、悪気はないと思いますよ。

 フランも同様で、意図してそのようなことはしないと思いますから」

「......そう。本人がいいなら別にいいわ。

 ねぇ、ルネ。全てが終わったら、帰ってこれるの?」

「レミリアは兄様に帰ってきてほしいの? アタシの兄様に?」

 

 エリザベートが私を睨みながら、挑戦的に強い妖気を放つ。

 年齢と経験の差からか、私にとってはびくともしない程度の妖力だが。

 

「シシィ、そう殺気を見せないでください。シシィでもレミリアには敵わないですよ?」

「今では魔法も使えるから勝てます! 絶対に死んでも兄様を渡さないんだから......っ」

 

 エリザベートはルネの手を掴んで引き寄せる。

 その姿は私に渡したくないという気持ちが強く表れている。

 

「はいはい。僕はシシィから離れませんから安心してください。

 いつになるか分かりませんが、絶対に帰ってきますよ。僕の......いえ、私達の故郷ですから」

 

 エリザベートの頭を撫でながらも、強い意思を感じた。

 それは兄として、前世とは言え一人の妹としての思いからだろう。

 

「それなら良かったわ。......そうね。貴方の部屋も作っておいてあげるわ。帰ってきたら自由に使えるようにしておくわね。

 もちろんエリザベートの分も用意してあげるわ。私は寛大だから」

「それはそれは、ありがとうね、レミリア。でもアタシは兄様の部屋だけでいいから」

「あらそう。それは残念ねぇ......」

「あの、レミリア? シシィ? 妖力を垂れ流すのはおやめください、お願いします......」

 

 ルネに注意され、互いに妖力を流すのを止めた。

 が、互いに殺気を放つのだけは止めなかった。

 

「れ、レミリア、シシィ......」

「あー! 良かったぁ。まだ居たよ、お姉様」

「そ、そうですね。まだ居て良かったですね......」

 

 と、計ったようにレナとフランがやって来た。

 そして何故か、レナの顔が真っ赤になっているように見える。

 

「待ちくたびれたわ。貴方達が来ないとルネも行けないから......。

 それにしてもレナ。顔が赤いわ。もしかして風邪でもひいているの?」

「い、いえ! 全くもって大丈夫だか──ですから!」

「そ、そう......。ならいいけど......」

 

 様子がおかしいが、本人が大丈夫と言っているなら大丈夫なのだろう。

 もちろん後で本当に熱がないか調べるけど。

 

「間に合った? あぁ、間に合ったようで良かったわ」

 

 と、レナ達に続き、パチェも見送りのためにかやって来た。

 親友がこの二人とはあまり関わりがなかったように見えていたので少し驚いている。

 

「ルネはそのままでもいいわ。しっかりエリザベートを守れるようにね。

 そしてエリザベート。教わった魔法を忘れないようにしなさい。貴方はルネ()と、レナ()と同じくらいのセンスはあるわ。魔力は......微妙だけど」

「分かりました、パチュリーさん。貴女の教えに反しないように兄様を守ってみせます」

「えぇ。......頑張りなさい」

「......え? あ、あの、ちょっと聞いてもいい?

 あの......いつからそんなに親しくなったの? パチェ? わ、私達親友よね?」

 

 聞かずにはいられなかった。

 

 あまりにも信じられない言葉を聞き、反応を見て、困惑している。

 そして何より、私の親友と私と相性の悪いエリザベートが仲良くなっていることに驚いていた。

 

「それは未来永劫変わることはないと思うから安心なさい。

 昨日、魔法を教えただけよ。この娘が強くなるために魔法を覚えたい、ってね」

「そ、そう言えばさっき確かに魔法が使えるようになったって......。で、でも! それにしたって仲良くなりすぎじゃない!? パチェが見送りに来るなんて......魔理沙相手でも見ないわ......」

「魔理沙はただのこそ泥。対してエリザベートは弟子よ。見送りに来るのは至極当然でしょう?

 それに......」

 

 と、パチェは懐から小さな箱を取り出し、それをみんなに見せるようにして開ける。

 その箱の中には、拳ほどの大きさの赤い石が丁寧に保管されていた。

 

「わぁ......」

「あ......。私の翼と同じやつだ」

 

 フランの言う通り、フランの翼の宝石とこの赤い石はよく似ている。

 もし同じなら、これは「賢者の石」とかいう物だろう。

 

「......そう言えば、体が元は人形なのに、私のも同じだね」

「ルナのも私がアリスに送った賢者の石が使われているのよ。

 言っちゃったけど、これは賢者の石。錬金術においては至高の物質よ」

「......パチェ。これがどうしたの? まさかあげるって言うんじゃ......」

「流石親友ね。正解よ」

 

 パチェはニコッと笑みを浮かべて言った。

 どうやら本気らしい。

 

「い、いいの? パチェが大切にしている物なんじゃ......」

「いいのよ。まだたくさんあるから」

「こ、高価な物では......」

「これは餞別だから気にしなくていいわよ。

 魔力を放題に含んでいる物だから、何かあったら使いなさい」

「パチュリーさん......ありがとうございますっ!」

「むぅ......」

 

 内心、複雑な気持ちだった。それもおかしな話ではないはずだ。

 親友と私と相性の悪い女が仲良さそうにしているのだから。

 

「お姉ちゃん、大丈夫ー?」

「だ、大丈夫よ。少し動揺してただけ。......ルネ、エリザベート。これでお別れね。

 でも、いつでも帰ってきていいから。その時は歓迎するわ」

「その時はよろしくね、レミリア」

「......レミリア、そして皆さん。ありがとうございました。

 いつになるか分かりませんが、またお会いしましょう」

 

 彼らは微笑み、私達の見送りを受けながら紅魔館を去っていった。

 

 

 

 

 

「......あーあ。行っちゃったね」

 

 彼らの姿が見えなくなると、惜しむようにフランが言った。

 最後まで崩れずに平常通りなフランだったが、やはり悲しんでいるのだろう。

 

「そうね。じゃあ、私は戻るわよ。久しぶりに図書館から出た気がするわ......」

「ぇ......。たまには外で運動したら?」

「図書館でしてるから大丈夫よ。じゃあ、何かあったら呼んでちょうだいね」

 

 パチェは最後にそう言い残し、大図書館へと戻っていく。

 あまり外に出ないパチェだが、きっかけがあれば外に出るだろうか。

 一週間に一度くらいは私からパチェを外に連れ出してもいいかもしれない。

 

「さーてと。私も明日くらいに旅に出ようかなぁ。もちろん一日に一回は帰ってくるからね。

 じゃあ、準備してくるねー。あ。咲夜。明日は夕食いらないからー」

「かしこまりました。では、今夜は精がつくご飯をお作りしますね」

「ありがとうねー。お姉ちゃん達も気分転換に旅とか出たら面白いからー」

 

 いつも通り前向きなミアは、元気に自分の部屋へと行った。

 三ヶ月......本人にとっては数日間行方不明になったというのに、また旅に出るらしい。

 凄いというか、呆れるというか......。だけど、あの性格は好きだ。

 

「じゃあ、フラン。私達も行こっか」

「え? 私はお姉様と......」

「ダーメ。話、聞かせて、ね?」

 

 にこやかに、そして怪しくルナが微笑む。この二人の仲は相も変わらずらしい。

 時に遠慮なく、時に遠慮気味に。姉である私にもこの二人の関係は微妙に分からない。

 

「......はぁー。うん、分かったよ。

 お姉様、レミリアお姉様。また夕食の時にでもね」

「あ。フラン、待って。速い」

「普通だからー」

 

 騒ぎながら二人の末妹はこの場を去った。残るは私とレナだけとなり、辺りは静かになる。

 騒がしい二人がいないのも物足りない感じがする、と最近思うようになってきた。

 

「さぁ。私達も帰りましょうか。レナ。この後時間大丈夫なら、一緒にお茶でもする?」

 

 と、改めて妹の顔を見る。

 先ほどまで赤くなっていた顔は平常時に戻っており、元気そうにしている。

 風邪では無かったのかもしれないが、後で念のために調べておこう。

 

「え? も、もちろんです! 」

「そ、そう。元気ねぇ......。じゃあ、行きましょうか」

「はい。......あ。少しいいですか? お姉様」

 

 部屋へ行こうと進むとすぐに、後ろで呼びかける声がする。

 振り返ると、躊躇(ためら)った表情になった妹が居た。

 

「ねぇ、お姉様。ルネの......並行世界の、ルネの世界のお姉様や紅魔館のみんなは......い、いえ。やはり何でもありません。流してください......」

「却下するわ。言いたいことは分かるわ。

 おそらくは......泣いて、悔やんで、絶望するでしょうね」

「っ......。やっぱり、そんなお姉様達は......」

「......でもね」

 

 ルネを、並行世界の自分のことやその家族を思うレナの言葉を遮る。

 

「きっと大丈夫よ。私はレミリア・スカーレット。紅魔館の主で貴女の姉よ?

 貴女が思うほど、弱くも脆くもないから大丈夫よ。貴女の分まで、きっと生きているわ」

「......ですよね。並行世界とは言え、お姉様本人が言うならきっと......」

 

 そして、レナに心配をかけないために、少しだけ強がった。

 

「私が言うんだから間違いないわよ。で、もう聞きたいことはない?」

「えーっと......いえ。大丈夫です。さっきのが聞ければ、私には充分ですから」

「そう。良かったわ。......それじゃあ、戻りましょうか」

「はい......あ、じゃなくて。うん、そうね。お姉さま」

「ふふふ。どうしたの? まぁいいわ。早く来なさい」

 

 真意は分からずも、素で喋る妹を見て思わず口元が緩む。

 やはり、妹が生きていて良かった。素直にそう思った。

 

 ──レナ。私よりも長生きして。そして私とずっと一緒に居てね。

 貴女のこと、愛しているから。

 

 言葉で伝えるには恥ずかし過ぎて言えないその言葉。その思いを寄せる妹の横で、しかし心の中で呟いた。

 妹を守ると決心してから五百年近い歳月が過ぎた。だが、その決意を守ることはできなかったのだ。次こそは、何があっても妹を守る。

 改めて心にそう誓い、自分の部屋へと向かっていった────




最後までお読みくださり、ありがとうございます。ここまで続けてこれたのも読者の皆様のお陰です。
最初は処女作ということもあり、不慣れな部分が目に余ったと思います。でも、最後に近付くにつれて、多少はマシになっている⋯⋯はず()
ちなみに感想とか質問とか何かありましたら、活動報告やTwitterで言ってください。

まぁ、このような作品でしたが、ここまでお読みくださって本当にありがとうございました。
では、またいつの日かお会いしましょう。



⋯⋯え? まだ回収されていない伏線がある? ⋯⋯それは、また月が昇る時に。



──しかし、月は沈んでも、またいつか昇る日はくるものだ。

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