ぶっちゃけ、何も考えずに書いていた自分がいます。
ではでは、最後まで目を通して下さると幸いです。
からっ……。
「あ、開いたッス」
俺は近くの花壇に仕切りとして使われているコンクリートブロックを足場にして、偶然開いた放送室の窓を潜った。
「よし。まずは潜入完了っと」
とは言っても、明かりはない。
普段の清掃が行き届いてないのか、放送室は埃っぽいことは分かった。
けれどもマイクのコードが潜んでいることに気付かず、見事に足を取られた。
「うわっ!!」
どてん、と鈍い音が放送室に広がる。
「うぅ……懐中電灯持ってくれば良かったッス」
当然、俺に応えてくれる人なんていない。
内側から鍵を開けて、俺は廊下に出た。
ひたひたと裸足特有の音が廊下に響く。
冷たい廊下の温度は気持ちよくて、外の暑さを忘れさせた。
「逆に、少し寒いくらいかも」
真夏の夜とはいえ、半袖短パンは涼しすぎたかもしれない。
腕を擦りながら、俺は無人の学校を歩いた。
聞こえてくるのは自分の足音と、呼吸の音だけ。
静かすぎる学校は解放感があるが、不気味でもあった。
夜の学校といえば、怪談ではありきたりと言われてしまう程メジャーだ。
「ゆ、幽霊なんて、出るわけ……ないッスよね?」
そのまさかだった。
ひゅん!!
呟いた瞬間、一際大きな風の音が耳に届いた。
そして、がちゃっとドアが開く音が反響した。
振り返ると、生温い風が、俺の体を舐めるように包んだ。思わず目を瞑る。
(誰かいる!!)
異常な危機感と、背筋に汗を感じ、
「……っっっ%☆♯*~!!」
俺は声にもならない声を上げて、階段を駆け上がっていった。
全力失踪……いや違う、全力疾走した結果、俺は目的地である4年2組に辿り着いた。
教室に駆け込むと、すぐさま反転して扉を閉める。
そこで足の力が抜け、へなへなとその場に崩れた。
「ゆゆゆゆゆゆうれ……いや、そんなヒカガクテキなものがあるなんて……俺は、認めないッス!!」
とか口では言ってても、実際さっきのは何だったんだろう。
どこの扉が開いた音だっかも分からなかった。
幽霊でなくとも、誰か他の人間がいるのも知れない。
こんな時間に……具体的に言うと8時を過ぎた辺りだが、この時間帯に誰か関係者がいるだろうか。
しかも週末の金曜日だ。先生や大人がいるとは思えない。
(てことは……マジで幽霊……?)
そう考えると、血の気が引いていくような感覚が俺の身を襲った。
「はぁ……さっさと帰ろう」
俺は真っ暗な教室を手探り状態で進み、ロッカーにあるジャージ袋を取り出した。
「せめて月明かりがあればなぁ……」
外に光はない。風も強くなりつつある。もしかしたら雨が降るかもしれない。
俺は『黄瀬涼太』と自分の名前がついているジャージ袋を背負って、壁を伝いながら教室を出た。
いや、出ようとした。
ドアに手を掛けた瞬間、
がらっ!!
「おい誰かいる――」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
反対側から何者かによって先に開けられた。
情けない程驚いて、情けない程女々しい奇声を上げて俺は逃げた。
しかしいかんせん真っ暗闇だ。
俺はクラスメートの机に1人でに突っ込んで、派手にすっ転んだ。
「いって……」
やばい、泣きそう。脛が……。弁慶さんの気持ちがよく分かる、今ならよく分かる。これは泣く。
え、もしかして俺終了?
ああ、短かったな俺の人生。
さよなら俺。さよなら未来の俺。あれ?何言ってんだ俺。
それの気配はどんどん俺に迫っていた。
そして、俺の頭の側で止まる。
「……何やってんだ、お前」
真っ暗な世界にいきなり現れたそれは、少年の声をしていた。
「ぶっ!!なに、お前オレのことユーレイだと思ったのかよ!!ばかじゃねーの!?」
「なっ馬鹿ってなんスか!!」
俺が幽霊だと思った張本人は、隣で座ってゲラゲラと笑っている。
真っ暗で顔なんて見えないが、喋り方からして馬鹿っぽい。年下にも感じる。
「ま、オレもお前のこと最初女かと思ったぜ。あんな声出すしよ」
ムカッときた。同時に恥ずかしさが蘇ってくる。
「て、てゆうか、アンタ誰ッスか。どこのクラスの――」
「そうだお前!!この学校の奴だろ!?理科室まで案内しろ!!」
そいつは俺の話を遮り、挙げ句俺の腕を掴んで立たされた。
「はぁ!?何で俺が……てか理科室って……」
「決まってんだろ!!」
力強く言うと、教室を出ようと歩みを進めて、
「ザリガニだ!!」
そう高らかに断言した後、勢いよく壁に激突した。
「…………は?」
闇色一色の廊下を俺達は歩いていた。
どうやら俺の隣にいる乱暴かつ馬鹿っぽい少年は、この学校で飼育している巨大ザリガニ目当てで忍び込んだ他校の奴らしい。
その理由を聞いて、生粋の馬鹿が確定した。
普通そんな理由で夜の他校に忍び込むだろうか。
壁に激突したお陰で、今もいてーいてーと額を擦っているようだ。
「アンタ、何年生ッスか?」
「4年だ」
「えっ!?」
(同い年!?こんな馬鹿丸出しなのに……)
そいつは驚かれたことに不満の声をあげた。
「なんだよ、文句あんのか?……それより、お前は何でこんな時間にいんだよ」
「あ、忘れ物取りに来たっス」
俺は背中にある黄色いジャージ袋を背負い直した。見えてはないんだろうが。
「ふーん……」
「それより、アンタよくザリガニの為にこんな無謀なことできるッスね。尊敬するわ」
「ふん。まぁな」
声音を聞く限り嬉しそうだ。
(褒めてねーし)
お互いの顔も見えないまま、理科室に着いた。
「はいここッスよ。……って、鍵掛かってるし!!」
全くもって想定外だった。特別教室は鍵が必要なことをどうして気付かなかったのか。
(てか、俺は何やってんだ?こんな見知らぬ奴の為に……)
「安心しろ。鍵ならある」
「あーそっすかぁ……へ?」
がちゃがちゃと鍵と鍵穴の格闘が始まった音がする。
かちっと鍵が勝った瞬間、そいつは嬉しそうに、よしと笑った。
「ちょちょちょ……何でアンタが持ってんだよ!!」
「あぁ?かてーこと言ってんなよ」
そいつは理科室に入っていった。
そして、
「よし、ここならいいな」
そう言うと何処から出したのか懐中電灯を点けた。
いきなり出現した灯りに、俺は目を細めた。
「つか持ってんなら最初から使えよ!!」
「うるせーな、使ったら誰かに勘づかれんだろーが」
奥には水槽の中に巨大ザリガニがいた。
そいつは
「おぉぉ!!すげー!!でっけー!!」
はしゃぎながらザリガニの元に走った。
目をショボショボさせながら、その声を聞いて笑ってしまった。
(子どもだなー)
目が慣れてきたところで、灯りの元を見た。
ザリガニに魅せられているそいつの背中が見える。
(青い、髪の毛……)
「なぁ!!お前も見ろよ!!」
青い髪の少年は振り返ったと同時に、懐中電灯を俺に向けた。
一瞬そいつの顔が見えたかと思ったら、強い光にまた目を瞑らされる。
「わっ!!ちょっとまぶし……」
すると、急に廊下から足音が聞こえてきた。
(誰か来たのか……っ!?)
ヒヤッと背中に寒気を感じる。
青い髪のそいつが懐中電灯を消し、俺は眩しさから解放された。
「おいお前!!鍵閉めてこっち来い!!」
「はぁ!?」
「いいから早くしろ!!」
廊下からの足音はもうすぐそこまで迫っていた。
指示通り鍵を閉めると、扉がばんばんと鳴き出した。
『おいこら大輝!!開けろ!!そこにいんのは分かってんだよ!!』
「ひっ……」
罵声と共に誰かが扉を殴っている。
(大輝って……もしかしてアイツのことか……?)
「くそ、千花か……」
思わず扉から距離を置き、固定された机を手探りで避けながら青髪の少年の元へ走った。
「ちちち千花って誰ッスか!?女の子があんなことするんスか!?」
その間も扉は叩かれ続けている。
「この学校の6年に御影って名字の双子がいるだろ?」
「あの成績優秀な?確か千花さんと千空くんだったっけ」
双子揃って優秀なため、学年が別でも噂くらいは知っていた。
その1人が、現在扉を虐めている。なんともシュールな光景だ。
「川でザリガニ捕りしてたら、その2人と知り合ってな」
「川でっ!?」
「知ってるか?千空のザリガニ猟の腕は半端ねーぜ?」
「そんなこと聞いてないッス!!」
「まぁ、それでだな。この学校にでっけーザリガニがいるから遊びに来いって誘ってくれてよ」
「だからって何で夜に来てるんスか!?アンタに常識はないのかよ!!」
「どうせなら夜に忍び込んだ方が面白れーだろ。それに言い出したのは千空だぜ?」
コイツが鍵を持っていた理由がようやく分かった。
内通者がいたからだ。それが秀才と謳われる双子の片割れだとは想像も出来ないが。
「千花の方はあんな風に真面目だから反対してよー。千花も千花で頭化石なんじゃね?」
「アンタと千空くんの頭が蒟蒻並なんじゃないッスかね!!もう俺泣きたいッスよ!!」
すると、今まで手で叩いてたでろう音が変わった。
「な、なんか蹴ってないッスか……?」
ドォンドォンと、扉は重い音を一定に奏で始めた。
「ちっ、千花の奴蹴り破るつもりか」
「千花さんも結構ぶっ飛んでる!!」
普通学校のドアを蹴り破ろうとするだろうか。重ねて女の子の発想だと信じたくない。
「この調子じゃ、千空は千花にヤられたな」
「ヤられ……」
「おい」
青髪の少年は俺に言った。
「逃げるぞ」
すると腕を掴まれ、ぐいぐい引っ張られていく。
「逃げるって何処から……まさか」
俺のそのまさかが当たってしまった。
青髪の少年は何の迷いもなく、ベランダを開放した。
風が俺達を包む。雲が散り散りになりつつあり、雲間から月明かりが差していた。
雨を予想させた雲は、何処かへ消えていた。
「ふっざけんな!!アンタと命懸けのダイブなんて死んでも嫌だね!!」
俺は必死に腕を振り払おうとした。
しかしビクともしない。
「ここにいても千花に殴られるだけだぜ?あの音聞いて分かるだろ?普通の女じゃねーよ」
「うぅ……」
「たかが2階の高さだ。怪我なんかしねーよ。それに」
月明かりが強くなってきて、俺達を照らした。
薄々と見えてきた青髪の少年は、
「俺がついてるから大丈夫だ」
そう屈託のない笑顔で言った。
それはビビっていた俺を安心させるには十分だった。
「よっしゃ行くぞ、涼太」
「うっす!!」
(あれ、俺の名前……なんで)
そう思ったが、なんだかどうでもよくなり、臆することなく先に飛び降りた少年のあとを追った。
着地は無事成功した。足が少し痺れたが。
「つ~~~」
「よし、オレはこっち。お前あっちな。じゃ」
「なんでアンタは平気なんだ……っておい!!」
青髪の少年はもう既に走り出していた。
「じゃあな!!楽しかったぜ!!」
背中がだんだん小さくなっていく。
(かっこいいんだか馬鹿なんだか……)
俺は、その背中を暫く見つめていた。
「あおみねーっち!!わんおんわんするッス!!」
俺は青峰っちに毎日の日課である1on1を申し込んだ。
「あー?またかよ。懲りねーな」
気だるそうな青峰っちだが、勝負は受けてくれるようだ。
「今日こそ勝つッス」
「はっほざけよ」
不敵に笑うあの時の青髪の少年は、やっぱり馬鹿だけどかっこよかった。
「ねー、本当に覚えてないッスか?」
帰り道、アイスを食べながら青峰っちと並んで歩いていた。
「しつけーな、知らねーよ」
あの時の話をしても、青峰っちは覚えてないようだ。
(もしかして、本当に別人なのかな……いやでも青い髪なんてそうそういないし……)
「ふんだ。青峰っちのばーか」
俺は青峰っちを追い越して先を歩いていく。
(別に、覚えてなくてもいっか)
あのあと捜そうと頑張ったが、大輝なんて名前はよくある名前で、結局特定は出来なかった。
御影の双子に聞こうと思っても、殴られる可能性を考えてあの2人には関わらないでおこうと思った。
特に千花さんの方には。(因みに、理科室の扉はあれから立て付けが悪くなっていた)
(青峰っちじゃないなら、誰だったんだろう)
あの日、あの夜、あの学校で会った喧しい奴。
懐中電灯に照らされた喧しい少年は、金髪で、綺麗だと思った。
黒に囲まれた金。
まるで、闇夜の月みたいだった。
金髪の背負っていたジャージ袋には名前が書いてあって、読めたのは涼太という文字だけだった。
「ったく」
青峰は無くなってしまったアイスを名残惜しむように、アイス棒を噛んだ。
「覚えてるっつーのばーか」
青峰のその言葉は車道を通ったトラックによって掻き消された。
途中に出てきた
御影千花ちゃん(扉を殴ったり蹴ったりの暴力的少女)&
御影千空くん(ザリガニ取りのうまい描写のみの男の子)の双子コンビ
は別サイトで書いている連載の主人公達です。
あまり気にしないで下さい。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。