青峰視点や、双子のエピソードをいれてみました。
どうぞお楽しみください。
「おい、またサボったなお前」
「……はい」
「次はないって言っておいたよな」
「…………はい」
オレは水切りに丁度いい石を集めながら、あの2人のやり取りを眺めていた。
河原の、しかも大小様々な石の上に正座させられている(あれは絶対痛い)男と、その前で仁王立ちしている女。
「あれだけの荷物を紀一1人に持たせるなんて……。買い物サボるなら代理をたててからにしろ」
「……はい」
「はいはいはいはい……って、結局また同じこと繰り返すんだろ?少しは誠意を見せてみろよばか」
「……はい。ごもっともです」
仁王立ち女の顔は無愛想だ。無表情といってもいい。
逆に、なんともない顔で男を罵倒している。
正直、この光景を何度見せられたことか。
オレに背を向けている男は表情が見えないが、かなり小さく見えるのは確かだ。
「お前の耳は飾りか?何の為についてんだよ」
ただへこへことしているだけだった男は、女のその言葉に対してだけは嬉しそうに反応した。
「千花に耳掻きさせてあげるためだよ!!」
女の表情に動きがあった。明らかに怒っている。
「母さんに報告する」
「うああああ待って!!待って下さいお願いーっ!!」
女の足にしがみついている男は、ひどく情けなく思った。
「今日は1人か」
さっきまで仁王立ちで説教していた女、御影千花は言った。
短い黒い髪に鋭い目付き、しかも男みたいな格好で背も高い。ぱっと見たら男に見間違える。オレはそうだった。
「千花!!水切りで勝負だ!!」
結局千空は拳骨1回で許してもらったようだ。
猫っ毛の短髪で、目鼻立ちが整っている。世に言うイケメンだろう。千花より少し低い身長を気にしているらしい。
オレがこの2人と知り合ったのは、千空が声を掛けてきたのがきっかけだった。
ある日。オレは川で遊んでいた。
友達と石投げとかザリガニ捕りとかして遊んでいたんだ。
そしたら、
「俺もまぜて!!」
……って、やってきた千空は、目をキラキラ光らせていて、子どもみたいだと思った。
実際はオレよりも頭1つ分でかくて、歳も2歳離れていた。
最初はめんどくせーとか思ったけど、遊び始めたらなかなか気が合う。
そいつは御影千空と名乗った。
千の空で、チアキと。
遊んでいく内に、こうしてまた偶然会ったら遊ぶという仲になっていた。
そしていつの間にか、千空を探して河原にやってくる千花とも知り合った。
よく買い物をサボっては、千花にお説教をくらっている。
「はっ、あたしに勝てると思ってんのか?」
千花の第一印象は面白くない女だ。
無愛想でクールで、何を言っても反応が薄かった。
けれども、千空といるときは別人のように感じる。
今だって、もし俺が水切りを挑んだとしても軽く流されるだけだ。千空からの勝負に、ノリノリに見える。
最初は仲がよすぎて、付き合っているのかと思ったくらいだ。
「もし俺が勝ったら明日の宿題やってね」
「負ける気はさらさらないから、何賭けたって無駄だ」
滅多に見れない、不敵に笑う千花がそこにいた。
2人は川に向かって石を投げた。水面で石が跳ねる。
その数な は1回に留まらず、投げる度に回数を競っている。
何回やっても、千空は千花に勝てなかった。
「くそ……ちくしょう……」
千空はブツブツ文句を言いながら、ザリガニ捕り用で持ってきていた網を宛もなく游がせていた。
一方、千花は満足げに平らな石の上に腰を下ろし、足だけ川に浸していた。
「さっき、あたしは何も賭けてなかったな」
ビクッと千空の肩が反応した。
「アキはあたしに何してくれるんだ?」
心底楽しそうな千花と、脂汗で額を濡らしている千空。
「お前ら本当に双子かよ、ぜんっぜん似てないな」
空気当然の俺が久しぶりに口を開くと、2人はオレを一斉に見たあと、お互いの顔を見合わせた。
「確かに、双子にしては外見は似てないよね」
千空はそう言うと、ズボンの裾を捲し上げた。
川に足を入れて、餌を付けた糸を片手にザリガニ捕りをし始める。
「アキは癖っ毛で、あたしは直毛だしな。どうせ二卵性だろ」
「二卵性ってなんだ?」
聞いたこともない言葉に、オレは聞き返した。
そして千空の後を追って、釣竿を持って川に足を踏み入れた。
「双子ってのは2種類あって、1つの受精卵が母親の腹の中で2つになって2人の胎児が育った場合が一卵性双生児だ。あたしら二卵性双生児は始めから2つの受精卵が同時に腹の中で育った場合だ。だから、一卵性は遺伝子レベルで瓜二つだけど、二卵性は一般的な兄弟レベルで似るって感じだな」
「……おう」
オレは勉強はできない。
そんな頭でも1つ分かった。この女はできる奴なんだと。
いくら小6だと言っても、聞くからに難しい単語ばかりだ。そこら辺の同世代とは比べられない。
「大輝、分かった?」
千空がオレに聞く。
「さっぱりわかんねー」
「だろうね」
千空は苦笑いしている。
「……千空も、分かんないよな?」
「いや、俺は知ってるし」
……やっぱり、双子は似てるんだ。そう実感した。
千空は結構抜けてるところがあるから、同類だと思っていたのに。なんだか裏切られた気分になった。
千花はうーん、と唸った。
「まぁ、双子にもいろいろあって、似てなくてもあたしとアキはれっきとした双子だってことだ」
「うわーてきとー」
千空のちゃちゃに千花は石を投げた。
ザリガニが川の流れに沿って移動してくる。
「きた」
千空が短く言う。
俺は自分の釣竿よりも、千空の手にあるただの糸に目をやった。
千空はいつものお茶らけた雰囲気をしまい、真剣な眼差しで糸の先端を見つめている。
水の中で餌がユラユラを泳いでいる。それに、一匹のザリガニが食いついた。
「……よし!!捕ったどー!!」
千空が高らかに手を掲げた。糸の餌にザリガニがしがみついている。
「すげーな千空!!もう5匹目だぜ!!」
「大輝も早くコツ掴めよー。もっと楽しくなるぞ!!」
その時、ずっとオレ達を眺めていた千花が、
「そろそろ帰るぞー」
と言った。
もう日が暮れかけていた。
千花が最後までいるのは初めてだ。
いつもはもっと暗くなるまで遊んでいるが、千花に逆らうといい目に会わない。
オレ達は大人しく引き上げた。
「このザリガニ、どうするんだ」
千花がバケツに入ったザリガニ、計7匹を見た。
「食べるんだよ!!」
千空が言った。無駄にはしゃいでいる。
案の定千花が千空の頭を叩いた。
「ばか。ここの水は上流より少し汚い。食べたら毒だ。……大輝も止めとけよ?」
「突っ込み違くね?」
オレの言葉に、当の本人は、ん?と首を傾げている。
「じゃなくて、明日学校の奴らに自慢するんだよ!!」
オレが捕ったのは2匹だけど、鼻高らかに言ってやった。
千花が呆れ顔になったのは言うまでもない。
お茶らけた千空に、生真面目な千花との変な関係は、その夏の間続いた。
気まぐれに川に行って、遊んで、千空が通ったら一緒にザリガニ捕って。高確率で千花も来て。千空が説教くらって。水切りして。
楽しかった。
来年から、あの2人は中学生だったからか、もうあの道を通ることはなかった。
オレが中学生になって、その頃にはもうあの夏のことや2人のことを忘れていた。
あいつがオレの前に現れるまでは。
「黄瀬涼太ッス。よろしく」
一目で分かった。あの時の金髪だ。
変わっていなかった。
目立つ金髪。少しビビりななところ。ウザイ口調。
そして、オレに向けている、微かな羨望。
優越感というよりも、純粋に嬉しかった。
そうだあの時も、黄瀬は今と変わらない目を向けてくれた。
あの時――。
あの夜。あの学校の出来事。
『大輝‼』
久しぶりに、千空の声が聞こえた気がした。
番外編2に続きます。
読んでいただけたら嬉しいです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
また番外編2でお会いしましょう。