所々シリアスっぽく見えますがいつもと同じギャグ時空です。
今回は長めです。
ではどうぞ。
魔術王の企みは崩壊した。
俺とぐだ子が召喚したサーヴァントたちは目的を果たし英霊の座へと帰って行った。
が、ダヴィンチちゃん曰く「ぐだ男くんとぐだ子ちゃんのことが放っておけない物好きたち」はカルデアに留まってくれた。
有難いことに残ったサーヴァントの数は結構なものだった。
おかげで良くも悪くもカルデアは賑やかだ。
ソロモンの宮殿から帰還を果たした後。
俺たちは誰が残ったのかを把握するために残ったサーヴァントを集めた。
最初期から戦闘、非戦闘時に関わりなく力を貸してくれたエミヤやクーフーリン兄貴、常に殿でその力を振るってくれたヘラクレス。
頼んでもいないのに肉体改造を施してくれたレオニダス、魔術を教えてくれたメディアさん。よく部屋を掃除してくれるハサン先生。
王でありながら仕える身に徹し絶大な力を振るってくれたアルトリア、反逆の騎士の二つ名を持っているのに悪い子とは思えないモードレッド。
何度爆散させてもいつも「まあ仕方ねえか」と許してくれるアーラシュ……
他にも結構な数が残ってくれた。
だが、彼らが残ってくれたのは嬉しかったが意外ではなかった。
意外だったのは常に邪気眼オーラを漂わせている巌窟王エドモン・ダンテスが残っていたことだった。
「エドモン!残ってくれたんだね!真っ先に帰るかと思ったのに!」とぐだ子が言うとエドモンは
「魔術王の企みは崩壊したがこれですべてが終わったとはオレには思えぬ。
それにお前たちの行く末には想像を絶する艱難辛苦が待っているであろう。
オレが残ったのは其れを見届けるため。オレにとっては浮世の娯楽ともいえるものだ」
いつもの邪気眼丸出しでそう言ったが「かーらーのー?」とぐだ子が言うと
「お前たちのことが放っておけぬからだ」
と思わず本音が漏れた。
はいはいツンデレ乙。
それから一か月近くが経った。
戦いは終わったが相変わらずカルデアは慌ただしい。
何しろ過去一年、カルデア以外の全人類の人生がまるっきり空白の状態だったのだ。
カルデアには次から次へと魔術関係者が調査のために来訪し俺とぐだ子とマシュは対応に追われていた。
ある日。
ようやくその日の聴取を終え俺たち三人――俺とマシュとぐだ子――は明日のミーティングがてら食堂で休んでいた。
今日の聴取の内容をせっせとまとめるマシュに「マシュ。疲れてない?」と聞くと。
「いえ。私がいることで先輩の負担が少しでも減るのならば本望です。私は先輩に助けられてばかりでしたから」
と言われた。
何この子。超かわいい。
「クハハハハ!言ったであろう!『想像を絶する艱難辛苦が待っていると!』」
誰かが会話に割り込んできた。
この少年ジャンプを読み過ぎた中学二年生みたいな笑い声。
間違いなくアイツだ。
予想通りそこにはアヴェンジャーのサーヴァント巌窟王エドモン・ダンテスが立っていた。
「あのさ、エドモン。疲れてるんだけど……」と言おうとしたがその前にぐだ子が言った。
「ねえエドモン。ファリア神拳教えてよー」
お前。そのネタ振りは止めろ。
エドモン間違いなく乗ってくるぞ。
「この痴れ者が!ファリア神拳は生半可な覚悟で習得できるものではない!
お前は真の絶望を知っているか?地獄を見たことはあるか?
ファリア神拳の極致はその果てにこそあるものだ!」
ああもう……残ってくれたのは嬉しいけどコイツやっぱめんどくせ。
「あ、じゃあ面倒くさいからいいです。この話お終いで」
ぐだ子も振ったはいいが予想以上に面倒くさい反応で気力が失せたらしい。
素っ気なくそう言った。
が相手の反応は予想の斜め上を行っていた。
「フ!そこまで言うのならば仕方あるまい!教えてやろう。
オレがいかな艱難辛苦の果てにファリア神拳を身に着けたのかをな!」
あ、これ絶対話したいだけだ。
「いや……エドモン。振っといて悪いんだけどマジでいいから。ほら、もう夜も遅いし」
「長い話になる!
運悪くそこに居合わせた我らがオカン、エミヤはいつもの渋い表情をいつも以上に渋くしていた。
「私はウェイターではないのだが……」
「オカン?」
「オカンでもない。コーヒー四つだな?何か茶菓子も用意しよう」
エミヤは常識人だ。
止めに入って止められる相手ならば止めてくれる。
最初期からカルデアにいるエミヤは説得が通じない相手を把握している。
駄目だ、これもう止められないわ。
「ぐだ男、マシュ。マジごめん……」
ぐだ子が小声でそう言った。
十分後。
フレンチプレスに入った濃くて旨いコーヒーとガレットブルトンヌが用意されていた。
ガレットブルトンヌはエミヤのお手製らしい。
ホント器用だなこのおかん。
「あの日……オレが謀の末シャトーディフに収監された日……」
エドモンが語り始めた。
面倒くさいがフィクションだと思っていた『モンテ・クリスト伯』の真実の物語を聞くことができる。
悪い経験ではない。
俺も子供の頃ダイジェスト版なら読んだことあるし。
「あの日はエドモン・ダンテスという一人の男の死であり、巌窟王の生まれた日だった」
×××××××××××××
知っての通り、オレはもともとマルセイユに暮らす航海士だった。
船長への昇進の話。恋人メルセデスとの婚約。
二十歳の青年だったオレの前途は洋々たるものだった。
――あの日までは。
――あの日。
メルセデスとの婚約パーティーの日。
突如オレの人生は暗転した。
ナポレオン・ポナパルトへの不正連絡を仲介した廉でオレは逮捕された。
大逆罪。
重罪だ。
全く身に覚えのない話だった。
オレはわけもわからぬまま弁明の暇もなく連行され、煉獄が如きシャトー・ディフに収監された。
冷たく不潔な牢獄の中でオレは天に問いかけた。
神に試されたヨブがごとくオレは問い続けた「何故!何故!」と。
だが神は沈黙した。
オレに答えを教える者は誰も居なかった。
シャトー・ディフの日々は無為なものだった。
釈放される当てもないオレは餓死を試みた。
そんなある日だ。
飢餓で朦朧とする頭に声が響いた。
「止せ。隣人よ。神は自死をお認めにはならぬ。更なる罪を重ねるつもりか?」
オレはついに自分がおかしくなったのかと思った。
その声は文字通り頭の中に直接響いて来たのだ。
「誰だ。お前は」
オレの問いに頭の中の声は答えた。
「私はお前の隣人だ。精神的な意味では良き隣人でありたいと願う者。
物理的な意味では隣の独房にいる者だ。名をファリア神父という」
「嘘だ。現世の者が頭の中になど語りかけるはずもない。
お前はオレが生み出した幻覚だ。さもなければ亡霊の類だ」
「良い答えだ。すべての答えは疑問から始まる。では、まず私の実在を証明しよう。
これから独房の壁を三度ノックする。それをもって私の実在の証左としてほしい」
その言葉通り。
隣の独房の壁が三度ノックされた。
それが尊きファリア神父との出会いだった。
ファリア神父は賢人だった。
学のないオレに学を授け知恵を与えた。
そしてオレはその知恵によって事の真相へとたどり着いた。
ファリア神父は言った。
「エドモンよ。私は以前お前に『更なる罪を重ねるな』と言ったな?」
「ああ。言った。だがオレは無罪だ」
「知っているとも、お前の言葉に嘘はない。大逆罪など大嘘だ。
お前は謀られたに過ぎぬ。
お前の真の罪は『無知』だ」
「……どういうことだ?」
「考えてみよ。隣人エドモン・ダンテスよ。お前がこうして収監されることで誰が得をする?
得をする人間で人に罪を着せることが出来る力を持った人間は誰だ?
考えろ。自ずと答えは見えてくるはずだ」
オレはその一言で答えに至った。
フェルナン、ダングラール、ヴィルフォール……
そう。
考えれば簡単なことだった。
オレはどうしようもない無知だった。
どうしようもない無垢だった。
オレの腹の中で憎悪が黒炎となり燃え盛った。
「エドモン・ダンテスよ。お前が何を考えているかはわかる。
復讐……それは已むべからざる感情だ。
私は神に仕える身。憤怒に身を晒せとは言えぬ。
だがお前のその感情はこの穴倉を出なければ寛容にも不寛容に至れね。
よって私はお前に力を授けよう。
何にも勝る力――我が秘儀の最奥――ファリア神拳を」
次の瞬間。
オレはシャトーディフではないどこか別の場所にいた。
話に聞く古代ローマのコロッセオのような。
それでいて華美さの欠片も感じられない実用的な空間だった。
オレの前には瘦身で高齢の僧衣を来た男が立っていた。
「ここは?」
「精神の宮殿。私とお前の魔力が作り出した精神世界だ。
そしてこれからはお前の修行の場となる」
それがそれまで独房の壁越しに見ることの敵わなかったファリア神父の姿を初めて目の当たりにした時だった。
彼はまさに「賢人」と形容すべき姿だった。
ほっそりとした体躯に思慮を感じさせる顔立ち。
言葉を発さずともその全身から知性が靄となって漂っているような人物だった。
「エドモン・ダンテスよ。問おう。汝は力を欲するか?」
かの賢人は問いかけた。
オレの答えは言うまでもないだろう。
その日から修業が始まった。
ファリア神拳は肉体的頑強さ以上に精神力と魔力を重んじる。
オレは精神の宮殿でファリア神父から魔力の扱い方と戦闘時における心の在り方を叩き込まれ、
精神の宮殿から独房に戻ると独房で出来る思いつく限りの筋力トレーニングを行った。
それは過酷なものだった。
一日は二十四時間だが精神の宮殿では時の流れが違う。
一日三十六時間という常軌を逸したハードワークはオレの肉体と精神を徐々に疲弊させていった。
だがオレは止まらなかった。
疲弊を恩讐の情念へと昇華させ自らを奮い立たせ続けた。
「エドモンよ。実に見事だ」
四年の月日が流れた。
ファリア神拳の最後の基本型を習得した時ファリア神父は目を見開いた。
「基本の型の習得に七、八年はかかる見積もりだったのだがな。
私の見込んだ通り。お前には素質があるようだ。
年老いて体は衰えようとも我が
よってお前に第一の秘儀を授けよう。
――エドモンよ。これからお前めがけて一撃を放つ。
躱してみせよ」
この賢人らしからぬあまりにも単調な攻撃だった。
オレは神父の放った拳の一撃を難なく躱した。
完全に。一部の隙も無く躱した。
が、その次の瞬間。
ファリア神父の拳は俺の顔面に直撃していた。
オレには訳が分からなかった。
確実に躱したはずの一撃が直撃していたのだからな。
何を言っているのかわからぬと思うがオレも何をされたのかわからなかった。
猛スピードだとかそんなチャチなものではない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった。
「……ファリア神拳第一の秘儀。『鋼鉄の決意』」
混乱するオレに対しいつものようにファリア神父は泰然自若としていた。
「ファリア神拳の最奥に至る入り口となる秘儀だ。
まずはこれをモノにせよ。
その時お前はファリア神拳の極致に至る権利を手に入れる。
覚悟は良いな?」
その日より修業はさらに苛烈さを増した。
一日三十六時間のトレーニングは終いには四十八時間にまで増えていた。
――何時しか、さらに十年の月日が流れていた。
「良いぞ。エドモンよ。これが第三の秘儀『窮地の智慧』だ。
相手の攻撃を受け流しつつその攻撃を自分の力として利用し、さらに自らの力を載せて打ち出す
究極のカウンター技。使いどころを誤るなよ」
「はい。神父」
「見事。実に見事だ。エドモン。
これでもうお前に教えることは無い」
ついに修業は終わりを見た。
十四年。
十四年の間、オレの心は復讐の情念に満たされ続けていた。
おそらくファリア神拳の基本を覚えた時点で脱獄は出来ただろう。
だがしなかった?
何故か?
我が力を完全なモノとするためだ。
そのために耐えて耐えて耐え続けた。
「ではオレはこの穴倉を去ろう。感謝するファリア神父。
そして
ついに時は満ちた。
オレは脱獄を実行に移すため精神の宮殿から独房に戻った。
「待て。エドモンよ。もう教えることは無いと言ったが……その言葉には続きがある。
『一つを除いては』という続きがな」
独房に戻ったオレの脳内に隣人の声が入って来た。
そう。説明を忘れていたが精神の共有はファリア神拳の基本動作の一つだ。
精神の共有により聴覚を使わずに会話を行うことができる。
「お前に最終奥義を授ける。
最終奥義は精神と魔力を肉体以上に重んじるファリア神拳の極致と呼ぶべきものだ。
超高速思考を行いそれを強引に肉体に反映することで、主観的には時間停止を行使しているにも等しい超高速行動を実現する。
それがファリア神拳最終奥義『
修業は終わりではなかった。
オレは落胆した。
一体これからあと何年かかるのだ?
「気を落とすなエドモンよ。奥義習得の方法は恐ろしく簡単だ。ほんの一刻で済む」
「その方法とは?」
「これから私がお前に対して最終奥義を放つ。お前はそれを相殺せよ。
最終奥義を双方が放てば必ずどちらかが死ぬが――私が死んだとしてもそれを決して気に病むな。
なぜならばそれがファリア神拳継承者の
「な!無茶にも程がある!賢人の看板はどうした!一部の隙も無い脳筋戦法ではないか!
そもそもオレとあなたの間には分厚い壁が横たわっている!どうするつもりだ!」
「むんっ!!!!!!!!!!!」
島中に響き渡るような凄まじい声と共に壁が崩れ去った。
「やれやれ……私も衰えたものだ。
全盛期であればこのような脆弱な壁、指一本で崩せたのだがな」
崩れた壁の向こうから現れたのは
――銀髪に髭面で身の丈二メートルはあろうかというゴリゴリマッチョの大男だった。
「誰だ……お前は?」
「何を言っている。この身はお前が最も良く知る人物であろう……」
「あなたがファリア神父だと!?嘘をつけ!東方●敗の間違いだろ!
精神の宮殿で見た姿と何一つ一致していないではないか!!
それにいつも身に着けている僧衣はどうした!!?」
「……これのことか?」
ゴリゴリマッチョの大男の手から衣服らしきものが衣服が立ててはいけないような重い音をたてて落下した。
「……重さ百キロの肩当てと筋肉を逆さに吊るバネが仕込まれている。
ファリア神拳継承者は全力を振るうと最後の審判の前にこの世を亡ぼしてしまいかねない。
よって平時はその力を抑えている……
ぜぇえああっ!!!!!!」
ファリア神父は拳を突き出した。
拳は音速の壁を突き破り、風切り音が轟音となって鳴り響いた。
「……お望みとあらばこのシャトーディフを五分で平らにしてみせよう」
「……一体どうしてあなたはこの牢獄に囚われているのだ?」
「自分の力が恐ろしいからだ。私は幾十年にも渡り人ならざる闇の力と戦い続けてきた。
幾つもの戦場を経て――私は強くなり過ぎた。
もはや外の世界に私の生きる場所はない。
悟った私は自ら囚われの身となった。
この姿を晒すのは百と五十年ぶりだ。光栄に思うがよい、エドモンよ。
この姿を見せたのはお前がそれに値する存在と認めたからだ」
オレはその時十四年ぶりに恩讐以外の感情が自らの胸中に芽生えているのを感じた。
――恐怖だ。
――賢人ファリア神父の姿はオレに恐怖以外の何も想起させなかった。
「さあ!死にたくなければ我が屍を乗り越えて征くが良い!
我が隣人、そして最愛の弟子エドモン・ダンテスよ!
ハァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
神父の魔力が解放され奔流となって空間を震わせた。
空間が震えるといわれてもピンと来ぬと思うが、一度体験すれば嫌というほど意味がわかる。
オレはもう二度と体験したくないがな。
オレはどうにかファリア神父を宥めようとしたが神父は聞く耳を持たずだった。
やむを得ぬ。
どうにかしてこの一撃を躱そう。
オレはそう考えた。
「全拘束制御術式解除……加減は無しだ。絶望に打ち克ってみせよ!!
ファリア神拳最終奥義!!!
『
オレは全力で回避体制に移行した。
神父は鋼鉄の決意を併用していたが理屈が分かっているば躱せないことはない。
躱せる。
オレはそう確信した。
――が、オレの脳内にファリア神父と共に過ごした十四年が突如去来した。
――神父の教えは時に厳しく、時に苛烈で、時に壮絶だった。
オレは師の最終試験をボイコットしようというのか?
命を賭した最終試験を?
――否!!
――これを躱せばオレは二度とこの人のことを師とは呼べぬ!!!
「おおおおおおおおおおおっ!」
魔力と魔力がぶつかり合い、閃光となって広がった。
閃光が止み、いつもの薄暗い牢獄が戻って来た。
一人の男が膝をついた。
膝をついたのはゴリゴリマッチョの大男だった。
男の口から鮮血が迸り、やがてその五体は力なく崩れ落ちた。
「見事だ……エドモンよ」
ファリア神父は最後の力を振り絞って言った。
最後の交流になる。そう確信した。
オレは最愛なる師の前に膝まずき続きの言葉を待った。
「……お前に二つ伝えることがある。
ティレニア海に浮かぶモンテクリスト島という島がある。
ここを出たらそこに行け」
「そこに何がある?」
「私のかつての仕事場だ。
かつて私は聖堂教会からの依頼で多くの異端を狩って来た。
その仕事をしていた時の武器、装備一式と得た報酬一切がある。
私の全財産だ。派手に散財しても簡単には使い切れぬほどのな。
私の独房に地図がある。持って行くがよい」
「もう一つは?」
ファリア神父の声はさらに弱々しくなっていた。
次に交わすやり取りが最後になるだろう。
オレはそう確信した。
「最終奥義『虎よ、煌々と燃え盛れ』には継承者が好きにルビを振る権利がある。
良き名を考えろ。その名はお前の体であり心であり――お前そのものだ」
「……では『
「何それ……超カッコいい。
お前、センス良いな」
それが師の最後の言葉だった。
オレはシャトーディフを脱出すると一路モンテクリスト島に向かった。
そして武力と財力とほんの申し訳程度の知略で復讐を敢行した。
××××××××××××
エドモンの長い話が終わった。
ガレットブルトンヌの載った皿は空になり、フレンチプレスになみなみと注がれていたコーヒーは底に僅かになっていた。
――なんて少年ジャンプだよ。これ。
なんか色々混ざってるぞ。『るろうに●心』とか『ダ●の大冒険』とか『ジョ●ョの奇妙な冒険』とか。
少年ジャンプの起源は十九世紀のフランスだったのか?
「あの……私の知っている『モンテ・クリスト伯』と何一つ一致していないのですが……」
マシュは本の虫だ。
俺と違ってダイジェスト版ではない『モンテ・クリスト伯』も読んでいるだろう。
納得いかないのは当たり前だろう。
ダイジェスト版しか読んだことのない俺でも納得いかないんだから。
「そんなものあの作家の脚色に決まっているだろう?あの作家め。聞きたいというから話してやったら
『なにそれ。嘘くせ。少年ジャンプの読みすぎ。もっとリアリティーある方向に書き直すからね?』
などと抜かしやがった」
尚も納得のいかない様子のマシュはさらに質問を続けた。
「大デュマの小説では巌窟王は病死したファリア神父の遺体とすり替わって脱出したと記述されていましたが……」
「そんなわけがあるか。あの頑強な肉体の持ち主が病気程度で死ぬわけがないだろう。
後になって気づいたことだが最期のあの時もあの方は手を抜いていた。
あの方が本気で最終奥義を放っていたらオレは五体不満足どころか塵すら残っていなかっただろう」
「あの……では実際はどうやってシャトーディフを脱出したのですか?」
「力技に決まっているだろう。
フッ!やはりあの方には敵わぬな。ファリア神父ならば五分でシャトーディフを平らにしていただろう。
オレが出来たのは十分でシャトーディフを半壊させる程度だ」
ぐだ子も納得いかないらしい。
「え?さすがに全部本当じゃないよね?エドモンもつい調子にのって脚色しちゃった的なところあるよね?
ほら、今日のエドモンすごく楽しそうだったし。そうでしょ?」
「くどいな。お前たちは。ああ、だがそうだな。さすがに『東●不敗の間違いだろ!』は脚色だ。
オレも興が乗ってついいらぬ嘘をついてしまった。
それ以外は偽りなき真実だ」
フッと小さく笑うとエドモンは立ち上がった。
「さて。さすがに長く引き留めすぎたな。精神の宮殿と違いこの不便な世界では常に一日は二十四時間だ。
明日も予定が詰まっているのだろう?せいぜいその脆弱な肉体を労われ」
エドモンは高笑いをあげて去って行った。
「サーヴァントの皆さんから話を聞けるのは嬉しいのですが……」
マシュが言った。
「巌窟王の真実は知りたくなかったです……」
なぜだろう。
俺の胸中にも言いしれない残念な感情が渦巻いていた。
色々と補足。
最初の方に挙げた残ったサーヴァントたちは登場済み、もしくはこれから出す予定のサーヴァントたちです。
「虎よ、煌々と燃え盛れ」のルビはまんまフランス語翻訳。
より正確に言うと引用元となったウィリアム・ブレイクの詩の一節"tyger tyger burning bright"を英語からフランス語にグーグル翻訳した結果です。
(ファリア神父はイタリア人ですがフランスが舞台なので)
巌窟王の宝具名の由来ですがおそらくアルフレッド・ベスターの名作SF『虎よ、虎よ!』
でしょう。
『虎よ、虎よ!』は『モンテ・クリスト伯』を下敷きにしており、さらに作品冒頭で前述の
ブレイクの詩が引用されています。
そういう繋がりから宝具名に繋がったものかと。
作者ですが実は『モンテ・クリスト伯』はちゃんと読んだことがありません。
私の知識は岩浪少年文庫のダイジェスト版とフランスのテレビドラマに由来するものです。
『モンテ・クリスト伯』は純然たる文学というより大衆的なウケを狙って書かれたものでサスペンスとして普通に楽しめます。
が滅茶苦茶長い(文庫で前七冊)です。
私のお勧めは前述のフランスのテレビドラマです。
ジョゼ・ダヤンが演出でジュラール・ド・パルデューが主演。
全五時間四十分という超大作です。
がとてもとても面白いです。
私がだいぶ昔にVHSで見ましたが日本版のディスクが今は出ていますので手にいれられるかたはぜひ見てみてください。
結末が原作と違いますが概ね原作にも忠実です。
なんか後書きがすごく長くなりましたがこの辺で。
今回もお読みいただきありがとうございました。