小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

15 / 66
ステラァァァァァァァァ!!!!!


アーラシュの受難

流星一条(ステラ)!」

 

 大地を割り国境を作った究極の一矢が炸裂する。

 

「お前は間違っちゃいない……」

 

 その一言と共に東方の大英雄・アーラシュはマドハン……じゃなかった

 黎明の神腕を道連れにして消滅した。

 

 ここは通称「種火狩り」と呼ばれるカルデアゲートから常時開放されている特殊なレイシフト先だ。

 カルデアの召喚システムではサーヴァントを召喚する際、あえて成長の余地を残した状態で現界させる。

 

 なんでそんな事になっているのかというと成長させる手間がないとゲーム的にすぐにやることなくなってしまうから……

 じゃなかった。

 俺にもよくわからない。

 

 とにかくそんなわけで召喚された彼らには成長のために大量の魔力を与える必要がある。

 この腕たちは内に大量の魔力を抱えており消滅させると大容量の魔力を吐き出す。

 つまり餌としてこのなんかでっかい腕をたくさん狩る必要があるわけだ。

 

 この場所に通い始めた当初俺達は普通に広範囲を攻撃できる攻撃宝具の持ち主を集めて定期的に狩りに行っていた。

 

 しかし、カルデアが抱える多数のサーヴァントの成長のためには相当数の出撃が必要となりこのミッションの効率化は当初から大きな課題だった。

 

 そんなある日だった。

 

 ――ぐだ子が悪魔のごとき発想に至ったのは。

 

「ステラっちゃえばいいんだよ」

「……え、なんて?」

 

 その日20体目の腕を消滅させた直後唐突に彼女は言い放った。

 

「考えてみたらさ、宝具を打った後に魔力を充填し直さなきゃいけないんだから

打ったらすぐに宝具解放が近い後衛と交代すればいいんだ。

ステラっちゃえば嫌でも前に出るしかないから完璧じゃん。

後は孔明酷使すれば……」

「ちょ、ちょっと待て!お前自分が何言ってるかわかってるのか?」

 

 ぐだ子の言い分は理解できる。

 それにアーラシュが宝具を打って消滅しても霊基の大元がカルデアに残っている以上時が経てば再召喚は可能だ。

 

 これまで闘いの中で流星一条(ステラ)を解放させたことも一度や二度ではないが

それはそれだけの厳しい戦いだったからだ。

 

 しかもアーラシュは本当に気持ちの良い好人物。

 こんな使い方をするのは良心が……。

 

「周回は効率が命だ。いいからやるんだよ」

 

 ぐだ子の頭身が縮み顔に如何とも形容しがたい平坦な笑顔が浮かんだ。

 

 ……これはいけない。

 

 人間が何故こんな変化を遂げるのか全く原理は不明だがこうなったぐだ子は誰にも止められない。

 人間要塞ジャンヌ・ダルクをワンパンで血の海に沈め、ロンドンに現れたソロモン王をネックハンギングツリーで

半泣きにさせた通称リヨ形態ぐだ子は人知を超えた存在だ。

 誰も彼女には逆らえない。

 

「あ、はい」

 

 その迫力に押され俺は大英雄の宝具解放を指示した。

 

 アーラシュは俺に従うとばかりに真名開帳の口上を始めた。

 

「陽のいと聖なる主よ。

あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。

我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ。

さあ、月と星を創りしものよ。

我が行い、我が最期、我が成しうる“聖なる献身(スプンタ・アールマティ)”を見よ──」

 

「長い。早く行け」

 

 イラついたぐだ子が彼の背中を蹴り飛ばす。

 それを切っ掛けに、かの大英雄は文字通り流星となって爆散した。

 

 ごめんアーラシュ……。

 

 カルデアに「孔明ステラシステム」という外道ユニットが誕生した瞬間だった。

 

 種火と同じく、カルデアでは定期的に修練場と呼ばれる各クラスごとの戦闘トレーニングが行われる。

 毎週一度、剣の修練場ではアルトリア(アーサー王)が訓練の相手を努めてくれるが

そこでもアーラシュは引っ張りだこだ。

 

 騎士王と弓兵の代名詞とも呼べる東西屈指の大英雄の戦い。

 

マーリンが

「さあ、アーラシュくん。逝ってきたまえ!」

孔明が

「その……いつも大変だな……。正直君には同情の念を禁じえない」

シェイクスピアが

「さあ存分に力を振るってきてください!あなたの勇姿は吾輩がしかと書きとめますぞ!」

 

 大英雄に可能な限りの支援を与える。

 最大強化を施された魂と引き換えの壊れた幻想(ブロークンファンタズム)が騎士王を襲う。

 

「やってやるさ!存分に!流星一条(ステラ)!」

 

大質量の一撃を前にして尚も彼女は踏みとどまろうとする。

 

「ぐっ!この程度で!……すいませんやっぱり無理でした」

 

 アルトリアの霊基がダメージに耐えきれず薄れていく。

 

「……ところで私なんか影薄くありませ」

 

 本編での自身の立ち位置について思うところがあったのだろうか。

 

 しかしその言葉を最後まで言い切ることなくこの修練場から彼女は消滅した。

 そう言えば彼女は常々

「貴方の指示は気持ちがいい。不思議と暖かな気持ちになります」

と俺の事を評してくれているがそれに続けて

「その……アーラシュのあれを除いてはですが…」

とも言っていた。

 

 ほぼ同時にアーラシュの体も薄れていく。

 

「これは……仕方ねぇか」

 

 ぐだ子は表情ひとつ変えずにそれを見ていた。

 

 その後もぐだ子の発案で様々な外道戦法が生み出された。

 

 爆散しつつ味方を癒す癒しのステラ。

 爆散しつつ敵に呪いを付与する妄執ステラ。

 爆散しつつ味方の宝具解放を促進させる慈悲なきステラ。

 そして、パラケルススとアイリさんでアーラシュを踏みとどませながら

何度も爆散させる無限ステラ。

 

「ねえ、アーラシュ」

 

 ある日、仮想訓練で野営中に2人で焚火を囲んだ時思い切って俺は訊ねてみた。

 

「なんだ?」

「その、いつも本当にごめん。こんな扱いされて怒ってるよね?」

 

 彼は笑みを浮かべると俺の頭に「ポン」ッと手を置き答えた。

 

「俺がアレをやれば他の連中の成長が早まる。延いては俺のためにもなるってもんだ。

ぐだ男、お前は気持ちの良い奴だ。やはり俺はマスター運ってやつがいいらしい。

俺自身が善性に導かれる英霊なのかもな」

 

 この人良い人すぎだろ。

 

 誰か悪い奴に騙されたりしてないだろうか?

 具体的にはカエサルとかパラケルススとか。

 

 と案ずる俺に今回は管制室で留守番のマシュから通信が入った。

 

「ぐだ男先輩。お休みのところすいません。敵襲です」

 

アーラシュは勢いよく立ち上がるとさっそくいつもの体制に入った。

 

「さあ、行こうぜ。マスター。いっちょ世界救ってやろうや。

行くぜぇ!流星一条(ステラ)!」

 

 孤独な戦士、獅子のごとく勇敢な彼。

 絵に描いたような正統派英雄の快男児は今日も元気に爆散する。

 

 

 




ギャグ時空なので時間軸とかあんまり気にしてないんですが七章手前当たりの時系列のつもりで書きました。

個人的FGO三大兄貴は槍兄貴、ベオウルフ、そして大英雄なんですが
アーラシュさん、正統派の英雄って感じで本当に格好いいですよね。
実は私、彼に聖杯捧げてしまいました。
好きなもので。そして毎日のように爆散していただいてます。

ちょっと短いですが今回はこれで。
明日、明後日あたりに短い奴をもう一本投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。