織田信長に関する史実がもとになっていますがもちろんギャグです。
人理焼却の阻止に成功してからしばらくして起きた新宿の一件からまだ戦いは終わっていない事が分かった。
今後のためにも戦力の増強は必要だ。
新宿での戦いの後、縁をつないだ黒い方のエミヤ・オルタが召喚に応じてくれた。
召喚した後さっそく俺とぐだ子、それにマシュのいつもの三人で彼にカルデア内を案内することにした。
管制室や霊気保管庫などの重要施設を案内し終わり、続けて俺たちは食堂にやってきた。
有事でなければいつも誰かがいるこの場所だが今日はノッブこと信長と沖田さん、それに茶々の三人がぐだぐだ空間を形成していた。
ノッブと沖田さんは常日頃からいがみ合っているがなぜかいつも一緒にいる。
本当は仲良いだろ。
今日は沖田さんがノッブに憤っていた。
どうも話を聞いていると沖田さんは初プレイの『戦●BASARAX』でノッブに嵌められて
「ノッブ!なんですかあれ!おかしいでしょあのキャラ!格ゲーじゃなくてSTGやってるのかと思いましたよ!」
「うっはははははははぁ!甘いのう、沖田。勝負の前から戦いは始まっておるのじゃ!情報戦というなあ!」
沖田さんを一方的に蹂躙できたからかノッブは物凄く嬉しそうだ。
あのバランス崩壊ゲーで毛利使って勝つのがそんなに楽しいのかはさておきとにかく上機嫌だった。
俺たちが入ってきたのに気付いた彼女は
「おお!マスターたちか!近うよれ!お主たちにもわしに毛利で乱入対戦される権利をくれてやろ……」
そこまで言いかけるとノッブと隣の茶々は俺の傍らにいる人物―エミヤ・オルタを見て驚愕の表情を浮かべた。
時間が静止したかのような沈黙がしばし続いた後、二人は興奮した様子で言った。
「弥助!弥助ではないか!?」
「弥助!弥助じゃな!?」
織田家の関係者だろうか?俺の知らない人物だ。
どうやら件の人物に心当たりのある様子の沖田さんが盛大に吹き出した。
続けて俺の様子に気が付いたマシュがささやくように教えてくれた。
「先輩、弥助というのは信長公に仕えた黒人の小姓です。元はポルトガルの宣教師が連れてきた奴隷だったと聞いています」
ナイスアシスト。
お礼を言うと「お役に立てて嬉しいです」といってマシュは控えめに笑った。
かわいい……。ちょっとふっくらしてしまった。
興奮冷めやらぬ様子のノッブと茶々がエミヤに駆け寄る。
困惑した表情のエミヤを差し置いて(一方的に)再会を喜びノッブと茶々がまくしたてる。
そしてその内容は俺の想像の斜め上を行っていた。
「弥助!わしを忘れたか?そなたのそうるめいとの"くーるはんど・のっぶ"じゃよ!」
「茶々、弥助の即興らっぷだーい好き!
おいおい。ラップとかソウルメイトとか時代設定おかしいだろ。
それに"クールハンド・ノッブ"ってすごい名前だな。付けた奴赤面してただろ。
「弥助はモザンビーク出身で英語は全く分からなかったはずなのですが…」
困惑しながらマシュが教えてくれた。
「いや、だから俺は弥助ではないのだが…」
「なに!?弥助、そなたひょっとして記憶がないのか?
初対面の際、"LL・クール・Y"とそうるねえむを名乗って思わず赤面したことも忘れてしまったのか?」
「確かに記憶は摩耗しているが俺は現代の英霊。少なくとも織田信長の家臣だった記憶はない」
「そうか!ではわしと"ばっどぼーいずつーばっど"ごっこでもしたら思い出すかのう!
今日は特別にそなたがうぃる・すみすをやってよいぞ!今日はわしがまーてぃん・ろーれんすをやってやろう!」
「だからノッブ、その人弥助じゃないですって!」
明らかに困惑した表情のエミヤを見て沖田さんがノッブを窘める。
「いいや!黒い肌、タラコ唇、剃りこみの入った髪型、6尺2寸はあろう身の丈!間違いなくこやつは弥助じゃ!
あ、これならどうじゃ!そなたの大好きならっぷじゃ!しばしここで待っておれ!」
そう言うとノッブは小走りでどこかに行き、スピーカーと音楽プレーヤーを持ってきた。
「ほれほれこれを聞いて思い出せ!えみねむの"かあてんこおる"じゃ!
『オレの認める白人はエミネムだけだ』そう申しておったな!じぇい・じーとかにえ・うえすともあるぞ!
でとろいと生まれひっぷほっぷ育ちの血が熱くならぬか?」
なんだこれ。カニエ・ウェストとかジェイ・Zとか時代設定おかしいだろ。
今度は『信長協●曲』にでも影響されたのか?
「ノッブ、この人は新しくカルデアに加わるエミヤ・オルタ。クラスはアーチャーでラッパーじゃないし日本人だよ」
「なるほど、そなたアーチャーの適正があったか。うむ!たしかにそなたの即興らっぷ、そのくりだされるりりっくの数々は矢のごとしであったのう!」
新宿の時はいつも皮肉気な表情を浮かべていたエミヤだがノッブ達の斜め上すぎる言動にただ困惑するしかない様子だ。
ノッブの暴走は全く止まる様子がない。
「そなたとヴァリニャーノ神父の島原でのらっぷばとるは伝説になっておるぞ!
最初そなたが『ラップのためならジーザス・クライストだってdisってみせる』と言ったら神父が激怒しておったな!
最後に認め合ったそなたが『俺には今まで認める白人が二人だけいた。ジーザス・クライストとエミネムだ。あんたが三人目になったぜパードレ・ヴァリニャーノ』
と言った時はわしは心の底から震えたぞい!」
「おかしいですね…。弥助はイスラム教徒だったはずなのですが」
困惑しながらマシュが教えてくれた。
「そうじゃそうじゃ。イエズス会の宣教師連合軍と織田家での長篠のべえすぼおる決戦でもそなたは大活躍じゃったのう!
打っては長篠城の本丸を直撃する特大ほおむらん、投げては90まいるだいのふぁすとぼーるにはーどすらいだあで三振の山を築いておったのう!
あの試合ミッチーのえらあとサルのばんと失敗がなければわしらの物だったのに実に惜しかった!」
「おかしいですね…。野球という競技が成立したのは18世紀中ごろだったはずなのですが」
困惑しながらマシュが教えてくれた。
「ご免!」
ノッブと茶々に沖田さんの鋭い鞘でのツッコミの一撃が入る。
悶絶して倒れた二人を引きずりながら沖田さんは言った。
「ほらほらノッブ、だからこの人弥助じゃないですって。マスターも言ってるじゃないですか。もう行きますよ。今度は私が毛利使いますからね」
「嫌じゃあ!わしは弥助と遊ぶんじゃあ!」
「嫌あ!茶々、弥助と伯母上とらっぷばとるするの!」
沖田さんに引きづられてぐだぐた三人組は食堂から出ていった。
いったいどうなっているんだろう。この世界の戦国時代は。
その場に残った皆がただただ困惑していた。
「オレの中の黒い悪魔がヒップホップで食っていけと囁いている……」
そしてその後しばらくの間、エミヤ・オルタがちょっとおかしくなった。
弥助はモザンビーク島の生まれで、ノッブに武士としての身分を与えられて正式に仕えた人物です。生年は不詳ですが、来日当時は20代半ばぐらいだたっと言われています。
ノッブの元に居たのは一年ちょっとで本能寺の変の時もその場にいたとの記録がありますが、なぜか明智光秀に赦免されその後は南蛮寺に送られたといわれています。
よってこの物語はフィクションです。