夕方になり、定例のメディカルチェックが終わったマシュが合流した。
「アルトリアさんが呼んでます」
「どんな要件」
「よくわからないのですが
――円卓会議に立ち会って欲しいとか」
会議室にアルトリアとアルトリア・オルタ、アルトリア・リリィ(アルトリア増えすぎ)にアーサーが。
それに円卓の騎士たち――ランスロットとトリスタンとガウェインとベディヴィエールがいた。
ベディヴィエール以外の三人は日本式に正座させられていた。
絶対に碌な理由じゃない。俺は直感的に悟った。
「さて、卿たちは結託して女湯を覗こうとしていたそうですが……何か申し開きはありますか?」
う……耳が痛い。俺、主犯だし。
アルトリアに対し、ランスロット、トリスタン、ガウェインの三人は目をギラギラさせて主張した。
「ありません。叱責してください」
「……ありません。……詰ってください」
「ありません!折檻してください!」
彼らの表情はとても叱られる前の人間がするものとは思えないような恍惚に満ちていた。
マシュがあまりの光景に顔を歪ませた。
「お父さんきもちわる……むぐ!」
「マシュ、気持ちは分かるけど言わない方がいいよ。逆効果だからね」
ぐだ子がマシュの口を塞いだ。
「せんぱい……くるしいです」
「んー。マシュのほっぺやわらかいねー」
「遊ばないでくださいよ。先輩」
円卓勢の斜め上な反応にアルトリアは困惑していた。
「……どうしましょう、ベディヴィエール。私には彼らが嬉しそうにしか見えないのですが、気のせい……ですよね?」
「恐れながら王よ。気のせいではありません」
アルトリアは円卓たちの真正マゾぶりに若干引き気味だった。
「叱責して下さらないのですか!?お預けなのですか!?」
「……詰ってください……焦らさないで……どうか詰ってください」
「このガウェイン!全身どこでも折檻される準備はできております!さあ!どうぞ!どこでも好きなところを聖剣でぶっ叩いてください!できれば臀部を所望します!」
全員、目がやばい……
「……どうしましょう、ベディヴィエール。円卓が気持ち悪いです……」
「王よ。残念ながら、彼らは生前からこんな感じでした」
「……そうでした。ああ、ここにアグラヴェインがいれば
……あ!待ちなさい!リリィ!その変態たちに近づいてはいけません!」
子供の方の騎士王がへんた……円卓の騎士たちの前に歩み出た。
アルトリア・リリィは深く息を吸い込むと控えめに言った。
「みなさんがしっかりしてくれないと……私、悲しいです」
キラキラキラという擬音語を幻聴しそうな純真な一言が……変態たちの魂を浄化した。
彼らの顔からは一切の悩み、煩悩が消え失せていた。
彼らは何も言わなかったが、きっとこんなことを考えていたに違いない。
「(尊い)」
「(……尊い……ですね)」
「(尊い!)」
円卓の変態たちの心が浄化され、霊基が粒子になって消えようとしている。
「おい。何を勝手に座に帰ろうとしている、豚どもめ」
アルトリア・オルタの一言で彼らは踏みとどまった。
「はい……ランスロット豚、ここに」
「はい……トリス豚、ここに」
「はい!ガウェイン豚、ここに!」
駄目だ、これ。もう収拾つかなくなってきてる……
アルトリアはさんざん困った末に隣のアーサーに助けを求めた。
「アーサー、あなたも何か言ってあげてください」
あれ?アーサーも覗きの時一緒にいなかったっけ?
「何を言うのですか、ぐだ男。彼は平行世界の私ですよ?間違ったことなどするはずがないではありませんか」
「その通り。僕は間違ったことなど何一つしていないよ」
これがイケメン無罪……
アーサーはキラキラという擬音語を幻聴しそうな爽やかな笑みを浮かべて円卓たちの前に歩み出た。
……そして
「向こうでもこっちでも……君たちは本当にどうしようもない変態だな。
君たちのことを産業廃棄物と呼んでもいいかい?」
ゾクゾクゾク、と彼らの体が震えるのを感じた。
「はい。私は産業廃棄物です」
「はい。……私は生ごみ以下です」
「はい!私は燃えないゴミ以下です!」
彼らは新しい性癖に目覚めたようだった。
××××××××××××
円卓会議が収拾つかなくなったので俺たちは会議室を後にした。
プレールームの前を通るとナーサリーちゃんは遊び疲れて寝ていた。
ジャックちゃんはまだ元気に初代様と遊んでいた。
「……ジャック、次は何をして遊ぼうか?」
初代様に問われると、ジャックちゃんは「うーん」と少し考えて元気よく答えた。
「解体ごっこ!」
初代様は(多分)髑髏の面の下で困り顔を浮かべて答えた。
「……他の遊びにしなさい」
××××××××××××
結局、遅めの夕食になってしまった。
すでにほかのサーヴァントたちの姿はなく、食堂は俺たちのほぼ貸し切り状態だった。
食事当番はサーヴァントの有志達が交代で務めている。
エミヤ、ブーディカさん、ロビン、玉藻が登板することが多いが、今日はネロだった。
ネロはあれでいて器用だ。
彼女が当番になると材料費がかさむという問題はあるが、楽しみにしている者も多い。
今日は古代ローマのケーナの習慣に基づいた豪勢なコースだった。
食事を終える頃合いになってネロが感想を聞きに来た。
「とてもおいしかった」と素直に感想を述べると彼女は「そうであろう!そうであろう!」と大喜びしていた。
「そなたたちは実に自然に寄り添っているな」
セプテムで縁を結んだネロは初期の頃に召喚に応じてくれた。
見かけによらず耐久力に長けた彼女は戦線の維持に多大に貢献してくれた。
もう長い付き合いなのでお互いのことはよく知っている。
「ぐだ男とぐだ子は……うむ、なんというか近しい親戚のようだな。そなたたち、本当に血縁はないのか?」
俺は以前にダ・ヴィンチちゃんから聞いた考察を教えた。
ダ・ヴィンチちゃん曰く、俺たちは前世で双子か同一人物並みの縁があったはずと考察していた。
「そうであったか。ではこれも縁というものか」
ネロは「うむうむ」と頷いた。
「私と先輩たちはどう見えるのですか?」
控えめなマシュが珍しく切り込んできた。
「そなたとマスターたちか?そなたとぐだ子は余には姉妹のように見えるな。微笑ましくて良いぞ。とても良い。
そなたたちはそろって美少女だしな。余のハーレムに加えたいほどだ」
ぐだ子とマシュは新宿の亜種特異点修復後に一緒に買い物したらしい。
新宿のア●タとマ●イでマシュの着せ替えして楽しんだそうだ。
後で写真を見せてもらった。
うらやましい。
「姉妹か。じゃあネロちゃまも加わて三人姉妹でどう?」
「余もか?良いぞ!では、余がお姉ちゃんだな!」
この英霊は人懐っこい。
現代では暴君と言われているが、それは彼女がキリスト教を弾圧したからだ。
セプテムでの名君ぶりを俺は忘れない。
「そなたとぐだ男は……うむ、当世風にいえば彼氏彼女というやつか?」
油断していたらとんでもない燃料を投下されてしまった。
隣のマシュを見ると、彼女は目を見開いて、そのあと瞬間的に真っ赤になった。
「そなたたち、余のドレスよりも真っ赤だぞ!」と言われて俺は自分も真っ赤になっていることに気づいた。
「え……そ、それは照れるよ。ネロ」
「え……そ、そんな!まだ新婚旅行の行先も決めてません!」
「うむうむ。実に仲が良いな。こう言うのを日本語では夫唱婦随というのだろう?」
ネロはからからと笑い、そして意味深なことを言った。
「……余も奏者にまた会いたいものだ。
白野……」
ネロの意味深な一言が気になり、そのまま結局夜遅くまで話し込んでしまった。
カルデアは今日もにぎやかだ。
次回。いつもの調子に戻ります。
いや、今回もいつもと大差ないですけどね。