小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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ご無沙汰です。
3月初頭に撮影してた影響でバタバタしてて久振りの投稿です。
今更ネタですが、アラフィフのホワイトデーイベントをやってて思い付きました。
短めですが、どうぞ。


もう一つの虚月館殺人事件

 内容がよく思い出せないが変な夢を見ていた気がする。

 多くのサーヴァントと契約している身なのでよくあることだ。

 

 もやもやした半覚醒状態から目を覚ますと自分が見慣れない部屋にいることに気づいた。

 洋風の、少し古風なつくりの一軒家だった。

 さっきまでカルデアベースの自室で寝ていたはずなのに、しっかり着替えたうえでちゃんと二本の足で立っていた。

 ああ、またあのパターンだ。

 マシュは「レムレムしてる」って言ってたっけ。

 

「目が覚めたようだね」

 

 すぐ隣に立っていた人物が覚えのある声で呼びかけてきた。

 

「ホームズさん?」

 

 世界で最も有名な探偵、ルーラーのサーヴァント、シャーロック・ホームズだった。

 隣を見るともう一人のマスター、ぐだ子もいた。

 これは、やっぱりあのパターンらしい。

 

「さて、早速だが探偵の出番だ。ワトソンはこの空間にはいないらしい。今は君たちが僕のボズウェルだ」

 

  〇

 

 まったく事情が飲み込めないでいる俺たちにホームズは簡単に説明してくれた。

 これは虚月館殺人の時のようにリアルタイムで起きている事件らしい。

 それも少し時間軸がズレた並行世界の出来事のことのようだ。

 

「これは密室殺人だ」

 

 ホームズは言った。

 

「ぐだ男くん、ぐだ子くん。まだ半覚醒状態のようなので気づいていないかもしれないが、この部屋では正常な生活空間にあってはならないものが存在している。私と君たちはこの館内で唯一の完全な部外者だ。それで調査役に選ばれた」

 

 ホームズは部屋の一端を指さした。

 真っ黒に炭化した人型のモノが倒れていた。

 近づいてよく観察する。

 

「完全に炭化している」

 

 ホームズは言った。

 

「身長はおおよそ6フィート1インチというところかな。がっしりした体格だったようだ。

体重は250ポンド弱というところだろうか」

 

 鎮火はしているらしい。焦げ臭いにおいは残っていたが火の気は見えなかった。

 

「我々が入るまでドアは施錠されていた。内開き式だから蝶番を壊して侵入するのも不可能。

窓は嵌め殺しで開閉自体が不可能。破壊された形跡もない。

……つまり、これは密室殺人だ」

 

 おお、なんか本格推理ものっぽいぞ。

 不謹慎だけどマシュが居たら喜んだかもしれない。

 

 ホームズは死体のそばにかがみこんでじっくり検分している。

 検分して、なにか気づいたらしい。

 

「ぐだ男君、ぐだ子君、気づいたかい?」

 

 俺たちは二人とも首を横に振った。

 

「人体が焼けこげる匂いとは別に、この部屋に在っては不自然な匂いがする」

 

 匂い?

 あ、そういえば……

 

「そういえばちょっと香ばしい匂いがするかも」

「うん。なんていうか、スパイシーな感じの匂い」

 

 俺たちは口々に答えた。ホームズはその回答を気に入ったようだった。

 

「そう。この匂いは君たち日本人にとっても英国人の私にとっても馴染みの深い匂いだ。

成分はターメリック、コリアンダー、クミン、クローブ、カルダモン、カイエンペッパー……」

 

 それって……

 

「ひょっとしてカレー粉?」

「素晴らしい!これは推理の大きな助けになるだろう。では、次は事情聴取といこう」

 

  〇

 

 ホームズの呼びかけで館のダイニングルームに滞在者が集められることとなった。

 俺たちは先んじてダイニングルームに着き、滞在者たちを待っていた。

 

「そういえば、私としたことが大事なことを言い忘れていた。

被害者の名前はベガ氏だ」

 

 ベガ?

 変わった名前だな。

 どこの国の人なんだろう。

 

「ベガ氏は犯罪者だ。シャドルーという犯罪組織の元締めで、裏社会では知らぬものは居ない大物だ。

つまり多くの人物から恨まれている」

 

 ……ん?

 今、シャドルーって言ったか?

 

「この館はストリートファイト大会の出場者が滞在している。我々は通りすがりで、他に宿を見つけられずここに滞在することになった」

 

 こうして館の滞在者がぞろぞろとダイニングルームに集まってきた。

 滞在者は全部で7人だった。

 

「お手数ですが、自己紹介をお願いできますか?」

 

 ホームズの呼びかけでそれぞれが口を開いた。

 

「リュウだ。格闘家をしている。得意技は波動拳」

「ケン・マスターズ。富豪だ。得意技は昇竜拳」

「春麗よ。インターポール捜査官をしてるわ。得意技は気功拳とスピニングバードキック」

「ガイルだ。軍人をやっている。ソニックブームとサマーソルトキックが得意だ」

「ザンギエフ。ロシアでレスラーをしている。得意技はスクリューパイルドライバーだ」

「エドモンド本田でごわす。関取でごわす。得意技は張り手と頭突きと百貫落としでごわす」

「私はダルシム。ヨガマスターだ。手足が伸ばせる」

 

 おいおいマジかよ……

 いつからこのゲーム、CAPC●Mとコラボしたんだ……

 

「ホームズさん……俺、犯人分かっちゃったかも」

「私もわかったかも……」

 

 俺たちはホームズにこっそり犯人の名前を耳打ちした。

 

「素晴らしい!私の推理も今、確信に至った。あとは犯人の自白を待つだけだね」

 

 ホームズの発言に部屋がざわついた。

 

「お一人ずつ『ヨガファイア』と言っていただけますか?」

 

 彼らは面食らいながら口々に答えた。

 

「波動拳!」

「昇竜拳!」

「スピニングバードキック!」

「ソニックブーム!」

「スクリューパイルドライバー!」

「どすこい!」

「ヨガファイア!……ッハ!!!」

 

 部屋に静寂が訪れた。

 そして、全員の視線が一点にに集まった。

 

「犯人は貴方ですね。ダルシムさん」

 

 あーそうなっちゃったかー。

 わかってたけどさー。

 

「貴方は自己紹介の時、『手足が伸ばせる』とは言ったが『ヨガファイア』と『ヨガフレイム』について言及しなかった」

 

 ホームズはダルシムさんの席に歩みよった。

 

「私は以前、インドに長期間滞在したことがありましてね。ヨガの極意にスパイスの辛さで口から火を噴くヨガファイアとヨガフレイムがあることを知っています。カレーの辛さで火神アグニの権能を再現する奥義だ。

……つまりあなたは意図的に情報を隠蔽した」

 

 ダルシムさんは反論した。

 

「部屋は完全な密室だったはずだ」

 

 まあ、そうだよね。

 

「その通り。部屋は密室でした。だが、ヨガマスターの貴方であれば密室に侵入することは造作もないはずだ。

そう、ヨガの極意。ヨガテレポートを使えばね。世界7大ヨガマスターの一人、ジャグジートが最も得意とする技だが貴方にも可能なはずだ」

 

 ……いや、そりゃテレポート使えば侵入できるだろうけど。

 

「私の推理はこうです。貴方はまず、ヨガテレポートで部屋に侵入した。

貴方はベガ氏の至近距離からカレー粉の刺激でヨガファイアを放ち、ベガ氏を焼き殺した。

虚を突かれたベガ氏は得意のサイコクラッシャーアタックを放つ暇もなく焼き殺された」

 

 再び部屋を沈黙が包んだ。

 誰も何も言えなかった。

 俺とぐだ子はツッコミが追い付かなかった。

 

「――違う」

 

 ダルシムさんが重々しく口を開いた。

 

「――私が放ったのはヨガファイヤではない。

ヨガの最奥、ヨガインフェルノだ」

 

 ダルシムさんは落ちた。

 明確な自白に部屋がざわつく。

 百戦錬磨のストリートファイターたちが動揺していた。

 俺とぐだ子はツッコミを入れるのを諦めた。

 

 ホームズは一人落ち着いていた。

 

「しかし、わからないのは動機です。ベガ氏は誰から恨みを買ってもおかしくないが、貴方のバックグラウンドを調べても殺意にまで至るような理由が思い当たらない。一体、何がヨガマスターの貴方を殺意に駆り立てたのです?」

 

 ダルシムさんは答えた。

 

「甘口カレーだ」

 

 え?何て?

 

「あの男は、夕食に甘口カレーを出させた。あんなものはカレーではない。

……どうしても許せなかった」

 




こんなのですいません。

ちなみに、ほぼ私事ですが、私が脚本・制作で参加した映画が単館上映ですが商業作品として上映されることが決まりました。
東京・池袋の劇場で5月11日から5月17まで限定でレイトショー上映されます。

公式サイト
https://sorekara.wixsite.com/nov19

映画.comにも情報載りました
https://eiga.com/movie/90916/

filmarksにも情報載りました
https://filmarks.com/movies/83376

また、ちょっと忙しくなりますがそう遠くないうちに投稿しますので引き続きよろしくお願いします。

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