今回は北部アイルランドの名所がFGOのサーヴァントと関係あることから。
どうぞ。
「汎人類史を取り戻したらどうしようか?」
いつもの三人、俺とマシュとぐだ子はカルデアベースの食堂で他愛もない会話をしていた。
今日のメニューはブーディカさんお手製のアイリッシュシチューだった。
素朴で美味しい。日本の肉じゃがを思わせるような料理だった。
まず出てきたのは「実家に帰りたい」とか「遊びに行きたいところがある」とか俺とぐだ子の小市民的欲望だったが、それを聞いてマシュは少し寂しそうだった。
ごめん、マシュ。マシュは実家無いんだったね。
慌ててカバーしようと話題を変えた。
「マシュはどこか行きたいところある?」
マシュは「そうですね……」とためらいながら答えた。
「私、レジャーというものに縁が無かったので……先輩たちと旅行してみたいです」
と言いながら「なんて……贅沢ですよね、すいません」と頬を赤らめた。
俺とぐだ子の脳裏には同じ言葉が浮かんだに違いない。
「かわいい」
「かわいい」
近くで聞いていたブーディカさんがものすごい勢いでよだれを垂らしている。
仲の良いマタハリさんがブーディカさんに「よだれ出てるわよ」と忠告していたがマタハリさんも盛大によだれを垂らしていた。
俺たちの身体にも異常が発生していた。
「おい、ぐだ子。お前、鼻血出てるぞ」
「そういう自分こそ。出血多量で死ぬよ?」
後輩かわいすぎる。
〇
「ハッハッハ!エリンの守護者たる私の話を所望か!いいとも!喜んで聞かせよう!」
駄弁っていた俺たちはそのままアーカイブで世界中の観光地の画像を見ていた。
その中で目に留まったのが北部アイルランドにあるジャイアンツ・コーズウェーだ。
ジャイアンツ・コーズウェーはコーズウェー海岸にある奇岩群で、ダヴィンチちゃんいわく科学的には柱状節理と呼ばれる現象で出来た地形らしい。
この場所にはカルデアと契約している英霊と深いつながりがある。
今、やたらと良く響く声で胸を張りあげているフィオナ騎士団の長、フィン・マックールだ。
フィンは相当に格の高い英霊だが、女癖が悪いことと(マシュを口説こうとしたのは絶許)、反応に困るオヤジギャグを言うことと、ディルムッドが反応に困るブラックジョークを言うことを除けば基本的に好人物だ。
フィンを出撃させると性能の都合上自動的に孔明先生と玉藻を出撃させなければならないのは頭が痛いが、そのことは黙っておこう。
フィンには巨人としての伝承が存在し、この地形はフィンが歩いて出来たという伝承がある。
フィン・マックールがスコットランドの女性に恋をしてスコットランドに渡った時に出来た道というパターンもあるらしいが、どうやらこの世界線はフィンとスコットランドの巨人ベナンドナーが戦う時に道が出来たパターンらしい。
進んで話を聞かせて欲しいと言われたフィンはいつも以上に雄弁だった。
その隣で生前部下だったディルムッドが「流石です!王よ」と相槌を入れている。
「では、ジャイアンツ・コーズウェーの成り立ちについてだな。よろしい、聞かせよう。私とベナンドナーの死闘をな!」
フィンは自信満々にペラペラと話し始めた。
〇
私とベナンドナーはアイルランドとスコットランドの遠く離れた対岸同士で口論を繰り広げていた。
それが争いに発展するのはごく自然な流れだ。
「いいとも、かかってくるがよい!ハギス臭いスコットランド野郎め!」
「首洗って待ってやがれ!アイルランドのジャガイモ野郎!」
こうして私とベナンドナーは互いの住処から中間地点に向け一歩ずつ近づいて行くこととなった。
この時、ジャイアンツ・コーズウェーとフィンガルの洞窟が形作られたわけだ。
私とベナンドナー、接敵するのは時間の問題だったが我が千里眼は一足早く奴の姿を視認していた。
「な、何だ!あのデカさは!」
ベナンドナーはとてつもなく巨大だったのだ。
「おいおい!冗談はよしこさんだろう!」
私は怖気づいて逃げ帰……戦略的撤退を決めた。
その時、あまりに私の逃げ足……撤退速度が速かったため、ブーツが片方脱げてしまった。
それが今、巨人のブーツと呼ばれていることはアーカイブを見た君たちならば知っていることだろう。
私が帰宅すると、私は妻に問い詰められた。
我が妻ウナに撤退の理由を問われた私はベナンドナーの常軌を逸した巨大さを伝えた。
「あなた、私に考えがあります」
ウナは頷きながら私の話を聞くと提案をよこした。
「おいおい!冗談はよしこさんだろう!そんな策が通じる筈がなかろう!」
私は戦略的に問題がありすぎたため難色を示したが、妻が別居をチラつかせた為、従うことにした。
〇
「バブー(CV・三木眞一郎)」
「な、何だこりゃあ!!!」
妻の提案は私に赤子の格好をさせることだった。
私は涎掛けをかけて毛布に包まり、親指をしゃぶった。
「バブー(CV・三木眞一郎)」
「そんなバカな策が通じる筈がない」君たちもそう思うだろう。
ところが、実際は違ったのだ。
「アイルランドの巨人は赤ん坊でもこんなにでけえのか!なら、フィン・マックールてのはとんでもねえデカブツに違いねえに、逃げるしかねえだ!!」
ベナンドナーは巨体を揺らして逃げ帰った。
「ホッ(……バカで良かった)」
後で知ったことだがスコットランドの巨人族は10まで数を数えられると世紀の天才と言われるほどの教育水準だったらしい。我が妻ウナはそのことを知っていたようで、おかげで私は命拾いしたわけだ。
〇
「おかげでそれ以降、親指を噛むのが癖になってしまった」
「え?知恵の鮭の脂が親指に付いたからじゃなくて?」
「ああ、それかい。それは順番が違う。私の
俺たちは小声で囁きあった。
「(この人、残念過ぎる……)」
「(嘘、この人、残念過ぎ……)」
「(残念過ぎですね……)」
ディルムッドはただ一人「流石です!我が王よ!赤ちゃんプレイという意表を突いた頭脳プレーとは!」と持ち上げている。
「ハッハッハ!ディルムッド、後で便所の裏な」
「なんと!」
そういえば、アーカイブで他にも伝承を読んだのを思い出した。
フィン・マックールが作った岩に文句をつけてばかりだったフィンの祖母が岩に変えられてしまったというものだ。
今でもジャイアンツ・コーズウェーにはその岩があるとか。
それを聞くとフィンはまたしても自信満々に話し始めた。
〇
「フィン!アンタ、またエッチな形の岩作ったのかい!!」
「ばあちゃん、違うよ!これは女体を通して人体の研究をしていたのだ!」
「嘘おっしゃい!あんたがベッドの下に置いてたエッチな本、机の上に並べておいたからね!」
「ありがた迷惑だよ!ばあちゃん!(まずい、この婆ちゃん。早く岩にしてしまわなければ……)
〇
「どうだったかな?私の武勇伝は?ジャイアンツ・コーズウェーへの関心も否応なしに増したのではないかね?」
俺たちは答えた。
「台無しだよ!」
「台無しだよ!」
「台無しです!」
巨人フィン・マックール=フィオナ騎士団のフィン・マックールなのかはっきりしないのですが、同一存在として扱いました。
ジャイアンツ・コーズウェーは実際に行ったことがあるんですが、あそこの景観は本当に凄い。絶景です。
ビジターセンターでオーディオガイドも借りられますが日本語版もあるので興味のある方はぜひ一度どうぞ。
次はアラン諸島とか行ってみたい。