小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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気付いたらずいぶん間が空いてましたね。
久しぶり投稿。
今更ですがイアソン実装で思いついたネタです。


イアソンとアルゴー号の勇者たち

 なんかわからないがオケアノスでだいぶ前に縁ができたはずのイアソンが今更召喚できた。

 ギリシャ神話の登場人物の中でも特に高名な英霊だ。

 だが、なぜか星1だった。

 直接戦闘力の低いイアソンが本来の適正クラスのライダーではなくセイバーという白兵戦型のクラスで召喚されたことにと関係あるのだろうか。

 

 とにかく一応新戦力である。

 イアソンにはオケアノスで敵として対面し、カリスマ性(言動は小物っぽいけど)や指揮能力にたけていることはわかっている。

 

 だが、とりあえずクエストに出してみたところイアソンは星1らしい低ステータスで自力で殴っても火力は残念なレベルだった。

 俺とぐだ子は小声で話し合った。

 

「やっぱり星1のクソステじゃこんなものか」

「そうだね。でも、スキルは優秀だよね」

 

 ぐだ子は邪悪な笑みを浮かべた。

 

「よし、じゃあ看板娘つけて主力にバフかけさせたらさっさと退場してもらう戦法で使おうか」

「賛成。クズだから捨て駒にしても良心が痛まないし」

 

 俺たちがグっと親指を立ててナイスすぎる戦法を思いついてしまったことに歓喜した。

 

「おい!俺を前線に出すなよ!フリじゃないからな!」

 

 イアソンは空気は読めないが人の表情は読める男だ、

 不穏な気配を感じたらしく、俺たちに念押しした。

 

「うん!イアソンは支援に回すよ(捨て駒っていう支援策でね)」

「大丈夫だよ!イアソンは大事な仲間だからね。無暗に前線には出さないよ(捨て駒にはするけど)」

 

 満面の笑みで俺たちは答えた。

 

「先輩……私、時々先輩たちのことが怖いです……」

 

 マシュが怯えた目で俺たちを見ていた。

 

  〇

 

 イアソンは割と困った人だが、伝説的なアルゴー号で船長を務めた人物だ。

 武勇伝には事欠かず、多くの英霊たちのことを知っている。

 アルゴー号の関係者にはカルデアと契約している英霊もいる。

 

 イアソンに話を聞けばすでに契約している英霊たちの人となりもより深く知れるだろうと思い、イアソンをマイルームに呼び出して話を聞くことにした。

 

「アルゴノーツたちの話か……」

 

 俺たちマスターとマシュのいつもの三人がアルゴノーツ――アルゴー号の勇者たちの話題を出すと、イアソンは何かに怯えてような表情になり口調も険しくなった。

 

「どうしたの、イアソンみたいな凄い(クズな)人でも怖いものとかあるの?」

 

 俺が本音を()に閉じて聞くとイアソンは答えた。

 

「そうだな。注意喚起のためにもあいつらの事を話しておいてやる。――まずはメディアだ」

 

 イアソンは勇者たちとの日々を語り始めた。

 

  〇

 

 アルゴノーツ、ある日の戦闘でのこと。

 

「行ける!」

「そーれ!」

「ヒィ!」

「もー、イアソン様、どうして避けるの?」

「お前が狙ってくるからだろ!!」

「うふふ。イアソン様ったら可笑しい」

「おかしいのはお前の方だ!!!!」

 

  〇

 

「俺はメディアを娶ってから早々にあいつがサイコパスだということに気付いてしまった。あいつは戦闘中のドサクサに紛れて俺を背後から攻撃し、俺が慌てて避けるさまを見て楽しんでいた」

 

 イアソンが娶った直後のメディアさんということは、メディア・リリィの方の事か。

 ……いかにもやってそう。

 

「――俺は悟った。『こいつに一日でも早く常識を理解させないと俺は死ぬ』と。

その結果、俺は回避スキルを身に着けた。とはいえ無傷で済むことは殆ど無かったがな。おかげで頻繁にアスクレピオスの世話になっていたわけだが、あいつも曲者だった」

 

 〇

 

 アルゴー号の医務室、ある日の事。

 

「それで、今日はどうした?」

「見ればわかるだろ!重症だ!死ぬ!死んじゃう!!早く処置しろ!!!」

「どれ、見せてみろ……つまらん、ただの重傷だ。ツバでもつけとけ」

「医者の仕事しろよ!お前!」

「だから、ただの重傷だと言ってるだろ。次は致命傷を負ってから来い」

「致命傷だったらその時点で手遅れだろ!医神の看板はどこにやった!急にアホになるな!」

「……僕は急にアホになったのか?興味深い現象だ。誰かしかるべき知識の持ち主に客観的に経過を観察させなければ……医者……医者はどこだ!?」

「医者はお前だろ!!!」

 

  〇 

 

 アスクレピオス先生には確かにそういうところがある。

 アスクレピス先生はエミヤがあの体格で筋力Dなことを新種の病気だと信じて疑っていない。

 

「我ながらあんな場所にいてよく生き延びられたものだと思う。今、思えばケイローン教授の指導が活きていたのかもしれん。

認めるのは癪だがな」

 

 そういえばイアソンもケイローン先生の弟子だった。

 イアソンがカルデアにケイローン先生が召喚されているか知りたがったので、「もちろんいる」と俺は答えた。

 

 イアソンは苦し気に表情をゆがめると言った。

 

「あの人は確かにいい教師なのかもしれんが、指導法は無茶苦茶だった。……思い出しただけで胃が痛くなる」

 

  〇

 

 ケイローン塾、ある日のこと。

 

「イアソン、限界をどう考えても上回ったあたりからが、あなたの真骨頂です。というわけで課題を与えます」

「……猛烈に嫌な予感」

「これからあなたを全力で殺しにかかりますので、何とか生き延びてください」

「おいおいおいおいおい!!!!!」

「ん?どうしました?」

「どうしたもこうしたもあるか!!!」

「と、言うと?」

「そんな雑な課題があるか!賢者の看板はどこにやった!!!!」

「では、行きますよ。死なないでくださいね?」

「待てーーーーーーー!!!!!」

 

  〇

 

 俺たちはイアソンの忠告に従い、イアソンの関係者たち――メディアさんとケイローン先生とヘラクレスとアタランテさんでパーティーを組んで出撃していた。

 イアソンは「謀りやがったな!」と激怒していたが、「イアソンの第三スキル有効活用のため」と説明した。

 イアソンは全く納得していなかったが、出撃してしまったのでもう遅い。

 

 それでもやはり生まれながらのカリスマなのだろうか、軍団の指揮能力は中々のものだった。

 サポートスキルも優秀でコストも低いのでこの組み合わせはありだと思った。

 

「畳みかけろ!」

 

 イアソンも乗ってきたのだろうか、仲間に号令をかける姿も熱が入ってきた。

 しかし、禍福は糾える縄の如しだった。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

「あいた!!!!!」

 

 メディアさんの宝具がイアソンの背中につきささった。

 いあそんにつうこんのいちげき。

 

 しかし、危機を察知したのかイアソンは回避スキルで避けていた。

 

「ちょっとあなた、何で死なないのよ」

「何で俺を狙うんだよ!!!味方だろうが!!!!!」

「ハァ!?あなたは敵でしょ?」

「アホか!!!同じマスターと契約して敵なわけないだろ!!」

 

 メディアさんは渾身の奇襲が外れてお冠のようだったが、イアソンはそれ以上に憤慨していた。

 

「おい、お前ら、マスターならちゃんと注意しろ!」

 

 俺たちはメディアさんとイアソンの双方を宥める言葉をじっくり考えて言った。

 

「えーでも、故意じゃないかもしれないし……」

「うん。一発だけなら誤射かもよ?」

 

 イアソン、もちろん激怒。

 

「直接刺しておいて誤射も何もあるか!!!お前らどこの朝日新聞だ!!!!」

 

 イアソンを宥めようとぐだ子がメディアさんに謝罪を促した。 

 

「もう、メディアさんもうっかりは駄目ですよ。気を付けてね」

「チッ、うっさいわね。はいはい、反省してまーす」

 

 謝罪の言葉を引き出したので俺はイアソンを宥めた。

 

「ほら、メディアさんもそう言ってることだし」

「お前らアホか!!!この女、反省の色見せてないだろ!」

 

 すると控えに置いていたケイローン先生が出てきた。

 

「イアソン、ナイスツッコミです。師として大変誇らしい」

「アンタからそんなもの教わっとらんわ!」

「おや?いいところに気付きましたね。その通り、あなたのツッコミは天性の才能です。大事にしてください」

 

 と言ったところでケイローン先生の表情が真剣になった。

 

「ところで、後方に入れておいたアタランテにあなたを狙わせています。上手くかわしてくださいね」

 

 そう言うや否や、後方からイアソンめがけて矢が飛んできた。

 

「ヒィ!!!」

 

 イアソン、間一髪で回避。

 後方からアタランテさんの「外したか」という悔し気な声が聞こえてくる。

 

「見事です、イアソン!その調子ですよ!さあ、アタランテどんどん狙ってください!大丈夫、重症程度ならばアスクレピオスが治してくれます」

 

 メディアさんの不意打ちとケイローン先生の無茶ぶりとアタランテさんの狙撃がイアソンを襲う。

 後方にはまだヘラクレスも控えている。

 

 俺は「明日からちょっとだけイアソンに優しくしよう」と思った。 


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