小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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別のものを書くための調べ物からのこぼれ話。
延期になったあの大会にまつわるエピソードです。
ヒントはギリシャ。



全裸の祭典

「夏ですね。というわけでオリンピックを開催しましょう」

 

 ケイローン先生がいつもの穏やかな口調で宣言した。

 ノウム・カルデアのトレーニングルームにはギリシャの運動能力自慢たちが揃っている。

 ケイローン先生、ヘラクレス、アキレウス、アタランテさん、レオニダスさん、イアソン、オリオンだ。

 俺たちはマスターということで審判としての参加を頼まれていた。

 

 オリンピックと言えば、ギリシャを発祥とするスポーツの祭典。

 人間離れした英霊たち。

 それもギリシャ由来の英霊となれば誰かが言いだすだろう、とは思っていた。

 

「ヘラクレスさんはレスリングの達人で、五種競技はイアソンさんが発案したという伝承があるんですよ」

 

 俺の隣で正面の者たちから気まずそうに目線を反らしながらマシュが説明してくれた。

 ……マシュが目線を逸らす理由はわかる。

 ……うん、わかってた。

 ……こうなるとわかってたよ。

 

「待て待て待て!!!!!」

 

 俺が先生たちに僭越ながらツッコミを入れようとしたところ、すっかりツッコミポジションが定着したイアソンが猛然と口を開いた。

 

「おや?どうしました、イアソン」

 

 ケイローン先生はポカンとしている。

 他のギリシャ英霊たちはキョトンとしている。

 

「服を着ろ!服・を・着・ろ!!ZENRA!全裸を止めんか!!!」

 

 マシュは耐えられず真っ赤になって「すいません、先輩」と俺の後ろに隠れた。

 ぐだ子は「きゃー(棒読み)」と叫んで、申し訳程度に手で顔を覆った。

 

「ははは。何を言い出すかと思えば。いいですか、イアソン。運動とは全裸でするものです。これ、常識です」

 

 ケイローン先生の発言にギリシャ勢は「流石、先生だぜ!」「■■■■■!!!!」「ケイローン殿は誠に良い教師ですな!」と称賛を投げかけた。

 イアソンのツッコミは加速した。

 

「それ、ギリシャの常識!現代の非常識!!……いやいやいや、古代ギリシャ以外どこ行っても非常識だわ!!!」

 

 マシュが後ろを向いたまま解説を加えた。

 全裸でオリンピックが行われた経緯は不明だが、全裸での競技を行ったのは本当らしい。

 ギリシャ以外に全裸で競技をする習慣はなく、歴史家のヘロドトスもギリシャの習慣が奇怪であることを著書に残しているそうだ。

 

「ああ、もう!一万歩譲ってお前らはまだいい!アタランテ、お前はせめて恥じらいを持たんか!」

 

 ……この人も全裸だった。

 意識したら前かがみになってきちゃった……

 

 アタランテさんはいつもの涼やかな顔のままだった。

 

「何を言い出すかと思えば……私の体に恥じるべき所など無い(ドンッ)!」

 

 ……何て男前だ。ギリシャ半端ねえ。

 

 「流石は姉さんだぜ!」

 

 アタランテさんには惜しみない賞賛が贈られた。

 マシュによると、オリンピックは女子禁制だったが、女子の競技会もあり、やっぱり全裸だったらしい。

 

「ハッハッハ!スパルタの軍事教練を思い出しますな!!ご存じですか!?我がスパルタでは女子も男子に混ざって軍事教練を受けたのですよ!!!女性の役目は丈夫な子供を産むこと!!!!産む機械です!!!!そのためには、筋肉、運動、筋肉です!!!!」

 

 レオニダスさんは胸筋と腹筋をビクビク言わせている。

 

「おっと今の発言はセクハラですね!!コンプライアンス違反ですな!!!」

 

 ギリシャ勢からどっと笑い声が挙がった。

 

「そこが問題じゃねえ!いいから全裸を止めんか!!!」

 

 オリオンが言った。 

 

「仕方ねえな。オリーブの冠ぐらいはかぶってやるよ。それでいいか?」

「良いわけあるか!変態度が増すだけだろ!!」

 

 ケイローン先生が言った。

 

「この場では服を着ているあなたの方がよほど変態ですよ?」

「だ・か・ら!ギリシャの常識は非常識なんだよ!」

 

 アキレウスが言った。

 

「何だよ、褌(ゾマ)でもしろってのか?運動中にもつれたら危険だろ」

「お前らの格好の方が(社会的に)はるかに危険だろ!!」

 

 ヘラクレスが言った。

 

「■■■■■■■■■■■!!!」

「狂戦士訛りをやめんか!!!!」

 

 ところでヘクトールさんとパリスくんとペンテシレイアさんがいない理由だが、ケイローン先生いわく、ヘクトールさんは誘ったところ苦笑いをしてどこかに行ってしまったそうだ(常識人だ)。

 パリスくんはヘクトールさんに諭されたのだろう。ペンテシレイアさんがいないのはお察しください(ヒント・アキレウスが参加してる)

 アルテミスとゴルゴン姉妹は捧げられる側の女神なので、選手としての参加は禁止らしい。

 

 イアソンは「服を着ろ」と主張し、ギリシャ勢が「服は着ない」と主張する。

 議論は妥協点に到達することなく、平行線を辿った。

 

 そのうち誰かから「イアソンが参加しないのは不公平だ」という意見が出た。

 「では、イアソンにはボールとして参加してもらいましょう」というケイローン先生の提案で「誰が一番遠くまでイアソンを飛ばせるか競争」を競技に加えることがイアソンの同意なしに決議された。

 

 当然イアソンは抗議した。

 

「待て待てー!オレは船長!!ボールじゃない!!!」

「はい。貴方はイアソンであって、ボールではありません。もちろんわかっていますよ。重傷を負った場合に備えてアスクレピオスとメディアに待機してもらっているので、怪我をした場合は何とかしてもらってください」

 

 アスクレピオス先生とメディアさんは選手としての出場は拒否したが、医療班には加わったようだ。

 

「仕方ない。致命傷を負ったら診てやる。つまらん怪我だったら見殺しにするぞ。せいぜい僕を満足させるような傷を負ってこい」

「いつでも楽にしてあげるわ。心置きなく逝ってらっしゃい」

「チェンジ!こいつらチェンジ!」

 

 いかん。収拾がつかなくなってきた。

 ……こういう時にはもっとややこしい人が現れるものと決まっている。

 

「フハハハハハ!全裸と聞いて、我参上!」

「良いぞ!許す。余の玉体に見惚れるがよい!」

 

 ……やっぱり来た。

 しかも二人揃って来た。 

 ノウム・カウデアでも特に態度のデカイ二人、英雄王ギルガメッシュとファラオの中のファラオ、オジマンディアスだった。

 この二人はどちらも自分の方が格上だと思っているが、その存在は認めているという危ういバランスで成り立っている。

 そして、やたらと張り合いたがる。

 

 全裸のギリシャ勢に刺激され、脱ぐのに全く抵抗の無い二人は全裸で睨み合っていた。

 そしてやっぱり張り合い始めた。

 お互いの肉体のどちらがより優れているか、二人は一歩も譲ることなく、終いには最低の部分を張り合い始めた。

 

「余の方がデカいぞ」

「何を言っている我の方がデカいぞ」

 

 何がデカいのかはお察しください。

 

「おい、黄金の。貴様、勃起させているだろう!」

「太陽の。貴様こそ勃起させているだろう!」

 

 マシュは真っ赤になって顔を伏せている。

 ぐだ子はガン見している。

 

 第一回ノウム・カルデア・オリンピックは自然発生的にボディビルディング競技が開始され、ギリシャ勢も肉体を競い始めた。

 そして、やっぱり、またしても乱入者が現れた。 

 

「なになに、見せ合いっこ?」

 

 シャルルマーニュ十二勇士の一人、美少女男の娘のアストルフォだ。

 従妹のブラダマンテちゃんと一緒にいる場合が多いが、今日はブラちゃんがいないのでストッパーがいない。

 この子は理性が蒸発している。

 理性が蒸発しているアストルフォちゃんがこの機を逃すはずがない。

 

「ボクも混ーぜてっ!」

 

 ボロン!!!!!!!!

 

 ……それは、ち●ちんと言うにはあまりにも大きすぎた。

 ……大きく、ぶ厚く、重く。

 ……そして大雑把すぎた。

 ……それは正に巨根だった

 

 全員の息を呑む音が聞こえ、時が止まった。

 

「……よ、良かろう、此度は引いてやる(震え声)」

「……よ、良いぞ。多少はやるか……(震え声)」

 

 英雄王とファラオの中のファラオはそっと服を着た。

 ギリシャ勢もそっと服を着た。

 

 こうして全員仲良く戦意喪失し、第一回ノウム・カルデア・オリンピックは有耶無耶なまま閉会した。

 そして、第一回一番ちん●んがデカいのは誰か大会は本人の自覚が無いままアストルフォの圧勝で幕を閉じた。

 第二回が開催される予定は無い。 




……むむ。
まるで筆者が下品な人であるかのように誤解されそうな内容ですね。

今回ですが、『別冊オリンピア・キュクロス』というアニメの解説記事を書くための調べ物から思いつきました。
以下、筆者の寄稿記事
https://mirtomo.com/bessatsu-olympia-kyklos-olympic/

歴史ものの調査が好きなので、次も歴史の勉強ができるような話にしようかなと考え中です。

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