小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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すいません。
下書きを間違って予約投稿していました。
ちゃんと一エピソードにまとめたやつを投下します。
本当にすまない……


今日のすまない

「じゃあステンノさんは神性持ちパーティーの起爆剤として起用ということでよろしいですか?」

「異議なし」

「異議なし」

 

合議に至った印としてマシュがホワイトボードに線を引く。

 線が引かれたのはゴルゴン三姉妹の長姉ステンノの名の部分だ。

 

 ステンノは正真正銘の神霊だが本来戦闘能力を持たないため直接的な攻撃力が低い。

 戦力として運用するには編成を考える必要がある。

 うんうん悩んだ挙句「神性もちにのみ最大効力を発揮するカリスマのようなスキル」を最大活用する

編成で運用しようという結論に至った。

 

 ここはカルデアのフリースペースの一つだ。

 俺たち三人――俺ともう一人のマスターであるぐだ子、初期からサポートをしてくれているデミサーヴァントでカルデア職員のマシュ――

はホワイトボードを持ち出して仮の会議室を設え増えてきた戦力をどう運用していくかの話し合いの席を設けていた。

 

 ステンノの起用方法は悩ましい問題であったため後回しにしていたがこれでようやく片付いた。

 残るは一人だ。

 

「では最後の議題ですが……」

 

 書記役のマシュがホワイトボードの最下部に書かれた名前を視認し言い辛そうに――とても言い辛そうに

その名を読み上げた。 

 

「ジークフリートさん……」

 

 最後まで避けてきた議題だが触れざるを得ない。

 

 ジークフリートは叙事詩『ニーベリンゲンの歌』の主人公で欧州の伝承でも有数の格を誇る英雄だ。 

 ワーグナーの楽劇『ニーベリングの指輪』をはじめ多くの芸術作品で取り上げられた

西欧世界では極めて名高い英雄でありカルデアでも強力な戦力になっている――と言いたいところなのだが……

 

「まず火力の面だけど。

――ぶっちゃけ弱い……よね」

 

 人は触れたくない問題に触れられると当然だが口を噤む。

 俺たち三人が気まずく沈黙する中、もう一人のマスターのぐだ子がまず 

言い辛いことを言ってくれた。

 

「ぐだ男とマシュが別の特異点に行ってた時にさ、ちょうど小規模な特異点が発生してね、

槍属性の相手が多く観測されてるってロマニから聞いたから

その時丁度待機中だったジークフリートに来てもらったんだ」

 

 その話は初耳だ。

 

「そこの一番の大物がバイコーンで

DEBUのスキルとマスタースキルで攻撃力を上げてジークフリートの宝具を解放したんだけどね……」

 

 ああ、なんか結末が読めたぞ。

 

「……倒しきれなかったんだよね。

で『面倒だ』とか言いながら結局DEBUが倒したんだけど

宝具で削りきれなかったときのあのジークフリートの悲しそうな顔……

あれ見たらいたたまれなくってさ……

DEBUが『有利属性の相手を宝具で倒しきれぬとはさすがは大英雄(笑)』って煽りまくってたから

とりあえずDEBUに令呪でお仕置きして

帰ってからしばらく『私の起用法が悪かった』って謝り続けたよ……」

 

 ぐだ子は頭を抱えた。

 そう。これが困りどころだ。

 ジークフリートは戦力としてちょっと困ったちゃんなのも問題なのだが

それ以上にその人柄が問題なのだ。

 

 性格も困ったちゃんならば常時ベンチウォーマーにしてもさほど呵責を感じることもないのだろうが

あの控えめな大英雄の悲しむ顔はチクチクと良心に訴えかけてくるのだ。

 

「カエサルさんは直接戦闘能力はともかくサポート能力は優秀ですからね。

ぐだ子先輩のマスタースキルを併用しても大型エネミーを倒しきれないとなると……

単純な攻撃要員としては使い辛いですね。

――では。撃たれ強さという観点ではどうですか」

 

 マシュが上手くまとめてくれた。

 今度は俺の番か。

 

「……えっとね。微妙」

 

 事実とは言えこういうことを言うのは悲しい。

 

「ステータスは耐久寄りだけどね。

なんていうか色々ちぐはぐなんだよね。

三騎士クラスなのになぜか対魔力持ってないし。

本当ならばあの悪竜の血を浴びたって伝承で不死身の肉体の筈なんだけど

それも無いし」

「あ。そういえば。どうして無いの?ぐだ男知ってるの?」

「『……うっかり英霊の座に忘れてきてしまった。すまない』だって。

聞いたらそう言われちゃってさ。あんな悲しそうな顔されたらもうそれ以上聞けないよ」

 

 ぐだ子は俺の回答に対しうんうんと頷いた。

 

「ま、だからまとめるとさ。

耐久力って面で考えるとクラス相性無視でもクーフーリン兄貴のほうがしぶといし

クラス相性考えるとネロちゃまが圧倒的だからさ。継戦能力って面で考えてもジークフリートちょっとアレなんだよね……」

 

 ちなみこのネロちゃまという相性だが当初は陛下とか赤セイバーとか呼んでいたがどちらもしっくり来ず

 ぐだ子が何気なくネロちゃまと呼んだのがきっかけだ。

「ネロちゃまか。うむ。なかなか愛い響きだ。良い。今後は余のことをネロちゃまと呼び一番に頼るがよい」

 と本人がムッフーしていたのでそのまま定着した。

 

「そうだね。獅子王との戦いの時も止め刺したのはベディだけど粘って戦線を維持してくれたのはネロちゃまとマシュだから」

「ああ。あれね。俺もホント頼りになると思ったよ。後で滅茶苦茶褒めたら『そうであろうそうであろう』ってムッフーしてたし」

「余を呼んだか?」

 

 そう話していたら当の本人が現れた。

 赤い装束に身を包んだ男装の麗人ネロ・クラウディウスだ。

 現代の感覚ではどう見ての女性の装束を着た女性だがズボンをはく習慣がなかったローマの時代では一応これが男装で通ったらしい。

 

「いや。名前は呼んだけど……」

 

 ネロの様子を窺う。

 なんかそわそわしている。

 

「そうか。余を褒め称えているのが聞こえた故。またそなた達が余を頼っているのかと思ってな」

「ネロちゃま。暇なの?」

 

 ぐだ子はいつもストレートだ。

 それで嫌味が無いのは彼女の人柄ゆえだろう。

 

「暇ではない。待機に飽きたのだ。我がマスターたちよ。

つまりだな

――構え。余に構え。寂しいではないか……」

 

 ぐだ子と俺は顔を見あわせた。

 こういうときのネロの扱い方は心得ている。

 「どうぞ」とぐだ子が言ったので俺が口を開いた。

 

「エミヤの発案でね。来週あたり古代ローマの料理を再現しようと思ってるんだ」

「何!真か?」

「そう。だから後で一緒にメニューを考えてくれないかな?」

 

 ネロは目をキラキラさせている。

 教科書に載っている暴君のイメージは何処へやら。

 完全に人懐っこいワンコだ。

 

「では余にアイディアを出してほしいのだな?余を頼りたいのだな?余を頼っちゃうのだな?

うむうむ。余に助力を求めるとはやはりそなたたちは違いの分かる魔術師よな!愛い奴らめ」

「じゃああとでね。ネロちゃま。会議終わったらすぐに行くよ」

「余は待っているぞ!待っているからな」

 

 ネロは去っていった。

 後姿に尻尾を幻視しそうなほどのワンコっぷりだった。

 

「先輩。さすがです。扱いに慣れてらっしゃいますね。

アイコンタクトだけで今の作戦を思いついたのですか?」

 

 マシュが目を見開いて言った。

 

「今のはネロちゃまを追い払う方便じゃなくってね。

特異点に行ってからローマにずっと興味があって。

エミヤに色々調べてもらってたんだ。

パルティアン・チキンとかハーブとチーズを使ったサラダとか。

研究中のを試食させてもらったけど結構おいしかったよ」

 

 実はこれはぐだ子の発案だ。

 俺もずっとアイディアを練っていた。

 

「それだけじゃなくて当時の習慣も再現しようと思ってるんだ。

ローマの頃って皆寝台の上でうつぶせになって食べていたそうだよ」

「はい。そうですね。寝そべって食事をとるのはギリシャを起源とする習慣ですが

ローマではあおむけではなくうつぶせになって食べる形にアレンジされていたそうです。

それが消化に良い食べ方だと考えられていたためですね」

 

 さすが本の虫のマシュ。

 やはり知っていたようだ。

 

「……で、すみません。

空気を読めなくて本当にすみませんが

そのジークフリートさんの起用法なんですけど。

竜殺しのスキルに特化した起用というのはどうでしょうか?」

 

 また気まずい沈黙が訪れた。

 みんなあまり言いたくないのだ。

 

「うーん。それもちょっとなあ……」

 

 言い辛いことだがまたしてもぐだ子が口火を切ってくれた。

 

「ジークフリートの竜殺しって常時発動型のスキルじゃなくて

効果の継続とリチャージが必要な固有スキルじゃない?

だから竜属性相手に無双しててもスキル効果の切れ目の瞬間に

いつものすまないジークフリートに戻っちゃうんだよね……」

「あーそうそう……

獅子王と戦った時も結局効果の切れ目でやられちゃったんだよね……

あの『すまない』って言いながら戦闘不能になった時のジークフリートの悲しそうな顔……」

 

 「うーん」と全員が一気に黙り込む。

 沈黙が気まずい。

 

「……この会話ジークフリートには聞かせられないな」

 

 俺は沈黙に耐え兼ねそう呟いた。

 

 その時。

 

 ガタッと背後で不穏な音がした。

 

 まさか……

 

 まさか……

 

「じ、ジークフリート……いたの?」

 

 竜殺しの英雄ジークフリートが全身から哀愁を漂わせながら立っていた。

 

「……すまない」

 

 ああ。なんて悲しい……

 

「……気を使わせてしまってすまない。

……いっそ工房にくべてほしい……」

 

「そ、そんなことないよ!!ジークフリートは大事な仲間だよ!!!」

 

 このあと三人がかりで滅茶苦茶慰めたのは言うまでもない。

 




獅子王には実際ネロちゃまで粘り勝ち増した。
本当はNPCのベディで倒したかったのですが一ターン分生存方法が足りませんでした。

ではまた。
次はシリアスなやつで行こうと思います。

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