視点は狂也になります。
いま俺は、忍の期待の目をうけながら、遠い目をしていると思う。
最初、シンさんとの出会いは最悪だった。
しかも、いま思えば、数年前なのに、黒歴史決定の時期でもある。
いま考えれば、あの当時は、つねにイライラしていた。
いくら練習しても、上達しない剣術。
父さんに追いつこうとしていて、追いつけない大きな背中。
がむしゃらに追いかけても、遠くなるような背中を見ていたのだと思う。
しかも、あの約束すら忘れていたのだから……
・
「……おら!」
「……ぐぅ」
俺は荒れていた。
俺の目に入るもの、逆らう者、社会にも。
「……クッソ!この狂犬め!……俺たちが何をしたというんだ。……狂犬、貴様には手出しもしていないはずだぞ」
俺の目の前には5人の不良が片膝をついたり、倒れ伏していたりしている。
「……ふん。ただ、目障りなんだよ」
俺は、一言で不良の言葉を両断する。
「……な、なめてるのか!……ッグ!?」
「……弱い犬ほどよく吠える」
俺は口うるさい不良を足蹴にして黙らせる。
そして
「……これ以上ぼこされたくなかったら、不良なんかやめちまえばいい。・…好きばっかやってるんじゃねぇよ」
そう、俺はこんな毎日を送っていた時期でもある。
「……うわ、いまの狂也とは思えないわ」
横で話を聞きながら、忍が何か言っているが、話を続ける。
まだシンさんと出会った話をしていないのだから。
そんな毎日を送っている、ある日。
その日も、不良をボコしていた。
「……ひぃ!?も、もう止めてくれ!そいつらが、死んじまう」
不良の一人が俺の足にしがみつきながら、俺を止めようとしている。
目の前には、血を出し倒れている不良どもがいた。
俺はその時手にしていた、鉄パイプをさらに強く握り直し
「何言っているんだ?俺を殺すつもりじゃなかったのか?人数も揃えて、俺を殺すと言ってたじゃないか?それなら、返り討ちにされても文句はいえないよな?」
俺はそう言うと強く握りしめた鉄パイプを、足にしがみついた不良に振り下ろそうとする。
だが、その振り下ろしは突然止められる。
「……君。それ以上はやりすぎだ。もう、止めなさい」
いつの間にかに誰かが俺の後ろに立ち、俺の腕をしっかりと握っていたのであった。
「……邪魔するんじゃ……」
俺が、後ろのやつに反撃でまわし蹴りをしようとした瞬間、ものすごい殺気が俺を襲う。
いままで、受けたことがない濃密な殺気。
俺は動くことができなくなった。
だが、足にしがみついている不良には、何事もない。
そう、その殺気は俺だけに当てていた事がわかった。
その時、俺は全身に寒気が走った。
俺は後ろのやつに勝てないと……
「……やっと、止めてくれたようだね。足元の君も、倒れている仲間を連れて行きなさい。まだ声をかければ、動ける子はいるとおもうから」
後ろからの殺気はトマラナイが、なぜか声はおだやかな男性の声が聞こえる。
その言葉を聞いて、足にしがみついていた不良は、倒れている仲間たちのところに行き、まだ無事な者たちを起こし、まだ起きる事をできない者を、互いに支えながら、俺たちの前から去っていった。
「……さってと、邪魔者がいなくなったみたいだな」
後ろのやつはそう言うと、殺気を放つのをやめ俺の腕も離す。
その時、俺は回し蹴りをするが、空を切る。
「っち。やっぱ避けたか」
「……そんなもの当たるわけないじゃないか?最初から何をするかわかっているのだから」
俺は、回し蹴りの勢いで後ろを振り返り、後ろにいたやつを睨みつける。
後ろにいたやつは肩をすくめながら軽く流す。
その時、やっと俺の目に後ろにいたやつの全身が見えたのは
「……その時ね。シンお兄ちゃんと出会ったのは。……でも最悪な出会い方」
忍は話を聞きながら、呆れたように言うが
「しょ、しょうがないだろう。本当にその時期は、今と違って……」
「はい。ストップ。狂也の事はわかっているわ。それよりも、そんな狂也が、どうやって、今のようになったかの方が、気になるわ」
俺が恥ずかしそうに、忍に反論しようとしたが、口に人差し指を押し付けられ、それ以上は言えないようにされた。
「……ね。狂也、続きをお願い」
忍はニコッと笑顔を作り続きを催促してくる。
(まったく、しょうがないなぁ)
俺はそんな忍の顔を見て、あきらめたように続きを話し始める。
そう、あの時がシンさんとの出会いだったとは、あの時の自分は思わなかった。
何か、全てを知っているような、ムカつく態度。
俺の全てを見とおされるような視線。
そして、実力の差がありすぎての、余裕の差。
すべてが、その当時の俺には、敵として認知するのは当然だった。
「……余裕そうだな」
「……そうだね。君の言う通り、自分は余裕があるね」
俺は睨みつけ、シンさんは力を体から抜き、リラックスした状態で応じてくる。
「はぁぁぁっぁあ!」
「よっと」
俺は一気に左からのけさぎりでシンさんに迫るが、簡単に避けられてしまう。
そこからは、連続で俺のすべてをてつパイプに乗せ、切りつけていく。
横薙ぎ、突き、切り上げ、振り下ろし……
すべてが、避けられていく。
俺の努力を、すべてを、拒否するように……
どのくらい経っただろうか、俺は息を切らし、立つのがやっとになっていた。
しかしシンさんには一度も届かなかった。
「?もう、終わりかい?」
「はぁはぁ……そ、そんなことは、な、ない」
シンさんは服の乱れも、息の乱れも、何事もなかったように立っている。
それに対して俺は、大きく行きは乱れ、体力は尽きかけている状態。
強気に応えるのができる程度だった。
「ふむ。筋は多少いいが心が、乱れすぎているな。……けん師としては最悪だな」
シンさんは手を顎に当てながら、俺を突然、評価してくるが
「……!!なにが、最悪だぁぁあぁ!」
俺はシンさんの言葉を聞いて、最後の力を使い鉄パイプを振り下ろすが
「ふっほ……」
動作を大きくしてしまった為、ガラ空きになった俺の胴体に、シンさんの拳がめり込み、俺はその時点で意識を失った。
「……一撃なのね。いまと、あんまりかわらないんじゃないの?」
「う、うるさい。シンさんが強すぎるんだよ。……いまはやっと剣が届くようになったんだ。あの時とは違うからな」
忍のつっこみに、ついつい反応してしまう。
たしかに、いまだにシンさんが少し本気を出せば一撃だけど、やっと届くようになってるんだから茶化さないでほしい。
「まぁ、なんだ続きを話すぞ」
俺はちょっと恥ずかしそうに早口でそう言うと、話の続きを語り始める。
そう、あの後の記憶は道場に寝ていた所から始まるのか。
俺が目をさますと、どこかは知らないが、道場の隅で寝かされていたのはわかった。
周りを見渡しても、見覚えのない道場だった。
そして、周りの状況を確認していると、先ほど見た時には、いなかったはずの人間が、道場の一番奥一段上に挙げた場所、その中心にシンさんが正座で座っていたのは。
「……やっと、目が覚めたようだね。……いやぁーあの後、君を気絶させた後に気づいたんだけどね、君の家がわからなかったんだよね」ははは
シンさんはそんな風に軽く言うと、後頭部を手でかきながら笑ってごまかそうとする。
「……っく」
「まだ、無理しないほうがいい。倒れてからそんなに時間が経ってないから、体はすぐには動かせないよ」
俺は立ち上がろうとしたが、体が思いのように動かず、前傾姿勢で倒れてしまう。
そんな姿を見て、シンさんは声をかけてくるが、そんなのは先に言って欲しかった。
そして、シンさんは、いつの間にかに俺の目の前に、立っており、一つの紙切れを渡してきた。
「その紙にはこの道場の住所が書かれている。いつでも、ここに来なさい。今度は君の実力を見てあげよう。……まぁ帰れるまでの体力を回復するまで、まだ時間はある。それまで、考えておきなさい。……それと、帰りたかったら勝手に帰ってね」
シンさんはそう言うと道場の出入り口から外に出て行った。
そして、わけもわからず、俺はその道場に一人、残された。
その後は、なぜか覚えていない。
気がついたら自宅の自室にいたからだった。
なぜ、そうなったかは、わからない。
ただ、自分自身にわかったのは、敗北感と空虚感だった。
それから、俺は部屋に閉じ籠った。
それからは、あんまり覚えていない。
ふらふらと、気がついたらシンさんの道場の前に立っていた。
そして、道場の中で、シンさんといつの間にかに対峙していた。
「……そんな感じで、自分と対峙できると思うのかい?
「……」
俺はなにも答えることはできない。
なぜここにいるか、なにをしているか、わからないからだ。
「……ふむ。自分の進むべき道を無くしたようだね。……それでも、ここに来たのは、何かの答えを探しにきたのではないかね?」
シンさんはあいかわらず、穏やかな口調で俺に語り続けてくる。
「まずは、君が、なぜ?剣士になったかを思い出すのが一番だね」
俺は、シンさんの言う通り、なぜそんな事をっと思ったが、なぜか、思い当たる事を思い出す。
それは、俺がまだ幼い時。
いまの母さんの桃子さんでは無く、本当のお母さんとの思い出。
そう……あの時は
「これで、狂也も、お兄ちゃんね。ちゃんと、みゆきの事守ってあげてね」
「……うん」
おぼろげな記憶、その一言は覚えている。
そして……
「……ごめんね狂也。お母さん、もう狂也とあえないの……お父さん見たく、かっこよくて、やさしくて、強くなった狂也を見る事ができないの」
「……そんな事は無いよ。……僕は絶対にお父さんみたいな剣士になるから、お母さんも見ていてよぉ」
そうだ。
この場面は母さんが亡くなった時の最後の会話だ。
「……そうね。狂也なら、なれるわね。お母さんは遠いところに行くけど、狂也の事はみているし、お父さんからも聞くから、そんな悲しい顔をしないで。……狂也はもうすでに、やさしくて、かっこいい子なのだから……」
どんな話をうる覚えで全ては覚えていない。
だけど、この時約束した事は覚えている。
いま、はっきりと、思い出した。
「……お母さん。僕、絶対に、お母さんが言うような、やさしくて、かっこよくて、みんなが守れる剣士になるよ。そして、お父さんも守れるようになるよ」
そう、そう言ったんだ。
病床で寝ていた母さんに、からなず守るって
「……何か、思い出したようだね」
俺がそれを思い出し、意識がはっきりするとシンさんが俺に聞いてくる。
「……ああ、思い出したよ。……なんで、忘れていたかわからないけどな。……あんた、俺に何かしたのか?」
「いや、していないよ。ただ、君を見ていて、昔の自分を見ているようでね。……経験者として、君の大事な事を思い出すように、誘導しただけだよ」
シンさんは俺の問いに、にこやかな笑顔をして応える。
「……まぁ、何か迷ったらまた、ここに来なさい。お兄さんが聞いてあげるから」ははは
シンさんはそう、軽く笑うと、道場を出ていく。
俺は、そんなシンさんを見ながら
「……迷ったらか」
そう呟いた。
「……それ、絶対に何かされてるわよ狂也」
忍は訝し目な目で、俺をみるが
「……そうだな、いま思うとそうかもしれないな。でもな、別の意味で助けられたのかもしれないな」
俺は、あの時の事を思い出し、苦笑いをしたのであった。……
別視点
自分は大きな木を吐くと、道場の入り口を見つめる。
なぜ?自分はあの少年を木にするのだろうか?
たぶん、自分に似ていたからであろうか。
そんなことを思っていると、自分に声をかけてくるものがいた。
「……あまり、使わないほうがいい」
声をかけてきたのは、ザフィーラだった。
「……わかっているさ、ザフィーラ。使用したのも最低限の幻惑魔法さ。……まぁ、自分らしくないのもわかっている」
「……それならいい。シン、あまり自分を追い詰めるな」
ザフィーラは、一言二言いい自分から、離れていく。
「……自分らしくないか……そうかもな。自分も素直になるべきか……」
自分は、立ち去る、ザフィーラの背中を見ながら、そう思うのであった。
今回も、長くなったので前編と後編に分かれます。
それと、活動報告のほうもよろしくお願いします。