VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯5

 少年がその拳を振るえば、衝撃と同時に炎が舞い上がる。その足を振りぬけば、その軌跡に真紅の華がもうもうと咲く。毛色と、瞳と、纏う服の色。名にスカーレット(真紅)の名を冠するだけあって、鮮やかな紅が青空と無機質なコンクリートの灰とに彩りを添えていく。しかしその炎は身をも焦がすほどの力を持っていた。現に今、一人の少女がその炎に呑まれ陽炎のように揺れて消える。そんな光景を物陰から気配を消して注意深く眺める少女は、かつて対峙した時の少年と今の少年の実力が天と地ほどの差が開いていることに驚愕し、また自分の今できることを思考する。

 

(わ、また一体消された・・・彼奴、どんだけよ)

 

 自慢の分身術ももはや見慣れさせてしまっている。子どもの頃、ムシャクシャした時は決まってこの能力を使ってイタズラしていたのが今になってあだとなるとは誰が考えようか。それにしてもあの時は心から笑えた。初めてこの幻術を見せた時はそれはもう尻もちをついて驚いていたっけとクスクスと笑う。今にして思えば、この能力を初めて荒事以外に使ったのも彼が初めてかもしれないと聖王教会シスター兼騎士見習いのシャンテは思い出す。

 

 

  もう、あれから5年近く経つのか。なんだか懐かしいな。

 

 

「クッソ、シャンテの奴・・・さっきから幻影ばっかりばら撒きやがって」

『それが彼女の作戦なのでしょう。マスターはシスターシャンテの事はよく存じていますね』

「ま、フーカとリンネを除いたら付き合いが長かったのは彼奴だしな。何だかんだで八神家にお世話になるってなった時も連絡は取ってたし」

『ええ。よく会えないのか、予定は空いているかと、シスターが言っていたのを記憶して――――』

「何勝手にねつ造してくれてんのよアンタはッ!?」

 

 耐えかねなくなって顔を真っ赤にしたシャンテが建造物の中から飛び出してきた。ツッコミをいれつつ、間合いを一瞬で詰めて愛機を振り下ろす。その太刀筋は見習いと言うには鋭く、そして的確にこちらの急所を狙ってきていた。死角からの攻撃。冷静さを少し欠いているとはいえ、この動きは師であるシスターシャッハの教えの賜物だろう。が、それで墜ちてしまうほどアスカも甘くはない。シャンテの行動に気付いて左に跳んで躱し、地面に手をついてハンドスプリングの要領で手をバネのようにして跳び、着地する。

 

「人聞きが悪いこと言うなよ!ホントのことだろ!」

「そもそも連絡してないし、お前の事なんてどーでも―――」

『えっと・・・アスカ。今度の週末、会えないかな・・・?』

「ワーワーワーワーワーッ!!」

 

 これが証拠だと、善意で録音データを再生するブレイブハート。そんなものをいつの間に撮っておいたんだと聞けば、『マスターのネタ肥しです』と返ってくる。このデバイス、些か狂ってると思うがアスカからしてみれば自分に似てきたなぁと喜びを覚えることだ。・・・・弄られる側にいたっては、たまったものではないが。

 

「こんのっ、主人が主人ならデバイスもデバイスかよ!」

「いやぁ、案外かわいいトコあるんですねぇ。シャ・ン・テ・ちゃん」

『は、はやてさん!シャンテと約束しちゃったけど何着て行けばいい!?』

『はいはい、もーアスカはこういう時は年相応やね~。そこがかわええんやけど。今お母さんが選んだるから待っときや』

 

 そしてすかさず流れ出す、これは先ほどのシャンテとの会話の後のアスカとはやての会話だ。結局この後は会うことは叶わなかったが。

 

「~・・・・ッ!」

「いやぁ、案外かわいいトコあるんですねぇ、ア・ス・カ・くん」

「ぶっ潰すッ!」

「かかってこいやぁッ!」

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「このバカッ!」

 

 ゴン、という重い音をたててルーテシアの拳がアスカの脳天を直撃した。シャンテとの一騎打ちは魔力を使いすぎの大振りオンパレード。おまけに相手のHPを0にできず撤退を許してしまうというズタボロな結果に終わり、回復の為転移魔法で戻されて今に至る。言い訳をしようにも、ルーテシアの怒りはごもっともであり、作戦の中枢に位置するアスカを下げてしまったことで若干ではあるが押されてしまっている状況になってしまった。なのはが何とかアインハルトを止めたものの、このままでは数の均衡を崩され畳みかけられない。

 

「まったく、だからあれほど真面目にやれっていってるのに・・・」

「すまんルー。次は真面目にやるからさ、このとーりっ」

 

 手を合わせて深々と頭を下げるアスカ。フン、とそっぽを向くもここまでされて許さないというのもなんだか自分が悪い気がして釈然としない。しかし、やったことは重大なわけで。取り返せないことはないが、それでもここで許してしまうと・・・・などとジレンマで揺れるルーテシア。そんな彼女の耳に、リオから通信が入る。

 

《ルーちゃん、ティアナさんの姿が見えないよ!》

 

 コロナを下し、先を進んだリオからティアナが姿を消したとの報告が入ってきた。既に作戦は第二段階に入っている。アスカがシャンテを下したタイミングで数はこちら側がわずかに有利になった。そのタイミングで発令した二対一のツーマンセル方式での撃破指令。これによりある程度の展開が望めたが、彼方も一筋縄ではいかず押し切られている組も存在する。そして、このタイミングでティアナが姿を消した。それが意味するのは・・・・――――

 

「青組のみんなに通達します。今から大きいの撃つから、合図したら下がって!それからアスカ君!」

「はい!」

「名誉挽回だよ。準備が整うまで私の護衛、できるよね?」

「なのはさんの背中を守れるなら、喜んでッ!」

 

 回復も充分にされたアスカがフローターフィールドを形成しながらなのはの近くへと跳ぶ。配置に付いたのを確認するやいなや、なのはは魔力を収束させ始めた。

 

「させるかァッ!」

 

 威勢のいい叫びと共に黄色いレールが目の前を走る。ノーヴェだ。それを確認するやいなや、繰り出された蹴りを拳で受け止める。なのはに到達する前に、アスカが間に入って妨害することに成功した。

 

「奇襲をすんのにこえだしてちゃ意味ないぜノーヴェ!」

 

 しかし、ノーヴェは笑う。まるであざ笑うかのような彼女の笑みに危機感を覚えたアスカは背後のなのはを見る。感じた気配は・・・・アインハルト。先ほどなのはによってダウンさせられたダメージも回復され、既に拳には魔力が満ちている。そして自分はノーヴェを抑えている為動けない。

 

 

  このままでは・・・。その時だった。

 

 

「やらせないは、こっちもおんなじ!」

 

 アインハルトの死角から跳びあがる影。母と同じくサイドポニーの髪型に普段とは違うキリッとした顔つきで立つその姿はまさに格闘家と言って差し支えないほどの佇まいだ。

 

「ヴィヴィちゃん!」

「私だけじゃないですよ!」

「そうそう!」

 

 そして、ノーヴェと同じく空を走る青い道。頭上から繰り出される拳を何とかシールドを張ってそらすアインハルトだが、これで完全に奇襲作戦は失敗に終わってしまった。

 

「チッ、もう追いついてきやがったのか」

「でも、そのおかげで魔力もだいぶ使っちゃったかな・・・」

「なるほど・・・一度下がったハルちゃんがここにいるのはノーヴェの仕業ってわけ、ね!」

「その通り。あえてティアナが戦場から姿を消すマネをして注意を反らし、アタシとアインハルトがおそらく収束砲を撃つためにチャージに入るであろうなのはさんに奇襲をかける。アタシが囮でお前を引きつけてアインハルトが一撃で落とすって手はずだったけど・・・ま、結局は失敗だったわけだ」

 

 拳と拳、蹴りと蹴りをぶつけながら両者は激しく軌跡を描く。このまま抑えるのはいいが、ここではなのはにトバッチリがいかないとも限らない。ここはやはり、別の場所に移すのが最善か。

 

「スゥさん!」

「オッケーアスカ!」

 

 スバルがアインハルトを、そしてノーヴェをアスカが、それぞれ投げの体勢にはいる。ここでこれを許してしまったら遠投されるのは目に見えている。せっかくここまで来て振出に戻るなど、あってはならない。二人は地面に根っこでも生えたがごとく踏ん張り、足払いにも耐える。

 しかし、スバルがアインハルトを抑えたことでフリーになったヴィヴィオが魔力スフィアを展開してノーヴェとアインハルトの足を払う。それにより機を見出した二人は魔力で強化した腕をフルに使い面一杯投げ飛ばすことに成功する。

 

「あんのバカ、なんて腕力だよ・・・ッ!」

 

 我が姉ながら異常だと、ノーヴェは地面に着地して飛ばされてきた方向へと目を向ける。既に桜色の光はフィールド半分まで吹き飛ばされても視覚できるほどに大きく膨れ上がっていた。

 

「けど、ティアナだって負けてねぇ。そーだろ!」

《あったりまえでしょッ!もういいわ、下がって!》

 

 その通知はアインハルトにも届いていた。そしてなのはとティアナ、師弟の必殺の切り札がそれぞれさく裂する。轟音を轟かせ、建造物を破壊しながら膨張する魔力の本流は全てを呑み込まんとフィールド全体へと拡散する。

 

「マズい、ヴィヴィちゃん!」

 

 巻き込まれる、そう察知したアスカはいの一番でヴィヴィオを抱える。ひざ裏に右腕を、そして左腕で彼女の背を抱えて足元に魔力を集中させる。

 

「ちょ、先輩!?」

「喋ってると舌噛むよ!?相棒ッ」

『いつでも』

「よし・・・”抜剣”(ばっけん)ッ!」

 

 コールと共に脚部の装甲が展開され、そこから真紅の粒子が散る。魔力が高まり、それがやがて炎となって吹き出してくる。叫びをあげて力いっぱいに足場を蹴れば、天高くへと跳びあがった。それにより間一髪のところで難を逃れ、ヴィヴィオを守ることに成功する。しかしそれて引き換えに自分の魔力もほぼ空っぽに近い状態にまで追い込まれてしまった。

 

「・・・、ヴィヴィちゃん」

「は、はい!?」

「たぶんだけど、あっちはティアさんがまだ生きてる筈だ。あの様子だと、相殺しちゃった」

「はい・・・」

「俺はもう戦える状態じゃないから、残った魔力全部使ってきみを下まで安全に降ろす。そうしたら、後は――――」

「私がティアさんを抑えて、ですよね!」

「ああ。頼めるかい?」

「もちろんです!」

 

 後輩の頼もしい返事に頭を撫でると、嬉しそうに眼を細めた。それを確認して今度はヴィヴィオを背負い、迫りくる地面に向かって両手を突き出す。

 

「ありったけの火力でぶっ放す!抜剣ッ!」

 

 残った魔力を全て使い、さながらロケットがエンジンに点火したがごとく炎を噴射する。それにより落下速度を極限まで弱め――――ヴィヴィオの下敷きとなり、着地した。それによりライフは0。あとの事をヴィヴィオに託して、アスカは意識を手放した。

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