VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯7

アスカ・スカーレットは学生である。故に昼間は学校、放課後は練習と多忙を極めている。しかしそんな彼にももう一つの顔が存在していた。それが、時空管理局嘱託魔導師の肩書だ。連絡が入れば学校だろうと練習だろうと現場に急行し対処に当たるのが仕事。そして今回、将来の一つのビジョンの為にとティアナ・ランスターの仕事に同行することとなった。仕事内容は極めて軽く、要人警護と保護(・・)というもの。

 

「って、なんで保護?」

 

 次元航行船、ティアナから渡されたチケットに記された座席に腰掛けジュースを飲みながら今回の内容を確認していたアスカがそう繰り返した。

 

「なんでも迷子らしいのよ」

「迷子って……要人警護ってくらいだから普通SPの一人や二人くらいついてるようなもんだと思うんすけど」

「それがその人、そういうのが必要ないくらい強いらしくって」

 

 釈然としない。話せば話すほどわけがわからなくてってきたアスカは首を傾げる。それこそ自分達などいらないであろうに。片や奇跡の部隊とも言わしめた元機動六課所属の、しかもエース・オブ・エースの愛弟子である若手敏腕執務官とも名高いティアナ・ランスターにこの任務をまかせるなど、それほど管理局も暇というわけではなかろうに。考えれば考えるほど謎が深まる仕事内容をジッと見つめるアスカの耳に、次元港到着の報せが届いたのはそれから約5分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぢぃ……」

「な、なんでこんなとこにいんのよ……」

 

 次元港からでた二人は第30管理世界へと降り立っていた。この世界は年中通して気温が高く、この世界産の果実や野菜はミッドでも有名なものが多い。しかし比較的安定した気候のミッドとは違いここは言うなれば砂漠地帯のようなカラッとした暑さ。執務官服の黒を身にまとっているティアナと暑さが苦手なアスカにはとてつもない苦痛であった。

 

「つか、大会参加者ならなんでこんな場所で練習してんだよ……」

「なんでもかなりの有名人らしくって。民間施設はおろか、会員制のスポーツジムでも人だかりができちゃうかららしいわ」

 

 そう言ってティアナはアスカにスティック状の端末を渡す。巻物を開く要領でそれを展開すれば、ホロウィンドウが表示され、今回の依頼主のデータが見れる。

 

「今回、貴方を連れてきた理由なんだけどね。その人の要望でもあるのよ」

「要望?……俺、こんな綺麗な人と会ったことないんですけど」

「何、知り合いじゃないの?」

「はい。えっと……ヴィクトーリア・ダールグリュン?って人。あ、でも名前ぐらいは聞いたことあるかも。たしか前回の大会でランカーになってたから」

「そう……にしても、暑い……」

 

 早くホテルに行きたい。そう呟きそうになって、ふと路地の裏に目を向けた。そこには、屈強な体つきをした男が5人とガラの悪そうな女性が4人。まるで、何かを見下ろしているかのように男たちは立っている。その後ろで、女達は不機嫌そうにしながら木箱の上に腰をかけていた。この町は治安がいいというわけではない。ある程度の、こういう輩は存在する。だから尚更こんなところはアスリートの練習になど向いてはいないのだが……。

 

「どーしたんすか?」

 

 グロッキーなアスカが立ち止まったティアナに声をかける。彼女が注視している視線の先には、何やらモメているような雰囲気の人だかりができていた。

 

「おいおい、どうしてくれんだよねーちゃん。俺の大事な小猫ちゃんの服に壮大にアイスぶちまけてくれてよう」

「せ、せやから謝ったやないですか。服もクリーニングしてお返し――――」

「ねーねー、こんな奴さぁ、とっととまわしちゃおうよ……きっといい声で鳴くかもよ?」

「へっ、そいつぁいい。ここんとこ溜まってたしなぁ……」

 

 にやり、と口角を釣り上げてじりじりとこちらににじり寄ってくる男たち。発言からして、まず最悪なことになるのは間違いないと感じ――――ティアナは飛び出した。

 

「そこまでよ」

 

 凛とした声が、まるで圧するかのように男たちの足をピタリと止める。

 

「ンだぁ?」

「さっきの発言、聞き捨てならないわね。貴方達、その子から離れなさい」

「チッ、管理局か。けどいいのかァ?こっちは5人、そっちは一人。揚句人質だぜ?」

 

 ティアナが管理局。しかも執務官だと見抜いて尚挑発をする男。余程囲んでいる少女に頭に来ているらしい。しかし、いくら彼女に原因があるとはいえ、非人道的な行いを見逃すほど彼女の目と心は腐ってなどいない。亡き兄の夢を継ぎ、自らの信じる正義と信念の元に悪を裁く管理局員として、何より女性として見過ごすなどありえないことだ。

 

「あら、強姦未遂に公務執行妨害までつけてほしいのかしら」

「……よく見たらアンタの方がいい躰してんじゃねーか」

 

 ゲスが。そう心の中で吐き捨てる。その直後、男の一人が飛び出してきた。その屈強で大柄な体を生かしたタックルの姿勢で向かってくる。身長はゆうに2mはあろうかという巨体。それがさながら津波のようにティアナを襲おうと両手を広げて……次の瞬間には地面に倒れ臥していた。突如として意識を刈り取られた男は、自分が何かされたことにも気づけないまま、白目を剥いて悶絶する。後ろのメンバーも、突然起きたことに理解が追いつかず、それ以上声を荒げることもできない。そして倒れた男の向こう側目を向けると、そこにはティアナではなく、紅い髪の少年が左肘を突き出した体勢で立っていた。

 

  まさか、こんなガキに……!?

 

「ちょっとアスカ。穏便にすませようとしたのにどうしてくれんのよ。ていうか、貴方仮にも格闘技選手でしょうが。大会どころか、ライセンスはく奪されるわよ?」

「なぁに言ってんすか。自分だって相手挑発してたくせに。それに、今の俺は選手としてじゃなくて・・・嘱託魔導師としての、アスカ・スカーレットですんで。何よりこれは公務であり、襲われたところをやり返しただけの正当防衛です。ホラ、問題ないでしょ?」

 

 ああ言えばこう言う。まったくもって扱いづらい子どもだと溜息をつきつつ、その反骨精神にかつての自分を重ねて僅かに笑みを浮かべた。あの時の師も、今の自分と同じような気持ちだったんだろうか。そんな懐かしさに浸りつつ、愛機”クロスミラージュ”を構える。

 

「時空管理局執務官、ティアナ・ランスターよ。全員その場に伏せなさい。抵抗しなければあなた達には弁護の機会が与えられます。これ以上罪を重ねない為に……指示に従ってちょうだい」

 

 たとえどんな外道であろうと、相手をまず説得する。武力ではなく、言葉での解決を試みる。それがティアナがまず学んだことであり、師……高町なのはと、フェイト・T・ハラオウンを見て培ったものだった。

 

「たかがガキと女一人で、どうこうできるほど柔じゃねぇんだよ!」

 

 そして言葉での解決が困難と判断した場合は――――

 

「アスカッ!」

「了解!」

 

 己の力をもって、ぶつかる。これも、二人から教わったことであった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「身柄は自警団に引き渡したから、もう大丈夫よ。しかし驚いたわ、まさか依頼の対象が前年度の格闘チャンプだったなんて」

「い、いやその、大したことないですよ」

「大したことあるっつの。て言うか、警護ってこういうことだったのか」

 

 原則として、格闘技選手というものはその力を一般人に対し如何なる理由があろうとも振るうことは禁則とされている。それが世界チャンピオンともなれば一歩間違えれば相手を殺しかねない。しかし、こんな辺境の地でたった一人で女の子がうろつけば今回のようなことにも繋がりかねないわけで。相手は要人、VIP待遇でしかも指名がティアナというのはこれで合点がいった。より確実に連れてきてほしい、そんな観点からだろう。

 

  が、どうしても腑に落ちないことが一つ。それはやはり、アスカの同行だった。

 

「さっきはおおきに。……と、まだ自己紹介しとらんかった」

 

 そう言ってフードを取る。目立つのが嫌だったのか、それともこの日差しと暑さからなのかジャージのフードを深く被っていたようだ。中に押し込まれていた美しい黒髪のツインテールが解放され、さらりと揺れる。そして、人懐っこそうな青い、アスカとは正反対の目。その目を見た瞬間――――ナニカが、突如脳裏をよぎった。

 

 まるで、頭の中の引き出しを強引に無作為に開かれていくような気持ち悪い感覚。得体の知れない何かに、その場に膝をついてしまう。

 

「ちょ、アスカ!?」

 

 いつものボケではない。口元を抑え、今にも吐きそうに顔を真っ青にするアスカに少女とティアナが駆け寄る。

 

「きみ、大丈夫?」

 

 心配そうに覗きこむ少女。しかしそれがアスカの不快感を加速させた。グルグルと、まるで壊れた映画のフィルムのように次々とシーンが頭の中を流れていく。その幾つかはアスカのものの様で……しかし、アスカのものではない。セピアに色褪せた幾つかの光景。それが自分のものではない他人のものであると理解した途端、とてつもない吐き気に襲われそのまま嘔吐してしまう。ただ事ではないと悟ったティアナはすぐに救急車を手配する。

 

「な、なんだコレ…頭が……ッ!?」

 

 次々に浮かんでくるワードに頭が割れそうになる。そしてそれがピークに達した時、急に目の景色が変わった。路地から一変、穏やかな緑の芝の生い茂る庭のような場所。視界を動かせば、反対側にはバラの美しい赤と噴水の青が織りなすコントラストに目を奪われる。「いったいこれは……」と混乱するアスカに、突如声が聴こえた。

 

「炎帝!」

 

 弾んだ声。しかしその声の印象はどこか懐かしく、聞き覚えすらあるほどに耳に心地よかった。振り向けば、そこには二人の男女。金髪に、異彩光色の瞳。そして、銀髪に少女と同じく左右で色の違う瞳。それはまるで――――

 

「ヴィヴィちゃん……ハルちゃん!?」

 

 この場にいるはずのない、つい数時間前にマウクランで別れた後輩達によく似た姿に思わず名前を叫んでしまう。しかし彼の声はまるで聴こえていないのか、そのまま素通りして行ってしまう。その先には、先ほど炎帝と呼ばれた男がバラを見ながら立っていた。

 

  真紅の瞳に、髪の毛。その姿はまるで――――・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 ハッとなって、目が覚める。荒い息を整えつつ、辺りを見回すと、そこはまた違った風景が見えた。よく効いた空調に白いシーツ。それだけ見れば、自分がベッドの上に寝かされているのだということが理解できた。「ここはいったい……」そうこぼすとティアナが安心したように微笑みを讃えて部屋の奥から出てくる。

 

「よかった、目が覚めたのね。急に意識を失ったと思ったらうなされ始めるんだもの・・・流石に焦ったわ。調子はどう?」

「あ、いやその……なんて言うか、あまり良くはないっす。ティアさんが美人に見えます」

「……はぁ。その様子じゃ、大丈夫みたいね」

 

 呆れた、と溜息を吐いて水を持ってくると再び奥に。そしてティアナと入れ違うようにして、先ほどの少女が現れた。

 

「えっと……大丈夫?」

 

 倒れたのが自分のせいだと思っているのか、遠慮がちに聞いてくる。しかし先ほどのような吐き気もなければ違和感もないようで、笑みすら浮かべてアスカは言う。

 

「大丈夫大丈夫。あ、さっきはごめん。急に」

「ううん、ウチこそなんか厄介ごとに巻き込んで……」

「それは言いっこなし。人助けが、今の俺の仕事だから。あ、俺アスカ。アスカ・スカーレット」

「スカー・・・・レット・・・・」

 

 苗字を、何やら自分の中で確かめるかのように繰り返す。

 

「えっと・・・?」

「・・・ウチは、ジークリンデ・エレミア。・・・エレミアの末裔や」

「エレミアの、末裔・・・」

 

 そこで、アスカの中で何が引っかかる。この名前は知っている。しかも、随分前に。雑誌やネットで観たという類ではなく、記憶として残っているのだ。自分の中奥深くに刻み込まれた、記憶そのもののように。そして、アスカは思い出すかのようにジークリンデを見返す。

 

「知ってる……エレミアの末裔。でも、なんで……そんなの知らない筈なのにどうして……」

「……何やら、訳ありっぽいわね」

 

 コップに水を入れたティアナが戻ってきてアスカにそれを渡す。一気に流し込んでようやく落ち着いたのか、深く深呼吸をして冷静さを取り戻す。

 

「あの場できみを見た時、すぐにわかったよ。きみが炎帝……古いベルカの時代の人の末裔やって」

「炎帝……聞いたことないわね。聖王や覇王っていうならまだ理解できるけど」

「つか、いきなり話がぶっ飛びすぎてんだけど……」

 

 いきなり炎帝だの生まれ変わりだのと言われてまだ若干混乱している頭の中を整理しながらアスカはジークリンデの言葉に耳を傾ける。

 

「炎帝いう人は実在した人なんです。ただ、その……ちょっと訳ありで」

「訳あり?」

「……聖王家を裏切った、反逆者とされているんです」

「……またまたぶっ飛んでるな、ソレ」

 

 にわかに信じがたい。しかし、ここまでの出来事がで、全てただの妄想だとも断言できないだけの何かをアスカも感じ取っていた。だが、なんとも唐突な話ではある。自分が古代ベルカの偉人の末裔で、しかもその人が聖王家という、当時は国家の君主とされている家系を裏切った大罪人だと言われて誰が素直に信じられようか。

 

 それでも、今語られた事が全て真実であると判断してしまうくらいには、自分の中で納得できてしまっている。

 

「さっきアスカが体調を崩したんは、多分ウチと接触して記憶が掘り起こされたからやと思う。ウチも、そんな感じやったから」

「そっか……」

「いやそっかって、アンタそんな簡単に鵜呑みにしていいの?あたしは未だに混乱してるんだけど」

「でもこの子が嘘言ってるとは思えないし、現に俺もさっきまであんなだったし。……えっと、ジークリンデ、ジークでいい?」

「かまへんよ。ウチももうアスカって呼ばせてもろとるし」

「なら、ジーク。この事、後で詳しく教えてくれないか?今は大会も控えてるし、そっちもその方がいいかと思うんだけど」

「え、アスカも出るん?」

「おう。後輩達と初参加だ」

「そっか、ならライバルやね」

「チャンピオンにライバルって言われるとなんかヘンな感じするけど……ま、よろしく」

「こちらこそ」

 

 互いに握手を交わす二人。テンションの切り替えの速さと話の濃さに未だ着いていけていないティアナではあったが、ここで自分がどうこう悩んでも仕方ないと割り切りをつけ、依頼主であるヴィクトーリアに連絡を入れる。

 

 さて、また何か起きそうだ。そんな予感を抱きつつ、ティアナはホロウィンドウを操作した。

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