「では、確かに」
「はい。やはり貴女に依頼して正解でした。ありがとうございます、ランスター執務官」
ジークと共にミッドに帰ってきた二人はヴィクトーリアの依頼を解決するために彼女の屋敷を訪ねていた。次元港から降りるなり執事のエドガーに案内されミッドでもあまり見ない豪邸へと通された二人は終始そのゴージャスさにヴィクトーリアに声をかけられるまでぽかーんとなっていた。
「ジーク、お前すっげーな・・・こんなお嬢様が友達なのか」
「うん・・・せやけどその”お嬢様”っていうんはヴィクターの前ではやめた方がええよ?形式上は仕方ないけど、プライベートで言われるんはあんま好かんらしいから」
ヴィクトーリアについての諸注意をジークから耳打ちされたところで彼女と目が合う。こちらに向かって微笑みかけるその姿はまさに美しい絵画のよう。年上の雰囲気のあるお姉さん。アスカにとって、どストライクなタイプだ。そうとなっては、この男が動かない筈はなかった。
「お嬢さん、この度はこのアスカ・スカーレットをご指名いただき感謝いたします」
ヴィクトーリアの手を取り跪くアスカ。その姿にあっけにとられるジークと溜息をつくティアナ。またこれか。と言うか、年上の異性なら誰でもいいのかこのダメ男は。そうツッコミをいれつつヴィクトーリアからアスカを引きはがす。
「ご、ごめんなさいね!?、うちのバカが粗相を・・・」
「い、いえ・・・・ところで、ランスター執務官」
「はい」
「彼と少しお話がしたいんですが・・・よろしいでしょうか」
「・・・・警備、いりますか?」
ちょっと待ってくれ、どんだけ信用無いんだ。そう言いたげな視線をティアナに向ける。ヴィクトーリアは苦笑いで大丈夫と意を伝えると、執事のエドガーにジークを風呂に入れるよう伝える。ティアナは先に帰ると言ってダールグリュン亭を後にし、二人は中庭へとやってきた。設けられたテーブルには既にティーセットとお菓子が準備されている。最初からどうやら自分と話すつもりだったらしい。椅子に座るよう促され着席すれば、向かいの席にヴィクトーリアが腰を掛ける。
「さて・・・まずは、改めてお礼を言うわ。ありがとう」
「いや、俺は何も」
「謙遜しなくてもいいわ。貴方がジークを守ってくれたんだもの。友人として、お礼をさせてちょうだい」
なんともやりずらい。こういったかしこまった雰囲気が苦手なアスカはさっそく居心地の悪さを感じ始めた。
「そりゃ、どうも・・・あ、そういえば、なんでティアさんだけじゃなくて俺も同伴って内容だったんです?」
「・・・貴方のご先祖様。炎帝フロガ・スカーレットのことはジークから聞いてるかしら」
「はい。・・・こう、目が合った瞬間に頭の中から無理くり引っ張り出されるような感覚で思い出したって感じで」
アスカの供述にやはり、とヴィクトーリアは真剣な顔つきへと変える。
「アスカ・スカーレット・・・私の知り合いに貴方の事を知っている人がいるの。その人から話を聞いてもしやとは思っていたけど・・・まさかこうも・・・」
なにやら一人で思考を始めるヴィクトーリア。完全に置いてきぼりをくらったアスカはどうしていいかわからず、先ほどから気になっているお菓子に手を伸ばす。しかしそれは急に思考の海から帰ってきたヴィクトーリアによって阻まれてしまう。
「フロガのことはどの程度まで知っているのかしら?」
「えと、
「そう・・・実際、私のご先祖様とも交友があったらしいからフロガのことはある程度の知識があるの。もっとも、詳しいことはあまりわからないけど」
「俺のご先祖様って、どんな人だったんですか?」
少し遠慮がちに言う。・・・いや、遠慮と言うよりは恐怖だろうか。知るのが怖い。自分じゃない、もう一人の自分。生前の記憶と、アスカ・スカーレットとしての自分。そして、つい最近知ったフロガ・スカーレットという人物。それらが頭の中でゴチャゴチャになり、”自分”という存在があやふやになりそうで。
だがそれでも、知らずにはいられない。たとえなんであっても。
「・・・書物の通りなら、聖王家を潰そうとした大罪人ね。でも、オリヴィエやクラウスにとってはそうでもなかったみたい」
「え・・・?オリヴィエって、聖王家の人間だったんですよね。自分達を潰そうとした奴を憎めなかったってことですか?」
「それは本人達しかわからないことだけど・・・でも、私が所持している伝記では違っているのよ」
そう言ってヴィクトーリアは古びた一冊の本を取り出す。紙媒体とは珍しいとマジマジと見つめていると、彼女が本を開き中身を見せる。ページをパラパラと数枚めくれば、一枚の絵で動きが止まる。そこには、若い男女が3人。顔に笑みをたたえて映っていた。
「こっちの男性がクラウス。隣に座っているのがオリヴィエ。そしてその隣にいるのが・・・」
ヴィクトーリアの指さす先。その人物は、アスカが夢の中で観た人物そのものだった。炎帝、フロガ・スカーレット。自分と瓜二つの顔をした男だ。
「この人が・・・」
「・・・私が貴方とジークを引き合わせたのは、あの子の友達になってほしいからだったの」
「友達?」
「ええ。あの子のご先祖様・・・エレミアの力と記憶を継承しているおかげで、あの子はどこかふさぎ込んでいる節があるの。それに、ちょっとした不安もね。・・・そんな暗い部分を、貴方なら照らしてくれる・・・私はそう考えているの」
その表情は友を想う少女で。しかしながら、どこか母性のようにも見て取れる。言葉にこもった強い想いを感じ取ったアスカだが、それでも疑問が残る。何故、自分なのかと。過去に何らかの関係があったにしても、”今”の自分達はまだ出逢って1か月と経っていない。それなのに確信めいた強さを放ったヴィクトーリアの言葉にアスカは戸惑いを覚えていた。
「どうして俺なんです?」
「・・・フロガの末裔である貴方なら、彼女の闇を照らせる。かつての二人がそうであったように・・・きっと」
やっぱり、よくわからない。そう言うように顔を顰める。
でも、まあ・・・大体わかった。
「ヴィクトーリアさんの言いたいことはよくわかんねーけど・・・でも、俺はもうジークと友達だと思ってるぜ?」
「・・・ヴィクターでいいわ。それから中途半端な敬語もね」
満足そうな笑顔を浮かべ、二人の笑い声が風に溶けて行った。
◇
「ってな感じで俺は美女とひと夏のアバンチュールを過ごしていたわけだ」
「唐突すぎてよくわからない上になんでお土産が熊の木彫りなんですか」
八神家に帰宅してみると、そこには弟弟子(妹弟子?)のミウラ・リナルディが夕食を食べに来ていた為、お土産ついでと合宿から今まで経緯を言って聞かせていた。
「フロガ・スカーレット・・・か」
夕食を食べ終えお茶を飲んでいたシグナムが意味深に名前を繰り返す。
「シグ姉、なんか知ってんの?」
「ああ・・・思い返す度に、殺意が湧く」
そこで何故か故人への憎しみのトバッチリをくらうアスカ。理不尽に理由のない殺意を向けられたせいで恐怖のあまりミウラの後ろに隠れてしまう。
「あー、シグナム。幾らほぼ・・・いや、中身のバカさ加減は一緒か。でもアスカには向けてやるなよ。ビビッてミウラまでびくついてんぞ」
ストレッチをしていたヴィータがやれやれと言った感じでシグナムを宥める。そこでハッとなった彼女は慌てて二人に謝罪をした。
「すまない。いや、なんだ。過去の事だ、気にするな」
「イヤ俺めっちゃ睨まれてたんですけど。完全にレバ剣抜く気満々だったでしょ今!?」
「お前も落ち着けアスカ」
「スカーレット卿に関しては、私達もまだ記憶には残ってるの。シグナムの場合はそれが濃いだけなのよ」
ザフィーラがアスカを律し、シャマルがフォローを入れる。
「なんやシグナム。その人に何かされでもしたん?」
「いや、まぁ・・・その・・・」
「しょっちゅー風呂覗かれてたよな」
「ヴィータっ!」
普段からは想像できないような声色と赤面で俯いてしまうシグナム。烈火の将、剣の騎士と異名を持っていてもこういう時は一人の女性なんだなとアスカはシグナムへの意識を改める。
「アスカもそのフロガって人も変わらんね。でもそれくらいやったらそない怒らんとちゃう?」
「それはまあ。私も何度か覗かれたこともありますが・・・」
「アタシもだ。・・・・おい、なんだお前らその目は。見栄を張るなって視線はやめろ」
「いや、別にそんなことないですよ?ヴィーさんのその慎ましい・・・いや、うん。そんなことないですよ」
「ぶっ潰す」
ミウラを間に挟みガヤガヤと騒ぐ二人をよそにはやては洗い物を終えてシグナムの隣に座る。
「で、なしてそない怒っとったん?」
「実は・・・一度も、勝ったことがないのです」
「・・・それは、なんというか・・・」
シグナムがどれほど強いかははやて自身よく知っている。彼女が負けるところなど、管理局内で行われる大規模模擬戦闘であろうとなんであろうと見たことがない。常に先陣を切って己の愛刀を振るい、はやてを、そして仲間を護って戦ってきた自分の知る限り最強の剣士だ。そう断言できる。そんな彼女が、ただの一度も土をつけられなかったとは驚愕だ。
「おまけにあの性格ですからね・・・シグナムの気持ちもほんの少しわかります」
「恐るべし、アスカのご先祖様・・・」
「ちょ、アスカ先輩ボクを楯にしないでくださいよ!?」
「ミウラ、俺を守ってくれ!俺は無実なんだ!」
「やかましいッ!今日と言う今日は徹底的に――――」
その後、リィンとアギトの仲裁が入るまでその騒動は続いたという。