インターミドルチャンピオンシップは早くも予選リーグが開始された。その中でチームナカジマ、そして八神道場や教会チームも確実に勝利をものにし、順調に勝ち進んでいる。そして今日は、妹弟子であるミウラにとっては大事な試合。相手は公式戦最高成績都市本戦第三位の実力を誇るミカヤ・シェベル。今年で出場回数が7回目の熟練だ。そんな相手が、こうも早く出てくるとは正直予想はしていたが・・・ミウラは果たして戦えるだろうか。
「――――っ、」
いや、自分が信じてやらないでどうする。彼女も共に苦楽を共にしてきたじゃないか。決して弱くない。チームメイトとして、そこは応援しなければ。頭を切り替えつつ、さらに踏み込んで強く、鋭く蹴る。一撃一撃を、想定する相手を切り替えながら何度も拳と蹴りを交互に繰り出していく。
「なあアスカ」
「はい?」
スパーを繰り返すアスカ。誰もいない浜辺で打ち付ける音と寄せては返す波の音の中で、特徴的な語調で自分の名前が呼ばれたことに返事を返す。
「ミウラの相手って、エリートクラスの選手なんやろ?観にいかへんでええの?」
「・・・俺は、俺のやるべきことをやります」
「そかー」
そして再びの沈黙。
「・・・アスカ」
「はい?」
「お尻、破けとるよ」
「マイッチングぅ!?」
嘘やけど、とおどけて笑うはやてに憎ったらしい視線を送る。そんなに退屈なら自分も行けばいいのにとボソっと呟くとそれが聴こえていたようで返事が返ってきた。
「ミウラも大事やけど、アスカもおんなじくらい大事なんよ。あの子にはヴィータとザフィーラが付いてくれてるし、そっちの方はまあ心配せんでも平気や。そやから私は、こっち。八神家の頼れる長男、期待しとるで」
笑顔の励ましを背に受け、少しこそばゆくて鼻をかく。温かいものが心の底から湧き上がる。それを止めようとはせず、むしろさらに高ぶらせて意識を集中させる。腰を落とし、右足に魔力を収束させていく。三角形の鮮やかな紅が大きく広がりまばゆく輝きながら回転する。
「・・・勝ちますよ。あの子も、俺も。この期間の為に、ずっと磨き上げてきたスタイルと魔法。教えてもらった一つ一つが大事で、今の自分を作ってるんだって、わかってます。誰が来ようと、絶対に負けない・・・そう、鍛えてもらってきましたから」
そして、一気に蹴り抜く。離れた距離にある筈の木の人形が、アスカが振りぬく軌道に合わせて生み出された炎によって炎上する。さながら斬撃のようにも見えるそれが弧を描き、直撃したのだ。回し蹴りを終え、ふぅ、と息をついて顔を上げる。
「八神家の長男として、道場の門下生として。最高の結果を残してみせます」
「うん・・・!」
◇
「勝ちましたーっ!」
帰ってきたミウラは、少し疲れ気味で開口一番そう言った。
「よくやったぞミウラ!あのおっp・・・ミカヤ選手に勝つなんてすげぇよ!やっぱすげぇよミカは!」
「ありがとうって言いたいんですけど今確実に比較してはいけないところ比較しましたよね。というか最後のなんですか。最終的に原型なくなってるんですけど」
たとえグロッキーであってもツッコミをせざるをえない。それが八神家である。そんな訳の分からない理不尽な暗黙の了解にミウラも従いながら疲れを癒す為浴室へ。反省会はまた後にして、今は小さな妹弟子が挙げた大きな成果を祝うとしよう。はやてが腕によりをかけた料理がテーブルの上に所狭しと並べられ、風呂から上がったミウラを迎える。それから少し大げさではあるが、まずは大きな山場を越えた事を労い祝いの席となった。
そして、一週間後。この日はアスカの試合の日である。
「ひやー、すんごい人だねぇ」
「今日の試合は人気選手がそろい踏みだからね」
ごった返す観客席を見渡してシャンテがそうもらし、ルーテシアが今日は目玉といっても過言ではないと返す。
「あ、ルールー、シャンテ!こっちこっち!」
声に振り向けば、そこにはヴィヴィオとリオがちょうど見晴らしのいい席を四人分確保していた。
「陛下、リオっち。助かったよー、立ち見とか勘弁だったから」
「でもよく取れたわね?ここ、ほぼ最前列じゃない」
「フッフッフ、それに関してはこのヴィヴィオがですねぇ」
「ちょ、リオ!?」
顔を赤らめて急にあたふたし始めたヴィヴィオに二人は「あ、なるほど」と言った顔で納得したかのように手を打った。今日の第一試合、誰が出るかをわかっていればこの子が早朝で家を出て席取りに並ぶ光景などいとも簡単に思い描くことができる。
現に自分もそうしようとしたところで、互いを発見して断念したわけだから。
先を越された、そんなことは思わないがそれでも一抹の口惜しさはある。次こそはと心に決めつつも会場内にアナウンスが響き渡った。
《さぁいよいよ始まりますプライムマッチ第一試合。ブルーコーナーからは昨年度都市本戦第8位!結界魔導師、エルス・タスミン!学校では風紀委員長ということで、制服姿での入場です!》
選手説明のアナウンスが流れる中、声援に包まれながらエルスが入場する。エリートクラスともなるとやはり観客の反応も段違いだと本人でもないのに若干のアウェー感をかんじてしまう。
《そしてそして、レッドコーナーからは今年度初出場にして最多KO記録を更新中!超新星のダークホース、アスカ・スカーレットォ!》
「せーのっ――――」
「アスカー!頑張れー!」
エルスへの声援に負けぬよう、4人で声を揃えて大きな声で声援を送る。そんな彼女達に気付いたのか、此方を見て手を振ってくる。
「随分と可愛らしい応援団ですね」
「自慢の後輩達ですよ。皆強いし優しいし、何より美少女だ」
「フン・・・年下だからと言って容赦は一切しませんからね」
「押忍!そっちの方がむしろありがたいってもんですよ、先輩」
売り言葉に買い言葉で返す二人。レフリーの指示で互いにバリアジャケットを身に纏いいよいよ試合開始のゴングが鳴る。先に動き出したのはエルスの方からだった。複数の魔法陣を展開させ、そこから幾重もの鎖を伸ばして来る。目的はもちろん此方の捕縛、そこからのライフダメージを狙っているのだろう。しかしアスカはそれを極最小限の動きで躱し、弾きながらエルスへと接近する。拳を構え、まずは一撃・・・・とはいかず、シールドによって防がれてしまう。そのままパワーで押してラッシュ、とはいかずすぐさまその場から離れるアスカ。
「ほう、あの時も思いましたが、いい勘をお持ちですね。まさか見破られるとは」
「ねえルールー、先輩はなんであのままラッシュに持ち込まなかったの?」
ヴィヴィオの疑問に、ルーテシアが解説する。
「たしかにアスカのパワーならあのシールドを突破して、打撃を与えられたかもしれない。でもそうしなかったのはアレがトラップだってわかったから」
「シールドバインド。防いだと見せかけてそれがスイッチとなって捕縛魔法が発動する・・・」
厄介だよ、とシャンテが締めくくり、アスカは再びバインドの追跡を受ける。
「さぁ、どうしました!?先ほどの威勢は虚勢だったのかしら」
「ちッ、いくら躱してもキリがない・・・だったら!」
脚を止め、魔法陣を展開する。そして。
「・・・抜剣ッ!」
両腕の装甲が展開され、紅い粒子が舞い散る。そしてそれがやがて大きなうねりとなり、炎の渦を生み出した。その渦に鎖は弾かれ、軌道が逸れたところでアスカはそこから飛び出し、拳に炎を纏わせ、放つ。
「”クリムゾンスマッシュ”!」
熱く、重い一撃がガード越しにエルスに当たる。華奢で身長差もあってかそのパワーは強烈で体を吹っ飛ばされてしまうが、やはりそこはエリートファイター。なんとか踏ん張ってリングアウトだけは回避した。
「うっ・・・炎熱変換に収束魔法・・・しかもこんな短時間での魔法処理とは、中々どうして楽しめそうですね」
「先輩こそ、さっきのバインドの応酬にはヒヤヒヤしたぜ・・・けど、こっからは俺のターンだッ!」
激闘は、続く。
※浜辺にて
アスカ「そういえば俺が長男ってことはザッフィーはどうなんすか?」
はやて「ペットや」
アスカ「ゲスい!この人ゲスいぃ!」