VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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今回は短いですが、少し物語を動かします


♯16

「はあ・・・・」

 

 翌朝。試合後、まったくと言っていいほど何も手に付かないアスカはただ一人バルコニーに出て海を眺めている。こんな状態が朝から続きもう時刻は昼になろうという時間だ。

 

「呼んでも来ないから何をやってるのかと思えば・・・アンタさ、いい加減割り切ったら?友達で後輩とはいえ、大会に出るならこうなることもわかってたでしょ」

「はあ・・・」

 

 上の空。まったくと言っていいほど聞いてすらいないアスカの様子にいい加減腹が立ってきたルーテシア。此奴、一発本気でぶん殴るか地雷皇か白天皇の餌にしてしまおうか。そんな危ない事を考えていると不意に、ふっと湧いた出来心で手すりにもたれかかる背中を凝視する。今、この八神家宅には自分とアスカ、そして非番でリビングで寝ているヴィータだけ。お昼の支度も整っているし、掃除も終わっている。家事類は完璧だ。

 

  今なら、チャンスなんじゃないか?

 

 そう思ったルーテシアはソロリ、ソロリと背後から忍び寄り――――背中にもたれかかった。我ながら何をやっているんだとツッコミを入れたくなったがそれをやってしまうと恥ずかしさのあまり昏倒してしまいそうなので考えないことにする。そして「どうだ」とアスカの顔を覗き込む。常日頃から・・・・というより、この家に下宿させてもらってからではあるがこの男の意味不明なボケやノリに散々振り回されてきてるんだ。少しはこうやって恥ずかしい目に合えばいい。・・・・こちらももの凄く恥ずかしいことに変わりはないのだが。

 

「はあ・・・・」

 

 しかしこの男、どういうわけか無反応。いつもなら驚きのあまり飛び上がってこの二階のテラスから真っ逆さまに落ちそうなものなのに、何故かノーリアクション。しかも溜息のおまけつきとはどういうことか。アレか、やはりヴィヴィオでないと興味はないと。シグナムやフェイトのようなオトナな女でないとダメだと。自分のような発展途上ではダメだと、そういうことを言いたいのかこの男は。せっかくこんな近くにいれるように努力しても、こんなにアピールしてるのにまだ気づかないというのか阿呆は。それとも何か、まだ足りないとでも?だったらこっちにも考えがある。ルーテシアはただそっと寄り添っただけの体勢から前に腕をまわし、本格的に抱き着く姿勢になる。恥ずかしい。普段のキャラとか他人からのイメージとかそんなの金繰り捨てて今すぐに全速力でこの場から逃げ出したくなる衝動をグッと堪えて少女はただ想い人の鈍感をぶち破ることだけにそのメンタルをガリガリと削っていく。「さあ、これでどうだ!」と今度は自信ありげに覗きこむ。自分で言うのもなんではあるが、大人モードを抜けば彼と歳の近い交友関係でいえば自分は大きい方だと自負している。気を遣うのも欠かしたことはない。

 

  が、そんなルーテシアの純情な頑張りも無駄に終わる。

 

「リンネ・・・なんで逃げるんだよ」

「は・・・?」

 

 今、なんて言った?リンネ?え、てことは何か。今まで悩んでいたのは次の試合でアインハルトとコロナが対戦するからどっちを応援したらいいかわからないとか、先輩としてどう声をかけたらいいかわからないからなんてことではなく。ただ、気になる女の子(・・・・・・・)がいるからその子にどうしたら振り向いてもらえるかを考えて悩んでいた、と。

 

  へー。ふーん。あ、そう。そういうこと。

 

 グッと、魔力で強化した腕で締め上げる。その時メキョ、とかヘンな音が聴こえた気がしたがそんことは心底どうでもいい。

 

「ごふッ!?あれ、なんで俺抱き着かれてんの?というかルーテシアさん、苦しいのと何だか肋骨がめちゃくちゃ痛いのとなんだか背中が幸せな感触でわたくし非常にワケワカメなんですが説明して――――」

「死に晒せこの阿呆がァ!」

「このすばッ!?」

 

 そのままジャーマンスープレックスに持って行きアスカを沈める。

 

「おーい、今なんかデカい音とヤバイ声が同時に聴こえたんだがあまりツッコミに精を入れるなよ?疲れるぞルーテシア」

「もう疲れてます・・・でもなんだかスッキリしたからこれでいっか」

 

 何故か鼻歌混じりに出ていくルーテシア。一体俺が何したっていうんだと言い残し、アスカは理不尽なまでの仕打ちに意識をブラックアウトさせた。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「幼馴染が観に来てた?」

 

 昼食を食べながらヴィータが言う。

 

「そう。施設にいた時の、妹みたいな子で――――」

「――――フン」

「・・・・選考会の時に見かけたんだ。でもすぐ見失って」

 

 未だ不機嫌なルーテシア。醤油をとってと仕草でアピールするも無視。本当にいったい何をしたんだろうか。

 

「そうか。ま、観に来てたってことはまた会える機会もあるだろーさ」

 

 楽観的にそう言って最後の一口を食べたヴィータは食器を片付けて上着を羽織る。

 

「それよりそんな呑気に食べてていいのか?今日アインハルトとコロナの試合だろ」

「――――ああ!もうこんな時間!?」

「マズい、あいや料理はもちろんうまいけどマズい!」

「何つまんないボケかましてんのよ!味がイイのなんてわかってんだからさっさと食べる!」

(こいつ等、ホントにこれで夫婦漫才してる自覚ないんだから世の中平和だよなー)

 

 その後、ヴィータの運転で会場までなんとかギリギリに駆け込む三人。時間的に、あともう少しで二人がリングインするタイミングだという時、それは来た。

 

『会場付近で誘拐事件発生。マスターに緊急の出動要請がとどいています』

「誘拐!?ったくこんな時に誰がゆ――――、ヴィーたん、ルー。ごめん、俺ちょっと呼び出しくらっちゃったから後お願い」

「アイゼンにも届いてる。アタシが行くからお前は観戦してろ。一応お前の後輩でもあるんだし、対戦相手にもな――――」

「ごめん。それはできない」

 

 きっぱりと即答するアスカ。これから行われる試合は、アスカにとってはかなり特別な意味を持つ試合だ。かわいい後輩の、死力を尽くした試合。そんな濃密で貴重なものを観戦せず、ヴィータに任務を任せることもせず。アスカは自分が行くと言い切った。

 

「・・・アスカ。お前がそこまで言うってことは、まさか・・・」

 

 静かに頷くアスカ。行かせてやりたいが、と悩むヴィータだが、ルーテシアが声をあげる。

 

「行ってきなさいよ」

「ルーテシア?」

「その子の事、大事なんでしょ?だったら行ってきなさい。その代わり、戻ってきたらどういう事か説明してもらうから。・・・・いいわね?」

「・・・悪い、恩に着る!」

 

 ルーテシアからの後押しを受けて駆けだすアスカ。そんな姿を見送ろうとした時、アスカを呼び止める声が響く。振り返れば、そこにはティアナがいた。

 

「駐車場に停めてあるわ。アンタの身長なら、使えるでしょ」

 

 そう言って何かが放られたのを見てキャッチする。手の中にあるそれは、何かの鍵のようだ。

 

「あたしのミッドでのプライベート用なんだから、あんまり雑な扱い方したらぶっ飛ばすから」

「・・・ありがとうございます!」

 

 ティアナからバイクのキーを受け取ったアスカはその場で一礼すると改めて走り去る。

 

「いいのかよ。おまえにも報せいったんじゃねーか?」

「はい。でも・・・ね?」

「な、なに・・・?」

「べっつにー。ただあたしには、”旦那が戦場に赴くのを見送る妻”に見えただけだからなんとなーくドラマのワンシーンみたいでちょっと面白かったからそのまま行かせただけよ。それに、この類の事はアスカは何度も経験してます。大丈夫ですよ」

「ティアナがそう言うなら、まあ大丈夫か。で、誘拐された女の子の身元ってなんだっけ」

「えっと、たしか名家の子でしたね。名前は――――」

 

  ――――リンネ・ベルリネッタ誘拐事件、発生。




次回、シリアス。シリアルにはおそらくなりません
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