「ハルちゃんの応援に?」
「はい。何かできることないかなって」
4回戦まであと三日。その日の学業を終えたアスカを放課後に呼び出したヴィヴィオ達三人は眉毛を「ハ」の字にして難しい顔をする。特訓の相手、というのもあったがそれだけでは何かが足りないということらしい。アインハルトの次の対戦相手は前々回とはいえ世界チャンピオンの称号を持つジークリンデ・エレミアだ。未だ公式戦において黒星をつけた者はおろか、膝をつかせた者すらいないと評判の超強敵。そんな相手にどうやったら勝てるか、なんてことは本人とコーチであるノーヴェの役割であって、自分達ができることは限られている為こうして頭を悩ませているらしい。
「信じてあげるのが一番の応援だと思うけど・・・」
「それはわかってはいるんです。だけど――――」
「気持ちを伝えるっていう意味ではどうにも案が出なくて」
「声援を送るのはもちろんなんですが・・・」
欲を言えば形にしたい、というのがとどのつまりである。自分達でできることをと考えてもやりつくした感が否めないという事でアスカに白羽の矢が立ったというわけだ。ファストフード店の四人掛けのテーブルに腰を下ろし、ポテトを口に咥えて腕組みをしながら「う~ん」と唸る。対面のコロナとリオ、隣に座るヴィヴィオは何かを期待しているのかアスカをジッと見つめる。しかしながらヴィヴィオに至っては若干の下心があるのかないのか、時間が長引けば長引くほどどんどん距離を詰めていく。ちなみにこれを本人は無自覚なのだからもはや手に負えない。
そこで。
「キラッとひらめいたッ!」
「あわわっ!?」
急に眼をカッと開き腕組みを解いて指を立てるアスカ。それに慌てたヴィヴィオは漸く気づいたのか少し赤面しつつも元の位置に戻る。
「ん?どったのヴィヴィちゃん」
「い、いえなんでも。それより、何か浮かんだんですか!?」
「うん。ハルちゃんに渡して邪魔にならないようなものがいいかなと思ってさ。お守りなんてどうかな」
「オマモリ?」
「ヴィヴィちゃんは知ってるよね」
「はいッ。地球での、なんて言うかおまじないみたいなものですよね」
「そう。掌サイズで握れるほどの小ささだから鞄とかに付けておいてもいいんじゃないかな。大会規定にはアクセサリーの類は厳しくない筈だし」
「いいですねそれ!よーし、コロナ、ヴィヴィオ。さっそく作ろう!」
「うんっ。先輩、ありがとうございました!」
コロナのお辞儀に習うように二人も頭を下げる。
「いえいえ。みんなの役に立てたようで何よりだよ」
◇
「――――ってことがあってね」
「ふーん、おまえにしては随分と気が利くじゃねーか」
「かわいい後輩の頼みだからね。これくらいはとーぜん!あ、それうららで」
「うげぇ・・・それにしても慕われてんなおまえ。それ、ハンマーシュート発動!」
「アスカはなんやかんやでしっかりお兄さんしとるからなぁ。ちなみにヴィータ、今そのクリスタルウィングは
「なにィ!?」
夕食後の団欒。今日あったことを話しつつカードゲームに勤しむヴィータとアスカ。さげた食器をシャマルとはやてが洗い、他のメンバーは二人の勝負の行く末を見守るといった構図だ。
「勝負あったなヴィータ。どれ、次は私か」
「やっちまえシグナム!」
「ところでアスカは何かあげるの?」
「んー、お守りはヴィヴィちゃん達と被るからそれは避けたいんだよね」
「試合中は身に着けるものって言うてもそこまでは規則は緩ないやろうし・・・いっそのことていs――――」
「――――はやてさん?」
「じょーだんやってじょーだん」と、さもわざとらしくいうはやて。この人、タヌキな上にアスカ並のボケを本家以上に容赦なくぶっこんでくるから気を抜けないとげんなりするルーテシア。それにしてもミウラはよくこんな一家とちょくちょく会食なんてできるな、自分なら精神がもたないと軽く尊敬の意をこの場にいないミウラに向ける。
「やっぱ六部衆か・・・」
「私の紫炎は一味違うぞ?」
「最近強化されましたからねー。リインも水属性強化がきてウハウハです」
「炎もこねーかなぁ・・・っと、話が逸れちまった」
「リストバンド、は作れそうにないですし・・・」
「いっそのこと、手紙とかでもいいんじゃないか?心の籠ったものであれば、アインハルトならきっと受け取ってくれるはずだ」
「拝啓神様へー、えっと、始めまs――――」
「――――黒歴史はあかんよ?」
「それ、シンクロ召喚だ」
「あッ!?ノリに乗ってたらリンカ撃つタイミング逃した!」
この家族、どうしてこれで会話が成り立つんだ。そうツッコミたいルーテシアだがもはやそのことに誰も違和感など抱いていないことに対してやがて自分もこの色に染まるんだろうなと思うと恐怖感を覚えた。帰りたい、切実に。ああ、まだ自分の母親の方がボケの濃度が薄い。ここは魔境だ、そう気づくまでにここまでかかるとは。アスカばかりに気を取られていたツケがこのザマだ。
「私は・・・どうしてコイツを・・・」
「ん?どうしたルー。頭なんて抱えて」
「頭痛?それともアレかしら・・・大丈夫?」
「いえ、大丈夫デス」
自分がしっかりしなければ。そう心に固く誓い、お風呂へと向かうルーテシアであった。
◇
そして、いよいよ4回戦当日。開幕がアインハルトvsジークリンデということもあり会場は早くも満員となっている。控室からでも客席の喧騒を感じ取れるほどだ。これほど大きな舞台、経験したことのない緊張感が今は心地いくらいだとアインハルトは深呼吸する。握る手の中には、ヴィヴィオ達から貰ったお守りが握られていた。
ドアをノックする音に、反射的に入室を許可する旨を伝える。そうすると、入ってきたのは赤髪の少年だった。
「先輩。大丈夫なんですか?ここに来て」
「俺の試合はまだ先だからね。ハルちゃんの試合観てからアップしても充分に余裕はあるから。それより、はい」
そう言って手渡された一枚の紙。サイズはA4程でくるりと巻かれてリボンで結ばれている。
「お守りだとヴィヴィちゃん達と被るから俺は俺にできるもの何かなって探したんだけどさ。色々案は浮かんだんだけど、こういう事しかできなくて」
「先輩・・・」
「ハルちゃん。きみは強い。それは戦った俺が一番よく知っている。ジークも強いけど・・・でも俺はそれでもきみを、ここまできみが頑張って培ってきた力と勇気を信じてる。だから・・・また、戦おう。今度はちゃんとした、リングの上で」
「はい。必ず。その時は正々堂々と、全力で」
拳を軽くぶつけて、最後に笑って頭を撫でる。すると心地よさそうに笑みを浮かべる彼女を見た後に、アスカは控室を出た。一人残されたアインハルトはもう一度深呼吸。そして――――
「――――行きますよ。ティオ」
「にゃっ」
愛機と共に、戦意に火を灯した。
~アインハルト控室にて~
ノーヴェ「アインハルト、行くぞ・・・って、それアスカからか?」
アインハルト「はい。あ、見てからでも?」
ノーヴェ「おう。それぐらいなら構わねーよ。つか、あたしもあのバカがどんなトンデモを放り込んだか確認したい」
アインハルト「そんな大げさな――――って絵ウマ!?」
ノーヴェ「ウマッ!?え、ちょ、アイツ絵ウマ!?」
アインハルト「ノーヴェさん」
ノーヴェ「ウマ―――なんだ?」
アインハルト「私、今ならエース・オブ・エースすら倒せる気がします」
ノーヴェ(ちょろいなぁ・・・)
アインハルトの明日はどっちだッ!?