VividStrikeScarlet!   作:tubaki7

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♯26

「うわっ!」

「あっはははは、そんな事では新米兵さえ打ち取れませんぞ王子」

「グヌヌ、まだまだァッ!」

 

 拳が空を切る。渇いた音が空間に響く。それを見ながら用意された紅茶とお菓子をつまみつつ空を見上げる。青い空、澄み切った、青い空がどこまでも広がっている。

 

「ふむ、中々やるようになりましたね王子・・・では、これはどうですかなッ!?」

 

 目まぐるしく動く赤。それを必死に目で追いガードする緑。しかし人知を超えたかのような速さで動く相手を捉えることはできず未だ反撃のチャンスをうかがうばかりで攻めに転じられないで苦虫を噛みしめた顔で守りを固める。

 

「さぁさぁどうしましたクラウス殿下!?」

「クッ・・・というか、なんだその動きは!?なぜ足を横に開いた状態でさっきからカサカサと、そう気持ち悪い動きをする!?」

「ハッハッハ!殿下、相手は時として予想だにしない動きをしてくるものです。それが強者であればあるほど、不測の事態は付き物。これは殿下の対応力を試すだけでなく、全てにおいての観察眼を――――」

「――――そこまでです」

「カバディッ!?」

 

 呆れて物も言えず思わず足が出てしまった。急にリズムを崩され且つスピードに乗りきっていた躰は強靭な体幹をもってしても制止や体勢を立て直すといったリカバリーをさせてはもらえず、そのままゴロゴロと転がって壁に叩きつけられてしまう。

 

「申し訳ありませんクラウス殿下。我が騎士、フロガが無礼な真似を・・・」

「い、いえ。その、なんというか、言っていることはごもっともでしたし・・・えっと、大丈夫ですか?」

「ご心配なく。この程度で血を流すほど我が騎士は柔ではありませんわ」

「おっしゃる通りですよ殿下、わたくしめは傷一つありません・・・あ、視界がぐらぐらゆれる」

「思いっきり頭から血を流してますよ!?」

 

 なんてことない、それが日常だった。その頃の自分達はまだ幼く、そして世界が少しだけ優しかった。でも、何時からだろうか。こんな時間さえ、尊く儚いものだと思うようになったのは。そんな曖昧で、そして酷く混濁した記憶が脳裏にフラッシュバックする。頭を振り、一度深呼吸。今は大事な試合の最中なんだ。気を引き締めなくてはならないと、構をとる。

 

  試合開始から約10分。ジークリンデ・エレミアの戦闘スタイルはまさに〝総合選手〟といった感じのものだった。距離を離せば射撃魔法が。逆に近接で挑めばすかさず密着状態(ゼロレンジ)からの投げ、そして関節技(サブミッション)。まだ奥の手を隠しているようにも見えるが、それでもここまでの戦いぶりは王者の何に恥じない戦いぶりだ。だが、アインハルトも負けていない。投げられながらも、技を決められながらも、的確にそして逆に押し返すつもりで防御と攻めを巧に操る。試合の最中、二人で何か話しているようだが、観客席にいるアスカ達には聞き取れないほどに離れてしまっている。

 

「凄い、さすがアインハルトさんだ!」

「あのジーク相手にここまで食らいつくとはなぁ。正直驚いたぜ」

 

 リオとハリーが感想をもらす。その前、席の構造上下にはなるが、その位置でアスカは食い入るように試合を見つめる。まるで、こみあげる何かを抑えるかのように。そんな彼の様子が気になってか、ヴィヴィオが膝の上で震える手にそっと手を添えてきた。アスカがヴィヴィオを見ると、いつものように明るい笑顔で応える。

 

「大丈夫ですよ先輩。アインハルトさんなら、きっと」

「・・・・ああ。そうだね」

「・・・・正直、予想外やったわ。きみならもっと硬派な動きするおもっとったけど、エラい動くしウチの攻撃も随分見られてきてる・・・・これまでの試合じゃそんな目ぇ持ってない筈なんやけど」

「思い出したんですよ・・・いえ、教えてくれた――――と言った方が正しいですかね」

 

 それを聞いて「なるほど」と頷くジーク。そうか、それなら生半な攻撃や防御はかえって危険か。ならばこちらも真打を使う以外あるまい。もとより、そのつもりではあるが。タイミングが少し早い気もするがそれでもこの試合は楽しみにしていたものの一つだ。悔いが残ってはたとえ勝ったとしても笑えない。ならば、そう。使う以外ありえない。それに彼女はコレを使うに値する選手だ。

 

「――――〝鉄腕〟、解放」

 

 そのワードをキーとしてジークの両腕の肘から下を黒い装甲が覆う。それを見たヴィヴィオ、アインハルト、アスカは表情を変える。その腕、そして次に取った構はまさに、自分達もよく知っている(・・・・・・・)ものだったからだ。

 

「エレミア・・・・ッ」

 

 〝黒のエレミア〟――――格闘戦技など無かった時代において、己の五体だけで人体を粉砕する技術を極めていった一族。それが、ジークリンデ・エレミアの源流。今彼女が取る構が何を隠そう、古代ベルカにおいて最強を誇った人物。ゆりかごの聖王こと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

 

「オリ、ヴィエ・・・!?」

 

 息が苦しい。鉄腕を展開してからこの会場に入った時から感じていた違和感がアスカの中で大きくなる。そしてこれに類似しているものを、アスカは一度味わったことがあった。

 

(初めてジークと逢った時にも感じた、この感覚・・・でも、今回のはあの時の比じゃない。色んなものが頭の中でグルグル混ざり合って、意識が・・・持って行かれる!?)

 

 何とか踏ん張るアスカ。僅かに残る正気で隣に視線を動かせばヴィヴィオも同じようなものを感じているらしく苦しそうに胸を抑えている。ただごとではない、そう直感したルーテシアとシャンテが二人に回復魔法を当てる。徐々に回復を見せる二人だが、それでも調子は良くない。

 

「ちょっとちょっと、陛下もアスカもどうしたのさ急に?」

「わからない。でも・・・」

「はい。きっと、私達に関係してることだけはたしかなの」

私達(・・)、か。ってことはもしかして、最近アスカが悩んでるのと関係があるんじゃ・・・)

 

 試合はより一層激しさを増す。鉄腕を見た瞬間からアインハルトは普段の冷静さを欠き、さながら咆えるように叫んだと思ったら荒々しいラッシュに突入。しかしジークがこれを丁寧に捌き、逆にカウンターとトリッキーな射撃魔法を織り交ぜてアインハルトの猛攻を難なく潜り抜ける。しかしそれでも箍が(たが)が外れた獣のように攻め入るアインハルトは、止まらない。

 

「わかるよ、きみの気持ち。鉄腕(コレ)を見てこーなるんよるなってことは大方予想ついてたから。・・・せやけど、もーちょい冷静になろ、かッ!」

 

 低姿勢で踏み込んできたアインハルトを首を掴んで受け止める。グッと腕に力を込めてこのまま投げ技まで持って行こうと力を籠める。が、そこで自身の脇腹に違和感を覚え咄嗟に腕を脱力しようとするがその時にはすでに相手の拳から技が放たれた後だった。ズザザザ、と脚を踏ん張ってなんとかリング内にとどまる。

 

「・・・・ご先祖様の誇りを持つんはええことや。そやけどきみは、ご先祖様の為に生きとるんか?」

「――――ッ」

 

 突き付けられた問。それに対しての答えはもう既にある。でも何故?どうしてこんなにも――――

 

「私は、私です。自分の為にここにいて、私の意志で戦うだけですッ!」

 

 ――――心が、ざわつく?

 

「・・・そうは見えへんからのお節介なんやけど」

 

 踏み込むアインハルト。しかしそれはあまりに愚策、そのまま突っ込めばジークのカウンターを諸に食らいライフダメージもクラッシュシミュレートも相当なものを味わうことになるだろう。

 

  そう。そのまま突っ込めば(・・・・・・・・・)

 

 ダンッ!と強く足を踏みける。そこで勢いを止め、前へと出る力を逃すことなく拳に乗せる。体格差からして、カウンターがギリギリ届かない距離とタイミングでの変化がジークの意表をついた。が、それさえも止められてしまう。

 

「アレは止めた!?」

 

 アインハルトの咄嗟の行動にも驚くものがあるが、ジークの反応速度も驚愕だ。受け止めた腕はそのまま捻るようにして関節を決め、フリーになっている左手で手刀を作り、そのまま相手の肩に振り下ろす。重い一撃が、意識を刈り取るかのようにダメージとなってアインハルトを襲った。そのまま倒れ、カウントがコールされる。

 

(この人は、まだ半分の力をだしてない。それに、〝エレミアの神髄〟だって使ってない。あの時(・・・)と同じだ・・・・何も守れず地に伏し、目の前の相手に戦ってすらもらえない。全てを懸けた戦いですら、憐みの笑顔を向けられる。それは私が弱いからで・・・)

 

 長く続く後悔と自身の弱さへのジレンマが混ざり合い、渦巻く。倒れるわけにはいかないのに、立つことすらままならない。戦いたいのに、戦えない。

 

  いや、そもそも私はどうして戦ってるんだっけ?クラウスの為?自分の為?

 

 わからない。どうしてなのか、どうしたらいいのか。

 

(ティオ・・・ごめんさない。非力な私で・・・)

 

 共に戦ってくれた相棒に心の中で謝罪する。意識が消えて、闇に溶けていくのを感じながら、アインハルトは――――。

 

「――――立てッ、アインハルト・ストラトスッ!」

「・・・アスカ?」

「たしかにきみは、きみじゃない誰かの為に戦ってきたのかもしれない。でもそれはきみの意志がそうさせたからだろ!?弱いのが許せなくて、守りたくて、強くなろうって、必死に努力してきたんだろ!?もがいて、足掻いて、やっとできた大切なモノだってあるじゃないか。どんなに苦しくてももう無理だって思っても・・・・それでも歩いてきたんだろッ!?だったらッ!」

「――――ッ」

「諦めるなッ!!」

 

 たった一つ。闇の中に消えゆく意識が光を見出す。それは、かわいくも頼もしい友人たちから受け取った小さな袋。なんてことはない不格好なお守りだ。そして、案外頼りなくもそのくせ頼もしくもある、笑顔をくれたあの人。自分を鍛えてくれたコーチ。

 

「そうでした・・・私はまだ、倒れるわけにはいかない・・・!」

 

 立ち上がるアインハルトに湧き上がる歓声。皆が皆、興奮でわく中、たった一人悲痛な顔を見せるジーク。

 

「・・・そか。でもまあ、最初よりはちょうマシにはなったかな。ホンマ、スカーレットの血筋(・・・・・・・・・)っちゅうんかなこーいうのは。なりふりかまわず色んなとこで・・・。けど、それでもや。やっぱりきみの戦いは痛々しすぎる。せやからもう・・・終わりにしよか」

 

 その一言で、ジークの雰囲気がガラリと変わる。立ち込めるオーラと漂う気。肌に感じるピリピリとした刺すような気配は、それまで試合を楽しむかのようだった彼女の雰囲気とは一線を画すかのよう。

 

「マズいですわね・・・」

「うん。ついに来るか・・・ッ」

「・・・・〝エレミアの、神髄〟・・・ッ」

 

  それは、まるですべてを刈り取るようで。触れた先からまるで積み木を崩すが如く破壊を刻んでいく。一方的な攻撃は、ダメージの激しいアインハルトに容赦なく浴びせられていく。絶望的な状況の中、必死に食らいつくアインハルト。たとえライフと魔力を犠牲にしてでも、彼女はそれでも倒れない。気力を振り絞り、精一杯立ち上がる。

 

「アインハルトさん・・・」

「ハルちゃん・・・クッ」

「目、反らしたらアカンよ」

 

 思わず目を背けそうになる息子に、母であるはやてはひと時も離さず言葉のみを向ける。

 

「よぉ見るんや。あの子の、アインハルトの頑張りを」

「・・・・、押忍」

 

 ぶつかり合う、力と力。そして意地。もうアインハルトはとっくに限界を超えている。そしてアスティオンも既に力は残されていない。それなのに、まだだ、まだ終わらないと一向に倒れない。勝つんだ。勝って、約束を果たす。強い自分になる。その一心で。

 

  だが、その踏ん張りもとうとう限界を迎える。キャパを超えたヒーリングをアインハルトに施し彼女の中で倒れるアスティオン。それを汲み、敗北のほぼ決まった状況下で尚前に進もうとする強い意志を拳に託して踏み出すアインハルト。しかしそれは世界王者という高い壁には届かず、カウンターを決められ地へと伏した。

 

「ハルちゃん・・・・」

「・・・アスカ」

「・・・・俺、余計な事しちゃったかな」

「・・・そんなことないんじゃない。だってさ、覇王っ子はアスカの応援があったからあそこで立ち上がれたんだし。それにさ、あの子には多分アスカの声が一番響いたと思うよ。あたしは・・・うん、わかるから」

 

 首を垂れるアスカにシャンテが言う。

 

「・・・・そうだと、いいな」




 ~アインハルトvsジーク試合中~

ジ「そーいえば、フロガの事について思い出したんやけど」
ハ「はい、なんでしょう?」
ジ「実はああ見えて、犬が苦手らしいで」
ハ「そう言えば、クラウスの鍛錬後、オリヴィエの怒りに触れたフロガが犬に追い回されていたような・・・?」

ア「ぶふぇっくしょんッ・・・・あの二人、なに話してんだろ」
は「きっと嬉し恥ずかしな昔話やね」
ヴィ「あ、ヴィヴィスカコラボ集絶賛(?)連載中ですのでそちらもあわせてどうぞ!」
ア「・・・・え、ちょ、今回のあとがきオチなし!?」
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