「おい、デュエルしろよ」
開口一番にそう告げられ危うく持っている皿の上のオードブルを落としそうになるジーク。
「あ、アスカ?」
「・・・・」
ジークの声にアスカはただ彼女をジッと見下ろすだけで何も答えようとはしない。重い沈黙が広がる二人の間は
「こらバカスカッ、お前は顔合わせて言う一言めがそれってどーいうつもりなのさ!?」
シャンテに思いっきり後ろからどつかれるアスカ。後頭部にジャストミートしたシャンテの手刀の衝撃はすさまじかったようで頭を抱えて蹲る。そして振り返り、抗議の声を上げた。
「止めんなシャンテ!此奴は俺のスターダストを――――じゃない、ハルちゃんをだな!?」
「やかましいッ!」
「アスミスッ!?」
なんだかよくわからない声と単語を口にしながらもう一度手刀をくらい、沈むアスカ。それまでの一幕を見せられたジークはただただポカーンと眺める事しかできず、一向に状況の把握ができないでいた。そんな彼女を見かねてか、アインハルトが声をかける。
「あの、気にしないでください。先輩はいつもあんな感じなので」
「あ、うん。けどなんというか・・・」
〝ガイスト〟の使用に〝イレイザー〟の発動。試合中は絶対に使わないと決めた禁じ手を二つも使ってしまったジークとしてはこのアインハルトとの対面は些か気が引けるものもあったが、風呂場でのハリーとミカヤの助言により今はさほど気にならなくなっている。とはいえ、いざこうして直に顔を合わせるとなんだか自然と距離を置こうとしてしまうのは否めない。
「大丈夫ですよ。さっきはあんな風に言ってましたけど、先輩はジークさんのことも心配してましたから」
「え・・・?」
「あの試合の後、私の所に来て言ったんです。ハルちゃんも大事だし、ジークも大事。だから、競技選手とはいえ二人に何かあったら俺は・・・って。それはそれは結構な剣幕でしたよ?私とコーチの反省タイムを中断してしまうくらいには」
そう笑顔で語るアインハルト。その笑みは嫌味を言っているものでは欠片もなくて。本当に面白い、愉快だったと語るそんな笑顔だった。
「・・・・ホンマ、そっくりやね」
「ええ。他人に甘すぎるところとか特に」
そう言って笑いあう二人。打ち解けていくアインハルトとジークを見ながら、はやては
「皆、食べながらでええからちょう聞いてな。もう知っての通り、今日試合をした二人には浅からぬ因縁がある。〝黒のエレミア〟継承者、ジークリンデ・エレミア。覇王クラウスの末裔、アインハルト・ストラトス。二人を繋ぐのは、聖王女オリヴィエ。さらに〝雷帝〟の血族であるヴィクトーリアちゃんにここにはおらんけど、他にも古代ベルカにゆかりのある人もおる。・・・・そして、多分すべての鍵を握っとる〝炎帝〟」
その単語を口にしながら腋に控えているアスカチラリとを見る。
「これだけの人がこの時代に集まるいうんは私もそこんとこに関わる者としても、大人としてもちょうきになるとこでな?おっきな大会の大事な時期や。みんなが事件事故に巻き込まれんよう私は守っていきたい。せやから二人のご先祖様のお話をするこの場に私も参加させてもらいたいんよ」
「はい。もちろんです」
「私達の過去と今・・・お話いたします。できうる限り」
◇
それは、まだ少し空が明るかった頃。このベルカの時代において、青い空を見ることもほとんどない。気象や様々な条件が揃わない限りは太陽さえ拝むことができないとは何ともイヤな話だ。そう溜息をつきながら少年は愛馬の上で愚痴を言葉ではなく息として吐きだす。
「どうかされたかな騎士フロガ」
「こうも空が暗いと少しばかり気が滅入るなと。それにしてもグラファン卿は素晴らしいですな。こんな陰鬱な空なのに底なしに明るい。まるで太陽のようだ・・・そうだ、貴殿を天高く上げればきっと空も晴れ、我が君の微笑みも尚輝くこと――――」
「スカーレット卿、まだ城の食堂でわしが食べてしまったスコッチのことを気にしておるのか?」
「ッたりめーだこのクソジジイ!騎士長だろうが何だろうが食い物の恨みは一国の王を戦場へと駆り立てるほどの力があると知れッ!」
またやってるよこいつ等。そんなうんざりとした溜息が周りから聴こえてくるがそんなことは知ったことかと言い争いを繰り広げる騎士長と、位だけで言えばこの列の一際目を引く馬車の中にいる人物とほぼ同等に近い少年騎士。国の中でも外でもこの空気感と面倒くささは変わらないのだなと諦めをつける。
長く続いた旅路も終わり、漸く城の中を自由に歩き回れるようになったオリヴィエは数名の侍女と自身の専属騎士であるフロガとともに中庭を散策していた。美しく手入れされたバラを見ては目を輝かせるオリヴィエから少し距離を置いてフロガはその様子を見守る。
「それにしてもスカーレット卿よろしいのですか?グラファン騎士長は大雑把故、手続きに不安しかないのですが」
「きっとお酒を片手にサインしなくてもいいような書類にさえサインしてしまいますよ?」
「貴女達どれだけあの人に対して信頼性薄いんですか・・・」
「だって・・・ね?」
今更ではあるが王族の一部の人間や官僚たち以外の城の人達は何かこう、少し砕けすぎではないだろうか。そうツッコミを入れるとジト目で「貴方のせいです」と罪を被せてくる侍女二人。それに「あ、そうか」と納得がいったようで手をうつフロガ。城内部の空気が些かギスギスしてたりなんだかよくわからない固執があったりと色々息苦しかったのを見かねて
まあ、結果的にフォローなどしたところで無駄なのだが。
「フ―――――スカーレット卿、エレミアの腕は?」
「アレは武具ですので、現在審査中でございます。ですから何かありましたら私に何なりとお申し付けくださいませ我が君」
「・・・むぅ」
そう言うと頬を膨らませるオリヴィエ。彼女は生まれながらにして両腕がない。その為義手を付けての行動が常なのだが、その義手は武具としての役割も果たしている為、入国する際の荷物審査での許可待ちとなっており現在はしていない。それがないのが不満なのだろう、残念そうに今度は溜息をついた。
「おや、ここにいらっしゃいましたか」
聴こえてきた爽やかな声。それに振り向けば、オリヴィエと同じ左右色の違う瞳を持った端正な顔立ちの少年が傍らに豹を連れている。
「クラウス殿下!?」
「初めまして。シュトゥラ第一王子クラウス・イングヴァルトです」
「〝聖王連合〟ゼーゲブレヒト家より参りました。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと申します。初めまして、クラウス殿下」
挨拶を交わし、まるで太陽のような微笑みを讃えるオリヴィエ。
「そちらは?」
「お初にお目にかかります。〝聖王連合〟ゼーゲブレヒト家が王女、オリヴィエ様の専属騎士。フロガ・スカーレットと申します」
オリヴィエよりも少し下がった位置まで移動し跪いて頭を垂れながらそう告げるフロガ。
「なんと・・・貴方があの、最年少騎士とされるスカーレット卿でしたか。かの〝炎帝〟と名高い騎士とこうして会えるとは光栄です」
「有難きお言葉。そのように聞き存じておられるとは・・・いやはや少々の照れもありますね」
その後も一言二言と言葉を交わすうちに会話が弾むクラウスとフロガ。あっという間に親しくなった二人の距離感に些かまた不満げなオリヴィエは頬を膨らます。
「――――と、我が君。どうかされましたかな?」
「・・・ズルいです。私も殿下とお話したいです!」
「ハッハッハ。とまぁこのような感じで少々オテンバな姫様ですが、仲良くしていただけると私としても安心です」
「いえ、こちらこそ・・・改めて、よろしくお願いします」
こうして、二人の王と一人の騎士は出逢った。クラウス、オリヴィエ共に十と二。フロガ、十と四。後に語り継がれることとなる悲しき物語の主人公達のまだ幼い時であった。
~城内中庭にて~
フ「ところで殿下、この子は?」
ク「ああ、雪豹のライゼです。ライゼ、ご挨拶を――――」
ラ「にゃー!」(訳:おもちゃ!)
フ「ぎゃあああああああああッ!?」
オ「あらあら、フロガは動物に好かれますね」
フ「いやあの、そんな日頃のうっ憤を晴らすような清々しい目してないで早く助けてギャアアアアアアアアアらめえええええええええええッ!」
ク「スカーレット卿!?」
こうしてライゼはおもちゃを手に入れた。