ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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思ったより長くなったので、日常回が生まれてしまいました。


ダメなやつなりのお礼

【前回のあらすじ】

おっす、こちらたなっちじゃーん!なんと前回。ヒーラーが脱落、ブレイヴァーは昏倒。うちが拾って帰ってきたってわけじゃーん。ってなわけで今回も張り切って生き残ろう、じゃん!

 

 

季節外れも何もない裏世界でこたつに入ったまま、のんびりとしていたユウキ。現実のことなんて忘れて、黙々と蜜柑を剥いていた。一方の棚もまたテレビを見ているだけ。テレビには、過去に放映されていたテレビドラマが映されている。

 

「セクターってさ。こういうとこ便利でいいよね」

 

過去とはいっても、今まさに流行っている人気ドラマの途中の回だった。2、3ヶ月ほど前に、弟が見ていた覚えがある。ユウキもいちおう見てはいるが、ときどき抜かしたりしているので詳しくはわからないが。

 

「……なんでわざわざ今のドラマを?」

「しばらく見れてないから追いかけてるの。これ好きなんだ」

 

棚はもともと、別に部活に精を出しているような生徒ではなかったはずで。好きだと言っているのに、3ヶ月も前の回を見ていないのはなにかあるような気がした。

そういえば、棚はどうしてプリンセスになったのだろう。勝ち残ろうと言う意思は感じられるものの理由がよくわからない。考えてみれば、現実での彼女を知っていたはずなのに謎の多いプリンセスだ。

 

「あの、亜傘さん」

「たなっちでいいよ」

「亜傘さん」

「……たなっちじゃだめか」

「どうして、あなたがプリンセスに?」

 

利害関係が一致していたなら、今後も恩だとか知り合いだとかそんな曖昧なものでなく付き合っていけるだろう。ここで聞いておくのはこれからの付き合いに重要だなはず。

彼女はとりあえず、それを言うには身の上話が必要じゃん、としてそこから始めた。

 

「といっても。行方不明のあいだ、うちが何してたかくらいの話だけど」

「大丈夫……聞かせて」

「おっけー。じゃあまずうちに何があったのか。それはズバリ!」

 

変わらない軽いノリで話し出した棚が、これから本題と言うところで止めた。ユウキは固唾を飲んで彼女の顔をじっと見る。

 

「――事故じゃん」

「事故……?」

「そうそう。事故ったの。下校中に、クルマと、どっかーんって」

 

予想外の返答にユウキはすこし戸惑ったが、とっくに死んでいるか病院送りかだと思うと伝える。

 

「んー、うちにはわかんない。自分が事故ったあとは意識ないし」

「それもそう……あれ?じゃあどうしてここに?」

「事故ったあとに迷い込んで、半ば強制的にプリンセスになったの。生身でレヴェル相手にして無事でいるとかまぁできないもんね」

「じゃあ、願うのは」

「生き残りたい。元の身体に帰って、また普通の日常を送りたい。それだけじゃん」

 

自己中心的、と言えなくもない願いだった。けれど、彼女がいなくなって悲しむ亜傘家の人々もいるはず。決して、自分だけが喜ぶ願いではない。

 

「……わかったよ、ありがとう」

「どーいたしまして。あぁでも、なんにも面白くなくてごめんじゃん」

「私も、嫌なこと聞いてごめん」

 

お互いに頭を下げてちょっとしんみりしてしまったところで、棚はきゅうに私の手をとって強く握ってきた。

 

「よし!どっちも許しちゃおう!これで沈んだ空気おわり!」

「え……うん」

「んじゃあまたドラマの続きでも見よっか」

 

このドラマを見れていなかったのは、ほとんど死にかけてしまった身体に戻ることができないからだった。現実世界を介するセクター間の移動を行えないというのは、かなり不利なハンデだ。それに、何ヵ月もあの誰もいないし何もない無機質な空間に取り残されていると言うのは、想像もできない恐怖だ。

 

「……ん?どしたの?」

「いや、亜傘さんってばすごいなって」

「えへへ、そお?テレるじゃん」

 

頬を赤らめてにへっと笑う棚。こうもポジティブでいられるというのは、彼女は信じてもいい人間かもしれない。少なくとも今はまったく嘘をついている気配はなかった。

 

「じゃあ?そう言うなら?うちの膝枕を堪能する権利1回ぶんあげるじゃん?」

 

あの安心感とふかふかを体感できるのは悪いことじゃないし、ただ思ったことを言っただけなのでユウキはありがたくとっておくことにした。いつか、また膝枕をしてもらおうと。

 

そうして一緒にこたつに入ってぼんやり過ごしていこうかとも思ったとき。ユウキの脳裏に、セクターボードからのけたたましい警報が鳴り響く。彼女のセクターへ侵入者があらわれたのだ。

一気に心を入れ換え、ユウキは棚と顔をあわせて頷いた。こたつの魔の領域からするりと抜け出して、自分の領地を守るために立ち上がる。

 

「侵入者かぁ。じゃあ仕方ないじゃん。行ってらっしゃい」

 

こたつに入ったままながら、すこし名残惜しそうに見送る棚。彼女にとっては、いつぶりの話し相手だったのだろうか。

それでもユウキは行かなくちゃいけない。棚にはできない現実世界への帰還を用いて、一刻も早く自分の持つ17番セクターへと急行しようとする。徐々に消えてしまうユウキのシルエットを、完全に見えなくなってしまうまで棚は見つめていた。

 

 

真っ暗な教室。月明かりだけが頼りの場所で、ユウキが目を覚ました。現実に戻ってきたのだと自覚すると、壁に寄りかかっている姿勢から立ち上がろうとした。が、手に何か引っ掛かっているらしい。それを外そうと目をやり、ユウキはその正体に気付いた。

 

「……時畑、先輩」

 

既に行方不明の手によって脱落し、死亡したとちの手。ふたりでつないでセクターへと行ったはずが、彼女の遺骸はこうして立ち上がろうとするユウキに引っ掛かる。そっとその指をはずして、ユウキはとちの胸に置いてやった。

 

「ヒーラー本人かい?隣のは」

 

いきなり背後から声をかけられて、とちを見ていた視線を急いで窓側に移す。夜の冷たい風が流れ頬を撫でる中、ひとり少女が立っていた。

 

「えーと、あなたは」

「アーモンドだよ、ユウキちゃん」

「あ、はい」

「……死体。怖くないの?」

 

言われてみれば、そうだ。これはもう時畑とちじゃない。ただの肉塊で、彼女が戻ることは二度とない。自分が切り裂いたから。ユウキはアーモンドの言葉に首を振った。ユウキにだって恐怖がある。あれだけ血を撒き散らして消えていったとちが、こうして綺麗に残っていることだってそうだった。

 

「だよね。私だって怖い」

 

そっちこそ意外だとユウキは感じる。賭博姫、ゲームスターであるアーモンドは、てっきり恐怖が薄いものだと思っていたのだが。

 

「ところでアーモンドさんはどうしてここに?」

「あぁ、うん。ちょっと頼みごとがあって」

 

アーモンドに手をひかれ、ユウキの身体が窓から引きずり出される。死者が室内にいては居心地がさすがに悪いようだ。それに、こんな真っ暗なのに学校にいるというのもおかしな話だ。この選択は普通か。

彼女はどんどん夜の町を進んでいく。気配を隠す気もないようで、誰かに見つからなければいいのだがと心配になってしまう。しかも、アーモンド本人は伝えられても「さぁどうかな!」という反応であり、やっぱり賭博姫なんだなとユウキは痛感した。

 

とはいえ、賭けには勝ったらしい。誰にも見つからずに学校を脱け出すと、アーモンドは真っ先にユウキの家に向かっていく。どうやって場所を知ったのか、どうやって学校にまで忍び込んできたのかはわからないため、すこし怪しい気もする。警戒しながら自宅の扉を開くと、出迎えのないいつもの玄関の光景があった。

 

「ただいま」

「ん、おかえりユウキ姉。ちょっと前に綺麗な女の人来てたけど、知り合い?」

「……まぁ、うん。どうしたの?」

「いや、ユウキ姉いるかって聞かれてさ。ほんと綺麗だったんだけど、ユウキ姉の中学じゃなさそうだなって」

「高校の留学生だよ、弟くん!」

 

ひょっこりとアーモンドが出てくる。学校にユウキがまだ残っているという可能性は、弟のまだ帰ってないという言葉をもとに導いたらしい。

ユウキの弟である少年はアーモンドを前にして固まっている。ほんとに綺麗だとか、評価を聞かれていたとわかったためだろうか。

 

「ユウキちゃん、上がって大丈夫?」

「うん、お父さんもお母さんも遅いから」

「これより?まじで?何か問題あるんじゃ」

 

アーモンドにちょっと心配されたがそれはそれ。本題に入って貰うため、自室に招いて戸を閉める。まさか、弟を巻き込むわけにはいくまい。アーモンドがよからぬことを考えているのなら他に人がいるぶん実行しにくくなるだろうが、弟はまだ小学生だ。抑止力としては心細い。ならいっそ、身一つのほうが安心できる。

 

「それで、何ですか?」

「そうそう本題。頼みごとってのは……表へのプレゼントなんだ」

「プレゼント?」

「うん。泊まらせてもらってるし、いっつも迷惑かけてばっかだしさ。たまにはこっちから……って」

 

ちょっと照れながら話すアーモンド。可愛らしい一面もあるのだと思い、ユウキは口角をゆるめた。そういうことなら、協力しない理由はないだろう。元より頼まれたことは余程でない限り断らないと決めているユウキにあたったのは、アーモンドにとって正解か。

 

「といっても、何をプレゼントするんですか?」

「まだ決めてないんだ。一緒に決めよう」

「アーモンドさんの想いですから、アーモンドさんが」

「でもさー、ハズすの嫌でしょこの贈り物で。情報ないかなぁ、本人に聞いたら気付かれそう」

 

首をひねってみるアーモンド。表の好みの情報源として大丈夫そうな人物。と、なると。

 

「……妹さんは?」

「妹、あの子?そっか、あの子がいた!」

「一緒に聞きに行きましょうか?」

「そう……なんだけども、もう暗いしさ」

 

窓の外はもうとっくに暗闇だ。帰ってくるときにももう月明かりだったのだからと時刻を確認すると、19時だった。そろそろ晩御飯の時間だ。

 

「じゃあ泊まって明日にするとか」

「まじ?いいの?」

「表さんと私の両親への連絡は必要ですけど、使ってないベッドはありますし」

「ユウキちゃんの家やったー!日本式普通の家だ!」

 

不思議なポイントで喜んでいるアーモンドは、恐らく留学後は表のあの豪邸でずっと生活していたのだろう。居心地が悪いかもしれないが、かえって安心する可能性もある。

 

明日のプレゼント選びに備え、ユウキは連絡関連を済ますため自室をアーモンドと一緒に出る。家ではとうてい感じることのないだろう高いシャンプーの香りが漂っていて、リビングでゲームにふける少年をすこし振り向かせた。

 

「こんな遅くになんだったの?」

「明日のお話。休みだから、お出掛けしようって」

「ふーん……で、今から帰ると」

 

ちょっとだけ残念そうな顔をする少年。どうやら彼はアーモンドのことが気になっているらしい。沖ノ鳥にやってくる客人なんてめったにいないし、それもこの金髪美人となればそれも当然だろうか。

 

「ん?お泊まりだよ、きょうは」

「そっか……えっ?」

 

帰るよ、と言われると思っていたためそれ用の返事が出たものの、違ったので聞き返したらしい。アーモンドはちょっとにやりと笑ってみせて、ユウキ弟に近づいていった。目をつけたらしい。背後から頬をつついてみたり、年下をからかって遊んでいる。

 

ユウキはそのあいだに連絡を済ませてしまうことにした。沖ノ鳥家の両親は二つ返事で了解と言い、そうなったら夕飯は食べてくるから気にするなとも言っていた。気にしないで作ってしまっていいらしい。

だがこの次がちょっと問題なのである。家電に白神家の電話番号を入れていく。4つの大きな家のあるこの町の町内会では、それら4家はリーダー格である。と同時に、電話番号を調べるのも容易だったりするのだが、表とかの知り合いが出てくれないと対応に困る。お嬢様なんてふつう代わってもらえないし。

とぅるると鳴ったあとのがちゃりで電話が繋がる。表に出てくれと思っていながらかけたため、彼女の声が聞こえてくると予想していたが、そのかわりに聞いた覚えのある声よりちょっとだけトーン高めの裏の声が聞こえてきた。

 

「はい、もしもし……こちら白神ですが」

「あ、えーと、沖ノ鳥ユウキです」

「沖ノ鳥、さん。あのパーティにいた、ですね。お姉様になにか」

「アーモンドさんのことなんですけれど、今日はウチに泊まることになりまして」

「……そうでしたか。では、お姉様に伝えます。では」

 

用件が終わったと見たのか、一方的に切られてしまった。実際終わりではあったのだが。

 

「よし。じゃあ、夕飯作ろう」

 

台所前にかけてある自分用の割烹着を手早く着用し、調理を開始する。きょうの献立は母の予定通りでいこうと決めて、ユウキは厨房という名の戦場に立った。

 

 

【次回予告】

 

アーモンドのプレゼント作戦が始まった。

はたして作戦は成功するのか。表は喜んでくれるのか。

そして、楽しい時間にも襲い来る切っ先が……?

 

次回『風にめくられた』

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