ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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二話分割して同時投稿にしました。


風にめくられた

【前回のあらすじ】

どうも、うちじゃん!カダヴァーじゃん!明かされたうちのこと……は、わりとどうでもいいんだけど、問題はゲームスターのお願いじゃん。うまくいくのかなー?なんつって、うちあんま関係ないけどね。

 

 

自室で迎える朝は清々しいものだった。少なくとも、きょうのユウキにとっては。爽やかな晴れた空で、お出掛けするにはぴったりの日だろう。

隣にある弟の部屋兼アーモンドの部屋からもすやすやと寝息が聞こえてくるため、きっと二人は打ち解けられたはず。人手が足りずベッドが弟の部屋から運び出せないという事態になったときはどうしたことかと思ったが、彼女と弟がよく遊んでいたということでそのままにすると決めたユウキの判断は正解だったようだ。

時刻は6時。ユウキにとっては寝坊にも等しい。弟の部屋の扉を勝手に開け放って、モーニングコールをしようと中に上がり込んでいった。

 

「朝だよ」

「んー……あとごふん……」

「わかった、かわりに起きなかったら叩き起こすから」

「ダメだそれやったら叩き起こされちゃうな。起きるよ」

 

早い決断でがばっと布団を避けたアーモンド。すこし疑問に残るのはなぜアーモンドの布団の中に弟が格納されていたのかだが、自分から報告してこないなら大丈夫なことなのだろう。

 

「弟くんは大丈夫?」

「休日は8時起きなんです、彼は」

「へぇ……あれ?今何時?」

「6時ですよ」

「えっ早くない?」

 

アーモンドはユウキよりずっと遅く起きるらしい。気まぐれに、だいたい10時とかに。こうして用事でもない限り個人の自由だとは思うのだが、寝過ぎもよくないと思った。

 

「あーでもイメージ通りかも。早寝早起きそう」

 

それは誉め言葉として受け取っていいものなのだろうか。

 

「別に変な意味じゃないよ。規則正しい生活でバリバリ健康ってイメージ」

 

規則正しいとい言われるのは、たぶん誉め言葉だ。ユウキ自身がやりたいことをできていると言われるのは嬉しいことで、ユウキはちょっと微笑んでいるのを隠すように頭を下げた。

 

布団からアーモンドが脱出したあと、身支度はしっかり整える。アーモンドにとっての居候先とはいえ、相手はあのお嬢様なのだから。それも今までやパーティのときとは違って招かれての訪問ではない。失礼のないようにしなければ。

 

「あー……危ないときのためにペティグリィは持っていこうか」

「そうですね」

 

古本はいつも携帯しているが、ちゃんと鞄の中にていねいにしまってあるはず。一方でアーモンドのコインもまた、懐に忍んでいるのだ。

朝の身支度は着々と整っていく。朝食はざっと作って、弟のぶんも用意しておいた。服装はいつもの制服だがゴミなどのついていないようにして、ユウキとアーモンドは出発するのだった。

 

 

ふたりが目的地にたどり着き、改めてこの町中に突如出現する豪邸の異様さを感じるまでには30分もかからなかった。アーモンドは頻繁に外に遊びに行ったりしているらしくすんなりと通されるが、ユウキは黒服の男たちに軽く持ち物をチェックされた。別に危ないものは入れてないし、害する気もない。素直に従っていればすぐに解放され、数分でアーモンドに合流する。

さて、今回のお目当ては裏のほうだ。表のことだが本人には見つかりたくない。といっても、この広い屋敷の中から半分メイドみたいな仕事をしているらしい裏を探し出すのは困難だろう。

 

「どうする?分かれて行けば見つかってもむしろ足止めになると思うんだけど」

 

アーモンドの案になるほど、と頷くユウキ。表が一方と話しているスキを突く作戦だ。確かにそれなら、警戒しながら歩くより楽でいい。

 

「……別にそのような作戦は不要です」

 

突然、背後から声が聞こえた。気配を全く感じなかったというよりは、鏡かなにかを通って一瞬でここまでやってきたような。視界の端に映る深い青をはじめとした寒色系のドレスでそこに立つ彼女。前見たときと衣装が一致しないのは、何着もこういう高いふりふりなやつがあるからだろう。

 

「お姉様はただいま眠っておりますが……」

「そっか!それならよかった。立ってちゃ疲れるし、適当な部屋使おうか」

「……?私が目当て、なのですか?」

 

自分にわざわざ何の用があるのかと首をかしげる彼女。確かに表と一緒にいるのしか見たことがなく、まるで影がついてまわっているようにも感じられる裏をわざわざ指名する者はまずいないのだろう。

裏についていくと、豪華なソファの向かい合っている応接間みたいな部屋が見えてきた。校長室と同じかそれ以上くらい緊張する空間に招かれ、ユウキは堂々と座ったアーモンドにならいそっと座った。

 

「お飲み物が必要なら……」

「あ、だいじょぶだいじょぶ。すぐ出るから」

「……そうですか。では、用件のほうを」

 

ユウキとアーモンドは彼女にプレゼントの旨を伝え、表の話をしてほしいと告げた。裏の無表情はすこしだけゆるんで、快く承諾してくれる。

 

「近頃のお姉様についてはわからない部分もあります。ですが……きっと、喜ぶものはわかります」

 

裏に紹介されたのは、イルカのぬいぐるみだ。名前を聞いてユウキが思い出してしまうほうではなく、海洋生物のほうのイルカ。10年ほど前から話を聞いていて、どこまでも海を泳いでいけるしかわいいから好きになったとのこと。

小学生のころの話とは言え、妹が言うのなら間違ってはいないはずだ。ユウキとアーモンドはおたがいに顔をあわせて頷くと、ふたりで裏にお礼を言う。

といっても、裏はまだまだしたい話、語り聞かたい思い出があるらしく。ふたりともこのあと数十分付き合わされたのは、プレゼント決定にはあまり関係のないことだ。

 

 

「イルカのぬいぐるみ……かぁ」

 

いるかいるかと言われていると複雑な気分になるユウキだったが、とりあえず考える。そういうぬいぐるみだとかを売っている場所の前を通ったことこそあるが、ユウキのような真面目な子には入りにくい雰囲気だった。できればそういう雰囲気がいける人に同行してもらうとかしたいのだが、どうやらアーモンドのほうは違うことを思い浮かべていたらしい。

 

「……よし、決めた!縫うよ!」

「縫う?まさか、最初から作るつもりだったり……」

「そのとーり!幸い期限っていうものはないし、がんばってちくちくしよう!」

 

彼女は挑戦というか冒険というか、そういうのに走りがちなのかもしれない。けれど手作りなら大失敗でもなければあたたかく受け取ってもらえるし、言い出しっぺが決めたなら構わないというのがユウキの意見で、つまり縫うことになった。

 

「さあ、始めるよ!ドルフィン計画!」

 

突如、軍事実験みたいな名前がつけられてしまったが特に突っ込むものはいなかった。こうして、沖ノ鳥家でのふたりの奮闘がはじまったのだった。

 

 

仕事場をユウキの部屋に設えて、毎朝7時から、お昼休憩を挟んで夜の7時まで。特訓に次ぐ特訓、さらに何度もの失敗と成功を経てぬいぐるみと技術は完成へと近づいていく。

かれこれ二週間、都合のよいことにプリンセス戦線は停滞していたもののアーモンドの実力は一歩一歩進んでいった。ときにユウキや弟の力も借りながら、可愛らしいイルカを作るために試行錯誤した。

 

そうしてついにある日。既製品と遜色のないといえばさすがに言い過ぎかもしれないが、納得できる出来映えのものができあがったのである。

さっそくそれを白神家へと持っていき、ちょっとさみしそうなターゲット――表のもとへ。裏に連れられて彼女の部屋へ赴くと、彼女は無理に作った営業スマイルで迎えてくれた。

 

「……あら。お久しぶりですね」

「うん、そうなっちゃってごめん」

 

アーモンドは夢中になって表との時間がほとんど無い日々が続いたことを謝罪し、ユウキも一緒に頭を下げた。

そして、慰めにはならないかもだけど、と肝心のプレゼントを差し出す。

 

「え?これ、イルカの……でも見たことのないデザインですね」

「そりゃあね。手作りだもん」

「てづ、くり?」

「うん。2週間でここまでってすごくないかな!」

 

誇らしげなアーモンド。腰に当てたその手には、いくつものばんそうこうが貼られていた。きっと、針で刺してしまった痕だろう。

表の手がふわりとぬいぐるみを撫でる。彼女の心では、いままで構ってくれていなかったさみしさや不安がほつれていくような変化があって。心の底からの嬉しさで、今度は作り物じゃない笑顔でお礼を言う。

 

「ありがとう」

 

ただプレゼントのお礼というより、これまでずうっとありがとうという意味合いが強かった。

 

ドルフィン計画はこのようにして、大成功で幕を閉じる。表自身と、ぎゅっと彼女の胸元に抱えられたイルカに見送られて部屋から出ていく。

ユウキとアーモンドはここで互いにガッツポーズして、間髪入れずにハイタッチを決める。このふたりも笑って別れて、ユウキは玄関まで裏に送られていった。

 

 

その直後のアーモンドだが。彼女にはいま、やらなければならないことがあった。手元に出現させたセクターボードがそれらを告げている。ゲームスターが現在持っている7番セクター、8番セクターに関する通知ばかりがぎっしりで、何度も集中を乱されてきた。

侵入通知とエンブレム破壊の通知が、実際に見ていなくてもセクターが荒らされていたことがわかる。アーモンドはこれらを頑なに無視してぬいぐるみに打ち込んできたのだった。

そしてその計画は無事終わった。とすれば、確認もとい撃退に赴くべきだ。ペティグリィであるコインを取り出すと、アーモンドは自室のベッドから裏世界へと精神をうつしていく。

 

次に目をひらいた場所は、もはや廃墟と化した自分の領域だった。ゲームスターの持つ7番セクターはネオンサインまぶしい歓楽街のはずだったが、もはやそれらは見る影もない。壊された建物の残骸が哀れに佇んでいるだけ。いっこうに現れないアーモンドに痺れを切らしてやったのだろうか。

 

「待ちくたびれましたよ」

 

そんなことを考えて立っていたところに、闇の中からプリンセスが歩いてくる。わずかな偽りの月明かりしかないはずの環境でも、そのプリンセスはきらきらと冷たい煌めきを放っていた。

 

「……フリーザーかぁ、これやったの」

「えぇ。このような穢らわしいものは破壊されて当然でしょう」

「否定はしないけどさ。目当ては表ちゃんでしょ?じゃあ、どうして私のほうに」

「いいえ。私の目的は貴女、ゲームスターの排除」

 

アーモンドの背筋に悪寒が走った。本気の瞳が、こちらに殺意を向けている。ここで逃げ出したところでフリーザーはいくらでも襲ってくる。ならば、戦うしかあるまい。

とはいっても、この瞳は待ってくれない。すでに指先には冷気が纏われて、金色のかんざしはいつでも発射できるようにされている砲台のようだった。

 

「覚悟はよろしいですね?では、『ファーストオーダー』!射抜け、鋭き氷柱!」

「おおっと……っぶないな、プリンセス・チェンジ!」

 

間一髪でファーストオーダーを前転で回避して、自らの衣装を再構成する。その間も動き続けなければ凍りついてしまうとみて駆け出したところ、自分がつい1秒前どころか小数点以下の時間でも立ち止まっていたなら突き刺さっていただろう氷が突き抜けていった。

 

「幸運ですね。それもここまでですが」

 

氷結姫は駆け回る相手をわざわざ目で追いながら、一発一発に殺意を込めたファーストオーダーを連射する。モニターの命を一撃で奪ったものである以上、ゲームスターとてまともに受ければ死ぬ以外にない。

 

「……逃げるだけですか?」

 

ただ廃墟の間を縫ってぐるぐると回っているだけらしいゲームスターの動きに、フリーザーは呆れていた。この程度の相手だというのに、手をかけてなどいられない。ラストオーダーを発動させ、終わらせてしまおうと考えた。

次の瞬間。フリーザーは突如現れた銃弾を弾き飛ばして防御に成功する。だが成功したはいいものの、ゲームスターがいるはずの場所からの発砲ではない銃弾だった。どういうことかと思案する暇もなく次の銃弾が現れて、またその対応をする。

 

廃墟の影に隠れ、手持ちの拳銃を的外れな方向に構えている賭博姫。それなのに全く違う位置からフリーザーを狙った銃撃が飛んでいくのは、彼女のファーストオーダーによるものだった。

 

「しっかし全部対応とか化け物じみてるね、完全ランダムなんだけど」

 

銃声に消されて聞こえないような声量でぼやくゲームスター。手元の拳銃の弾倉に残っているのは残り一発。これで失敗したならば、どこかで銃器を拾えるとも限らないし今実行しているような作戦で太刀打ちできるかもわからない。

となれば確実に決めにいくしかない。影からちらりと覗いてみると、フリーザーはあたりを見回してなどいなかった。

 

「……もしかして」

 

嫌な予感がして、アーモンドは耳に神経を集中する。聞こえてくるのは「ここに、私の王権を主張します」という言葉。ラストオーダー発動の詠唱だ。嫌な予感は的中していた。

慌てて影から飛び出したゲームスター。距離的には間に合うか間に合わないかの瀬戸際で、詠唱の妨害に成功したからといって無事に済むと決まったことではない。それでも、相手の詠唱中は大きな隙だ。

 

「我が命に応え――」

「させるか……!」

 

拳銃を眼前に構えて引き金を引こうと指をかけた。が、そこに別の感覚が割り込んだことによって止められてしまった。激痛だ。罠として仕掛けられていた氷柱が左、脚を貫いたのだ。そのせいで拳銃を取り落としてしまい、詠唱は完遂される。

 

「凍てつく氷華よ、咲き乱れなさい」

 

放たれた氷結の衝撃が世界を氷へと閉じ込めていく。無論アーモンドの身体も例外ではなく、動かなくなっていくのを本人も感じているだろう。

 

「終わりですね、賭博姫」

「……まだ終わってないけどね」

 

脚が動かせない状況で、フリーザーに詰め寄られてもゲームスターの顔には笑みが残っていた。フリーザーは眉をひそめて彼女を睨む。

 

「どうして笑っていられるのですか。貴女のように言うなら、貴女は賭けに負けました」

 

その言葉に、ゲームスターは迷わず首を振った。

 

「勝ってるのさ、とっくに」

「……何か仕掛けているとでも?」

「そこまで器用じゃないさ」

「では、何処が勝っていると……」

「――賭博姫ゲームスター。ここに、私の王権を主張しよう」

 

両端の上がっているゲームスターの口からは、そこから先は詠唱が紡がれだした。事前には何も仕掛けていないかわりに、今から仕掛けるのだと。焦ったフリーザーは手元に手頃な氷柱を出現させると、迷いなく賭博姫の胸部は心臓ぴったりに勢いよく刺してしまう。だが、それで詠唱は止まらない。

 

「我が命に応え――地獄の歯車よ、逆しまに廻れ」

 

詠唱が終わり。警戒していたフリーザーは、数秒立っても自らの身に何も起きていないことを確認して心臓へ突き刺してある氷柱を引き抜いてしまった。多量の血液が溢れて地面に撒き散らされ、氷結姫の氷もまた汚す。

 

「まさか、声だけとは」

 

拍子抜けだと笑い捨てて、フリーザーはアーモンドの死に顔を見てやろうと思って顔を向けた。先程と変わらないような表情に加えて拳銃を構えている右手だったが、口のはしに血の筋ができていた。

 

「……え?」

 

フリーザーが違和感に目を見開いた瞬間。銃声が鳴り響き、それによって何か柔らかいものが潰れたような音がすこし遅れて聞こえてきた。

 

ゲームスターのラストオーダーは、自らに関する事象をひとつ書き換えることだった。傷の治癒もできた能力だ。けれど、彼女が選んだのは「拳銃を取り落としてしまった」こと。確実に最後の一発を当てるため、自分の生還を切り捨てたのだった。

 

「がっ、ぁ、ぁああ……!?」

 

フリーザーの左目は潰れた。恐らく、その奥までダメージはあるはずだ。目を抑えたままその場にうずくまるフリーザーへ、ゲームスターは尽きそうな意思で言葉を投げ掛ける。

 

「私は、ね。見たんだよ……表ちゃんの、笑顔」

 

もう助からないほどの出血で、賭博姫の身体の消去は始まっていた。途方もないほどに怖いはずの消滅。けれど、アーモンドは声を振り絞る。

 

「あれを見た私は……もう。勝ってたのさ」

 

フリーザーが残った右目で見たものは、消えゆく中でにかっと笑った、アーモンド・ヴァウの最期だった。

 

「……ぐっ、排除は、完了した!私は……やっぱり、正しかった」

 

痛みでよろめく身体を両足でなんとか支えて、氷結姫は起き上がる。栄華も主も失った7番セクターから現実の世界へと戻るために。賭博姫を殺したからか、やけに高揚する心を抑えられずに高笑いしながら。

 

 

 

 

【次回予告】

 

余剰に続き拠り所を再びなくしてしまった表。

だが青女の執着は終わらない。

残るプリンセスは、あと10人。

 

次回『孤独の海』

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